FRAUD MAGAZINE
(2016.12.20掲載)
「不正のトライアングル」が定着するまで
比喩的な図形が不正への理解を促す

Iconic Fraud Triangle endures
Metaphor diagram helps everybody understand fraud

W. Steve Albrecht, Ph.D., CFE, CPA, CIA
翻訳協力:岩ア香奈 CFE

 アーンスト・アンド・ヤング(以下、「EY」)の調査は、企業はより広い範囲のリスクを注視し、これまで以上に多くのデータソースを取り入れ、良いツールを使い、さらに多くのデータをリアルタイムかほぼリアルタイムで分析する必要があることを示している。その結果何が起こるか?それは、主要な不正リスクの分野に的を絞った、より効果的で効率的なコンプライアンスへの取り組みである。

 尊敬すべき「不正のトライアングル」の考案者の1人が、研究の経緯と論拠について紹介し、不正(あるいは犯罪全般)の抑止と防止、解明、そして調査に活用する意義について語った。

 不正対策を学ぶすべての人は専門的な教育機関の在籍者であれ仕事上の任務であれ、誰もが最終的には不正のトライアングルについて学ぶ。不正調査、会計、監査、マーケティング分野でもこの図形を目にする。不正のトライアングルは、不正についての議論や分析が行われるさまざまな場面で常に、広く一般的に認知された図形である。

 不正のトライアングルとは、人が不正行為に走るときには、次の3つの要素がそろっているという状況を示す図で、1)不正を行う動機(犯罪を行わざるを得ないというプレッシャー)、2)不正を行う機会、そして3)不正を行うことに対する合理的理由(不正行為を正当化する理由)である。

不正のトライアングル
図1 不正のトライアングル
犯罪学者サザランドの「分化的(異質的)接触理論」
(Sutherland's differential association)

 仕事で不正調査に従事していた初期の頃、私はよく聞かれた。「このトライアングルを初めに唱えたのはあなたか」と。答えはイエスでもありノーでもある。本稿では、どのようにして不正のトライアングルが確立されたのか、その経緯について紹介したい。

 不正の研究においておそらく最も信頼を置かれている権威は、初期の犯罪学研究者のエドウィン・サザランド(Edwin Sutherland)とドナルド・クレッシー(Donald Cressey)だろう。サザランドは、人が罪を犯す理由の分析として「分化的(異質的)接触理論」を唱えた。彼は、犯罪行為は人が身を置く環境につながりがあるという理論を示した。人は、それぞれの人生のあらゆる場面で、さまざまな社会的な影響を受けると、彼は述べている。ある人は、犯罪性向を持つ人々から社会生活で影響を受け、この交友関係(付き合い)の結果として犯罪者になることがある。サザランドの「分化的(異質的)接触理論」の主な構成要素は、次のようにまとめられる。(Sutherland and Cressey、1978)

(参照:“Criminology," by Edwin Hardin Sutherland and Donald Ray Cressey, Lippincott, 1978.)

 サザランドの論拠の要点は、犯罪行為に関与する人は社会的規範に勝るレベルで、違法行為への支持を正当化するだけの十分な理由と感情を積み上げているという点である。犯罪行為は学習されるもので、法律を守って行動することと、認識した犯罪の機会を天秤にかけ、その結果、犯罪行為によって得られる報酬が多いと判断したときに、犯罪を行う。したがって、サザランドは不正のトライアングルについてストレートに紹介しているわけではないが、正当化と機会のコンセプトを事実上、紹介したのである。

不正の構成要素の父
Father of the triangle elements

 不正のトライアングルの提唱者として最も信任を得た人物は、ドナルド・クレッシーだった。同氏は、エドウィン・サザランドの教え子であり、彼の共同執筆者でもある。1951年11月のJournal of Accountancy誌の記事、“Why Do Trusted Persons Commit Fraud? A Social-Psychological Study of Defalcators”と、1953年の彼の著書”Other People's Money, A Study in the Social Psychology of Embezzlement”(『他人の金―横領の社会心理学に関する研究』)published by Patterson Smithの973ページの両方で、彼は不正の問題を「経済的にも一定の信用のおける立場にある人による違法行為」と定義づけた。彼の著書から引用しよう。

 彼は、横領が発生するには、1)他人に打ち明けられない問題、2)信頼を裏切るだけの機会、3)その行為を与えられた状況における適切なものであると定義する一連の正当化、がなければならないと述べており、これらの要素のいずれか一つだけでは横領には至らず、その代わり、すべての要素が揃えば横領は起こり得る、と書いている。

