FRAUD MAGAZINE

住宅保険金不正
公認不正検査士による証拠収集

Extinguishing an arson fraud
CFEs gather evidence to thwart house insurance fraud




 常習犯ガギーク・レボニアンが、アルメニア・ソビエト社会主義共和国より国外追放され、財産を持ち出しアメリカ合衆国にやってきた。いざアルメニア反トルコ政党への献金が必要になれば、自宅を吹き飛ばして保険金を請求することを決め込んでいた。経験豊かな調査チームの証拠収集等により、その保険金不正は阻止された。

Barry Zalma, CFE
翻訳協力:張間 善次郎、CFE


 当時のアルメニア・ソビエト社会主義共和国での常習犯ガギーク・レボニアンは刑務所行きか、海外移住の二者選択を迫られていた。結局、彼は“難民”として、300カラット相当のダイアモンド、大量のアンティーク家具、宝石類、コーカサス・ペルシア絨毯、そしてケイマン諸島の銀行口座の多額の資金とともにアメリカ行きを選んだ。それらを使ってレボニアンは大きな宝石販売店と、3か所のガソリンスタンドをアメリカで購入した。

 彼のソビエト連邦への義務感は、連邦の崩壊とともに消滅した。アメリカ市民権を取得、ロサンジェルスを見下ろす丘陵に4,000平方フィートの自宅を購入、ロサンジェルス・アルメニア・ビジネスマン協会の幹部職についた。

 しかしながらレボニアンはアルメニアへの愛国心を失ってはいなかった、20世紀初頭のトルコ政府のアルメニア大虐殺により、彼はトルコのすべてを嫌悪していた。そんなとき、トルコ外交官の暗殺を意図するアルメニア政治団体が接触してきた。彼はその大義に献金して貢献したいと考えた。しかしながら、彼の資産はすべて不動産だった。ちょうどこの時期に彼は自宅と家財に保険をかけることを決めていた。なにか起こる場合に備えて。

 彼の保険代理店、イラント・アラティアン(彼の友人で、同じ反トルコのアルメニア人)は、レボニアンのためにグッドフェイス保険会社の営業社員のところへ出向き、レボニアンの自宅に2百万ドル(約2億円)、その家財に1百万ドル(約1億円)、さらに明記物件としてアンティーク、美術品など9万7千ドル(約970万円)相当の保険契約を結んだ。グッドフェイス保険会社側で、その保険申込書は受領された。レボニアンによる保険の対象物明細、過去に保険請求履歴がないこと、さらに保険契約更改が拒絶されたことがないなどが申告され、署名されていた。グッドフェイス保険会社では、レボニアンの申告をそのまま善意に解釈し、レボニアンの自宅などを実際には確認しなかった。

 グッドフェイス保険契約の発効後、2週間たってレボニアンの丘陵にある自宅が爆発炎上した。消防ヘリコプターが現場へ急行し爆発を確認、放水活動により鎮火させた。市当局の放火調査班は発火原因が放火であると断定したが、翌夕刻、家屋から再び発火し、全焼となった。消防隊はいわゆる「再燃火災」と評したが、放火調査班は2回目の火災は1回目のものと同じく意図的なものだと断定した。

 2回目の火災ののち、レボニアンはグッドフェイス保険へ保険金請求をおこなった。そのグッドフェイス保険会社で損害サービス事案担当者となったマーサ・アンドリューから、私あてに、コンサルタント、調査人、および公認不正検査士として助けてほしいとの要請があったのだ。なぜなら、彼女は、保険証券発行直後に3百万ドル(約3億円)もの保険金請求事案と対峙することになったからだ。私は直ちにレボニアンに連絡して、その火災現場で会う約束を取り付けた。



裏庭でのバーベキュー (BACKYARD BARBECUE)


 私は彼と全焼した廃屋で会った。アルメリア語通訳と速記者を同行させて、保険契約の経緯や損害に関する陳述書を作り上げる作業だった。私は、通訳を介して、ロシア語とアルメリア語を流暢に話し、多少は英語がわかるこの大男であるレボニアンとあいさつを交わした。レボニアンはどの部屋でもその場を仕切った。アルメニア産ブランデーの飲みすぎからか、赤く膨張した鼻先、はげあがった頭部にはテキサス州の形のような大きなアザがあり、丸くピンク色の頬とはまったく不釣り合いだった。私たちは庭のスイミングプールの脇にある庭石に腰かけた。プールの中から、爆発で吹き飛んだと思われる彫刻が我々を見返していた。

