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自己株式の取得の取扱いを教えてください

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リエ「黒田さん、こんにちは。ちょっと相談してもいいですか。」

黒田「はい。何でしょう。」

リエ「従業員がうちの株式の一部を持っているんですが、その従業員の退職後、その株式を会社で購入するかもしれないとの話があるんです…。なので、会社が自社の株式を取得した場合の取扱いについて教えてください。」

黒田「自己株式の取得ですね。自己株式の取得は、株主に対する資本の払戻しと考えます。会社と株主との間の資本取引となりますので、会計処理は、株主から購入した自己株式の取得価額をもって純資産の部の株主資本から控除します。会計上の表示方法としては、『自己株式』として純資産の部の株主資本の末尾に一括して控除する形式で表示します。」

リエ「税務上ではどのようになりますか。」

黒田「税務上においては、自社の株式を取得する方法によって、取扱いが異なります。中小企業は、株式を公開しておらず、譲渡制限が設けられているため、基本的に特定の株主から直接購入することになりますので相対取引となります。」

リエ「今回は退職する従業員からの直接取得することとなりますので、相対取引となりますね。」

黒田「そうですね。相対取引により会社が自己株式を取得した場合には、自己株式の取得価額のうち、取得資本金額といわれる取得した株式に対応する資本金等の額を、資本金等の額から減算し、取得資本金額を超える部分の金額については、利益積立金額を減算することとされます。この利益積立金額の減算部分は、みなし配当といわれ、利益の配当としてみなされます。この際、会社側では、利益の配当部分について源泉徴収を行う必要があります。」

リエ「その取得資本金額の計算はどのように行うんですか。」

黒田「取得資本金額は、自己株式の取得直前の資本金等の額を発行済株式数で除し、取得する自己株式の株数を乗じて計算します。」

リエ「なるほど。株式を会社に譲渡する株主側は、どのような取扱いになりますか。」

黒田「自己株式の取得に応じた個人株主においては、みなし配当所得課税と株式譲渡所得課税が想定されます。利益の配当とみなされた部分は、配当所得として総合課税により所得税が課されます。また、譲渡した株式に対応する資本金等の額(会社側で資本金等の額から減算する取得資本金額)は、株式の譲渡対価の額とされ、その譲渡対価の額と株主側における株式の帳簿価額の差額が株式の譲渡損益とされます。株式の譲渡対価の額が株式の帳簿価額を上回る場合には、譲渡利益が生じ、譲渡所得として分離課税により所得税が課されることとなります。」

リエ「株主においては、配当と譲渡利益でそれぞれ課税が発生する可能性があるんですね。ほかに注意しなければならないことはありますか。」

黒田「はい。自己株式の取引は、時価で行う必要があります。適正な時価の算定方法は、様々ですが、税務上は、直近の売買実例価額、類似会社の株式の価額に批准した価額や発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によることとされます。これらの方法によって算定した時価と著しく乖離する価額により自己株式を取引した場合には、時価で譲渡したものとみなされ、みなし譲渡所得課税や贈与税の課税リスクが生じます。また、会社法においては、自己株式の取得にあたって、剰余金の分配可能額の範囲内で行うなどの財源規制が設けられていますので、注意が必要です。」

リエ「わかりました。もし、自己株式を取得するときは、相談させて頂きます。」

執筆者情報

アサヒ・ビジネスセンター

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リエ「黒田さん、こんにちは。ちょっと相談してもいいですか。」黒田「はい。何でしょう。」リエ「従業員がうちの株式の一部を持っているんですが、その従業員の退職後、その株式を会社で購入するかもしれないとの話があるんです…。なので、会社が自社の株式を取得した場合の取扱いについて教えてください。」黒田「自己株式の取得ですね。自己株式の取得は、株主に対する資本の払戻しと考えます。会社と株主との間の資本取引となりますので、会計処理は、株主から購入した自己株式の取得価額をもって純資産の部の株主資本から控除します。会計上の表示方法としては、『自己株式』として純資産の部の株主資本の末尾に一括して控除する形式で表示します。」リエ「税務上ではどのようになりますか。」黒田「税務上においては、自社の株式を取得する方法によって、取扱いが異なります。中小企業は、株式を公開しておらず、譲渡制限が設けられているため、基本的に特定の株主から直接購入することになりますので相対取引となります。」リエ「今回は退職する従業員からの直接取得することとなりますので、相対取引となりますね。」黒田「そうですね。相対取引により会社が自己株式を取得した場合には、自己株式の取得価額のうち、取得資本金額といわれる取得した株式に対応する資本金等の額を、資本金等の額から減算し、取得資本金額を超える部分の金額については、利益積立金額を減算することとされます。この利益積立金額の減算部分は、みなし配当といわれ、利益の配当としてみなされます。この際、会社側では、利益の配当部分について源泉徴収を行う必要があります。」リエ「その取得資本金額の計算はどのように行うんですか。」黒田「取得資本金額は、自己株式の取得直前の資本金等の額を発行済株式数で除し、取得する自己株式の株数を乗じて計算します。」リエ「なるほど。株式を会社に譲渡する株主側は、どのような取扱いになりますか。」黒田「自己株式の取得に応じた個人株主においては、みなし配当所得課税と株式譲渡所得課税が想定されます。利益の配当とみなされた部分は、配当所得として総合課税により所得税が課されます。また、譲渡した株式に対応する資本金等の額(会社側で資本金等の額から減算する取得資本金額)は、株式の譲渡対価の額とされ、その譲渡対価の額と株主側における株式の帳簿価額の差額が株式の譲渡損益とされます。株式の譲渡対価の額が株式の帳簿価額を上回る場合には、譲渡利益が生じ、譲渡所得として分離課税により所得税が課されることとなります。」リエ「株主においては、配当と譲渡利益でそれぞれ課税が発生する可能性があるんですね。ほかに注意しなければならないことはありますか。」黒田「はい。自己株式の取引は、時価で行う必要があります。適正な時価の算定方法は、様々ですが、税務上は、直近の売買実例価額、類似会社の株式の価額に批准した価額や発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によることとされます。これらの方法によって算定した時価と著しく乖離する価額により自己株式を取引した場合には、時価で譲渡したものとみなされ、みなし譲渡所得課税や贈与税の課税リスクが生じます。また、会社法においては、自己株式の取得にあたって、剰余金の分配可能額の範囲内で行うなどの財源規制が設けられていますので、注意が必要です。」リエ「わかりました。もし、自己株式を取得するときは、相談させて頂きます。」
2017.08.29 10:15:27