FRAUD MAGAZINE
(2016.06.20掲載)

新しい不正の動向:迫りくるスキーム

ビットコインが創り出すバーチャルな西部開拓時代
匿名が氾濫するサイバー世界が進取の不正行為者を生み出している

Bitcoin creating virtual Wild West
Anonymous cyber world spawning enterprising fraudsters



 この新しいコラムでは、我々の不正対策に関する知識を広げる新しい方向性について述べる。

Ali Said, D.B.A., CFE,
翻訳協力:石原直人、CFE

 2013年10月2日、FBIはシルクロードのウェブサイトを閉鎖し、29歳のサイト運営者、「ドレッド・パイレーツ・ロバート」を、麻薬密売の共謀、電子計算機を利用した不正、及びマネー・ロンダリングを共謀した疑いで起訴した。FBIは告訴状で、シルクロードを、数千単位の麻薬取引業者によって活用され、950万ビットコイン以上の売上を計上する、(FBIの試算では120億ドル以上の売上に相当する)「今日のインターネット上で最も洗練された、且つ広範囲な犯罪マーケット」と表現した。(「FBIが『ドレッド・パイレーツ・ロバート』を逮捕し、彼のブラックマーケット『ザ・シルクロード』を閉鎖したと発表」、アレックス・コンラッド記者、2013年10月2日、フォーブスを参照)

 しかしながら、クラシック映画「ザ・プリンセス・ブライド(The Princess Bride)」にあるように、オンライン上で別のドレッド・パイレーツ・ロバートが出現し、シルクロード2.0(IPアドレスを隠す機能を有する「トーア・ブラウザ(Tor browser)」によってのみ閲覧可。http://silkroad66ownowfk.onion)を開発した。この新しい取引市場サイトでは従来と同じロゴとレイアウトが使用され、多くの業者が関与していた。
(「閉鎖後一ヶ月でシルクロード2.0が出現」、サイラス・ファリヴァー、2013年11月6日、ars technica、http://tinyurl.com/oxr4h4oによる)。

 多くの者が合法な、または従来型のビジネスの商取引にビットコイン決済を活用しているが、ビットコインは、犯罪者に重大な法律違反をする機会を今でも与えている。不正検査士はこの興味深い現象の最新動向を追う必要がある。

全くの異質な「動物」
 (A different animal)

 ビットコインのウェブサイト(http://bitcoin.org/en/faq)によれば、ビットコインは(なお、英語表記ではビットコインは単数形では大文字で表記される「Bitocoin」一方で、複数形では小文字で表記される「bitocoins」)「新しい決済システムを実現する合意のとれたネットワークであり、完全な電子マネーである。これは史上初の非中央管理型のP2P決済ネットワーク…中央管理機能や仲介機能が一切ない形でユーザーにより使用され…ビットコインは、言わばインターネット上の現金と非常に類似している。ビットコインは現存する最も優れた三式簿記と考えることも可能である」。

 ビットコインは2008年頃、金融機関を通さずに、オンライン上である所から別の所へ支払いができる決済形式として突如出現した。ビットコインのウェブサイト(bitcoin.org)によると、ビットコインは金の裏付けがない。ビットコインは保有者間で暗号プロトコルを通して決済される。支払い元に再送金することはできない。ユーザーはビットコインをビットコイン取引所で購入するか、自身と地理的に近い地域にいるユーザーとモノまたはサービスの支払い対価として交換するか、または採掘(マイニング)によって取得することができる。(ビットコイン採掘のウェブサイト参照。bitcoinmining.com。 採掘については特殊なソフトウェアを使い複雑な数式を解き、その報酬としてビットコインを得ることができる。これは本当のことだ)

 ビットコインによる支払いは電子メールの送信と同じくらい容易にできる。ユーザーは、BitcoinIDなどの「クライアント」を通じてビットコインへアクセスし、別の人の「ウォレット(財布)」に支払いを送金するというものである。これは規制当局の関与が一切生じない簡単な手続きである(その一方で、不正に対する防止策も一切存在しない)。

未だ法定通貨としては認められていない
 (Not legal tender yet)