 それは午前10時ごろだったが、レボニアンはオレンジジュースとブランデーを半々で割ったカクテルを8オンスのグラスで飲みながら言った。

「なぜここにきた?」

 私は切り出した。「グッドフェイス保険への保険金請求をしましたよね。その請求が正当なものだということを証明することを手助けしにきたのです。」

 彼は言った「見ての通り、自宅は全壊だ。保険金の支払小切手をもってきたのか?」

 私は彼が購入した保険契約と損害サービス調査のプロセスを説明し、さらに意図的な火災によることからグッドフェイス保険会社には法令により徹底調査が課されていること、彼に対するインタビューはその始まりに過ぎないことなどを説明した。

「俺はこの保険に大金を支払ったんだ。家が燃えてしまってなんにもならない。早く俺の金を返してくれ。」

 彼はブランデーと怒りから顔を真っ赤に紅潮させ、あきらかに興奮しだした。私は通訳とともに彼を制し、なんとか庭石に再び腰を落ち着かせ、質問に答えるようになだめることができた。

 私は速記者にはすべての会話を書き取るように言ったが、初動の調査だったので、宣誓書をとることはしなかった。つまりバックグラウンドなど基本的な事柄と、事件当時に彼やその家族が何をしていたのかを確認したかった。この陳述書の取得のあと、私は彼に、グッドフェイス保険会社が、この調査を行っている期間、百万ドル(約1億円)の自宅に見合った借家のレンタル代金を補償することになると、説明した。彼は満足気にその場から立ち去り、私はグッドフェイス保険会社に 専門の火災原因調査人の手配を依頼した。

 私にはいくつか気になることがあった。それはレボニアンの説明で、ひっかかることがあったのだ。

1)家族の飼っているドーベルマンの一頭がその夜、獣医のところに預けられていたこと。
2) 二頭目のドーベルマンは18歳の息子と一緒で、ドライブイン・シアターでデート中だったこと。
3) グッドフェイス保険の証券は、彼にとっての初めての美術品・骨董品明細書付記であった。
4) 火災当時、14歳の息子が、レボニアン夫妻とともに、アルメニアン・ビジネス協会ディナーに同席していたこと。
5)飼っていた猫とウサギが火災で死んだこと。
6)火災が深夜零時以降だったこと。
7)レボニアンから提出されてきたすべての明細物件の写真が、ピンボケだったこと。
8) マスターベッドルームの床に金庫があったが、レボニアンが主張するには、放火調査班がその金庫からダイアモンドを盗んだと主張していること。
9) 彼の長男は当時、ナイトクラブにいっていたが、今現在はアルメニアのイエレバンの叔母のところにいるということ。
10)保険請求により、以前の保険契約は解除されているということ。

 私はすぐに依頼者のアンドリューに了解を得て、有能な保険専門の弁護士と現場に残る美術品の断片を調べるために、美術品鑑定士を手配し、さらにカリフォルニア州保険局の保険金不正対策部門へ事案を報告した。



調査チームの増強 (EXTENDING THE TEAM)


 現場自宅の裏庭でのインタビューの翌日、アンドリューと私は弁護士のビル・アボゲイダーに会っていた。彼はグッドフェイス保険会社やその他の保険会社からの依頼で、保険金不正や保険金目当ての放火事件を20年以上取り扱ってきていた。

 挨拶も早々に、アボゲイダーは保険証券を手に取り、無心に最初から最後までつぶさに読み込んだ。

「ポーセリンの綴りは?」 アボゲイダーは私に聞いた。
「Porcelainだよ」 当惑しながら答えた。
「保険証券の美術品明細書にはProcelaneと綴られていたって気がついたか?」
「いや、気づかなかった。誤植かな?」
「私も最初はそう思っていたのだが、マイセンをメイソン、ラリークをラリックと綴ってあるのを見てハタと気がついた。美術品明細書がグッドフェイス保険会社で同意されているという鑑定評価書の入った保険引き受け書類は、あるか?」

 アンドリューはブリーフケースを探し、引き受け関連書類から鑑定評価のオリジナル書類を開いた。

「ほら、これよ。」 彼女はアボゲイダー弁護士に書類を渡した。
「マシュー・クルーナーって鑑定評価人ご存じですか?」彼女は尋ねた。
「ああ知っている。3年前にクルーナーズ・オークション・ハウスにおける武装強盗事件が起こり、ある保険会社側の弁護士として担当していたのだが、その件では、我々は保険金支払い拒絶に持ち込み、不正保険金請求事件の張本人として起訴し、彼は逮捕されたのだ。」
「なんですって!」 アンドリューは叫んだ。「どうしたらいいのですか?」

