FRAUD MAGAZINE
(2016.07.20掲載)

   近未来の不正トレンド:新たなスキームの登場

暗号化通貨が不正の扉を開く
信用を排除するために作られた通貨を信用できるか?

Future Fraud Trends: Schemes on the horizon
Cryptocurrencies opening fraud gates
Do we trust a currency designed to eliminate trust?



Tim Harvey, CFE, JP
翻訳協力 : 石原直人 CFE

 映画「34丁目の奇跡」の1994年のリメイク版に、6歳のスーザンが丸で囲んだ「我らは神を信ずる(In God We Trust)」と印字された米国ドル紙幣を見せたことで、判事がデパートのイベントのサンタクロースのクリス・クリングルが本物のサンタクロースであることを認めたシーンがある。判事はもし米国財務省が神を確たる証拠なく信じるのであれば、ニューヨーク市民はサンタクロースを信じることができると悟ったのだ。

 不換紙幣(政府が物理的な商品の担保なく法定貨幣とみなしたもの)は我々が信用するから存在する。通貨は概念であり、我々が信用しない限り、機能することはない。

 その昔、英国の通貨は「私はこの通貨持参人に対して5ポンド(またはその額面金額)を支払うことを誓います」という文言が印字されていた。理論的には、イングランド銀行へ紙幣を持ち込み、銀貨に交換することができる。しかし、金・銀兌換制度は遠い過去に廃止された。国の通貨価値と国内総生産は、単に金、麦、コーヒーなどの物理的なモノに依存せず、国際取引、株、デリバティブ、先物、予約、ワラント、スワップといった無数の要素によって成り立つ。

 従って、誰かがふらりとやってきて「これは新しい通貨だ。その価値は希少であることだけだ」と告げたら、多くの人は不審に思うだろう。それは何ら不思議なことではない。

 本コラムでは、暗号化通貨の成り立ち、その機能、マネー・ロンダリングへの悪用例、その他違法行為に使用される事例、そしてその将来について論じる。

(本コラムはFRAUD MAGAZINE2014年3月/4月号掲載記事「ビットコインが創り出すバーチャルな西部開拓時代」、アリ・サイード(Ali Said)、D.B.A.、CFE(http://tinyurl.com/kh5z9sr)の続編である)。
暗号化通貨に信用は不要か?
 (No trust needed for cryptocurrencies?)

 eゴールド(www.e-gold.com)のような電子マネー、仮想通貨(リンデンドル)、そして暗号化通貨(ビットコイン、ライトコイン、ピアーコイン、ネームコイン)には全て違いがある。

 一般的に電子マネーは貴金属やその他価値を有する物質の裏付けがあると言われている。仮想通貨はセカンドライフ(http://tinyurl.com/lg7xuvj)といった仮想空間等でそれらを使用したい人にとって価値を発揮する(これを同様に通貨を持つ「多人数参加型ロール・プレイングゲーム」と混同してはならない)。

 最も知られている暗号化通貨はビットコインであるが(https://bitcoin.org/en/)、ビットコイン以外にも多数ある。あるサイトでは、100の類似した暗号化通貨を紹介している(http://coinmarketcap.com)。ビットコイン(単数形では大文字で始まる「Bitcoin」、複数形では「bitcoins」)は多数のコンピューターが全取引履歴を辿ることを可能にしており、数学的なメカニズムにより認証されている。これは各個人が金融機関など取引を監督する個々の所有者を介さずに相互に取引をしていることから、ピア・ツー・ピアシステムの名称で知られている(これは非公式の送金システムであるハワラ・バンキングと似ているが、異なるのは1個人とコンピューターに拠っている点である)。

 ビットコインにおいては、信用、または銀行のような信用のおける第三者機関の存在は、全ての取引が全ユーザーに知られているため、必要とされない(取引当事者の個人情報は非開示)。

 ビットコイン理論の論文「ビットコイン: ピア・ツー・ピア型電子マネーシステム」を書いた「サトシ・ナカモト」は、社会は「信用でなく、暗号化された証明に基づいた電子支払いシステムが必要である」と述べた(https://bitcoin.org/bitcoin.pdf)。しかしながら、常にそうであるように、暗号化された証明が安全であったとしても、その通貨に対する安定した信用が成功か失敗を最終的に決める。

 (多くは、ナカモトという名前はコンピューター科学者グループのハンドルネームであったと信じている。論文提出後、ナカモトは忽然と姿を消した。しかしながら、2014年3月のニューズウィーク誌は、ナカモトはカリフォルニア州テンプル市在住の実在する世捨て人である可能性を取り上げた。「ビットコインの裏側の顔」 リア・マクグラス・グッドマン、ニューズウィーク、2014年3月6日(“The Face Behind Bitcoin," by Leah McGrath Goodman, Newsweek, March 6, 2014, http://tinyurl.com/mhcq3ok.)を参照。 記事で取り上げられた人物は、自身はビットコインの発明者ではないと語った)。

ビットコイン入門
 (Bitcoin primer)

