FRAUD MAGAZINE
(2016.08.19掲載)
職場における共謀
授業料返還、過大な給与支払いと不正

Collusion in the Workplace
Tuition reimbursement, excessive payroll and fraud



Dan Edelman, Ph.D., CFE, CPA
Jana Owens, CBA
翻訳協力:植田洋行 CFE/CIA/CFSA/CCSA/CISA

 筆者はフォーチュン500社企業の内部監査責任者からこの実事例の詳細情報を入手した。名称と詳細は変更してある。

 アルファ社の目標の一つはM&Aを通じて成長することであるため、チャーリー社のベイカー事業部を買収し、事業規模は倍増し55億ドルになった。当初の合算数値は驚異的なものであり、アルファ社とベイカー社の新たな関係により5,000万ドル以上になると予測していた。

 数年前にアルファ社は汎用ERPシステムを導入し業務プロセスを統合化していた。ベイカー社の買収を公表した時点で同社は連結ベースで全部署の内部統制を中央制御する企業システムを維持していた。これらの強力な統制と職務の分離により円滑な業務運営と不正の早期検知が確実に行われていた。

 しかしながら、チャーリー社の状況はこれと正反対で、米国内の殆どの拠点は個々バラバラのシステムであった。また、チャーリー社は分権化の考え方で各拠点を管理していた。ベイカー事業部は独自の業務プロセスと経営情報システムを有していた。このため、アルファ社によるベイカー社の買収は経理上の挑戦であった。

 ベイカー事業部を含む各拠点の統括マネージャーは、経理、在庫、購買、人事、リース、固定資産管理等を担当していた。各拠点が求められる予算と収益期待を達成している限り、本部は拠点の業務プロセスに介入しなかった。

 また、チャーリー社は、ベイカー事業部がSOX法404条の内部統制評価上は重要でなく軽微であると判断し、同社を統制の文書化とテストの範囲から除外した。さらに、チャーリー社の本社監査部門が実施していた監査は古くさいものであり、買収前の二年間に何のフォローアップ報告も行っていなかった。

 統合計画を評価するための職場環境は最初から大荒れだった。従業員はベイカーでの仕事がなくなってしまうことを知っていた。アルファは統合化計画の間、ビジネスを継続し、主要な職位に必要な要員を見極め、また従業員の入れ替えを管理する必要があった。経営者は対話型集会を開いて、アルファが誠実性と倫理観に基礎を置いていることを誰もが最初に自覚するように努めた。経営陣は、全ての事は適切な方法で行われなければならず、そのためのコストは問題ではないとの明確なメッセージを提示した。

大きく異なる授業料返還プログラム
 (Widely different tuition reimbursement program)

 合併と買収はアルファの10年に及ぶ成長を後押しした。ベイカーの買収時には、方針と手順書は明確に定義され、実施されていた。しかしながら、証券取引委員会(SEC)は合併の事前届出を必要とするHSR反トラスト改正法を遵守するため、合併審査に相当な時間を要した(同法は両当事者に連邦取引委員会(FTC)と司法省反トラスト局 司法次官補に所定の届出と報告を提出するように求めている)。この遅延はベイカーの従業員の将来に対する不安を増幅させた。

 アルファ社は“継続的な改善運営”の哲学のもとで設立された。この哲学は同社の従業員に対する授業料返還プログラムの提供を含んでおり、本部の継続的改善部(CI)が管理していた。従業員はこのプログラムに応募する前に、指定されたCIアドバイザーの承認を受けた学位計画を提出しなければならなかった。

 アルファ社の支給額は従業員一人当たり上限1万5,000ドル(5年間に年間3,000ドル)であり、授業料やキャンパス費、書籍の領収書、成績証明書、修了証を含む承認書類に基づいていた。アルファ社では、承認された計画に沿った有効な領収書が提出されない場合,支給が承認されなかった。

 チャーリー社の教育方針はアルファ社と大きく異なっていた。独自の方針に基づき運営されていた各拠点では、統一的な書類は求められず、支給金額に上限はなかった。チャーリー社の本部は勤務時間管理と給与セクションを通じた授業料返還を除き、同プログラムを管理していなかった。