 弁護士のアボゲイダーは言った。「まず、バリーはすぐに保険代理店と引受人の事務所に出向いて、この保険契約斡旋に関わる陳述書をインタビューの録音とともに取得してくれ。私は保険金請求書類をチェックして、国内法令、保険証券の文言、引き受け関連書類、それにレボニアンの陳述の転記内容を調べよう。」

「もしこの確認の後、保険金不正請求の根拠がはっきりすれば、レボニアンに対して宣誓尋問が要求されるべきだと、グッドフェイス保険会社へ薦めるつもりだ。」
「クルーナーの鑑定評価を再度検証するために別の鑑定評価人へ依頼すべき、とグッドフェイス保険会社へアドバイスする。彼は、盗品販売と受領の問題があったが、ポーセリンとマイセンの正しい綴りはわかっていたはずだ。バリーはクルーナーにも面談しなくてはいけない。」

 アンドリューと私は、その場を後にして、アボゲイダーの指示の通り、美術鑑定にアドバイスを求めることから始めた。

 まずは保険契約の出所から。つまり保険代理店イアント・アラティアンの事務所へあたった。アラティアンは協力的で、クルーナーの署名した鑑定評価書にある明記物件の写真類(レボニアンが撮ってクルーナーに渡したもの)を提供してくれた。さらに、彼が言うにはレボニアンは5年前からの顧客で、レボニアンの自宅と自動車、彼の奥さんと二人の息子の自動車の保険を取り扱っているとのことだった。

「5年の間で、なにか保険金請求はありましたか?」
「はい、屋根からの水漏れでの請求が昨年ありましたよ。ストロングハンズ保険会社がその修理代金を支払いました。また2年ほど前に、丘の下部に住んでいる隣人から土砂崩れの問題で訴えられ、ストロングハンズ保険会社が代わって対応したと思います。結果は知りませんが。」
「レボニアンがストロングハンズからグッドフェイス保険に乗り換えた理由をご存じでしょうか?」
「2回目の保険金請求の後に、ストロングハンズ保険会社は契約更改を拒絶したため、私は、レボニアンの代わりの他の保険会社を見つけなくてはなりませんでした。」
「ストロングハンズ保険とグッドフェイス保険の両方の証券の写しをいただけますか?」
「もちろんです。代理店となっている保険会社に対しては、いつも公明正大じゃないとね。」

 コピーを受け取り、美術鑑定人のディーン・ヘイルに会いに行った。そこで、問題の鑑定評価書と写真類を見てもらった。これまでも美術品がらみの調査で、彼とよく一緒に仕事をしてきた。彼の事務所はロサンジェルスのハンコックパーク地域にあり、一階がガレージになっている建物だった。事務所の中に入ると、中世ヨーロッパの暗黒時代から今日現在にいたるまでの美術品関連書籍やカタログが所狭しと置かれてあった。

 ヘイルはホットのブラックコーヒーを片手に持ち、濃い赤毛のひげの奥から、キラリと白い歯を見せ、笑顔で迎えてくれた。私が、勧められたコーヒーを飲んでいる間に、彼は写真と美術評価書を慎重に手に取って調べ出した。

「このクルーナーって人物は誰?」
「シャーマンオークスの骨董・美術品のオークション業者で、出所が不確かなものを時々扱っているところだ。」と私は答えた。
「そうだろうな。」彼はうなずいた。「もし奴がちゃんとした鑑定評価人なら、そのときなにか違法ドラッグを吸っていたとしか思えないからな。」
「なぜ、そう言えるのですか?」
「どの記述もメチャクチャだからだ。作家はまったく知られていないし、金銭価値は、少なく見積もっても、みんなひと桁ゲタをはかされている。ちょっとわからないが、記述内容はそれっぽいけど写真はみんなピンボケだし、なにせ綴りがひどい。」「ほかに、何かないかな?」
「無いのですが、火災自体は全焼だから、現場にいってみるもの手かもしれない。」
「それじゃ、コートとルーペ(拡大鏡)をもってくるよ。」

 車を飛ばしてヘイルと私は火災の現場へ向かった。家はまさに全焼だったが、磁器やガラス類の欠片、偶像類の金属片、そして燃え残った絨毯などはところどころに残されていた。

 現場に来て約1時間が経ったころ、ヘイルは叫んだ。

「これは不正だ!磁器類は記載されているようなマイセンじゃなくて、ダウンタウンのオルベラ通りで売っているメキシコ磁器。絨毯の端切れはウールと絹ではなくナイロン製だ。恐らくチャイナタウンで購入されたのだろう。この件は徹底的に調査する必要があるね。」