 クレッシーは信頼を裏切って背信行為を行った人に対する入念な聞き取り調査に基づき、この理論を発展させた。彼は、研究したすべての事例が三段階の過程に分類できると主張した。彼は我々が今、不正のトライアングルと称している3つの要素を特定したが、それらを三角形として描くことも、「不正のトライアングル」という用語を用いたこともなかった。そして彼は自分の理論を横領に限定し、一般的な不正については言及しなかった。それでもなお、不正のトライアングルの要素を生み出した「父」と呼ぶべき人がいるとすれば、それはドナルド・クレッシーである。 サザランドとクレッシーという2人の犯罪学者は、社会学分野で犯罪学を教える教育者であり研究者だった。クレッシーの1951年出版のJournal of Accountancy誌の記事は別として、2人のどちらについてもこれまでに業界誌に論文が発表されたことはない。

1979年のKPMG による研究で「何故か」を調査
1979 KPMG study explores‘ why'

 1979年、KPMGは私を含む5人の研究者に、不正と不正がいかにして明らかになるかを研究するため、4万ドルの助成金を出した。私以外の4人の研究者はマーシャル・B・ロムニー(Marshall B. Romney)、デイビッド・J・チェリントン(David J. Cherrington)、I・リード・ペイン(I. Reed Payne)、そしてアラン・V・ロー(Allan V.Roe)だった。私は会計学を専門とする教授であり、ロムニーは情報システムを、ペインは犯罪学と社会学を、そしてチェリントンは組織学をそれぞれ専門とし、ローはユタ州刑務所で、受刑者をケアする心理学者だった。

(参照:“How to Detect and Prevent Business Fraud,"(業務上の不正をいかに発見し、防ぐか)by W. Steve Albrecht, Marshall B. Romney, David J. Cherrington, I. Reed Payne and Allan V. Roe, Prentice-Hall, Inc., Englewood Cliffs, New Jersey, 1982.)。

 この研究の中で、我々は多数の摘発された不正の実行者に聞き取りを行い、その事例を研究し、人がなぜ不正に手を染めることになったのか包括的かつ学際的な文献研究に取り組んだ。我々はさまざまな資料を分析し、不正の実行者について研究し、不正の実行に影響または関連したと見られるすべての変化要素を広範囲に集めた。我々は不正行為に関連する変化要素として合計82の事項を特定し、それらを「レッドフラッグ(red flags)」と名付け、不正を行うか行わないかの決断に影響する力を表す3つのカテゴリーに分類した。我々の結論は、クレッシーの理論と同様で不正行為をもたらす3つの力が合体したものであり、3つの要素それぞれに次のように名前をつけた。

 しかし、我々は、状況のプレッシャーが他人に打ち明けられないものである必要があると言明しなかった点でクレッシーの分析とは異なっていた。より正確に言うと我々の考えた状況のプレッシャーは、置かれた環境の中で個人が経験する差し迫ったプレッシャーを指すという結論にいたった。

プレッシャーと機会
Pressures and opportunities

 我々は、最も強力なプレッシャーは、多くの場合、多額の個人的負債や金銭的な損害だとの結論に至り、プレッシャーは、強い結びつきの同輩集団から受ける影響や、非現実的な業績目標を何としても達成するように命じる企業の指示によってさえ形成されうると述べた。

 プレッシャーは次の2つのグループに分類される。1)会社を裏切るよりもむしろ会社のために不正をはたらくことを奨励する場合。例えば、売上、粗利益、収益がアナリストの予測に到達せず、株式上場を維持できないまたは資金繰りが困難になるなど。2)組織に反発して不正をはたらく場合である。

 我々はさらに、不正をはたらく機会は、不十分な内部統制やその他の状況により会社が形成するだけでなく、個人が自分自身のために作り出していくものであると結論づけた。例えば、個人は、会社の運営に関する知識を高めることや、信任される職位への昇進、(コンピュータプログラムの調整などのような)特定の手続きについて知っている唯一の人になることによって、不正をはたらく機会を作り出すことができる。

 企業は、当事者間取引を容認すること、あるいは複雑な事業構造を持つこと、複数の異なる監査法人・法律事務所を使うこと、極めて脆弱な内部統制システムを持つことで、従業員が不正をはたらく機会を増やす。我々は、不正行為を隠蔽し、実行できる余地を増幅する状況が、不正の機会を増加させると結論づけた。

