FRAUD MAGAZINE
(2016.09.23掲載)
金に埋もれた注射針
医師による50万ドルの不正保険請求

Needles in paystack
Physician submits $500,000 in false claims

 スーザン・シャムロック医師(Dr. Susan Shamrock)は、FDA未認可の抗アレルギー薬を実験的治療として自分の患者に投与し、その診療報酬として50万ドルもの大金を不正に保険請求した。本稿では、不正検査士がどのようにその決定的証拠を暴いたかを解説する。

 この記事は、Laura Hymes, CFE, and Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA編著“Insurance Fraud Casebook: Paying a Premium for Crime,"からの抜粋を、著作権者John Wiley & Sons Inc.の許諾を得て掲載したものである。この事例の氏名は変更されている。

Charles Piper, CFE, CRT
翻訳協力:佐藤 恭代 CFE、CIA、CPA(ワシントン州)

 スーザン・シャムロックは、アレルギーに苦しむ人々を救いたいと思い、医者になった。患者に注射針を刺すのは嫌だったが、治療すれば患者が普通の生活に戻れるという信念があり、医者として患者を救うことを楽しんでいた。プライベートではスーザンの結婚生活は幸せだった。スーザンと夫と二人の娘は子供だったら誰でも羨むようなライフスタイルを楽しんでいた。私立の学校に通い、最新の電気機器を持ち、高価なプロのゴルフレッスンを受けていた。大きな家に住み、スーザンと夫は素敵な車に乗っていた。スーザンは医師として地域で尊敬されており、地元の様々なチャリティ活動への参加に熱心だった。

 数年が過ぎ、スーザンと夫はほんの遊びで地元のカジノでギャンブルをしたが、遂に夫はプロのギャンブラーになるため仕事を辞めてしまった。そうすることで、彼はギャンブルで生じた損失を確定申告で控除することができた。予想通り、スーザンの夫はギャンブルで負けて大損した。しかし、結婚生活は良好で子供達は幸せだったし、スーザンの仕事も順調だった。

成長する事業 (A growing company)

 スーザンはアレルギー科のクリニックを開業し、多くの患者を助けることができ、収入も良いことに満足していた。病院の事業は、最初は振るわなかったものの、彼女の治療を受ける患者が定期的に通院してくるようになるのに時間はかからなかった。新患が増えるにつれ、仕事も増え続けた。病院経営は非常に順調だったので、スケジュール管理、売掛金・買掛金、保険会社への請求、連邦及び州の医療制度の担当者を雇った。さらに医療助手や事務長も雇った。

 スーザンは、時々、治療効果の得られない患者がいることに頭を悩ませていた。
 このような場合、患者はアレルギーに苦しみ続けることになり、患者やその患者の保険会社も効果のない治療に対して費用を払い続けることになる。

 スーザンは継続教育一環として、この分野の他の専門家による種々のセミナーに参加した。あるトレーニングで、講演者は食品医薬品局(FDA)が新しい抗アレルギー薬の実験的治療を検討していることを説明した。スーザンはその講演に興味をそそられ、あることを思い付いた。従来の治療方法が奏功しない患者に代替手段としてその実験的治療薬を投与するという計画だ。

 スーザンがその実験的治療について自分のウェブサイトに掲載すると、今までの治療が奏功せずストレスを感じていた患者数名が実験的治療薬の試用を申し出た。しかも、費用は保険が適用されると書いてあったので、申し出た患者には経済的不安も無かった。

新しい事例の調査 (Another new case on my desk)

 ある照会の手紙を受け取った時、私は連邦捜査員として働いており、医療従事者の不正を含め、各種の複雑な不正スキームの調査経験があった。その手紙には、スーザン・シャムロック医師が患者数名のアレルギー治療の報酬を保険会社に請求する際、不正を行っている可能性がある、と書いてあった。
 その申し立てによれば、シャムロック医師はFDA未認可のアレルギー治療薬で実験的治療を行っているが、認可された別の治療法と偽って保険請求リストに記載している、というものだった(FDA未認可のアレルギー治療は、保険会社、連邦医療制度 共に適用の対象となっていない)。更にその手紙には、シャムロック医師のウェブサイトには実験的試験について記載があると書いてあった。ウェブサイトを見るとスーザンが実験的治療を促進していることは否定できなかった。

 また、その手紙には次のように書かれていた。保険請求事案に関して連邦が行う無作為抽出の監査でシャムロック医師は、自らが提出し、政府が処理・支払いをした保険金請求に関する裏付け書類の提出を命じられた。しかし、シャムロック医師は忘れているのか、或いは無視しているのは不明だが、まだ提出していないという。