善意は、いとも簡単に悪用される (GOOD FAITH IS EASILY EXPLOITED)



 近所のサンドイッチショップでランチを取った後、私はヘイルと別れ、保険引受人のミリー・スノッドグラスのところへ向かった。

 数時間後、私は彼女の事務所で書類を確認し、綴間違いを示しながら、録音インタビューをおこなった。まずは彼女の保険引き受けの考え方についてたずねた。カリフォルニアでは、保険自体が、個人保険引受人の決定に基づく個人用の担保契約として成立する。スノッドグラスは20年以上も個人物件の保険引き受けにたずさわっていて、ロンドンのロイズや大手保険会社でアンダーライターとして活躍するなど非常に経験豊かだった。

「ミリーさん、保険引き受け上では、申込書の質問項目はどれくらい重要ですか?」
「保険見込み客の善意に頼っているのですが、非常に重要です。」
「保険引受を承認する前に被保険者とその鑑定評価書を確認しましたか?」
「いや、一切しません。申し込みに対してわずか20パーセントしか実際には保険を引受けないので、もともとコストに見合わないのです。基本的には、見込み客の善意に全面的に頼っているのが現状です。」
「この申込書によれば、レボニアンは過去に保険金請求が皆無ということになっていますが、もし彼が申込書に署名する1カ月まえに屋根の水漏れ事故で保険金請求があったということを知っていたら、どうしましたか?」
「おそらく、10パーセントの追加保険料を加算するといった評価だったろうと思います。」
「では、水漏れ事故以外に、窃盗事件にも巻き込まれていたとしたらどうでしょうか?」
「15パーセント加算された保険料という風に見積もったと思いますね。」
「さらに、水漏れ、窃盗事件そして賠償事故による保険金請求があったとしたら?」
「そのときは、保険は別のところを進めます。つまり、わたしはこのような高額な保険金額設定のリスクには手を出しません。」
「もし、レボニアンが前保険契約は事故歴でキャンセルされていたと告げていたらどうですか?」
「そうだとした大変、失望したでしょうね、私としては彼に保険を売ることはなかったと思います。でも、それは事実なのですか?」
「これらすべて、レボニアンと保険代理店が認めていますよ。」
「えっ? もしわかっていたら、申込書は即座にゴミ箱行きなはず。わたしとすれば、事故歴や引き受け拒絶などがまったくないという前提で、保険を承認したのです。犯罪率が低い地域だし、詳細な明細書もあり、てっきり成功しているビジネスマンだとおもっていました。」
「鑑定評価書を確認されましたか?」
「もちろん」
「鑑定評価人のクルーナーはご存じでしょうか?」
「いいえ」
「マイセンやポーセリンの綴りが間違っていたのに気がつきましたか?」
「ああ、なんてことだ、見過ごしてしまいましたか?もし気が付いていたら、保険証券を承認する前に、再度、評価書を取りなおしていましたよ。」

 私は、陳述書の文面をスノッドグラスに差し出し、これら一連の話について偽証の場合は偽証罪に問われるという理解のもとで、署名をしてもらった。

 それから私はシャーマンオークスのクルーナーの事務所に向かった。彼は自ら、録音陳述に応じて、レボニアンの関しての取扱を語った。



怠惰な鑑定作業 (LAZY APPRAISAL WORK)


 私は、警察とは何の関係もないことを強調しながら、挨拶を行い、信頼感が得られようになったころを見計らって、問題の鑑定評価書の原本を彼に示して尋ねた。

「マシューさん、鑑定評価書の一番下にあるのは、あなたの署名ですよね。」
「そうです」彼は、手のひらでズボンの脚の部分をさすりながら、ちょっと震えた声で答えた。
「この書類を最後に見たのはいつでしょうか?」
「一度も見たことはないんです。」
「私、なにか、聞き間違えました?見もしないでどうやってサインしたんですか?」
「実は、白紙の評価書にサインだけしました。レボニアンは急いでいました。彼が言うには彼の息子はタイピングがとても優秀なので、息子にタイプさせるから鑑定費用を安くしくれないかと言ってきたのです。300ドル(約3万円)という請求で、私は彼に私のメモを渡したのです。」「鑑定評価書を見てください。息子さんはあなたのメモ通りにタイプされていますか?」
「いやぁ、ほとんどの価格にゼロが加えられているようで、このプリントを油絵としています。これは問題だ、バリーさん、私は鑑定評価人としてはまだ見習い期間中なので、これは厄介なことになってしまいます。」