全体性・完全性の複雑性
Complexities of integrity

 個人の誠実性は、各個人が採用する倫理的な行為の個人的な指針である。この要素は個人が誠実か不誠実かを直接決定するように見えるが、道徳的発達に関する研究はこの問題はもっと複雑なものであることを示している。

 ある個人は、我々が極めて高い品格と呼ぶ誠実さの特性を発達させ身に着けている。このような人々は、状況のプレッシャーや不正をはたらく機会が極端に強力なものでない限り、常に誠実な行動を当然のこととして期待される。

 一方、個性として、誠実さに乏しい、あるいは誠実さに欠けるような人々は、誠実に振る舞うかどうか状況によって変わる。彼らが常に誠実に行動するような特定の状況があるかも知れないが、彼らの誠実さは状況が変われば、それに伴って変わることがあり、個人の価値観として定着し習慣づいているものではない。彼らの行動は、より状況に影響される。不正行為を行う機会、不正行為から何らかの利益を得られそうな見込み、罰則の度合いやもっとお金が必要であるとの実感などである。多くの人はこの両極端のはざまにいる。彼らは一般には誠実であるべきと思っているが、都合のいい手っ取り早い機会が目の前にあるときや非常に強い状況のプレッシャーが働くことで惑わされる。

バランス
In the balance

 我々は3つの要素それぞれの相互作用により、不正をはたらくかどうかの決断が行われることを学んだ。そして、この相互作用を視覚化する有効な方法として、3つの頂点で棒を連結した天秤ばかりの図式に行きついた。

3つの主要要素
図2 3つの主要要素

 3つの連結した棒は、他の要素の重みとは無関係にいずれの方向にも傾く場合がある。つまり、3つの連続体(すなわち棒)の組合せは、その3つの重心の位置と大きさの変化に従って、どちら側に目盛りが傾くのかを決定する。

 我々は個人が不正を行うか、行わないかを決定するには3つが相互に作用すると結論づけた。個人的にきわめて高度な誠実さを持ち不正をはたらく機会とプレッシャーがない人はほとんどの場面で誠実に行動するだろう。しかしながら、個人的な誠実さがより乏しい人が不正をはたらく強力なプレッシャーとより好都合な機会のある状況に置かれるとより不正を実行しやすくなる。

 この付加モデルの中では、不正の誘因となる3つの要素の力や重さが不正行為を生じさせるほどに十分な量になるまでそれぞれ蓄積される。例えば、外部の機会やプレッシャーがない場合でも、十分な動機づけがあれば理論的には不正は実行される。それに加えて、個人的なレベルの状況のプレッシャー、例えば負債や損失は、犯罪行為に走らせるある種の不誠実な性質と結びつく(合体する)。また、組織的なレベルのプレッシャー、身近なところにいる不正をはたらく人や、会計統制の不備などは不正の可能性を高める。

 一般的な機会、あるいは特定の個人の事例における特定の機会が不正を行う可能性を増加させる。さらに、取り除かれてもまだ関連するものとしては家庭での態度と職場で見せる顔の二重標準(ダブルスタンダード)を持つことの論理的根拠など、不正を助ける態度をもたらす社会的な要因である。

 直接的な罰則や恐怖がないことはリスクをとって不誠実に振る舞う方向に影響を及ぼすかも知れない。もし、強くて確固とした誠実な性格を持っている人であれば理論的には先に述べたような変化する要素の全ての重量が累積してもそれに耐えうるだろう。しかし、人によっては「どんな人でも金で買える」という異議を唱えるかもしれない。

 我々は最初に1979年に研究論文を発表した。その後、それを編集し、1982年にプレンティスホール出版の本として出版した。不正のトライアングルをその後に広めることに貢献した当時の我々の主な主張は、1)横領のみならず、すべての種類の不正に応用したこと、2)てんびん秤の図を使って最終的にトライアングルになった3つの要素の相互作用と、1つの変数の存在が増せば、他の要素の減少が起こることを述べたこと、3)個人の誠実さが乏しい人や、環境によって誠実さを保っているような人は、より容易に不正行為を正当化するが、第三の要素を正当化の代わりに個人の誠実さと名付けたことである。

 時が過ぎて、研究活動をさらに続ける中で、私はある人の個人的な行動規範との矛盾ではなく、行為を正当化する方法としての第三の要素に対するクレッシーの名称の方が、個人の誠実さという我々の呼び方よりも正確だったと考えるに至った。

