遺言について
私は母と二人で同居して生活しています。私には兄弟がおらず、家族といえるのは母親しかいません。
父が早くに亡くなったので母が苦労して私を育て、現在、母の財産はまったくありません。
私は若い頃に一度だけ結婚したことがあり、子どもが一人いますが、元妻と不仲になってしまい、子どもにもほとんど会ったことがなく、現在どこで生活しているのかも分かりません。
私は、自分名義の家に母と住み、母は私の給料で生活しているほかはわずかな年金しかありません。先日、健康診断で私の体に腫瘍が見つかり、幸い大事にはいたりませんでしたが、私が母より先に死ぬようなことがあれば母は生活していくことができなくなるので、母に私の家と預金を残したいと思いますが、どうしたらいいですか?
この場合、相談者には子どもがいます。小さい頃に子どもと別れ、相談者の家族が母親一人であったとしても、母親は相談者の法定相続人ではありません。
つまり、相談者が母親より先に亡くなった場合、子どもが相談者の相続権を放棄しない限り、母親が相続人となることはありません。
相談者が生きているうちに、子どもが相続放棄をすることはできませんし、そもそも相続放棄は亡くなったことを知ってから3か月以内に行う必要があるので、時間に余裕はありません。3か月以内に相続放棄をしなかった場合、相続の単純承認をしたとみなされますので、相談者の子が相談者のすべての財産を相続することになります。
子は相談者の子どもですので、法律上、相談者の財産を相続する権利がありますが、母親が自分の死後、生活できるように財産を残したいとする相談者の気持ちも大切です。
上記のような場合、相談者が母親に死後に財産を残すには、「遺言書」を書いておくことが有効な方法だと考えられます。
遺言には主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
公正証書遺言は公証役場で作成するものであり、弁護士が遺言の相談を受けたらおすすめすることが多いものといえます。
相談者が母親に財産を残すには、母親に対して相談者の財産を遺贈する旨の公正証書遺言を作成します。作成する際には、母親に遺贈する旨の文言だけでなく、母親が相談者の死後、スムーズに遺言書の内容を実現できるように「遺言執行者」を指定しておくべきでしょう。遺言執行者には、受遺者を指定することももちろんできますが、弁護士などの専門家を指定することもできます。
また、金銭だけを母親に残したいのなら、生命保険の死亡保険金の受取人を母親としておくことも考えられます。保険金は、保険会社との契約に基づいて受取人に支払われるものですので、相続財産に比してバランスを欠くような高額な保険金でない限り、原則として遺産とは考えないので、仮に相続で揉めたとしても関係なく受取人に保険金が支払われることになります。
ただ、相談者がすべての財産を母親に残したいと考えて、その旨の遺言書を作成したとしても子どもには遺留分の権利がありますので、子どもから遺留分減殺請求を受ける可能性はありますので注意が必要です。
人はいつか亡くなりますので遅かれ早かれ必ず相続は発生します。自分は若いからまだ関係ないと思っていても、何があるかは分かりません。うちの家族は仲が良いから大丈夫と考えていても、遺産をめぐって相続人間で争いになるケースは多々ありますので、死後、相続人同士で争いにならないためにも相続に関して疑問等がございましたら、弁護士にご相談されることをおすすめします。