95)『労働分配率』に内在するパラドクスを価値化する③
前々回、前回と「①労働分配率の考え方」と、労働分配率を活用して、社員と会社を関係有りにする「②人件費誘導型の利益計画」についてお伝えしてきました。今回はその2点を踏まえた上で、労働分配率に内在するパラドクス(逆説的矛盾)について考えてみたいと思います。
労働分配率は「人件費/付加価値(粗利)」で求められます。この数式は1円を人件費に投下したら、幾らの付加価値になるかという意味ですから、一般的に「労働分配率が高いほど労働集約的な仕事になっており、逆に低いほど社員が創造している付加価値が高い」という事になります。
つまり、労働分配率が同業他社より低いこと、また前年対比で低いことが目標となるのですが、実はここには錯覚を産んでしまう大きな落とし穴があります。それがパラドクスです。この点を理解しないと労働分配率は活用できません。
数式的に、労働分配率を低くするには「人件費を下げる」又は「粗利を上げる」必要があります。では…、「労働分配率の低い会社は社員の平均給与は低いのか?」というと現実は逆です。むしろ、労働分配率の低い企業の社員の平均給与は平均給与を上回る傾向にあります。これが労働分配率のもつパラドクスです。
ある優良の社員一人あたりの平均給与は1,000万円を超えています。にもかかわらず、労働分配率は30%以下です。お時間の有る方は優良企業と言われる上場会社のIRを確認してみてください。一方、1人当り平均給与が500万円以下でありながら、労働分配率が50%を超えるという中小企業がほとんどです。これが現実です。
私は、給与が高いほうが労働分配率は低いというパラドクスを解決することは、多くの企業にとって重要な命題の一つであると考えています。
つまり、経営者であれば、相当難しいテーマですが、1人当り平均給与を高めつつ労働分配率を下げるにはどうしたら良いのか?について答えを持たないといけないということです。是非皆様もその視点から自社の労働分配率についての思考を深めてください。
優良企業は優良企業だから人件費が高く、労働分配率が低いのではないのだと思います。人件費を高めつつ、労働分配率を低くするというパラドクスに答えを出した企業が、結果、優良企業になり得たのです。私の会社にはまだまだ可能性があると思えてきます。