調査の結末 (OUTCOME OF THE INVESTIGATION)


 これら調査結果を、私は依頼者のアンドリューと弁護士のアボゲイダーに報告した。保険会社では、その結果、支払い拒絶をおこない、レボニアンは裁判に訴え、グッドフェイス保険会社は事前にかかった経費ならびに調査費用、訴訟費用を求めて逆提訴した。

 数年後、各公判審理といくつかの控訴を経て、カリフォルニア抗告裁判所では、解除によって保険契約は消滅するとした判決が下された。

 その消滅の結果として、いかなる賠償も終結し、それまでに得たすべての対価も互いに返還することをもって当事者地位の復元となすという結末を迎えたのである。

 つまり、グッドフェイス保険ではその時点までに得たすべての金額、受領した保険料を返還することが求められ、一方、レボニアンが契約した保険証券は最初から存在せず、保険始期から消滅するということになったのである。

 法的にレボニアンは当該保険証券の被保険者ではなかったと解釈されたのだ。その状態とは現実ではなく、合法的な保険契約に依拠する必然性がなければならない。過去の保険契約キャンセルや保険金請求履歴を隠匿したという虚偽事実に基づいて引受けられた保険証券で、被告側が賠償請求を行うといった考え方や、その説得性はありえない。

 よって我々の理解はこうだ。被保険者の各資料の隠匿・偽装にもとづく保険証券解除を通し、被保険者が保険料の返戻をうける権利以外、被保険者の権利すべてを消滅させ、同時に、善意かつ公平に取引を行うという暗黙の了解への反故と保険契約違反により、被保険者が保険者を訴える権利についても消滅させた、と。

 結局、テロリストの同胞への資金援助のためにグッドフェイス保険会社に対してさらなる不誠実行為(Bad Faith)による懲罰的責任により、50万ドル(約5,000万円)を請求しようとしたレボニアンの企みは失敗に終わり、加えて保険会社側の調査、係争の費用やレボニアンの仮住まいの賃貸費用についても返金させたという結末となった。



教訓 (LESSONS LEARNED)


 グッドフェイス保険会社はその社名(good faith:誠実な)に恥じなかった。徹底的な損害調査が、損害サービス担当者、不正検査士資格保有者であった知識経験豊かな弁護士とともに実施されたのである。損害保険会社としての経営管理や、保険関連法令、そしていかに完全な調査を行うか等の知見により、グッドフェイス保険会社は3百万ドル(約3億円)もの保険金不正事案を退けて、諸費用までも回収することに成功したのだった。グッドフェイス保険会社の経営陣は安易な解決を拒み、5年超にもわたって積極的に取り組みを支持して、保険金を狙った放火事件による不正請求との対峙に勝利した。



再発防止への提言 (RECOMMENDATIONS TO PREVENT)


 グッドフェイス保険会社は、レボニアンの申し込み内容で保険契約を結んだという失敗を教訓として学んだ。この事件以来、グッドフェイス保険会社は明細式の高額個人動産の引受けに関する社内方針を改めた。

 現在、レボニアンの事案のようなリスクを引き受ける際に、保険引受人が要求されていることは、

1)詳細な内容の申込書を使用する。
2)被保険者へは記入に際して、事実の絶対的真実を保証させることを求める。
3)正確に鑑定評価書の記述を読み込む。
4)鑑定評価人の専門性と経歴、経験に関する情報を得る。
5)保険申し込み棄却履歴および保険金支払い履歴データベースへの照合をおこなう。
6) 保険会社の損害サービス部門へ問い合わせ、当該鑑定評価人や被保険者に関する過去の情報の有無を確認する。

 一方でグッドフェイス保険会社の経営陣は、ひとつの企業方針を策定した。保険代理店、保険ブローカー、そして広く一般向けに『グッドフェイス保険では保険金不正が認められる請求事案に対しては、お支払いは一切いたしません。』と広報活動を行うものだった。

 その結果、グッドフェイス保険会社では保険金不正疑義事案の顕著な減少が認められたのだった。



Barry Zalma, Esq., CFE
カリフォルニア州で弁護士として40年以上活動をして、保険請求事案、保険会社不誠実行為による訴追事案、保険金不正事案などを、ほぼ保険会社側、保険金請求者(被保険者)側との半々の弁護人として取扱ってきている。また一方で保険関連の争いへの調停者、仲裁者 として仕えている。


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