調査の引き金
 (Investigation trigger)

 年末の給与報告プロセスの一環として、アルファ社は、すべての高額報酬従業員を正しく把握していることを確実にするために、全社的な給与統制レビューを実施し、適切な繰延報酬額と書類を検証した。

 アルファ社では、利益配分との整合性を確保するために統制システムが何年も実施されていた。しかしながら、最近買収したベイカー事業部については正確に把握していなかった。同事業部は独自の旧型システムを有しており、またアルファは二つのシステムを統合の最中であったのがその理由だ。そのため、同社はベイカー事業部の人事担当副社長に、給与レビューを実施するためITチームを使いベイカーの旧型システムから同じ質問を実行することを要求した。人事担当副社長は、複数の従業員は間違いなく高額報酬従業員のカテゴリーに分類されていないことを内部監査部門に語り、この問題を検討するためにさらなる時間を求めた。これはフォローアップを必要とし、内部調査の引き金となった。

 チャーリー社の本部は、全国の施設で、このレビューのために必要な詳細なデータファイルを格納した。買収はすでに終了していたので、アルファはチャーリー社のレビュー用にデータのダンプ・ファイルを要求するために、詳細な法的手続きを遵守する必要があった。

内部監査責任者が無視される
 (Internal audit director gets brush-off)

 アルファの内部監査部門は、ファイルを要求するプロセスを開始するとともに、直ちに初期情報のレビューを依頼するため、ベイカー事業部の統括マネージャー、マーク(Mark)に連絡を取った。何回かメッセージを送ったにもかかわらず、マークは内部監査の呼び出しに応えなかった。そのため、アルファの内部監査のディレクター、バーブ(Barb)は問題を確認するためにマークを現地で訪問することにした。

 彼女が到着したとき、マークの秘書のアンナ(Anna)は、マークは席を外しており、彼はそのような面倒な問題を確認する時間はないとバーブに語った。バーブはあきらめず、間もなく何とかマークのオフィスで会うことができた。初めのうち、マークはとても自己防衛的だった。彼は従業員が長時間働き、必要なすべての業務を実施していると言った。彼は、ここは彼が管理している事業所であり、彼の職務を遂行するために本部の助けは一切不要と主張した。マークは頑なに心を閉ざしているようで、バーブの事実に基づいた懸念事項に耳を傾けそうになかった。

 この同じ時期に、バーブはアルファ社の本社から、ベイカー事業部の施設会計士、ニコール(Nicole)が時間管理と給与計算の統制について彼女の懸念を共有するため、できるだけ早くミーティングの設定を希望しているとの電話を受けた。バーブはニコールに電話した。ニコールは管理事務所の時間報告は不正確であり、支払いのため提出する前に彼女が内容を確認する必要があることを、かなり以前から統括マネージャーに告げていたと述べた。

 ニコールは、マークが頻繁に彼女の警告を無視したと述べた。この会話は、バーブの疑いを強め、彼女はアルファ社の本部に戻り、計画を練って追加情報を収集することにした。二週間が経過し、チャーリー社はやっとバーブが要求したデータファイルを引き渡した。また、バーブは、彼女のチームが、残業、授業料返還の書類と給与計算ファイルに範囲を限定したレビューを実施する旨の電子メールをマークに送った。彼女はまた、彼のオフィスに4件のボイスメールメッセージを残したが、何の返信もなかった。

監査:交戦状態および殺害の脅迫
 (The audit: belligerence and death threats)

 バーブは、チャーリー社から受領したファイルの分析を開始した。彼女は、 6人が2つの疑わしいカテゴリー:時間外勤務手当と授業料返還金に該当することに注目した。バーブは同拠点のすべての授業料支給金伝票を引っ張りだして、もっと多くの不一致を発見した。彼女はレビューリストに2人の時間勤務従業員を追加するとともに、他の正社員を2人加えた。

