FRAUD MAGAZINE

利益相反
汚職につながる扉

Conflict of interest
GATEWAY TO CORRUPTION



ポール・キャチック CFE(Paul Catchick, CFE)著
翻訳協力:佐藤 恭代 CFE、CIA、CPA(ワシントン州)


 汚職には様々な形があるが、利益相反という共通の問題から発生することがよくある。

 利益相反とは、社員の親戚と取引をする、出来の悪い友人の息子を雇うなどが代表例である。著者は、なぜ利益相反が汚職を招くのかを概説し、この記事が、CFEがクライアントや自分の組織の不正を発見・予防する一助になればと願っている。


 シンシア(Cynthia)は、多国籍企業であるXYZ社(XYZ Inc.)の営業所で働き始めた。その頃、その兄のクライド(Clyde)は、XYZ社に事務用品を売っている会社を買収することになった。シンシアは、兄の会社が自分の会社と取引していることを十分知っていたが、同僚にはそのことを決して言わなかった。シンシアは利益相反の状態にあったが、会社での立場を乱用しているわけではないし、会社に損害を与えていないと思っていた。

 しかし、そうこうしているうちに、シンシアは調達部のアシスタントになったが、それでもまだ利益相反について会社に申告することはなかった。シンシアは時々、上司の指示で兄の会社から物品購入を処理したが、利益相反行為はまだ初期段階であり、兄の会社の利益を上げる程ではなかった。

 兄の会社との取引を何度か処理するうちに、シンシアは兄の会社をもっと儲けさせることができるのではないかと気がつき、兄の会社の役員になった。

 シンシアは、新しい上司が不慣れなのを良いことに、兄の会社との取引を頻繁に行うようになった。さらに、自分より目下の調達部のスタッフ宛ての購買請求書を横取りして彼らに自分の兄の会社から買うように命じた。新しい上司は、シンシアがよくやってくれて自分の仕事が減るので喜んでいた。しかし、その上司の怠惰が、シンシアが他社より高い価格であっても兄の会社から購入するのを許容していたのだ。

 現在、XYZ社とシンシアの兄の会社との年間取引額は、数十万ドル規模となり、小規模から中規模の様々な取引にわたるようになった(取引額が上限に近くなると、競争入札が必要になる)。

 私が行った調査により、シンシアが汚職行為を働いているという結論になり会社を解雇され、兄の会社との取引も取りやめになった(全ての事例において、プライバシー保護のため名前と詳細は変えている)。

 この事例は、いくら表面的には害のない利益相反だったとしても、それは明らかに汚職の第一歩であることをよく示している。実際、広い意味ではどの汚職も最初は利益相反から始まっている。この記事の意図は、なぜ利益相反から汚職が始まるのかを明らかにし、利益相反の発見を通して汚職を見つけるにはどうすればいいか、を示すことにある。

 よって、組織が利益相反を上手くコントロールできれば、汚職もコントロールできるということになる。



汚職との関係を定義する (Defining the link to corruption)


 なぜ汚職がいつも利益相反と密接に関わっているかを理解するため、それぞれの用語の定義を見てみよう。

 OECD(経済開発協力機構)によれば、汚職は下記のように定義される。

 「利益相反とは、個人や組織(民間・政府ともに)がその専門的・社会的地位を利用して個人や組織の利益を図ること」(http://tinyurl.com/ltygc4h)。言いかえれば、利益相反は個人的利益のために公的な自分の地位を乱用した場合に発生する。

 一方、世界銀行の汚職の定義は簡潔である。

 「自分の利益のための職権の乱用」(http://tinyurl.com/pdwhgk9)。

 世界銀行の定義は主に公共部門の汚職にフォーカスしたものだが、「職権」という言葉は、公共、民間を問わず従業員の占める地位に適用することができるので、民間企業の汚職にも当てはまる。これらの定義を比較することにより、なぜ二つの概念がこんなにも密接につながりを持っているかが分かるだろう。

 利益相反は、役人がその地位を乱用して、私腹を肥やすことができる状況で発生する。その一方で、汚職は、役人が私的な利益のために自己の地位を乱用するところに存在する。このように、すべての利益相反が汚職を生むわけではないが、汚職に至るには必ず利益相反が存在する。