 ビットコイン「採掘者」は数式を解くための特別なソフトウェアを使用し、解いた報酬としてビットコインを受け取る。システムは徐々にビットコイン採掘の難易度を上げるようプログラミングされていて、最終的には流通量が2,100万に収まるように設定されている。個々のビットコイン作成にあたっては暗号化により保護されたハッシング・アルゴリズムが採用され、個別に64文字のハッシュ値が全てのデータに対して付与される。

 bitcoin.orgによれば、新規ユーザーはビットコイン・ウォレットをコンピューターもしくは携帯電話にインストールし、最初のビットコイン・アドレスを作成する。ビットコインのネットワーク全体はブロック・チェーン−全ての認証された取引履歴を含む共有の公開帳簿に依存している。従って、ビットコイン・ウォレットは残高を計算し、新規取引が本当に支出者による支出であることが確認できる。

 ユーザーはビットコインを支払い手段として受付けることや他人から購入することで入手できる。ビットコイン取引所から直接、銀行口座経由で購入することもできる。 取引−ビットコイン・ウォレット間の送金−はブロック・チェーンに含まれている。https://bitcoin.org/en/how-it-worksによれば、「ビットコイン・ウォレットは取引に署名する役割を有する秘密鍵またはシード(種)と呼ばれる秘密のデータ保有し、これは、オーナーのウォレットから実際に支出されたことを数学的に証明する」。「署名は発行されると他人による取引の改変を防止する。全ての取引はユーザーに公開され、ネットワークにより、採掘を介して『向こう10分間で』認証される」。

 ではどのようにビットコインを支出するのか?全てのビットコイン取引には「インプット」と「アウトプット」がある。インプット情報はユーザーの過去のビットコイン取引履歴である。アウトプットは支払いを受けたユーザーのアドレスである。あなたが3ビットコインの送金をするとしよう。ネットワーク上の他コンピューターは、あなたがまだ支出していないことを確認する。

 もしあなたが2.5ビットコインを受取人に送金したい時、先ず手持ちの3ビットコインを送金した後、0.5ビットコインのお釣りを受け取らなければならない。この必要以上の煩雑さが取引データの連続したブロックを単純化し、セキュリティを高める。よって、ユーザーのビットコイン・ウォレットは一定額のビットコインというより、これまでの全取引履歴を保有し、受け取ったビットコインの支出されていない取引額の総額を集計している。

 あなたがビットコインをユーザーのIPアドレスを隠す「TORネットワーク(オニオン・ルーター)」を介して使用し、ビットコイン送金の際にインプット取引をリンクさせなかった場合は、あなたが開示した情報は公開鍵のみとなる。あなたにとっては、ビットコインは匿名である(しかしながら、ジョンズ・ホプキンス大学コンピューター・サイエンス学部の四名の生徒は、取引を完全に匿名なものにすることを目的としたプロジェクトに取り組んでいる。彼らの白書をZerocoin.orgで参照されたい)。

 ビットコインは、実は匿名でないと反論する者もいる。ビットコイン取引と「送信先」アドレスを調査している者たちは個人情報を発見することができる。しかしながら、法執行機関もしくは民事手続きによる場合でも、資産の追跡は時間を要し、困難である。非協力的な管轄区域を含む場合は更に困難となる。

ビットコインは認証されるものなのか、迫り来る危険なのか?
 (Bitcoin verification or signs of impending trouble?)

 ビットコイン・コミュニティの一部では、ビットコイン財団の前副会長でありビットインスタント(Bitinstant)のオーナーであるチャーリー・シュレム(Charlie Shrem)が2014年1月、マネー・ロンダリング容疑で逮捕されたことが、ビットコインが商品や有価証券でなく、本当の通貨であることの証左であると認識しているかもしれない(米国内国歳入庁は、税務上の目的で賛成していない。「米国内国歳入庁 仮想通貨ガイダンス“IRS Virtual Currency Guidance"」を参照。http://tinyurl.com/p3dwy4e.)。

 ビットインスタントは取引所でのビットコイン購入のため、現実の通貨を送金することを可能とした組織だった。(参照:「シルクロードの100万ドルの資金洗浄加担の容疑で逮捕された『ビットコイン億万長者』に面会」、カイル・ラッセル、 ビジネスインサイダー、2014年1月20日、“Meet The ‘Bitcoin Millionaire' Arrested For Allegedly Helping Silk Road Launder $1 Million," by Kyle Russell, Business Insider, Jan. 20, 2014", http://tinyurl.com/ku4f7n9)

 CNBCは、2013年11月18日開催の上院公聴会で米国連邦政府関係者がデジタル通貨ネットワークは既存の法規制の枠組み内で運用可能であると述べたと伝えた。電子マネーが新たな不正の道筋を作ったのにも拘らず、である(参照:「規制当局はビットコインの価値を認め、投資家は慌てて賛同している」、CNBC、2013年11月19日、“Regulators See Value in Bitcoin, and Investors Hasten to Agree," CNBC, Nov. 19, 2003, http://tinyurl.com/qg3rtxvを参照)。

