FRAUD MAGAZINE

学生にとってソーシャルメディアは両刃の剣
SOCIAL MEDIA IS A TWO-EDGED SWORD FOR STUDENTS




 一枚の絵は、一千語に匹敵する、という時代があったのを覚えているだろうか?今は、ワンクリックが100万人ビューに匹敵するという時代だ。ソーシャルメディアの時代である。フェイスブック(Facebook)は毎月10億人以上のアクティブユーザーがいるとしている。(http://tinyurl.com/avybylz)一方、ツイッター(Twitter)は、200万人のユーザーを擁していると発表している。(http://tinyurl.com/cgq83cz)また、2012年後半に行われたネットでのピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の調査によると、成人の67%がフェイスブックを使い、16%がツイッターを利用、15%がピンタレスト(Pinterest)のユーザーであるというのだ。(http://tinyurl.com/bw9nyhz)

 証券取引委員会(以下SEC)でさえも、ソーシャルメディアが社会における新しい行動規範であることを認識せざるを得なくなってきている。SECは、4月2日付で、公平な開示規則に準拠している場合、ユーザーがソーシャルメディア・チャンネルを通じて、コーポレート・コミュニケーションの手段として公的な情報の開示ができることを示す報告書を発表した。(http://tinyurl.com/d7lj5qk)SECの発表は、ネットフリックス社(Netflix Inc.)の最高経営責任者(CEO)であるリード・ヘイスティングス氏(Reed Hastings)に対する調査を受けて行われた。具体的には、リード氏が、彼個人のフェイスブック・アカウントを利用して、経営者として初めて企業規範を提供したことが、1934年証券取引所法(the Securities Exchange Act of 1934)に違反しているか否かということが論点となった。

 ここで大きな問題となるのは、人はソーシャルメディアでメッセージを発信する時に、思ったらすぐに引き金をひいてしまいがちだ、ということである。ユーザーはサイバースペースにメッセージを送信する前に、その結果を考慮していないことがおうおうにしてある。ソーシャルメディアを利用するには、慎重さ、自制心、そして一般常識を兼ね備えることが肝要である。

 教育者や不正防止の実務家は、ソーシャルメディア・アプリケーションやサイトを、不正が疑われるケースの研究・調査に利用したり、採用前に、応募者のバックグラウンドチェックに使ったりすることができる。このような点ではソーシャルメディアは役に立っていると言える。しかし、学生が問題となるコメントや写真を軽率に投稿したため、のちに将来の雇用主に名前を検索された際に、痛い目に合う、ということもありうる。この点においては、ソーシャルメディアは学生にとって危険な存在となりえる。



剣の役立つ側面 (HELPING EDGE OF THE SWORD)


 ソーシャルメディアは、人々を結び付ける一方、投資などのさまざまなテーマに関する情報を普及させるのにも大きな役割を果たしている。2011年3月発売の「ジャーナル・オブ・コンピューテイショナル・サイエンス(“the Journal of Computational Science”)」におけるアカデミー会員ヨハン・ボラン(Johan Bollen)、フイーナ・マオ(Huina Mao) 、シャオジュン・ズング(Xiaojun Zeng)の研究によると、ツイッターのメッセージに反映されているムードが、およそ88%の精度で、何日か先のダウ・ジョーンズ工業株価平均の動きを予測していたことがわかった。(http://tinyurl.com/c4g8wat)そうなると、不正実行者が不正な証券を購入させる意図で、市場に影響を与え、人々を誘引する手段として、この強力なメディアを利用すること自体はごく自然なことである。この考えを受けて、FBI(Federal Bureau of Investigation, 連邦捜査局)は、証券詐欺の兆しをインターネットで徹底捜査する目的で、捜査員らを既に配置している。また、FBIは、ツイッターなどのソーシャルメディアサイトは、投資詐欺を実行する際に重要な役割を果たしていると考えている。(参照「FBIが証券詐欺の検知に、ツイッターなどのソーシャルメディアを利用。(FBI Uses Twitter, Social Media to Look for Securities Fraud)」ロイター社(Reuters)、 http://tinyurl.com/bp6zkb2)