 当時、私はたくさんの研究をして複数の論文を書いていた。それらのいくつかは以前の同僚との共著であり、単独で書いたものもあった。私は数多くの会社から相談を受けていたし、多くの大規模な不正事案で鑑定人に任命されていた。ある日、大手製紙会社の従業員向けに不正セミナーを開催したとき、私は人を不正に走らせる3つの要素について話していた。

 受講者の1人が言った。「アルブレヒト教授、それはまさに炎のトライアングルのようです」

 彼は私に、炎のトライアングルの根拠について、炎は熱と燃料と酸素の3つを必要とする、と説明した。

炎のトライアングル
図3 炎のトライアングル

 私は、炎は3つの要素のどれか1つを除去することで消火できるという、消防士の誰もが知っている「炎のトライアングル」が不正にとてもよく似ていると悟った。消防士はしばしば、燃焼物を抑え込んだり、化学薬品を使ったり、爆発を起こすことで酸素を除去する。そして最も一般的な消火方法として、放水により熱を除去し、防火線や防火帯か、燃料の供給減を遮断することで燃料を取り除く。

 私は不正を動機付ける3つの要素を、「不正のトライアングル」と呼ぶようになり、我々はこのトライアングルの3つの要素のどれか1つを排除することで不正を防止できると唱え始めた。私は1991年に定期刊行物の中で次のように書いた。「研究は、1)認識したプレッシャー、2)不正を実行かつ隠蔽できると認識した機会、3)行為が許容されるものだと正当化する方法(理由)、の3つの要因が揃った時に人は不正行為をはたらくということを示した。これら3つの要素は、結合して『不正のトライアングル』を形成している」(私はかつてこの言葉を使った事例を聞いたことがなかったため、「不正のトライアングル」の部分を引用符で囲んだ)。「不正のトライアングルは『災のトライアングル』に非常に良く似ている。火災を発生させるためには、3つの条件が揃わなければならない。酸素と熱と燃料である。もし3つのうちのどれか1つかが欠けていれば、火災は起こらない。同様に、不正の場合も、プレッシャー、機会、正当化のどれかがなければ、不正は起こらない」。(参照:“Fraud in Government Entities: The Perpetrators and the Types of Fraud," by W. Steve Albrecht, Government Finance Review 1991 pp.27-30)

 私は、いくつかの研究論文の中でも、また、1995年に発表した最初の不正関連書籍でも、炎のトライアングルについて記述した。(参照:“Fraud: Bringing Light to the Dark Side of Business," by W. Steve Albrecht with Gerald W. Wernz and Timothy L. Williams, Richard D.Irwin, Inc., Chicago, Illinois, 1995.)

 私の初期の研究および、数多くの犯行者からの聞き取りとその調査によって、私は不正のトライアングルに別の研究成果を加えた。不正のトライアングルのプレッシャーと機会の要素は、どちらも現実のものである必要はなく、むしろ認識されたものに過ぎないと確信するに至った。

 例えば、“Fraud:Bringing Light to the Dark Side of Business”の中で、不正のトライアングルの3つの要素を記述した後で次のように書いた。

 「3つの要素である1)認識されたプレッシャー、2)認識された機会、3)正当化の能力はどの不正にも共通している。プレッシャーと機会のどちらも現実である必要はない。ある観察者は、ある不正を見て次のように言うだろう、あなたには不正を起こすようなプレッシャーがなかったし、捕まるであろうことを知っていたはずだ。しかし、観察者や犯行者以外の人がどう考えようとそれは問題ではない。もし彼がプレッシャーと機会を認識し、行為を正当化できるなら彼は不正を行う可能性がある」。

 間もなく不正に関する著作活動を行う者が不正のトライアングルを使うようになった。例えば2002年に、米国公認会計士協会の監査審議会は不正のトライアングルを「SAS 99:Consideration of Fraud」の重要な要素として活用した。テレビ番組「ザ・ホワイトハウス(The West Wing)」のエピソードの中で大統領のジョサイア・バートレットの側近は不正のトライアングルについて議論した。(http://tinyurl.com/mkgzo3r)