 返還金の数字はデータダンプからは拾えないと思えた。 6人のフルタイムの従業員に対する支払総額は、3年間で14万5,000ドルを超えていた。彼女はベイカーの本部オフィスに連絡し、給与や授業料支給金ファイルのハードコピーを要求した。驚いたことに、ベイカー事業部はどの給与情報にもそれを裏付ける文書を何も送ってこないことが分かった。支払いは、単に各拠点から提示された金額に基づいて行われていた。

 バーブは、ハードコピーがどこにあるか見つけるべくニコールに電話した。しかしながら、ニコールはそれらを見ることを許されなかったため、管理のタイムカードや授業料返還金の記録がどこにあるかの手掛かりがなかった。しかし、他のすべての時間記録(1,200人分の時間給従業員および定額給従業員)は彼女の管理下にあり、彼女は監査のレビュー用に情報を取得することを確約してくれた。

 バーブは、記録や書類を入手すべくベイカー事業部に数回連絡したが、彼女の努力はすべて無駄であった。バーブは事態を打開するため個人的にベイカー事業部を訪問した。彼女は到着すると、人事ディレクターのデビッドを皮切りに、アカウントマネージャーのニコール;人事マネージャーのエマ、そして秘書のアンナとミーティングを行った。統括マネージャーのマークは不在だった。バーブは、記録を受け取るまで建物を離れない決意だった。

 バーブは、内部監査チームの部門長だったので、彼女は任意の拠点に赴き、レビューを完了するために必要なあらゆる記録にアクセスする権限を与えられていた。彼女は彼らにこのことを説明してから、記録を要求した。ニコールはすぐに彼女が用意できるすべての記録を提供した。しかし、アンナとエマは全く協力しなかった。

 バーブは、デビッドに連絡を取り、彼のチームが協力的でないことを話した。デビッドは状況がまるでわかっていなかった。バーブは、すべての記録を入手するまで、ベイカー事業部の建物を離れるつもりはないと再び説明した。デビッドは困惑しながらも、アンナとエマに記録を持って来るように命じた。彼は、バーブがその拠点にある、すべての記録を確認する権限があること、必要であれば、彼がマークに説明することを彼女たちに説明した。

 真夜中を少し過ぎた頃、バーブは、要求した記録の一部を受け取った。デビッドは翌朝早く、残りの授業料プログラムの資料を提供することを約束した。バーブは、誰もが去るまで待ってから8箱の記録を自分の車に積み込んだ。彼女がホテルに到着すると、一台のメルセデスがチェックインエリアのところで彼女の後ろに寄せて止めた。エマとアンナがその車の中にいた。アンナは「なぜ箱を工場から運び出したの?マークに電話するわ!」と窓越しに叫んだ。バーブは彼女たちを無視して、車から箱をホテルの部屋に運び込んだ。バーブは一晩中、8箱すべてを探索してレビューのために必要なすべてのタイムカードを引っ張りだした。

 予備段階の結果は、バーブを驚かせた。エマとアンナは、事務部門を管理していた。事務部門の従業員は疑いのあるグループを除いて、全員が 人事エリアの1か所からの入退室時刻を打刻していた。その拠点にいる1,200人の時間給従業員がタイムレコーダを使用しているのとは異なり、アンナとダイアナ(エマの下で働く人事担当者)は エクセルで作成した手作業で記録するタイムカードを使用していた。これら2人の従業員が何故別に記録を残しているのかバーブは疑問に思った。アンナは管理部門の公式な時間・給与の入力者だった。彼女は隔週に支払われる、すべての項目を入力し、確認していた。これには特別なインセンティブの支払い、たとえば安全賞や皆勤賞、ならびに授業料返還金などの項目が含まれていた。エマは正社員なのでレビューすべき勤務時間の記録はなかった。しかし、バーブは彼女の給与には興味がなく、授業料返還金の記録を見てみたいと考えた。

 タイムカードを検査した後、バーブは多くの疑問を抱いた。彼女はアンナとダイアナの手作業によるタイムカードは虚偽だとの強い疑いを持っていた。ダイアナは毎週同じタイムカードを使用していることが明白だった。すなわち午前7時から午後7時まで勤務し、30分の昼食を取った。エマは、彼女の上司だったのでダイアナのエクセルのタイムカードを毎週承認サインしていた。アンナのタイムカードは、しばしば上司の承認サインなしに変更され、毎週調整されていた。ある年のある時点では、アンナは3ヶ月の間に申請上は240時間の時間外労働をしていた。これはほとんど不可能に思えた。