調査開始 (Rolling up our sleeves)

 私の経験からすれば、医療不正は多くの保険加入者と連邦医療制度に影響していることが多い。仮に 一か所の医療従事者や医療機関がある制度に関して不正を働いたとすると、他のプログラムや保険会社も不正に遭っていると考えるのが普通だ。

 私は以前に会ったことがある人、又は一緒に働いたことがある人など、知る限りできるだけ多くの医療不正調査人に直ぐに連絡して、その照会について知らせた。その中には、ある特定機関で独自の医療制度の調査員として働いている人達もいた。その調査員達に対しては、スーザン・シャムロック医師からの保険請求を受けたり、保険金を支払ったりした履歴が会社にないかどうか捜すように依頼した。すると、アンドリュー・バッジ(Andrew Badge)という調査員だけが、そのような履歴が見つかったと返事をくれた。

 バッジとは以前一緒に仕事をしたことがあり、それは成功を収めた。彼も私と同じように連邦調査官になる前は警察官だった。私達はすぐに彼のオフィスで会い、本件の調査計画を立てた。
 私達は別々に当局に召喚状を申請し、必要な資料を請求した結果、シャムロック医師のオフィスから患者のカルテや保険請求履歴を数多く入手することができた。シャムロック医師が召喚状に完全に応じるのに約1カ月かかったが、ホワイトカラー犯罪の調査ではこのくらい長く待つのは珍しいことではなかった。公正を期して言うならば彼女のオフィスは小さく、何年分もの書類をコピーする必要があった。また、彼らはクリニックを閉めてからの通常業務時間の後にコピーを取っていたので時間がかかった。
 患者のカルテは大抵分厚くて、色々な情報が含まれている。患者の連絡先(氏名、住所、社会保障番号、生年月日、他)、保険の補償範囲に関する情報、保険請求申請書、支払日、給付申請の説明書き、処置日、医師の所見、臨床検査結果、予約日等である。

 バッジと私は約10マイル程離れた別の場所で仕事していたので、定期的にランチタイムに会い、この件やその他の事案について話し合った。召喚によってやっと関連書類を入手した時には、お互いの事務所で資料に目を通した。患者が実験的治療を受けており、それをFDA認可の治療として不正に保険請求していた手がかりを捜した。

 何箱分ものカルテに目を通すのは退屈な作業だった。しかし、高校時代の生物の授業で虫やカエルを解剖するのは恐ろしかったが、不正事件の情報を細かく切り刻むのはなんだか楽しかった。全ての資料に目を通すのには4〜5週間もかかった。最初の数日は患者の実験的治療に関するカルテを何冊も読むだけだったので、退屈な作業だった。それでも、保険請求を一件ずつ注意深く確認していった。 私自身はアレルギー治療の注射をしたことはなかったが、週に4〜5回も注射する患者がいるとは尋常ではないと思った。私はバッジに電話して、自分が発見したことを話した。「僕だったら、医者がランチを奢ってくれると言っても、週に4、5回も病院になんて行かないよ。まして腕に注射されに行くなんて」と私が言うと、バッジは「僕はランチを奢って貰えるなら行きたいな」と言って大笑いした。 私が患者のカルテの中で発見したものよりも、もっと重要なものがあった。カルテには注射の保険請求の裏付け書類が入ってないことに気がついたのだ。例えば、ある患者のカルテの保険請求書ではアレルギー注射の日付が1月10、12、14、15日であった。しかし、それらの日に患者が来院した形跡はなかった。

 患者のカルテを更に見ていくと、請求されている医療行為についての裏付け書類が全くないケースをいくつも発見した。
 そして、書類があってもカルテはその患者の次の来院が何週間もなかったことを示していた。ページをめくると、その前に記載された日付が最後の来院日だった。

 例えばこのように書いてある。
「1月3日、患者 ジョン・スミス氏来院。注射。次回来院は2月5日」

 次の記載はこうだ。
「2月5日、患者 ジョン・スミス氏来院。前回来院は1月3日。注射。次回来院は3月7日」

 簡単に言えば、保険請求内容とカルテの記載が食い違っている。カルテはシャムロック医師にとっては不利な証拠で、患者はクリニックに保険請求書類に書いたほど頻繁には来院していないことが判明した。私は自分の所見をバッジに話したら、彼もカルテをチェックして同じようなパターンを見つけたと言った。このような所見から、シャムロック医師が 治療記録を提出するようにという監査人の要求に従わなかった理由がわかった。要するに彼女は提出できる証拠を持っていなかったのだ!