 もちろん、電子通貨に対する主な懸念は、犯罪者を惹きつけている点、個々のユーザーと取引の特定が困難な点、課税対象でないこと、そして世界の貨幣制度に対する影響である。加えて、ニューヨーク州南地区検事のプリート・バララが「闇の犯罪社会に選ばれたオンライン銀行」と評したリバティー・リザーブが閉鎖に至った例が示すように、多くの人々は規制がないことに当然のことながら懸念を抱いている。その銀行は7年間で60億ドルの資金洗浄に関わった疑いがある(三勝:「リバティー・リザーブが60億ドルの資金洗浄関与の疑いで閉鎖」、キャサリン・ラシュトン、ザ・テレグラフ、2013年5月28日、"Liberty Reserve shut down in $6bn money laundering case," by Katherine Rushton, The Telegraph, May 28, 2013, http://tinyurl.com/mlcxute)。

 この最新動向に対する懸念は非常に深刻だったので、ニューヨーク州金融サービス当局は2014年1月28日、29日に仮想通貨の優位性と危険性を検証する2日間の公聴会を開いた。金融、経済、法執行機関、学術分野の専門家は広範囲の様々な見解を述べた。直接のピア・ツー・ピア取引と僅かな手数料による即時送金の利点を挙げる者もいれば、電子マネーの不安定性、不確実性、信用面での懸念を示唆する者もいた(参照:http://tinyurl.com/ch8fqr4のビデオ)。

 黎明期にあるデジタル通貨は、不安定な好不調の波の影響を受ける。最近では2013年12月の暴落や2014年2月のビットコイン最大の取引所であるマウントゴックスの破産があった。

 ビットコイン財団の主任科学者であるギャビン・アンダーセン(Gavin Andresen)は、私のインタビューで暗号化通貨に対する長期的な展望を語った。「2013年12月の暴落について、私の分析は次のとおりです。長期的な視点で、ビットコインは将来重要な通貨となり得ると信じている人たちがいる。「そして、その一方で、純粋に短期的、つまりビットコインの価値が急騰すれば、それに乗じて投資し、暴落の前に売り抜けて利益を得ようとする者たちがいる」

 「マウントゴックス内の技術的問題により生じた暴落は、直近の(ビットコインの)価格高騰が短期的な投機であったことを示している。短期的投機の傾向は実に強かった!」アンダーセンは、「急激な価格変動はビットコインにとって望ましくない」と考えている。「しかしながら、我々はビットコインの価値が上昇し、それを支えるインフラが成長し成熟するにつれ、他の通貨に対する相対価格はより安定していくものと予測する。だが、そうなるまでの数年の間は今までのような混沌とした状況やドラマが続くと思う」と、アンダーセンは述べた。

 アンダーセンは「しかし、全体を見渡すと、私は、ビットコイン決済システムネットワークは引き続きそれが担うべく設計された役割を果たすと予測する。即ち、より確実な新しいビットコインの創出とビットコイン取引処理である。」とも述べた。

 (私はビットコインの詳細な働きと管理について、ビットコイン財団の他の関係者から回答を得ることができなかった。この透明性と開放性の欠如はビットコインやその他の暗号化通貨に対する疑惑を増大させ、その成長を阻害する要因になりかねない)

本当の話・・・
 (Trust me …)

 ビットコインや他のデジタル通貨の将来は信用次第であるが、それこそがビットコインが排除することを目的として作られたものなのだ。これは暗号化の数式的な処理過程における信用ではなく、ビットコインがその価値を維持し、他の通貨、モノ、サービスと交換できることを実現する上で必要な信用のことである。

 ビットコインの採掘、創出、取引での使用は、その背後にある数式計算と処理が磐石なため、信用を必要としないかもしれないが、その価値を誰も信じなくなれば、ビットコインは消滅する運命にある。その価値を信じる人々が十分な数に達しているからこそ、機能するのである。ビットコインは知名度の低い仮想通貨から米国上院の注目を浴びる立場になった。

 最近暴落したが(自然調整機能が働いたのかもしれない?)、もしビットコインが最終的に安定すれば、安定した大企業―もしかしたら世界的な銀行、有名なサーチ・エンジン・プロバイダ、ソーシャル・メディア企業、もしくは1つの国が、直接競合する同様のデジタル通貨を発行するのを目にするだろうか。米国とカナダでビットコイン専用のATMが登場していることは非常に興味深い(http://tinyurl.com/phl6s8j 及び http://tinyurl.com/kqu5gudを参照)。

 あなたがビットコインを詐欺、数字いじりの技術おたく、あるいは合法な通貨だと考えようとも、これらは持続性を有するものである。不正を行う者はそのことを計算済みである。

Tim Harvey, CFE、JP
ACFE英国支部のディレクターであり、トランスペアレンシー・インターナショナルと英国犯罪学協会会員である。Fraud Magazineノ「Global Fraud Focus」コラムの共著者でもある。
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