 翌日バーブが事業所に到着したとき、デビッドは会議室で彼女を待っていた。2時間以内に、彼女は要求した授業料の記録を受け取った。エマとアンナが箱を運んだ。二人はバーブがこれ以上事業所の記録を盗むことのないよう、レビューの間どちらか一方が同席すると主張した。バーブは、レビューを完了するために二人の支援は必要なく、会議室を出ていくよう両方に伝えた。

 エマはバーブから記録を取り戻すために警備員を送ったが、バーブは記録を手放すことを拒否した。約15分後、彼女は彼女が1時間以内にその場を離れることを要求する匿名の脅迫電話を受けた。その後まもなく、バーブは本社から、彼女を殺すとの脅迫があったことを警告する電話を受けた。バーブの勤務先のCEOは、その後すぐに、事業所を急いで離れるよう彼女に命じた。彼は彼女の迎えのために、社用ジェット機を送った。バーブは、しぶしぶ彼女のコンピュータとすべての授業料記録を詰め込み、ベイカー事業部の従業員には何も告げず空港に向かった。

 彼女は、本社に戻った後、全ての出来事について上司と議論した。彼らは、不正専門機関に調査を委託したがったが、バーブは、自分でレビューを完了することを主張した。最終的に彼らは合意した。ただし、彼女がベイカー事業部に一人で行くことは許されないという条件付きで。

 バーブは、授業料返還金のレビューを再開した。彼女はすぐに犯人が複数の未認可または偽の学校と一つの有力大学の請求書を偽造していたことを発見した。彼女は、ベイカー事業部の授業料支給金不正では、チャスティティ(Chastity、工場の監督者)、エマ、アンナとダイアナの4名の従業員を特定した。

 バーブは学校名、日付、コースの履修単位や授業料の請求書を照合して、多くの矛盾を明らかにした。請求書のいくつかは偽造されたように見え、4人の従業員が自分の成績を操作したことを疑った。これら4人の従業員がコース登録したとされていた大学は、後でこのことを確認した。バーブは、別の大学に通ったチャスティティは、奨学金が全額支給されており、授業料、手数料や書籍を支払っていないことを発見した。しかし、彼女は教育にかかった費用をベイカーに請求していた。

 バーブは、各従業員から提出された不正な記録に関する詳細な情報を収集した。彼女はまた、返還金のために提出された書類は偽物だったとする大学からの書面による確認を得た。彼女は、従業員一人一人に対して、確固たる論拠を用意し、本社に行動計画を提出、計画通りに進めることの承認を受けた。

電子メールの細工
 (Email manipulation)

 バーブは、監査結果を議論するために、次の週に施設を訪問するつもりだという趣旨のメールをマークに送信することで、作業を開始した。彼女はマークが応答できるよう2〜3時間待ってから彼に電話した。彼は彼女のメールを受け取っていないと言った。彼らが電話している間に、彼女はメールを再送した。またしても彼は電子メールを受け取っていないと言うので、彼女は三回目を送った。電子メールを送信している間、彼女はボールティング(vaulting)システムを介してそれらを追跡した。バーブは、アンナ(マークの秘書)が、彼の電子メールを全部彼女の受信トレイに移動させていたことを発見した。彼女は、バーブが送ったものを全部削除し、他の従業員が送信したメールのみが彼の受信トレイに送られるようにしていた。

 バーブは、彼女が監査の発見事項を取り上げるために翌週は事業部のある町に行くとマークに語ったが、彼の電子メールの違反は明らかにしなかった。彼女はマークがこの不正に共謀しているかどうか、まだわからなかったが、バーブは彼の電子メールを追跡し続け、痕跡を追った。彼女はアンナがマークの受信トレイからすべてのメールをエマに転送し、バーブが彼らのオフィスに来たらどうするか彼女に尋ねたことを観察していた。エマは、マークの電子メールの監視を継続し、バーブが送ったものは何でも削除するよう、彼女に助言した。明らかに、 マークの電子メール通信は妨害されていた。彼はこの犯罪行為の関与者ではないように見えた。彼は、不十分な人事管理や見当違いの信頼で罪が問われても、共謀はなさそうだった。

