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経営コーチコラム

  不安定からの発想


日本経営コーチ協会理事
税理士・経営コーチ  日野上 達也



 皆さんこんにちは。日本経営コーチ協会理事の日野上です。今回は、「不安定からの発想」というお話をさせていただきたいと思います。

 震災後、この日本では電力不足、円高、株安、総理大臣の交代と、これ以上の不安定要素があるのかという位、今の日本は非常に不安定です。こんな時だからこそ、お勧めしたい本があるんでが、講談社学術文庫から出されています『不安定からの発想』という、佐貫亦男さんと言う方が書かれた本です。

不安定からの発想 この本には、「なぜライト兄弟は空を飛べたのか」という、その秘密が書かれています。秘密と言っても、その答えはその本の帯に書かれているのですが、「安定」というのは何とも響きのいい言葉なんですね。安定した生活とか、安定した会社、まあいろいろありますけども、ところが現実の世界は安定していません。この著者は、ライト兄弟の飛行実験を通じて、「安定とは何か」と、現代社会を生きる人々に不安定な時代を生き抜く逆転の発想を説いています。

 皆さんもご存じの通り、1903年、日本では明治36年に、ライト兄弟が始めて有人動力飛行に成功します。それまで数多くの先駆者たちが失敗を重ね、中には命を落とした方もおられるんですけども、私はこの本を読むまでライト兄弟が初めて空を飛んだ事くらいは知っていましたけども、それまでにたくさんの人々がチャレンジして失敗を繰り返してきたという事は知りませんでした。

 ではなぜライト兄弟は成功したのかという事なんですが、彼らは、それまで固く信じられてきた“安定の神話”というのを破ったんです。で、ライト兄弟以前の先駆者たちというのは、要は空を飛ぶというのは三次元の空間を飛ぶという事なので、その飛行機自体が安定したものでなければならないという観念に挑戦したんですね。

 しかしライト兄弟の最初の有人動力飛行機、フライヤー1号と言う、私もアメリカに行った時に見てきましたけれども、これは安定どころか放置すれば墜落するような機体だったんです。それで、なぜ墜落しなかったのかというと、理由はあきれるほど簡単です。彼らが、「操縦したから」なんです。空が不安定なものであるという事を受け入れて、過度な安定に身を置かずに、自らが操縦管を握ることで安定を生みだすんだと。ここにライト兄弟の思想、即ち不安定の思想、不安定の発想があります。

 彼らはノースカロライナの砂丘で寒い風邪に吹かれながらまだエンジンを付ける前のグライダーの飛行に挑みます。もちろん墜落も破壊もあり得ましたけれども、その度に命を落としていたんではたまらないので、砂丘で飛んで、能率良く飛行回数を積み重ねるために、アメリカ有数の強風地である海岸を選んだんですね。それまでの飛行パイオニア達は墜落を恐れるあまり、充分に安定を持たせた飛行機の実現に専念しました。

 もちろんそれ自体は悪いことでは無かったと思うんですけども、しかしどっぷりと安定の中に埋没しようとするその思想そのものが悪を孕んでいたんですね。即ち安定な飛行機は手放しでもある程度は飛びますけども、激しい変動に出会ったらたちまち安定の限界を超えてしまいます。その時にどうするのか。この著者は、「我々の周囲は今不安定に満ち溢れています。我々は人生を、社会を手放し飛行で飛んでいるんでは無いんですね。または、社会が安定である事は望ましいけれども、たとえ不安定であっても希望はある。むしろ不安定な人生や社会を乗り切ろうとする時こそ、積極的に変革しやすいかもしれない。」こういう風に、述べておられます。

 航空工学とかに私はあまり興味は無いのですけれども、そういったものに興味のある方はもちろんこの本を読まれたら良いと思うんですけれども、ここに書かれていましたように、空を飛ぶというのは突風であるか暴風、それから雷雨、濃霧、それから暗黒、吹雪、洋上、山岳、砂漠と、あらゆる困難を乗り越えてきたライト兄弟の努力というのは、経営に大きなヒントを与えてくれます。

 要は、経営者と言うのは安定を求めます。安定でなければならないという風に、そういう観念を持ちます。ただ、安定した世の中で無いだけに、自らが操縦しないと会社は思うように経営ができないという事ですね。そういったことを、皆様が社長様とお話しされる時に、ちょっと一言この本を紹介知るだけでも、何かヒントを掴んで頂けるんじゃないかと思います。『不安定からの発想』。不安定な時にはどうしたら良いのか? 自らが動かないといけない。ライト兄弟は、自らが操縦したんですよ、ということを頭の片隅に覚えていただけたらなという風に思うのです。


日野上 達也 (ひのかみ たつや)

税理士法人日野上総合事務所 代表社員・税理士・経営コーチ

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