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公益法人会計における減損の適用

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1.減損の適用

 公益法人の保有する固定資産の価値が著しく下落したときは、その価値が回復する見込みがある場合を除き、当該固定資産を時価で評価しなければならない。ただし、当該資産の使用価値が、時価を超える場合には、次のいずれかの低いほうの金額を貸借対照表価額とすることも認められている。
 ① 使用価値(資産または資産グループを単位として行うことができる)
 ② 取得価額から減価償却累計額を控除した額
 これは、企業会計において導入された減損会計を公益法人においても適用しようとするものである。しかし、公益法人においては、必ずしも収益事業を行っておらず、慈善事業等、投下資本の回収計算を想定していない場合がある。したがって、公益法人の減損会計においては、使用価値を適用することは例外的と考えられる。
 すなわち、公益法人の減損会計の基本的考えは、企業会計とは異なり、減損の兆候の有無に関係なく、時価と帳簿価額との比較が行われるいわゆる「強制評価減」であると解される。原則として、保有する固定資産の時価が著しく下落した場合には、回復の可能性があると認められる場合を除き、当該固定資産の貸借対照表価額は時価となる。時価評価の対象範囲であるが、公益法人における固定資産の減損会計は原則として強制評価減であるため、その金額に重要性があるような場合が該当すると解され、必ずしも全ての固定資産について時価を調査する必要は無いものと考えられる。具体的には、バブル期に取得した土地及び建物等の固定資産の時価が著しく下落していないかどうかというような場合であり、通常に使用している什器備品や車両運搬具まで厳密に時価を把握する必要はない。ただし、電話加入権等の時価が著しく下落しており、その金額に重要性があるような場合には時価評価が必要になる(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q43)。
 減損処理の対象となる固定資産の範囲については、他の基準に減損処理に関する定めがある資産(例えば、金融商品会計基準における金融資産や税効果会計における繰延税金資産)を除き、固定資産は基本財産や特定資産等の区分にかかわらず、減損処理の対象資産になる(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q44)。また、対価を伴う事業で用いられる固定資産等については、使用価値または取得原価から減価償却累計額を控除した額のいずれか低い額を貸借対照表価額とすることができる。
 なお、公益法人において固定資産を使用価値により評価するか否かは任意であるが、使用価値により評価できるのは、対価を伴う事業(公益事業であるか、付随的に行う収益事業であるかは問わない。公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q42)に供している固定資産に限られる。

2.減損の判定

 減損の判定手順は次頁の図のとおりである(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q42)。  時価は、企業会計と同様に、公正な評価額で把握することになる。通常、それは観察可能な市場価格をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額(例えば不動産鑑定価額等)を用いることになる。また、その回復可能性は、相当の期間で時価に回復する見込みであることを合理的な根拠を持って予測できるか否かで判断することが必要となる。
 下落率の判定は、公益法人会計基準の運用指針「11. 資産の時価が著しく下落した場合について」において「資産の時価が著しく下落したときとは、時価が帳簿価額から概ね50 %を超えて下落している場合」とされている(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q45)。
 公益法人における固定資産の使用価値は、対価を伴う事業に供している固定資産について、資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をもって算定する。なお、将来キャッシュ・フローについては、企業会計に準じて以下のように見積もると考えられる(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q46)。
 ①将来キャッシュ・フローは、法人に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積もる。
 ②将来キャッシュ・フローの見積りに際しては、資産または資産グループの現在の使用状況及び合理的な計画等を考慮する。
 ③将来キャッシュ・フローの見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額または生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額とする。
 ④資産または資産グループに関連して間接的に生ずる支出は、関連する資産または資産グループに合理的な方法により配分し、当該資産または資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りに際して控除する。
 ⑤将来キャッシュ・フローには、利息の支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めない。

資料提供(出典)

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平成29年2月改訂 公益法人・一般法人の会計・税務

著者:新日本有限責任監査法人

発行日:2017年2月22日
発行元:株式会社清文社
規格:B5判/454頁

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 公益法人の保有する固定資産の価値が著しく下落したときは、その価値が回復する見込みがある場合を除き、当該固定資産を時価で評価しなければならない。ただし、当該資産の使用価値が、時価を超える場合には、次のいずれかの低いほうの金額を貸借対照表価額とすることも認められている。  ① 使用価値(資産または資産グループを単位として行うことができる)  ② 取得価額から減価償却累計額を控除した額  これは、企業会計において導入された減損会計を公益法人においても適用しようとするものである。しかし、公益法人においては、必ずしも収益事業を行っておらず、慈善事業等、投下資本の回収計算を想定していない場合がある。したがって、公益法人の減損会計においては、使用価値を適用することは例外的と考えられる。 すなわち、公益法人の減損会計の基本的考えは、企業会計とは異なり、減損の兆候の有無に関係なく、時価と帳簿価額との比較が行われるいわゆる「強制評価減」であると解される。原則として、保有する固定資産の時価が著しく下落した場合には、回復の可能性があると認められる場合を除き、当該固定資産の貸借対照表価額は時価となる。時価評価の対象範囲であるが、公益法人における固定資産の減損会計は原則として強制評価減であるため、その金額に重要性があるような場合が該当すると解され、必ずしも全ての固定資産について時価を調査する必要は無いものと考えられる。具体的には、バブル期に取得した土地及び建物等の固定資産の時価が著しく下落していないかどうかというような場合であり、通常に使用している什器備品や車両運搬具まで厳密に時価を把握する必要はない。ただし、電話加入権等の時価が著しく下落しており、その金額に重要性があるような場合には時価評価が必要になる(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q43)。  減損処理の対象となる固定資産の範囲については、他の基準に減損処理に関する定めがある資産(例えば、金融商品会計基準における金融資産や税効果会計における繰延税金資産)を除き、固定資産は基本財産や特定資産等の区分にかかわらず、減損処理の対象資産になる(公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q44)。また、対価を伴う事業で用いられる固定資産等については、使用価値または取得原価から減価償却累計額を控除した額のいずれか低い額を貸借対照表価額とすることができる。  なお、公益法人において固定資産を使用価値により評価するか否かは任意であるが、使用価値により評価できるのは、対価を伴う事業(公益事業であるか、付随的に行う収益事業であるかは問わない。公益法人会計基準に関する実務指針(平成28年3月22日/平成 28年12月22日改正 日本公認会計士協会)Q42)に供している固定資産に限られる。
2017.08.09 15:38:30