 米国財務省金融犯罪取締ネットワーク(Fin−CEN)はビットコインを、国家の管轄下にある法定通貨として認識されないバーチャル(仮想)通貨の一つに分類した。そのため、この類の通貨利用者はFin−CENが規制するマネー・サービス・ビジネス(MSB)に該当しないため、MSB業者としての登録は不要、並びにFin−CENへの報告や取引記録の保存に関する規制に従う必要もない(http://tinyurl.com/czq3er3.を参照)。

 Fin−CENによれば、以下に掲げる形態の一つ以上に該当すれば、定期的に取引をする者でなくとも、また、組織体であるかを問わず、Fin−CENが規制するMSBの対象となる。

  1. 為替ディーラーまたは通貨両替商
  2. 小切手現金化業者
  3. トラベラーズ・チェック、郵便為替、ストアード・バリュー・カード発行業者
  4. トラベラーズ・チェック、郵便為替、ストアード・バリュー・カード販売者または質請者
  5. 送金業者
  6. 米国郵政公社

 前出の通り、ビットコインは一つの組織によって運営されているものではなく、少なくとも米国ではいかなる規制下にもない通貨取引である。それでは、何が不正実行者によるビットコインの不適切な利用と、盗人による正規ユーザーからの窃盗を抑止しているのだろうか?多くの場合は、それほど大きな違いはない。

 「ビットコインは資金洗浄及び違法な物品をインターネットで購入するための一般的な手段になりつつある。イラン人は米国により張られた金融制裁の網を逃れるためにビットコインを利用し、インターネット上ではオンラインの麻薬取引の市場が繁盛している(「流行語を使わないでビットコインを説明する」 ブルームバーグ 2013年4月15日 http://tinyurl.com/lgfgdt6による)。 2013年グローバル・ドラッグ・サーベイ(The 2013 Global Drug Survey)(http://tinyurl.com/mwko6tf)は、利用者の22パーセントが麻薬をオンライン上で購入したと報告している。ハフィントン・ポストによれば、犯罪者はビットコインを使用して銃器を匿名で購入した。「銃器を販売するウェブサイトの幾つかはビットコイン決済のみに対応しているが、これらのウェブサイトを見つけることは困難である。その多くは「ディープ・ウェブ」と呼ばれる所に潜んでいるか、(前出の)トーア・ブラウザを通じてのみアクセス可能である。」(「ビットコインによる銃の購入がいかに新しい規制を弱体化できるか」、ゲイリー・スミス、ハフィントン・ポスト、2013年5月19日)

 資金洗浄に携わる者は犯罪行為により取得した「汚れた」ビットコインを、様々な「ビットコイン・ロンダリング」サイトで「汚れのない」ビットコインと交換し、米国連邦法規制下にある金融機関に預け入れることができる。

 ポンジー・スキームの実行者は思いもよらない額の利回り率を、無防備なオンライン上のビットコイン投資家に対して約束する。2013年7月23日、米国証券取引委員会(SEC)は、ビットコイン・セービングス・アンド・トラスト社(BTCST)の創業者・運営者であるトレントン・T・シェバーズ(Trenton T. Shavers)が、「パイレーツ(Pirate)」、「パイレーツ40(pirateat40)」の名前でビットコイン建ての投資を募り、販売した疑義があると公表した。SECによると、「シェバーズはBTCSTを通じて少なくとも70万ビットコインの投資(投資が募集され売却された2011年から2012年の間のビットコインの平均価格で換算すると4.5億ドル相当)を呼び込んだ」。

 SECは、テキサス州マッキニーに在住のシェバーズがBTCSTのビットコイン市場での裁定取引に基づき投資家に週7%の利回りを約束したと主張している。SECによると「実際には、BTCSTは詐欺及びシェバーズが新しい投資家の預けたビットコインを偽りの利息の支払いと未払いのBTCSTの投資の引出しの充当に使用するというポンジー・スキームを行っていた。加えて、シェバーズは投資家のビットコインをビットコイン通貨取引の自身のデイトレーディング口座に移し、ビットコインをUSドルに替え、私的な支払いに充てた」。

