危急時の遺言書
田中「黒田さん、少しお時間よろしいですか。」
黒田「はい。」
田中「友人のお見舞い行った時の話なのですが、急に病室で遺言書の作成をするから、証人になってほしいと頼まれました。小学校からの腐れ縁で今も家族ぐるみの付き合いをしている親友です。お互い年も年だし、そろそろ遺言書でも作らなければいけないな、なんて笑って話をしていた矢先に倒れてしまって………。」
黒田「公証人に出張してもらって作成されるのですか。」
田中「今回は、公正証書遺言ではなくて弁護士さんお願いして作成する珍しい方法だと言っていました。何て名前だったかな。」
黒田「う~ん、もしかしたら危急時遺言でしょうかね。」
田中「そうそう、そんな感じの名前だった。」
黒田「確かにあまり利用されていない方法になりますね。今すぐに遺言書を残さなければならない場合などの緊急時に利用される遺言書になります。」
田中「彼が言うには、もう長くないとの話でした。相続については、家族ともよく話をしていたらしいのですが、余計な争いが起きないように自分の意思を残しておきたいと自分なりに調べて顧問弁護士に相談したようです。」
黒田「弁護士の先生に相談されているのならば安心ですが、危急時遺言は、民法にしたがって適法に作成しなければ無効となります。
(1)疾病その他の事由によって死亡の危急に迫っている
(2)利害関係者以外の3人の証人による立会い及び確認、自署、押印
(3)証人の1人に遺言の趣旨を口授する
(4)口授を受けた証人が筆記し、遺言者及び他の証人に読み聞かせ又は閲覧させる
(5)遺言書作成の日から20日以内に家庭裁判へ提出し、確認及び承認を受ける
また、遺言者の容体が落ち着いて、通常の遺言書が作成できる状態になった場合、回復してから6ヵ月経過すると危急時遺言書は無効となります。」
田中「自筆証書遺言より大変な感じがしますね。」
黒田「そうですね。証人が3名いるとはいえ、密室で他者が作成する遺言書になりますので、とても慎重に取り扱われる遺言書になります。利用を検討される場合には、今回のケースのように弁護士等の専門家にお願いすることをお勧めします。」