社員の解雇と告訴
 (Company fires employees and takes criminal actions)

 彼女は自分のチームと共にベイカー事業部に到着した後、バーブはマークおよびデビッドと面談した。彼女は彼らに全体のスキームを説明し、彼女が収集した証拠や文書を提示した。マークとデビッドは、彼らのオフィス内で起こっていた不正を聞きショックを受けた。二人とも、自分は全く知らなかったと主張し、有罪になる者全員が、厳格に処罰されるべきであることに合意した。会議が終了した後、バーブと彼女の内部監査調査チームが呼び出して、犯罪への関与が疑われる各従業員と向かい合った。エマとアンナは、彼らが無実であると断固主張し、証拠を見た後でも犯罪を認めようとしなかった。他の人は白状したが、エマとアンナが彼らに圧力をかけたと主張した。

 同社は、授業料と給与不正に関与した従業員全員を解雇した。同時に、バーブは、刑事訴追のための法執行機関に彼女の調査結果を提出した。法執行機関が調査し、チャスティティ、エマ、アンナとダイアナを起訴した大陪審に情報を提示した。逮捕状が発行され、元従業員を拘束、会社に対する詐取共謀の容疑で起訴された。

 チャスティティは、即座に彼女が他の人に不利な証言することを当局に告げた。彼女はまた、退学処分を受けたくなかったので、彼女が更生しようとしていることが大学に分かるように弁済を開始させて欲しいと懇願した。大学は彼女の要求を検討することに消極的だったが、彼らに対して詐欺を働いた訳ではなかったので、最終的に彼女を退学にしなかった。法執行機関は、チャスティティに罰金とおそらく禁固刑を科すことになる、第一級の重罪(詐欺による窃盗)で彼女を起訴するだろうと告げた。

 最初の事案が陪審員に提示されるまでに2年以上がかかった。チャスティティは全額について有罪を認め、第一級の重罪で有罪判決と10年の保護観察を受けた。その後、ダイアナ、アンナ、とエマに対する裁判に関連した活動が始まった。

 エマがスキームのアイデアを切り出した時にダイアナは銀行口座を持っていなかった。そのため、エマはダイアナの口座開設を助け、署名権者となった。エマとアンナは、返還金のためのすべての文書を提出し、それらがいつエマの口座に入金されるかダイアナに連絡した。

 調査員は資金の流れを追いかけ、銀行の記録を点検し、面接調査を実施した後、彼らはダイアナが学校の授業を全く受けておらず、エマとアンナが支払いのために提出した請求書を見てもいないと判断した。ダイアナの預金口座に入金があると、エマはすぐに彼女自身の口座に資金を移した。ダイアナに対して支払われた総額38,800ドルの返還金のうち、彼女が実際に受領したのは2,500ドルにすぎない。エマは残りの全額を彼女自身の口座に送金していた。ダイアナは、もし契約に違反すれば、実刑判決を言い渡される第一級重罪の窃盗で有罪を認めた。彼女は他の人に不利な証言することに同意した。

 法執行機関は、ダイアナが決心して証言することに同意したことをアンナに伝えると、彼女もすぐに申し立てをしたいと言った。アルファ社は、会社から盗んだ全額を返還すること、第一級重罪の前科、彼女に対し必要に応じてスキームを法廷で証言することを求めた。アンナは合意しアルファ社に23,500ドルを支払った。

 エマは最終的には、第一級重罪の窃盗、10年の保護観察とアルファ社への35,300ドル全額の返還に同意した。彼女はまた、ダイアナから36,300ドルを盗んだが、その資金で逃げ切った。彼らは両方とも口座の署名権者であり、これはダイアナに対して不利なエマの証言だった。ダイアナはこの主張に対して抗弁する余裕がなかったので、決着をつけた。