 「不正実行者はビットコインや他のバーチャル通貨を利用して、投資家を欺き、連邦証券法に違反するという理由だけでSECの力の及ばないところにいるわけではない」と、SECのニューヨーク地方支部ディレクターであるアンドリュー・M・カラマリ(Andrew M. Calamari)は述べた。「シェバーズの真の意図は私欲に根ざしたものであったにも関わらず、自らが募る投資はリスクがなく巨額の利益をもたらすものであると謳い、オンライン・フォーラム上の投資家を欺いた」。SECは投資家向けに「バーチャル通貨を利用したポンジー・スキーム」と題した警告を発した(http://tinyurl.com/mnmxdblを参照)。

ハッカーは好機に付け入る
 (Hackers take advantage)

 4名のビットコイン投資家がバーチャル取引所のビットコイニカ(Bitcoinica)に対し、460,457.70ドルの預金の損失及び損害を回収する目的で訴えている。ビットコイニカはこれまでに2回ハッキングされ、ハッカーにより数千単位のビットコインが盗まれたと言われている(「ビットコインの病:ユーザーは46万ドルを超える失われた預金をめぐり−訴訟提起」、エイドリアン・ジェフリーズ、2012年8月10日、ザ・ヴァージュ(The Verge)、http://tinyurl.com/8m7s8fhを参照)。この記事によると、シンガポールに居住する17歳と自称するビットコイニカの創設者ジョウ・トン(Zhou Tong)は、ビットコイン・コミュニティに属する複数の者から自身のビットコイン取引所に対してハッキングをしたと告発された。トンは無実を主張し、その行為は自身の同僚によるものであると反論した(http://tinyurl.com/mcej8lk)。

 2013年12月、違法麻薬取引市場「シープ・マーケット・プレイス」が、「ハッカーまたは内部関係者」により、顧客からの資金約1億ドルを略奪された(犯罪者が盗人によりハッキングされたことには同情し得ない。「ビットコインを簡単に盗むための三つのステップ」、エイドリアン・ジェフリーズ、2013年12月19日、ザ・ヴァージュによる)。

 (上記記事著者である)ジェフリーズは、ビットコインの強盗行為は珍しくないと述べた。「2011年6月、アリンベイン(Allinvain)という名のユーザーが史上初のビットコインの大型窃盗被害にあった。アリンベインはある朝、ハッカーにより50万ドル相当のビットコインを盗まれたことを知った」とジェフリーズは書いている。2011年6月下旬に、ハッカーは約40万ビットコイン(900万ドルに相当)を著名なビットコイン取引所であるマウント・ゴックス(Mt.Gox)の478口座から盗んだ。「ビットコインから違法に利益を得る方法・・・サイバー犯罪その他の手法」、ピエールイージ・パガニーニ、インフォセク・インスティチュート、http://tinyurl.com/kbompzs.による。窃盗被害にあったビットコインの量は、当時のバーチャル通貨の流通量の6%に及んだ。

規制のはじまり
 (Beginning stages of regulation)

 規制当局はビットコインの扱い方を決断できないでいる。NBCニュースによれば、ビットコインの利用を支持し、ビットコインサービスや取り扱う会社への投資を支援する非営利団体であるビットコイン財団の理事であるジョン・マトニス(Jon Matonis)は、カリフォルニア州の金融当局より、同財団の活動が不認可の送金行為に該当するおそれがあり、重罪並びに数百から数千ドルの罰金が課せられる可能性があると警告を受けた。(「注目を浴びた後、輝きを失いつつあるビットコイン」、デビン・コルデウェイ、2013年6月24日、NBCニュース、http://tinyurl.com/lzv77vyを参照)

 マトニスはNBCニュースに対し、ビットコイン財団は送金業務に一切関わってしないと語った。NBCニュースはさらに、「マトニスは、『今回の警告は州規制当局に対し、ビットコイン産業に纏わる問題を説明する良い機会である』と考えている」と報じた。