 学生は不正と戦うことになる前に、ソーシャルメディアサイトのポジティブな側面の恩恵を受けることもできる。例えば、関心のある仕事関連のグループに参加することにより、不正検査などの特定のトピックに関して真剣な考えを持っていることを未来の雇用主に示すことができる。(http://tinyurl.com/7vhyott)

 例えば、ビジネスネットワーキングに特化したリンクトイン(LinkedIn)などのソーシャルメディアサイトなどが利用できるだろう。このSNSはピュー・インターネット・プロジェクト研究(Pew Internet Project research)によると、米国の成人20%が利用しているとされている。(http://tinyurl.com/7vhyott)

 以下のようなリンクトインの利用法を学生らに提案してみよう。

情報は、最新の状態に保とう。こんにちでは、採用対象者を選別するためにリンクトインを利用している雇用主らもあるからだ。

大学やACFE学生支部のゲストスピーカー、専門家会議の出席者たちへ、つながりリクエスト(connection requests)を送ろう。なぜなら、彼らは学生の未来の雇用主になる可能性があるからだ。

誰とつながるかを慎重に考えよう。(「友人関係をみればその人がわかる」)
加えて、誰を推薦し、自分の推薦欄に何をどのように書くかをしっかりと見極めよう

あなたが本当につながるに値すると強く思う人とだけつながろう。



剣の危険な側面 (THE HARMFUL EDGE OF THE SWORD)


 大抵の学生は、ソーシャルメディアの誤用の危険性について理解しているが、それでも間違いを犯し続けてしまうものだ。専門家ですら時折つまずいてしまうこともある。ここでは、こんな例を検討してみよう。

クライスラー社の広告代理店はツイッターでつぶやいたある罵りの一言を理由に、ある女性社員を解雇した。彼女はツイッターの個人アカウントを使うつもりだったが、誤ってビジネスアカウントを使用してしまったのだ。(参照「クライスラーのツイッターアカウントで禁句の罵り言葉を使い社員解雇(Worker FIRED for F-Bomb Tweet On Chrysler Twitter Account)」ハフィントンポスト紙(Huffington Post)、2013年3月10日、http://tinyurl.com/64mqmbh )

ジョージア州のある教師は、フェイスブックに自分の飲酒の写真とともにコメントを投稿した。彼女のプライベートのページであったが、その投稿は、フェイスブックの友人であった同僚の教師たちの気に障ったのだ。校長は、彼女に謹慎もしくは辞職するように要求した。(参照「元教師、フェイスブックの写真による解雇に提訴(Former Teacher Sues For Being Fired For Facebook Pics)」2009年11月11日、wsbtv.com 、http://tinyurl.com/cjgvzey)。

スイスの保険会社ナショナル・スイス(National Suisse)で働く女性がある日勤務中に偏頭痛を訴え、モニターから離れて暗めの部屋に移動した。しかし、勤務時間中に彼女がフェイスブック上でアクティブであったことに誰かが気づき、それを理由に会社は彼女を解雇した。(参照「勤務中にフェイスブックをしていた従業員が解雇(Facebooking while out sick gets employee fired)」2009年4月27日、エリック・パーム(Erik Palm)執筆、on cnet.com、http://tinyurl.com/dawzx2)

13人の航空会社の乗務員は、フェイスブックのディスカッションでの乗客への侮蔑的な発言と仕事への不満を書き込んだことを理由に解雇された。(参照「ヴァージンアトランティック航空乗務員がフェイスブックで乗客を侮辱し解雇(Virgin flight crew fired for insulting passengers via Facebook)」スティービー・スミス(Stevie Smith)執筆、2008年11月3日、テックヘラルド紙(The Tech Herald) 、http://tinyurl.com/cqadnfc)

 ユーザーは面と向かっては決して口にしないような侮蔑的なコメントを、いとも簡単に投稿することができる。時には、ネット上でのある種の発言は、犯罪となりえる。例えば、フロリダ州控訴裁判所(Florida Court of Appeals)は最近、個人のフェイスブックのページ上で脅迫的なコメントを投稿すると、犯罪になり、州法のもと起訴されるという判決を下した。(オレアリ氏対フロリダ州、1D12-0975、http://tinyurl.com/d4fazmt)