 書類だけでは事件を証明できないので、私達は患者の自宅を訪問して面接調査を行うことにした。面接調査の前に質問リストを作成し、そのコピーをバッジに渡した。事前に質問を書いておけばメモを取るのが容易になる。これらの質問はあくまでも参考として使用するドラフトで、必要に応じて追加の質問を行うことを念のため付け加えた。バッジはこのやり方を気に入って、これから自分が面接調査するときもそうするよ、と言った。

 最初に面接したのは、シャムロック医師の元患者のスティーブ・ハードウィック(Steve Hardwick)という人物だった。彼は週2〜3回しか注射したことがない、と言い、更に驚くようなことも行った。「私は通院する必要がなかったのです。シャムロック先生は、私が自分で注射を打てるように薬の入ったシリンジ(訳注:注射筒)をくれたので」
 私はスティーブに詳細を尋ねたが、やはり彼は月に1回、シャムロック医師のところに行き、アレルギー注射を受けたと言った。通院時に、医師かアシスタントからシリンジに1か月分の薬の入った注射器を渡され、その後彼が自宅で週に2〜3回自分で注射していたというのだ。
 ハードウィックは言った。「こちらに来てください。確かシリンジが何本か冷蔵庫にあったはずです」。私達は彼と一緒にキッチンに行き、冷蔵庫から薬の入ったシリンジを2本取り出して彼は言った。「これがシャムロック先生から貰ったシリンジです」

 当然のことながら、バッジと私はさらにたくさんの質問をした。スティーブは当時のそのような治療方針を気に入っていた。自分で注射を打てるし、通院回数も少なくて済むのだから。しかし問題は別にあった。実際には彼は週に2〜3回、自分で注射をしていた。しかし、保険請求では週4〜5回、しかもシャムロック医師のクリニックで注射を行ったことになっているのだ。

 保険請求を更に詳しく調べると、注射は全て週末ではなく平日に行われていた。私はスティーブに「週末に注射したことがありますか?」と尋ねた。彼は「もちろん、何回もありますよ」と言った。しかし、注射した日付をシャムロック医師に報告したことはなかったと言った。推察するに、保険請求フォームに治療日として土曜や日曜を書いて保険会社に受理されなかったことがあるからシャムロックは全て平日の日付にしたのではないか?(通常、病院は、週末は休診のため)。
 また、患者に自由に注射をさせていたので書類には不正確な日付を書くしかなかったのではないか?

 私達は薬剤の入ったシリンジを集めてマーキングし、証拠として写真を撮った。バッジは、後でそれらを事務所の冷蔵庫に保管しておいた。次の数週間の間、私達は更に患者のインタビューを続けた。私達が一緒に仕事する日は昼食を交互にご馳走しあったが、私が払う番の時バッジはいつも高いレストランを選んでいるようだった。

 面接調査の間、私達はシャムロック医師の患者から似たような話をいくつも聴いた。「実験的治療を受けていましたが、 シャムロック医師は“保険請求のことは心配しなくていいですよ、こちらでやりますから”と言ったのです」と数人の患者は報告した。患者は医療費の自己負担分を払う必要がなく、保険請求の治療のコード付けについても気にしなくてもよかったのである。

 オフィスに戻って政府の医療制度統括事務所に連絡を取ったところ、担当者は「医療制度で認定された医療専門家は注射を自身が勤務する医療施設内で行わなければならない」と言った。
 また、担当者はこうも言った。「医療従事者は、注射によって副作用が出ていないかどうか、症例を観察しなければならないし、患者が自分で注射したことや治療の場所の報告に偽りがあることを政府が知っていたら治療費を支払わなかっただろう」 私はバッジに電話して、私が調べた情報を伝えた。その後、彼も勤務する官庁経由で医療制度統括事務所に電話して同様の情報を得た。官庁や保険会社によって規則が異なる場合もあるので、関係官庁の規則を専門家に聴いて明確にする必要があった。

 その後の数日間で私はカルテと保険請求申請書から損失を試算した。裏付けとなる資料が無いものや内容に偽りのあるものは、不正請求として損失計上した。また、請求内容に実験的治療が含まれているものは、不正請求として損失に含めた。しかし、申請書をチェックしている間に更に危険な兆候を見つけた。注射の請求の他に、シャムロック医師は、注射器に詰める抗原の入った薬剤の「調合」に法外に高額な保険請求をしていた。
 恐らく、患者固有の血清を使っていたから高価だったのだろう。
 注射は1回につき約50ドルの請求だが、薬剤の調合は1回につき数千ドルを請求していたのだ。シャムロック医師が手にした金は抗原混合液を数多く不正請求によるものだった。それを見つからないようにするために、彼女は1回50ドルの注射をたくさん不正請求していたのだ。