 「我々は全てを規制する必要性はないと思う」と、米国商品先物取引委員会の長であるバート・チルトン(Bart Chilton)は同じNBCニュース記事で述べた。「しかし、我々は物事に対しもっと積極的な視点をもって取り組まなければならない。我々が検討しないと責任を放棄したことになる」とも述べた。

 一方で、次に掲げる事例では、曖昧な点はほとんど残っていない。2013年5月28日、マンハッタンの米国連邦検事であるプリート・バララ(Preet Bharara)は、在コスタリカのグローバル為替取引所であるリバティー・リザーブ社の運営者を、過去最高額の60億ドル規模のオンライン上の資金洗浄オペレーションを行った容疑で起訴した。 バララはリバティー・リザーブ社(Liberty Reserve)が、犯罪者が取引する「盗まれた個人情報から幼児ポルノまで全て」の犯罪者の不正取引のハブとして機能していたと語った(「オンライン通貨取引所、60億ドルを資金洗浄した容疑で告発される」、マーク・サントラ、ウィリアム・K・ラッシュバウム、ニコル・パールロス、2013年5月28日、ニューヨーク・タイムズ、http://tinyurl.com/oajt95gによる)。

 米国内国歳入庁(The U.S. Internal Revenue Service and Justice)と財務省(Treasury Departments)も本件立件に関わった。ニューヨーク州検事局は、リバティー・リザーブ社が米国内の約20万を含む世界中の数百万に及ぶクライアントの5.5億の取引を管理することで数十億ドル規模の資金洗浄に関与した疑いがあるとみている。

 ニューヨーク・タイムズの記事によれば、米国内国歳入庁犯罪調査課を統括するリチャード・ウェバー(Richard Weber)は、この事案を「マネー・ロンダリングのサイバー化の時代の到来を示すもの」であり、犯罪者が「不当利得を移転、秘匿、享受するための手段として電子通貨の使用に引き寄せられている・・・もしアル・カポネ(Al Capone)が存命だったら、彼はここに資金を隠匿していただろう」と述べた。

 リバティー・リザーブ社の事件の後で、ニューヨーク州金融サービス局(New York State Department of Financial Services(NYSDFS))はビットコインを「麻薬売買取引業者、その他の犯罪者にとっての仮想の西部開拓の舞台」と表現した上で、ビットコインへの規制に取り組むことを表明した(「ビットコインに関わる全ての重要人物はニューヨーク州金融当局により召喚される」、2013年8月16日、ブログ「Following Bitcoin」による)

 ニューヨーク州金融サービス局本部長、ベンジャミン・ロースキー(Benjamin Lawsky)は「我々は多くの理由に基づき、バーチャル通貨に対し規制当局の制限をかけることが、バーチャル通貨業界を長期的に強固なものにすることに有効であると考える」と述べた。

 同局は22の電子通貨を取り扱う法人及びこれら法人の投資家に対して召喚状を送付し、マネー・ロンダリング規制、消費者保護体制、資金源、(ビットコイン事業設立者向けの)説明資料、(ビットコイン投資家向けの)投資戦略に関する情報共有を求めた。召喚状を受け取った法人と投資家は「ビットコインを通じて現実の金を稼いでいる者」のリストに載っている者全員であり、ビットコイン取引所並びに送金業者、採掘ツールメーカー、及び主要投資家が含まれている。

変わりつつあるビットコイン

 我々は、ビットコインがモンスターに化けるか、決済手段として発展の見込みがあるのか、一つの流行として終わるかを見届ける必要がある。いずれにせよ、不正検査士は、不正実行者がオンライン上のグローバル犯罪を増加させ、無防備なユーザーを詐欺被害に遭わせているこの未規制の通貨がどう発展するか監視しなければならない。政府が形を持たないビットコインに規制をかけるまで、世界は無秩序な西部開拓時代のままであり続ける。

 

FRAUDマガジンは5月/6月号でもビットコイン特集を継続する。(FRAUDマガジン編集部)

Ali Said, D.B.A., CFE
ストレイヤー大学(Strayer University)の上級(地域)学部長でACFE諮問委員会( Advisory Council)のメンバーを務める。

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