94)『労働分配率』に内在するパラドクスを価値化する②
前回は労働分配率を考えるにあたり、自社独自で人件費を定義することと、労働分配率を活用するには、労働分配率が持つパラドクスを把握しておくこと必要があることをお伝えしました。それらを前提に、まず今回は労働分配率の実務的活用法を押さえていきます。
手始めに、御社の定義した人件費に従って直前期の労働分配率を算出してください。経常利益が黒字の会社と、赤字の会社で次のように計算方法を変えた方がよいのですが、わかりにくい方は経理や会計事務所の担当者にお願いをしてください。
【経常利益が黒字の場合】
■人件費/粗利益(※1)×100
【経常利益が赤字の場合】
■人件費/(粗利益(※1)+経常利益の赤字額(※2) )×100
※1)粗利益とは、「売上 − 原価」ではなく、「売上 – 変動費」とする
※2)赤字額を正数として粗利益に加算し、経常利益0の場合を計算する
以上の計算の結果、例えば労働分配率が50%だったとします。以降、御社にとってそれが財務戦略上の柱となる大切な指標となります。常に人件費がその労働分配率の範囲内に収まるように昇給等を組み立てていけば、業態に大きな変化がない限り経常利益がマイナスになることはないはずです。つまり人件費パンクは絶対におきません。
裏を返せば、労働分配率を超えなければ、人件費はいくら上げてもよいということになりますので、以前もこのコラムで紹介した「社員を巻き込んだ、人件費誘導型の利益計画」が可能となります。具体的には次のようなイメージです。
全社員を集めて白紙を配り「必ず実現しますので、3年後に欲しい給与を自由に記入してください」と伝えます。記入してもらったら全て集めて合計します。それが3年後の人件費です。もうおわかりですか?
それを労働分配率で割り戻すと目標粗利となり、粗利率で割り戻せば目標売上になります。そうです。その売上が実現すれば支給可能な給与なのですから、全社員で目標売上を実現する為の戦略会議をスタートすれば良いのです。この視点から見れば、労働分配率は会社と社員を繋ぐ大切な指標になります。御社でもこの取組をスタートしてみてはどうでしょうか?
次回は、労働分配率のもつ逆説的矛盾(パラドクス)について掘り下げます。