 個人メールで、他人の人格を侮辱することはエチケットの悪い行為とみなされる。しかし、今ではフェイスブックなどのサイトで、同じ内容を投稿するとそれは中傷となりえるのだ。つまり、公共の場で同じ発言をし、不特定多数の個人に向けて発信していることに等しくなるのである。

 残念なことに、ソーシャルメディアのユーザーは、他の印刷媒体では発信できないような内容をオンラインでは無防備に入力してしまうのだ。いずれにしても、それらの発言が印刷版の新聞、雑誌、書籍、電子メール、フェイスブックの投稿、またはつぶやき(ツイート)であるかにかかわらず、裁判所はそれらの発言を中傷と捉えうるのである。

 以下に挙げる主な「サイバー名誉毀損罪」の裁判例3件を参照してもらいたい。(http://tinyurl.com/bnyv22p)

1) カビー社(Cubby, Inc.)対 コンピュサーブ社(CompuServe Inc.)、776 F.Supp. 135、S.D.N.Y.(United States District Court for the Southern District of New York, ニューヨーク南地区連邦地方裁判所)(1991)
2) ストラットンオークモント社(Stratton Oakmont)対 プロディジー社(Prodigy)(1995)
3) ゼラン氏(Zeran)対 アメリカ・オンライン社(America Online)(1996)

 また、2006年には、フロリダ州ブロワード郡(Broward County)の陪審は、フロリダの女性が、「ペテン師」「いかさまアーティスト」「詐欺師」だと彼女を非難するブログの書き込みをしたルイジアナ州の女性に対する名誉毀損訴訟で1,130万米ドルを受け取るべきであるという判決を下した。(「陪審がネットの中傷発言に1,130万米ドルの支払いを裁定 (Jury awards $11.3M over defamatory Internet posts)」、ローラ・パーカー(Laura Parker)執筆、USAトゥデイ紙(USA Today)、2006年10月11日、 http://tinyurl.com/n49mcyp)



不安を心に留めつつ前に進む (PROCEED WITH SOME TREPIDATION)


 さらに学生に以下のようなアドバイスしている。

ソーシャルメディアサイトとの対話型アプリケーション(例:ゲーム)には、マルウェアが含まれている可能性があるので、インストールは慎重にしよう。

アンチウイルスソフトウェアを最新の状態に保とう。

フェイスブックでは、プライバシー設定を「友達だけに公開」にすることを検討しよう。しかし、この設定をしていても、フェイスブックでは、他人に公開する意図がなかった情報をユーザーがうっかり公開してしまうこともある。

 また、「友人」の中には、必ずしもとても友好的でなく、扱いに注意を要する情報を共有できない人々もいると思い知る場合こともあるだろう。最近の事例では、フェイスブックから情報を得た何者かが、ある男性に彼の娘が誘拐され、解放のためには身代金を払わなければならない、などとはったりをかけたと警察に疑われている。

 誕生日を公開することですら(特に出生した都市名とともに)、なりすまし犯罪のために、十分な情報を提供することになっている。サイバー犯罪者は、誕生日などから、出生年を推察し、出生証明書を見つけた後、それ以外のIDを取得することができるのだ。

 ソーシャルメディアサイトにコメントや写真を投稿する前によく考え直そう。なぜなら大学院入試担当者や潜在的な雇用主が、情報を求めて同じサイト内を色々と捜し回っているからだ。(参照「Webプロフィールが学生を悩ませる(Web Profiles Haunt Students)」ダグラス・ベルキン(Douglas Belkin)キャロライン・ポーター(Caroline Porter)共同執筆、ウォールストリートジャーナル紙(The Wall Street Journal)、2012年10月4日  http://tinyurl.com/cnzf5sa)

 あなたがフェイスブックで「いいね」を押すと、公開されたくない情報も発信する可能性があることを、ある記事の調査研究が報告している。(参照「フェイスブックで、あなたの「いいね」があなた自身になる、が研究で明らかに(On Facebook, you are what you‘like,’ study finds)」ジェフリー・モハン(Geoffrey Mohan)執筆、3月11日、ロサンゼルスタイム紙(the Los Angeles Time)http://tinyurl.com/btb6wzs)また、ケンブリッジ大学の研究者たちは、米国のフェイスブックユーザー60,000人を調査し、何に「いいね」を押すかと、内向性、保守性、新しいものにオープンで積極的である、などのある種の人格特性との間に有意な相関関係があることを立証している。

