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経営コーチコラム

  原点回帰せよ


日本経営コーチ協会監事 税理士・経営コーチ
浅沼 孝男



 皆さんこんにちは。日本経営コーチ協会監事、浅沼経営センターの浅沼孝男です。

 この大震災以降、私が口を開けば言っている事は、「原点回帰」です。

 具体的には・・・、例えば家族や友達、周りの人から「あなたの仕事は何ですか?」と問われたら、あなたは何と答えますか?もし自分が「会計税務の仕事だよ」とか「決算診断、事業計画の仕事だよ」とか「労務の仕事」「保険の仕事」「総務の仕事」・・・など、もしそう答えたとしたら、それは確かにひとつひとつは重要な業務だけれど、それは、我々の仕事の目的を達成する“手段”なのだ、ということです。

 私達の仕事は、経営者の皆様のお役に立つことです。その為に会計税務の仕事が、手段としてあるのです。この認識を、全社員がもう一度、再確認してほしい、原点に帰ってほしい、という事を私はいつも話しています。

 大震災以降日本は大きな経営環境の変化の渦にいます。半年から1年前の経験則が通じません。もしかしたら敗戦以来かもしれません。

 そして、私どものいる北関東圏は、本当に渦中の中です。

 これからが、当社にとってもお客様にとっても、大きな試練だと思います。その中で、大きく日本経済は動いています。震災をきっかけに、本当に大きく世の中が変わっています。ということは、昨日今日明日がまったく連続しない、混沌とした時代、ということです。その時、我々の仕事の目的とは何なのでしょうか?それは経営者の皆様のお役に立つことであり、ひとつひとつの日々の仕事は、それを達成するための手段なのだ、という風に再確認してほしいと言っています。具体的には、例えば、月次業務や決算の説明、コンサルティングなどで顧問先に月々訪問しますが、社長の側からすれば、月次報告を聞いたりするなどということは、これからの経営を決める重要な手段ではありますが、これらは企業経営者の目的ではないのです。月次の業績を確認する、決算診断において会社の強み弱みを再確認していただく・・・色々な業務の中で、それは決して経営者にとっての目的ではありません。目的とは、それらを通じて今とこれからの経営を良くすることなのです。

 例えば、ある社長が銀行に融資を申し込み、お金を借りるとします。その時に、お金を借りる事を目的としている経営者なんて、絶対に、一人もいないんです。設備投資を目的としている経営者も、一人もいない。その社長の目的とは、お金を借りて設備を買って、それで売上を伸ばし、会社を良くしていくということなんです。もし銀行員が「この社長はお金を借りるのが目的だから、銀行はお金を貸すのが目的だ」として、お金を貸して仕事が終わった、とするならば、それっきりです。ところが銀行員が「これは銀行にとってその会社にとって、お金を貸すという事はひとつの手段にすぎないのだ」と考えて、お金を借りて設備を買って売上を伸ばすのが目的であり、それによって今より経営を良くしていこうとするのがその会社の目的だから、その為に自分は、銀行員として何ができるだろうか?と考えるなら、私は素晴らしい銀行員だと思います。つまり銀行員にとって「お金を貸す」のを目的と考えるのか、社長に寄り添って貸した後の事を考え、自分に何ができるか考えられるかで、大きく違いが出てくるのです。

 我々の仕事を振り返った時、日々の業務をすることで「自分の仕事は終わった」と考えるのではなく「それは経営者にとっては手段に過ぎない。経営者とともに今とこれからの経営を考え、自分たちにできることは何なのだろう?」と考えていくこと。これが、仕事の原点回帰なのだ、ということを、常々私は話しています。

 私たちにできることは限られているかもしれませんが、しかし、最大限のできることを実行して、社長とともに考えていこう、という気持ちを持つか、「いや、日々の業務をこなすことが私の仕事なんです」と考えるか。目的と手段の話、結局はそこに着目されていますが、それが「原点回帰」として重要なのではないでしょうか。

 企業は環境適応業です。環境の大変化があっても、それに合わせていかねばならないのです。国家規模の節電、自動車業界の土日操業、大企業の月火休業等の発表、そういった報道を社員が聞いたときに、すぐに顧問先社長に電話して、何を社長とともに語っていくべきでしょうか?それとも「まあ、次の月次に行ったとき、ちょろっとしたこと言っとけばいいかな」と考えるのか。その差はとても大きいのです。この夏は、顧問先との関係、絆が、強まるか弱まるか会計事務所にとっては分かれ道だと思います。

 特に夏場の電力事情は、喫緊の課題です。当社の基盤である北関東・・・栃木、群馬、埼玉北部というと、特に自動車・電機の製造業が多いので、本当に各社真剣になってその対応を考えています。その中で我々は何ができるのか?我々が日ごろ行っている手段によって、目的に対し何を共に出来るんだろうかと考えていけるか?これは我々会計事務所だけでなく、企業各社も各顧客に対しどうあるか、というのはこの夏場の対応如何によって大きく左右されるところでしょう。大きく経済が動く中で、二極化していく部分です。だからこそ、顧客からの信頼を大きく深める二度とない機会でもあります。従って、これからの一年は通常時より5年分の中身があるのではないでしょうか。頑張れば、私達の真剣なまなざしは必ず、顧客に通じると思っています。地方の企業の経営・技術・人が、今もこれからも日本を支える、復興の鍵です。その企業を最も近くで支えられるのが我々会計事務所であり、我々が仕事の目的に向かって頑張れば、経営者から「ありがとう」と直接感謝を頂ける立場にあるのです。私は今、社員に「ありがとうの数を数え、ありがとうの数を増やそう」という話もしています。そして我々もお客様に「ありがとうございます」を発信していこうとも、話しています。

 本当に我々の真価が問われる時代だと思っています。経営者のお役立ちへの真価というのは、この日本経営コーチ協会の最も根幹であり、真髄だと思います。

 逆説的な話になりますが、経済が絶好調であれば、あまり我々の存在価値というものは感じられないかもしれません。しかしこの混沌とした時代、しかも先の見えない、1年が5年分の濃さを持つ時代だからこそ、やはり経営コーチとして経営者のお役に立つ真価を追求することは、本当に価値があるのだろうと思います。

 ぜひ皆さん、ともに頑張って参りましょう!


浅沼 孝男 (あさぬま たかお)

浅沼経営センターグループ社長。浅沼みらい税理士法人代表社員。

立教大学経済学部卒業。社団法人日本経営コーチ協会監事。(株)浅沼経営センターは、「決算診断提案書」で地域ナンバーワンである。決算書の数字を分析すると決算(経営)診断となり、今の課題と未来の方向性がわかる。

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