 この事案は、いくつかの奇妙な要素を含んでいた。エマは、地元で評判が良く顔の広い弁護士を雇うと、この弁護士は早速アルファ社に対し名誉毀損で法的措置をとると威嚇した。幸いなことに、元従業員のいずれも、アルファに対して民事訴訟を提起していない。しかし、アルファ社は依然として防御のために相当な訴訟費用を負担することになりかねない。また、アルファ社がエマを解雇した直後に、州労働委員会はバーブにファックスを送付し、エマの失業給付を決定するため、次の週の労働公聴会に出席を求めた。行政裁判官はアルファ社の上訴に基づく最終的な審査を保留し、エマに予備的な判断を言い渡した。しかし、労働控訴裁判所は、アルファ社の申立てを認め、エマに失業手当を給付するという決定を覆した。

被害額の評価
 (Assessing the cost of the theft)

 窃盗にあった金額のうち実際の授業料分は、ほぼ10万ドルだった。旅費や法廷費用、外部調査その他一般経費が合計25万ドルになった。また、監査ではアンナ、エマとダイアナによる40万ドル以上のタイムカードによる詐欺が発見されたが、同社はこれらの金額の回収のために起訴することができなかった。

 アルファは3年分のタイムカードに不正な署名があることを証明できた可能性はあるが、このケースを審理した裁判官は、経費を監視するための内部統制は容易に詐欺を発見するべきであり、犯罪の発生を許したのは会社の落ち度であったと述べた。裁判官は加害者に対してこの事案を更に調査することを許可しなかった。

 裁判官によると、マークは、もっと注意深く自分の事業所の収益を監視してしかるべきであり、盲目的に従業員を信頼してはいけなかった。アルファ社はこの給与詐欺から1ペニーも取り戻せなかった。従業員は民事判決を満たす利用可能な資産を持っているようには見えず、民事裁判でこの事案を追求することは無益であった。民事訴訟の潜在的なコストは見込まれる利益をはるかに超えていた。

教訓
 (Lessons learned)

 ベイカー事業部は、統括マネージャーのマークが適切な内部統制を実施しなかったため、トラブルに陥った。彼は盲目的に彼の従業員を信頼し、記録の照合をほとんどしなかった。彼は、またマクロレベルで状況を分析していなかった。もしそうしていれば、彼はすぐに、給与や授業料返還金の異常な増加に気づいていただろう。また、圧力を受けていた従業員が同僚からの圧力に屈する代わりに、経営トップにこの問題を報告したかもしれない。罪を犯した従業員は、抜け穴を発見して自分の利益のために利用するのに十分な程度に目ざとかったのだ。

 厳格な方針と例外事項の報告(すなわちタイムカード、時間外労働、平均を上回る返還金など)の着実な順守を怠る企業は、詐欺にとって格好の標的である。定期的および抜き打ちのチェックは、早期に異常な活動を検出するための内部統制手順に組み込むことができる。また、非協力的な従業員は、潜在的な不正行為の危険信号である。

 ビジネス・プロセスの所管者と管理者は:

 経営陣は、解雇された従業員は民事訴訟を提起しても失業給付を受給しようとする可能性があることに注意する。万一この問題が発生した場合は、盗まれた金額を越えて、雇用主の追加的な費用として弁護士費用や失業保険負担金増が発生し、増加し続ける。

 最後の、そして最も重要な点は、自暴自棄の人間が窮余の一策を行い得ることを会社は知っておかねばならない。経営者は、監査人や不正検査士に対する殺害の脅迫や威嚇、その他の非合法的な行為を深刻に受け止めなければならない。

 アルファ社の過ちは読者にとっての教訓である。特にあなたの組織が他の企業を買収する場合は、決して警戒を緩めてはならない。

Dan Edelman, Ph.D., CFE, CPA,
テキサスA&M大学コマース校(Texas A&M University-Commerce)の学務担当副総長補兼副学長補であり、会計学の終身教授。同大学の元会計学部長である。

Jana Owens, CBA
本稿の執筆時、テキサスA&M大学コマース校(Texas A&M University-Commerce)の大学院生だった。現在、大手企業のシェアードサービスの責任者としてコンプライアンスと統制に取り組んでいる。
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