 例えば、賄賂を受け取るのは汚職の代表例である。賄賂を受け取る者は、自己の私的な利益、つまり賄賂を受け取ることを自分の所属する組織の最善の利益のために行動する必要性よりも優先する。このように利益相反とその結果として生じる汚職の両方が発生する。シンシアが、段階を踏んで私腹を肥やすようになる前にそうであったように、従業員は最初のうちは、利益相反といっても組織に害を与えていないではないか、と思っている。まさに、単なる利益相反であることそれ自体は必ずしも不適切ではなく、回避できないものでさえある。

 結局、従業員は、その雇用主が後に取引をすると決定した企業と経済的または家族的関係にあるということだけで責められることはない。

 重要なことは、組織や従業員が利益相反に対してどのような態度を取るかだ。利益相反そのものよりも、それに対する対応により従業員が誠実に行動するかどうかを決定する。



認知と行動 (Awareness and response)


 同様に、従業員と経営者が利益相反の状態に対して正しく行動することは、それが何を意味し、予想される結果の認識による。これは、必ずしもそれほど単純ではない。利益相反と汚職は色々な解釈が可能である。

 利益相反に関連する刑法は管轄地域によって大きく異なるため、その概念を誤解している従業員がいても不思議ではない。このことは特に、異なる地理的、民族的、文化的な境界を超えて事業をする多国籍企業に影響しているが、グローバリゼーションの影響で、より小規模な地元企業が異なる価値観を持つ従業員で構成されることもある。よって、自分の組織の利益相反規定を強化したい企業はすべて、従業員が利益相反を理解し、その悪影響とそのような状況になった時にどのように行動すべきか認識するように努めなければならない。結局のところ、利益相反の概念を十分に理解しない従業員に対しては、そのような状況に直面した時に適切な行動を取ることは期待できない。

 しかし、このようにして全ての新入社員に対して行動規範を広めるだけでは不十分である。実際、あのエンロンでさえ、64ページにわたる行動規範を持っていたのだから。逆に言えば、全従業員がルールをよく知っていると証明できるなら、次のような調査で強い証拠を構築するのは簡単である。

 ある調査において、私は、自分は利益相反について何も知らないと主張するある従業員に対し、彼が利益相反認知のためのセッションへの出席記録にサインしていると指摘することで、反論できた。

 利益相反への対応と管理には種々の戦略があるが、単純で最も率直なのは各従業員が利益相反について上司に報告し、報告を受けた上司がその対処方法を決めることである。この単純なシステムは、上司の支援が期待でき、報告しても何のお咎めもないことを知っている場合でないと上手くいかない。

 監査のような専門職の間では、専門家の要件として、定期的に又は監査を始める前に利益相反を申告することが求められる。しかし、専門家として求められなくても、特に調達、プロジェクトマネジメント、ファイナンス、倉庫業務など、外部の人間と関わることの多い職種では利益相反を申告することが望ましい。

 デボラ(Deborah)がある会社の販売管理部門に勤務しており、その会社の本社が引越をすることになったとする。取締役が新しいオフィスを見つけ、デボラにその契約の交渉を頼んだ。デボラは、その時点まで上司の計画を知らなかったが、その新しいビルのオーナーは自分の夫であることに気付いていた。この場合、デボラに落ち度はないものの、彼女は利益相反のある立場になってしまった。問題なのはデボラの態度である。これについては、いくつかの可能性が考えられる。

 もし、デボラが利益相反について何も言わないで夫の会社とのリース契約を結んだら、それが自分の会社にとって最も有利な価格であっても汚職の事例となる。再確認するが、私達は、元々存在している利益相反と共に汚職が発生すると考えている。

 もし、デボラが自分の会社の利益を最大限に考え、自分自身の利益を考えなかったとしても、彼女の利益相反を申告しなかったことで、デボラと彼女の会社、そしてそれを知っていた全ての人が悪影響を受ける(これは、利益相反を認識していたということになる)。

 一方、もしもデボラが上司にすぐに利益相反のことを伝えていたとすれば、上司は本件についてデボラの関与を少なくして、認識された利益相反を防ぐことができただろう。その場合は恐らく、部署の他の人に契約業務を行うように指示するだろう。デボラは不適切な非難を避けられただろうし、上司はこの件を公正に扱い、リース契約が客観的に行われたことを知ることができただろう。