 保険規制では治療を受けた場合は患者の自己負担額も発生することを私は知っていた。医療機関が自己負担額を免除することは許されない。よって、患者への自己負担の請求が無かったことにより不正の状況証拠が確立された。興味深いのは、シャムロック医師は保険会社に偽の保険請求書を送るのは良心の呵責が無かったが、患者には偽の自己負担金の請求書は絶対に送らなかった。それはきっと、もし患者を騙そうとしたら、患者はクリニックの前に列を作り文句を言うとわかっていたからであろう。

 私の次の疑問は、「1回の薬剤調合でシリンジを何本作ったのか?」だった。

 バッジと私は、調合に関する証拠資料を集めるため再度シャムロック医師への召喚状を当局に申請した。
 果たしてその結果はどうだったか?

 彼女は何も証拠を持っていなかったことが判明したのである。私達はクリニックの予約記録と来院記録を請求したところ、ある時は、治療を受けたとされかつ保険請求された日付に予約が入っておらず、来院もしていなかった。証拠はますます固まっていった。私は、このクリニックのビジネスは合法的かどうかの疑いを抱くに至った。

 私達はクリニックのスタッフに面接調査することにした。元の従業員への調査から開始し、交互に聴き手と記録係を務めた。ある元事務員はこう証言した。「2〜3年前、保険請求の証拠資料が無かったため保険会社とトラブルになったことがあったのです。その時に、処置していないのに保険請求するのは止めるようにとシャムロック先生に言いました。でも先生は聞き入れてくれなかったので、その後も同じように、処置していないものを保険請求していました」。私達は顔を見合わせ、調査結果が裏付けられてシャムロック医師への疑惑が強くなったと思った。

 私達は、クリニックの現オフィスマネージャー、 ケイティ・リンカーン(Katy Lincoln)とも面接することにし、平日の夜に自宅を訪ねた。彼女の証言は基本的に元従業員と同じだった。私達は更なる証拠を得ようと、ケイティとシャムロック医師との電話での会話を録音させてほしい、と頼んだ。最初、ケイティは躊躇っていたが最終的には録音に同意した。ケイティがシャムロックに電話する前に、会話に含んで欲しい内容を伝えた。

 録音された会話で、シャムロック医師は保険請求の内容が正しくないことを知っていると言った。また、時々、本当はしていない処置について保険請求していることを認めた。しかし、自分が虚偽の請求をするよう指示したと認めることはなかった。
 事務所に戻って録音した通話をコピーし、もとの記録媒体を証拠として保管した。また、後で録音を文書に起こしておいた。

 数日後、私達のうちどちらがシャムロック医師にインタビューするかを賭けてコインを投げ、私が勝った。医者にインタビューするのは面白いに違いない。私は、彼女が不正請求を知っていたことを認めた電話での会話を予め録音したことは言わなかった。それを言えば情報提供者がケイティ・リンカーンであることがすぐに分かってしまうだろうからだ。

 保険請求の根拠となる資料が無いことをシャムロックに尋ねたところ、彼女はオフィスが雑然としているので、紛失したのだろうと答えた。なぜ、クリニック以外の場所で患者に自由に注射をさせるのかと質問した時は、彼らがそれを望んでいるからだと答えた。また、注射する日をどのように決めるのかと聞いた時には、最初は自分がただそう思ったからだと言ったが、後になってクリニックのコンピュータが自動的に日付を入力したのだと答えた。患者に治療をした時に自己負担分を請求しないのはなぜかと聞いた時は、患者に支払能力が無いからだと答えた。
 つまり簡単に言うと、彼女の主張は、自分の知る限り薬剤調合とアレルギー注射に関する保険請求は全て正しいというものだった。FDAで未認可の実験的アレルギー治療を、認可された治療のように装って保険申請したのはなぜですか、という質問に対してはこのように答えた。
「効果があったんだからいいじゃないの!あんなにいい薬なのにFDAの認可に時間がかかっているのは、私のせいじゃないわ!」

正義のために事実を暴く (Presenting the facts for justice)

 バッジと私は、収集した事例を連邦検察局に持ち込んだ。被害額は総額で約50万ドルにもなった。刑事事件担当検事は、本件を受理しなかった。もし、録音の中でシャムロック医師が自ら不正な保険請求を指示したと言ったのであれば証拠能力が強かったのだが、と言った。

 私達は刑事事件担当検事が自分のところに持ち込まれる事案の全てを受理することはできないことを知っていた。そこで次に民事担当検事に持っていったら予約無しで受理してくれた。連邦民事虚偽請求取締法 (合衆国法典 第31編)は、3倍の損害賠償を認めている。3倍というのは、不正な保険請求額の3倍という意味だ。