さらに多くのトライアングル
Even more triangles

 長年にわたる数多くの研究の後、私は「3つ」のトライアングルが不正を理解するために関係していることを確信した。

不正に関連する3つのトライアングル
図4 不正に関連する3つのトライアングル

 図4で、右上のトライアングルは我々が論じてきた従来の不正のトライアングルである。下のトライアングルは、不正の3つの実際の要素、1)窃盗行為、2)不正の隠蔽、3)犯罪者が盗んだ金を使う行為、盗んだものを換金し、その現金を何に使うか、会社の利益のために不正を働いた事例では上昇した株価や会社と犯行者が両方の利益として間接的に受け取るその他の資産など増加したボーナスを何に使うかである。

 左上のトライアングルは不正に立ち向かう3つの方法を示す。組織は、不正対策のため次のいずれかに費用をかける。1)不正防止(最も効果的で効率的なリソースの活用)、2)不正の発見(2つ目に効果的で効率的なリソースの活用)、3)不正調査(不正対策のリソースの使い方としては最も効果が低く効率が悪い方法)。

 残念ながら、我々は数多くの不正を見ている。1つには組織は、これら3つのトライアングルの多くの要素に取り組んでいないからだ。多くの組織では、不正の防止や発見の試み、認識された不正のプレッシャーや不正行為の正当化(不正のトライアングル)に対処することに先手を打っていない(左上のトライアングル)。組織は認識された不正の機会を抑止するため、内部統制を備えている。しかし、内部統制は、組織が認識された不正の機会を減らす1つの方法に過ぎない。そして組織は不正の要素(下のトライアングル)を理解していないため、危機として現れる不正に対応し、たいてい一貫性のない行動でその場しのぎの調査を行い、不正の間をよろめきながら進んでいる。

不正のみならずそれ以上の説明をする「妥協のトライアングル」
Explaining more than just fraud:‘Compromise Triangle'

 不正のトライアングルと不正の兆候(レッドフラッグ)の研究に、研究者、鑑定人、コンサルタント、教育者としてのキャリアを通じて取り組んだ結果、私は不正だけでなくそれ以上の説明をするために不正のトライアングルを活用できるということに気が付いた。実際、私は妥協のトライアングルとして、しばしば不正のトライアングルに言及している。不正であろうとその他のタイプの妥協であろうと、認識されたプレッシャー、認識された機会、個人の行動規範との矛盾としてではなく妥協を合理化する方法の同じ3つの要素が常に表示されている。

妥協のトライアングル
図5 妥協のトライアングル

 例えば、学校で不正をする学生を考えてみよう。その学生は次のように言うだろう。1)私は奨学金を維持する目的で、良い成績を取るため不正をする必要がある―認識されたプレッシャー、2)教授が試験時間中に部屋を出て行った―認識された機会、そして3)誰もが多少の不正をしている―正当化。

 同じことは、食品スーパーで多すぎる釣銭をもらいながらそれを返さない人の場合でも言える。その人はこう言うだろう。1)私はこのお金が必要だ。―認識されたプレッシャー、2)彼らが私に渡したのだ。―認識された機会、そして3)彼らは釣銭を間違えないはずだがとにかく彼らが間違えたのだ。―正当化。

 あるいは、運転中に制限速度違反をした人について考えてみよう。その人はこう言うだろう。1)私は時間に遅れていた―認識されたプレッシャー、2)私は捕まらないだろう。―認識された機会、そして3)誰でもスピード違反をしている。―正当化。

 最後に、互いの結婚相手を裏切った夫や妻について考えてみる。そういう人はこう述べることで合理化する。1)優しい異性との親交が必要だ。―認識されたプレッシャー、2)彼あるいは彼女は私を好きで私に言い寄ってきた。―認識された機会、そして3)妻あるいは夫はもう私に愛情や関心を持っていない。―正当化。不正のトライアングルによるこの3つの要素は常に存在し、日常生活の中でなぜ我々が矛盾する行為に走ることになるかを理解することに役立つ。

 不正のトライアングルには多くの課題もあったが、後に続く研究者による修正を受けた不正のトライアングルとその後のモデルは時の試練に耐え、これからも依然として今日的な意味を持つと信じている。トライアングルの隠喩は、不正をより良く理解するため誰にとっても非常に有益なものであり続けるだろう。

W. Steve Albrecht, Ph.D., CFE, CPA, CIA
ブリガムヤング大学マリオットスクール アンダーソン・アルムナイ名誉教授でブリガムヤング大学のWheatley Fellow。ACFEの初代会長で、著書に「My reflections of how the ACFE began:Witnessing the birth of a profession」がある。
メニューへバックナンバーへ