 従業員が正しく行動した事実を監査人や調査人に提示することができるため、利益相反については書面で申告するのがベストである。また、その後、もし経営者が正しく対処できなかった場合、利益相反があることを正しく申告した従業員よりも、経営者が調査で困難に直面するだろう。



利益相反の発見 (Detection)


 汚職の調査と言えば、利益相反を特定することが汚職の動機を知る上で鍵となる。また、それらのつながりを知ることが汚職の発見方法を見つける上で役立つ。不正検査士は、申告されていない利益相反を発見することに非常に関心を示す。利益相反が申告されていない場合には、主に二つのケースが考えられる。

 一つは、利益相反の状態にあることの潜在的な深刻さやそれに関する会社の方針を従業員が理解していないことが考えられる。もうひとつは、従業員が故意に利益相反を隠そうとする場合である(従業員がその責任を十分に自覚していると想定した場合、利益相反を申告しないことの正当な理由はほとんど考えられない。)。利益相反状態にある従業員が必ずしも汚職をしている訳ではないが、多くの場合、経営者は高度な職業的懐疑心によって、従業員が利益相反を申告していないことを発見し、調査人に対しては もっと深刻な不正を発見するように誘導すると考えられる。

 不正検査士は、自社と仕入先の従業員の名前、連絡先の詳細、銀行口座と会社と仕入先の従業員の名前を相互照合するなど、様々な方法で従業員と仕入先の利益相反を発見するのに慣れている。しかしながら、会社は外部の仕入業者が関係する様々な状況で、デュー・デリジェンスを実施することを求めるべきである。監査人がCFE資格も持っている場合は特に、デュー・デリジェンスが適切に行われているかどうか、利益相反を見つけたかどうかをチェックするべきである。

 公認内部監査人協会(IIA)は、内部監査基準(2120.A.2)を出しており、内部監査人は不正が発生する可能性、及び組織が不正リスクをどのようにマネジメントするかを評価しなければならないと規定している(強調は筆者による)。

 会社がデュー・デリジェンスを怠るなら、それ自体が利益相反や汚職に対する危険信号である。他の危険信号としては、手続き、職務分掌、権限レベルの無視などがある。

 もちろん、従業員は経営者が通常の監査手法で発見できないような利益相反、例えば、明らかに関係のない仕入先から秘かに賄賂を貰っている場合は特に隠そうとするだろう。しかし、冒頭の事例からも分かるように「簡単に手に入る果実」は数多く存在している。

 シンシアは、XYZ社に入社した後、兄クライドの会社の役員になったが、両社間で多額の取引をしていたなら、XYZ社が通常のデュー・デリジェンスを行うのは理にかなっている。定期的な精査でシンシアが兄の会社の役員であることが明らかになり、経営者が迅速な行動を取るように促した。

 利益相反と汚職は、単に金銭上の問題だけに関係している必要はない。採用における利益相反は、縁故主義やえこ贔屓を引き起こし、汚職が生じる。皮肉なことに、米国法務省(DOJ)でさえも最近、組織的な縁故主義により非難を受けており、どのような文化的背景においても起こり得る利益相反とその結果を露呈した。

(米国法務省監察長官のPDF 参照 http://tinyurl.com/bv9kt4p.)

「米国法務省総務課における不適切な採用プロセスに関する報告(Report Regarding Investigation of Improper Hiring Practices in the Justice Management Division)」

 他の例を見てみよう。IT職員のフレッド(Fred)は、自社のプロジェクトの実施のため、繰り返し同じコンサルタントを指名した。コンサルタントは若い女性で、どう見てもそのプロジェクトを遂行する能力が無いのに、である。私がフレッドにその理由を聞いたら、「彼女が可愛いから、ずっと見ていたい」と答えた。これは、単にお金よりも強いモチベーションが生じた例である。