 雇用主が承認している、ソーシャルメディアのポリシーには全て目を通し、頭にいれよう。ペンシルベニア州ヨーク大学のプロフェッショナル・エクセレンス・センター(the Center for Professional Excellence at York College of Pennsylvania )の最近の研究である「2012年職場研究におけるプロフェッショナリズム(2012 Professionalism in The Workplace Study)」によると、勤務時間中に、新入社員の83%が過度にソーシャルネットワーキングサイト(特にフェイスブックやツイッター)を使用していることが明らかになった。(http://tinyurl.com/ctw2byo)



考えうる副次的影響 (POSSIBLE SIDE EFFECTS)


 また、ソーシャルメディアサイトを利用する際、以下のような副次的影響が起こりえる。

文章作成スキルの劣化。投稿にスラングや略語を使うと言葉によるコミュニケーションが阻害され、文章作成を要するさまざまな課題において文法や構文スキルの低下を引き起こす可能性がある、と我々は考えている。

調査スキルの低下。我々の経験によると、自分たちの声、目、耳を使ったコミュニケーションの機会が少なくなるにつれて、人と接する際に重要な情報を拾い上げる能力を失う傾向にある。例えば、不正調査において、対象者にインタビューする際、その発言の信憑性を測るためには、相手の言葉を正確に認識・理解するだけではなく、声のトーン、抑揚、速さ、目の動きやその他のボディランゲージなども考慮にいれる。電子メール、インスタントメッセージ、ツイッターやフェイスブックなどの電子コミュニケーションを継続的に利用していると、我々は大抵、文字だけを見ていることになる。そして、人間のコミュニケーションの60〜70%の割合を占めるボディランゲージのような人間の微妙な変化を見逃してしまうことになる。よって、対面での質問の練習を十分に積んでいないと、的確に相手にインタビューするための必須スキルも向上することは難しいと我々は考えている。

注意力をそらす。マルチタスクに関するある研究において、人間が情報を同化する能力には限界があり、一度にあまりにも多くのことをしようとすると、生産性を阻害するという調査結果がでている。よって、もしテレビをつけ、Facebookを開いている状態で学生が勉強した場合、新しいことを学習しづらくなるとしている。(参照「研究:マルチタスクをよくするタイプは、衝動的でマルチタスク下手である(Study: If You Multitask Often, You’re Impulsive and Bad at Multitasking)」リンジー・エイブラムス(Lindsay Abrams)執筆、1月28日、The Atlantic、http://tinyurl.com/asdshya)。

時間を浪費させる。ソーシャルメディアサイトに過剰な時間を費やすことは、不正検査の勉強などの学生の勉強に明らかにマイナスの効果をもたらしうる。また、ひいては就職にも悪影響を与える可能性もでてくる。



剣の片側の鋭さを保つ (KEEP ONE SIDE OF THE SWORD SHARP)


 親たちが口を揃えていうように、最も難しいことのひとつは、ソーシャルメディアのような善悪の判断にとらわれない活動が自らの目標に資することもあるが、妨げる可能性もあるということを、学生に悟らせることである。学者や実務家として、新米の不正検査士に、剣の片側の刃は鋭くし、もう一方は鈍らせておくことを薦めたい。



Richard Hurley(Ph.D., J.D., CFE, CPA)
コネチカット大学(スタムフォード校)ビジネススクール(the University of Connecticut (Stamford) School of Business)教授。フロード・マガジンのコラム「Global Fraud Focus」共著者でもある。
George R. Young (Ph.D.、 CFE、CPA)
フロリダ・アトランティック大学(Florida Atlantic University)の准教授であり、また同大学の会計修士プログラムにおけるフォレンジック重点研究領域(the forensic concentration in the Masters of Accounting program)のアカデミックディレクターである。また、ACFE高等教育諮問委員会 (the ACFE Higher Education Advisory Committee)の委員長であり、マグロウ・ヒル社(McGraw-Hill)出版のテキスト「フォレンジック会計と不正検査(Forensic Accounting and Fraud Examination)」の共著者でもある。


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