 シャムロック医師は、そんな大金を返済する財産がないと主張した。しかし、最終的には2件目の家とその他の資産を売却して、損害賠償の一部の返済に充てた。シャムロックは政府から業務禁止又は一時停止を命じられることはなかったが、当局に行動を監視され、コンプライアンス違反がないか、このようなことがニ度と起きないか、定期的な監査やその他の厳しい要件を課せられることとなった。

教訓 (Lessons learned)

 私は、この事例を通して、細部にまで注意を払い、あらゆる方向から徹底的に調査や検査をすることが重要であると学んだ。いや、改めて学んだと言ってもいいだろう。どの事例でも、関係当局とチームで動くのが常に重要である。どの調査のどの部分も全て十分に計画され文書化されていなければならない。現に不正行為が行われている時は十分な面接調査と証拠の収集が確実な事案の申し立ての一助となる。不正行為者は多くの犯罪者と同様、自らの悪事を正当化する傾向が見られる。シャムロック医師のケースでは、彼女はFDAよりも自分の方がその薬の安全性を知っていると考えていた。身分不相応の暮らしをするのは、不正行為の危険サインだ。シャムロック医師はその良い例だ。探偵、不正調査士、監査人は、他のタイプの医療詐欺を調査する際にも、証拠書類が揃っていない保険請求に対しては十分に注意しなければならない。

将来の不正予防のための提言 (Recommendations to prevent future occurrences)

 徹底した全包囲型の調査を行えば、事件が発生時に証明できるし、それまでに知られていなかった不正スキームを検知できる。
 アレルギークリニックと医師のケースでは、調査人は混合液の数が水増しされていないか特定するため、(患者毎に)抗原混合液の注射に対する割合を分析することを考慮するべきだった。保険請求された(患者毎の)注射の頻度を分析することにより、注射数が水増しされていないかどうか判断することができる(例えば、1週間に5本の注射の請求は多すぎる、などのように)。

 シャムロック医師の患者はクリニック以外での場所で自由に注射するのを好んだので、他のアレルギークリニックでも保険請求用紙に治療場所を不正に記入すると推測するのは理に適っている。
 注射がクリニックで行われたか、或いはそれ以外の場所で行われたかを調べるには、注射を受けているアレルギー患者を無作為抽出法で選んで連絡を取る方法が考えられる。

 実験的治療(FDA未認可)の実施は普通にあることだが、それが不正に請求されれば、法を犯すことになる。このような事例を最も効果的に見つける方法は、(照会が来る前に今回のケースで監査人が行ったような)患者の治療記録の定期的な監査や確認である。 患者との面接調査はは、どんな治療が行われたか(又は行っているか)を確認するのに有効である。多くの場合、患者の関心事は限られている。

 多くの患者は担当医を信頼しているので、この治療にはお金がかからないと言われたら反論する者はほとんどいないだろう。医療保険不正の可能性を疑う人々は、治療の質が良くて医者が個人的にお金に困っていなければ、不正に目を瞑ることもあるだろう。探偵、不正調査士、監査人は、患者が自分自身の経済的利益に反する事実については、知っていること全てに関して完全な真実を語るのは困難であることに注意しなければならない。中には、担当医師が不正な保険請求したことで自分も罰せられるのではないかと考える患者もいるかもしれない。

 医療不正の特定と証明においては、種々の調査方法が使われる。

 物的証拠には下記のようなものがある。

その他の証拠 (Other evidence)

 合理的な疑惑を超えるケース(刑事事件)や、証拠の優位性(民事事件)によって不正を証明することは容易なことではない。もちろん、調査や検査を行う際には、合法的な入手が可能な考えられる全ての証拠を追跡・収集するべきである。面接調査は、可能な限り実施し、事実は全て書面の報告書に記載するべきである。

 FraudTalk 2013年9月号(ACFE's podcast series:ACFE.com/podcast.)でこの事例についてPiperが詳しく語った内容を配信しています。

Charles Piper, CFE, CRT
チャールズ・パイパー・プロフェッショナル・サービス(Charles Piper's Professional Services)のオーナーで私立探偵とナショナル・コンサルタントの資格を持つ。(www.piper-pi.com) 30年以上にわたって法執行機関(警察等)に勤務し、そのうち20年間は連邦特別調査官や犯罪捜査官として活躍した。著書として “Investigator and Fraud Fighter Guidebook: Operation War Stories" (John Wiley & Sons, April 2014)がある。
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