 モチベーションは複雑で複数の要因を含んでいる。他の事例を見てみよう。ルイス(Lewis)は、上司が不在の時には、オフィス・マネージャー代理として購買システムのすべての統制を省略し、コンサルタント契約を結んで身元チェックを行わずテストもしないで、資格のないトレーナーに多額の前払いをしていた。そのトレーナーはレベルの低い仕事をし、契約内容を満たすことはなかった。しかし、ルイスは満額で彼女を雇い続け、契約更新を続けた。

 ルイスとトレーナーの間には、仕事上も個人的にも一見してわかるような関係は無かったが、彼はオフィスのアシスタントの求めに応じてコンサルタント契約書にサインした。というのは、ルイスはそのアシスタントと関係を持っており、彼女はトレーナーの従姉妹であった。

 ルイスのモチベーションは、従姉妹の利益のためという動機を持った自分のガールフレンドを喜ばせることだった。上司が戻ってくると、ルイスが内部統制を無視してトレーナーとの購買契約を結んでいたことを知ったが、上司はルイスに対してこの事実を問い詰めなかった。内部監査人はその会社の内部調査人にこの事例を伝えた。調査人は、ルイスによる内部統制の無視、デュー・デリジェンスの欠如、ルイスのガールフレンドの不正と上司の怠慢を発見した。



教訓 (Lessons learned)


 利益相反は、どの組織にも、どの文化的背景にも存在しうる。組織は次のように対応するのが望ましい。

 全ての従業員が以下の2点を理解していることを確認すること。

(1)利益相反と汚職の関係
(2)自分または他の職員が利益相反の立場になった時、どのような行動が期待されるか

 セッションへの出欠や会社の行動規範を理解したことを示す署名によって会社が以上のことを周知したことを職員に書面で確認させる。

 マネージャーや監査人に利益相反の状況と特に社員が申告しない場合にその状況により起こりうる問題点について注意喚起する。適切に定期的に、また、特に組織が多額の金銭を使う場合にデュー・デリジェンスを実施する。内部監査人の標準監査プログラムに利益相反を加えることを検討する。通信文のファイル、デュー・デリジェンス、利益相反を発見するのに役立つ取引に関する書面や報告書を精査する。

 利益相反は時と共に変わっていくので、デュー・デリジェンスの最初の段階で発見することが出来ないこともある。よって、定期的または抜き打ちのデュー・デリジェンスの実施や利益相反の影響を受けやすいポジションのスタッフの配置換えなど変化していく利益相反に対処するための戦略を検討する。も不正行為を完全に排除することは難しいかもしれないが、利益相反を適切にコントロールするすべての組織は汚職を最小限にすることができる。



Paul Catchick, CFE
欧州安全保障協力機構(OSCE、本拠地 オーストリア、ウィーン)のシニア内部調査人である。OSCEは世界最大の地域治安組織で57カ国が所属している。



補足記事(Sidebar)

 一つ目は「妻」という立場、二つ目は「過剰に親しいプロジェクトマネージャー」という立場で、不正への一線を越えた例をそれぞれ紹介する。

 アンナ(Anna)は、ある組織のメディア制作部で秘書として勤務していた。そこでは、会社の一連のビデオ制作を外注していた。アンナは一連の調達入札プロセスに直接関わっていなかったが、その前年までの同様の契約を入手することができた。アンナは秘かに社外秘扱いの契約詳細を夫にE−メールで送った。

 夫のサム(Sam)は、小さなビデオ制作会社を経営していた。サムは前回の契約金額に基づき入札し、その仕事を落札した。その会社は、サムの会社の社員名簿と自分のメディア部の名簿を調べるという基本的なデュー・デリジェンスによってこの利益相反とそれに続いて起こる汚職を防ぐことができたはずである。

 アンナとサムが同じ苗字であることから、ピンと来なければいけなかったのだ。

 ハワード(Howard)は、ある慈善団体のプロジェクト責任者で、その団体は発展途上国の地域密着プロジェクトをしているNGOと契約していた。

 その団体は合法的にNGOを選んだのだが、ハワードはNGOのマネージャーであるサイモン(Simon)と直ぐに仲良くなった。ハワードは、サイモンにNGOの経費を水増しする方法を教えた。慈善団体は、プロジェクトファイルを見れば、ハワードとサイモンの関係が専門家同士の関係から、過剰に仲良くなり利益相反関係に発展するプロセスに気づくことができたはずである。



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