FRAUD MAGAZINE

犯罪者から学ぶ
IN THE COMPANY OF CRIMINALS
秘密調査のエースが習得した犯罪者の手口と弱点
An undercover ace learned fraudsters’ methods and blind sides




 不正調査の重要な教義:犯罪者のように考えることを学べ。クリス・メイサーズは、20年間資金洗浄と麻薬取引の身分秘匿捜査に従事し、複雑な裏事情に通暁している。今、彼が自ら学んだことをあなたにお伝えする。

Dick Carozza, CFE
翻訳協力:真柳 元,CFE


 クリス・メイサーズ(Chris Mathers)は、その職業人生の殆どを犯罪者と共に過ごしてきた、と語る。彼は、カナダ騎馬警察(RCMP)、合衆国麻薬取締局(DEA)、合衆国(旧)関税局で20年間身分秘匿捜査(秘密捜査)を行なってきた。(訳注:カナダ騎馬警察はカナダの連邦警察である。)

 カナダ国籍を持つメイサーズは彼の「犯罪だらけの人生」を始めた理由について、冒険を求めていたため、と語る。「最初はフランス外人部隊に行こうかと考えていました。私はフランス語が話せますし、多分外人部隊でもやっていけたと思います。しかし、騎馬警察に採用され、そちらに進みました。秘密捜査プログラム選考に合格し、初期訓練の後すぐに麻薬を買いに街に出されました。」

 彼の熟達に従い、騎馬警察は「大きな仕事」をやらせるようになった。メイサーズは資金洗浄をやろうとした大物犯罪者に資金洗浄業者を装って近付いた。後に、騎馬警察は、合衆国内国歳入庁犯罪捜査部や合衆国関税局(当時。現在は、国土安全保障省への一本化に伴い2部門に再編。)との協力者にメイサーズを任命した。その後、彼は麻薬取締局やFBIとの共同任務にも従事した。

 メイサーズは、コロンビア・ロシア・アジアの組織犯罪グループをターゲットとする多くの資金洗浄「店舗」を運営する「犯罪収益課」を立ち上げ、騎馬警察退職時はその上級秘密捜査官だった。自分自身も北米、カリブ、ラテンアメリカ、ヨーロッパの犯罪組織に潜入した。

 1995年、メイサーズはKPMGのフォレンジック部門に入所した。1999年にはKPMG・コーポレート・インテリジェンス社の社長に就任した。ここでは、国際デューディリジェンス、(盗品)資産回収、組織犯罪と資金洗浄の調査と防止を指揮した。

 2004年、彼はクリスメイサーズ社(CHRISMATHERS INC.)を設立した。同社は不正、資金洗浄、テロ、組織犯罪を専門とし、犯罪とリスクのコンサルティングを行なっている。

 メイサーズはCNN、PBS、MSNBC他世界のTVやラジオにインタビュー出演した。ギャング、麻薬密売人、資金洗浄業者等への偽装経験は、彼の著書「CRIME SCHOOL: Money Laundering」に記されている。

 彼は、映画やドキュメンタリーの指導協力もしている。例えば、「サウンド・オブ・サイレンス」(“Don’t Say a Word”マイケル・ダグラス主演、2001年)、「狼男 〜ダーク・サバイバー〜」(“Werewolves−The Dark Survivors”2009年)、ナショナル ジオグラフィック チャンネル「発掘!古代エジプトの裏社会」(“The Egyptian Job”2011年)等がある。メイサーズが美術品盗難を描いた著書「Treasure Agents」について、米国PBSと英国ディスカバリー・チャンネルが共同で映像化を検討している。

 メイサーズは第24回ACFE年次総会(2013年6月23−28日、ラスベガス)で基調講演を行なう。彼がフラウド・マガジン誌のインタビューに応じた。


資金洗浄に潜入したとき、どのような方法で不正な資金源を証明できましたか?

メイサーズ氏(以下CM):
     問題は、前提犯罪(洗浄すべき資金を産んだそもそもの犯罪)によって資金を得たことを相手に認めさせることです。その男が黒であると知っているから追いかけているわけですが、法廷ではそれだけでは通用しません。この世界でよく言う「刑事犯罪を起こす傾向を示した」対象者を追いかけているに過ぎません
 私が資金洗浄業者に化けているときに、案外効いた手が一つあります。こんな風に話しかけます。「ヘイ。この金の出所だとか、どうやって稼いだかなんてのはどうだっていいんだ。だけど、もしお前さんがXX(何か適当な犯罪)で稼いだとすると、こっちとしても知っとかないとまずいんだな。いやいや何も言うな、でも一瞬うなずく位はできるだろ?もしXXの金だとすると、きれいにするには追加で特別な処理もやらないとね。いやいや追加料金なんて要らないよ。半分は、お前さんだけじゃなく、こちらを守るためにやっているんだから。」。
 今にして思えば、見え透いた手口かもしれませんが、それでも効果はありました。ビデオには、馬鹿みたいにコクコク頷いている人物が映し出されていました。

どうやって犯罪者の信用を得たのですか?

CM:  犯罪者は常にうぬぼれています。彼らにとっては、しばしば金よりもこのうぬぼれの方が大事なようです。この卑しい本能に訴えなければなりません。彼らが最もうぬぼれている点を見つけ、それを利用するのです。何かを得意としているならば、それを褒めましょう。でもお追従になってはいけません。

不正組織に潜入しなければならない不正検査士に、何かアドバイスをお願いします。

CM:  この仕事では人格が全てです。人は自分の気に入った相手と取引するものです。会話の誘導や非言語の暗示など非常に多くのコツはあります。しかし、まさに始めようとしている人については、覚えておくべきことは少しだけです。
 キチンと記録すること。良い記録は全ての成功案件の鍵です。あなたは記録を付け、相手は記録しません。判事も陪審員も、あなたの記録が詳細であるほど、好印象を持つでしょう。
 相手があなたに好感を持ち、あなたのようになりたいと思わせること。良い発音、良い服装、ちらりと見える素姓の良さ。相手の言葉を遮らず、常に相手に話をさせること。
 架空履歴はいじり過ぎないこと。潜入時のあなたの仮面はできる限り真実と同じものにします。変えるのはあなたの真の職業だけに抑えます。こうすれば、覚える嘘は少しで済みます。
 あなたが自分のことをXXだと考えれば、他人もあなたのことをXXだと考える。私の母の教えで、事実その通りです。ジョージ・コスタンザも言っています。「お前さんがそうだと信じているんならば、それはもう嘘じゃないよ」
(訳注:George Costanzaは1990年代米国の人気TVドラマ「となりのサインフェルド」(Seinfeld)の登場人物。)

公務員を辞めて民間で仕事をしようとした理由は何でしょうか?また、ご自分の事務所を立ち上げたのは?

CM:  騎馬警察時代にヨーロッパで大きな汚職事件の秘密捜査を手掛けました。モントリオールにある騎馬警察の麻薬班の仲間が一人、情報をギャングに流していました。捜査員がインタビューに訪れたとき、彼は自分のオフィスに入り、銃で自殺しました。酷かったですね。
 秘密捜査は極秘事項です。指揮命令系統は長官から私の援護チームへとなっていました。騎馬警察のような組織で5なり10なりの途中階層を飛び越すというのはかなり異例のことです。しかしこれにより、私はノーマン・インクスター長官をかなり良く知ることとなりました。長官にチームが海外から電話で報告しているときに、時々、長官は秘密捜査官つまり私と直接話したがったからです。(原注:インクスター氏は1995年の第6回ACFE年次総会で基調講演を行なった。)
 ノーマンはインターポール総裁でもありました。彼は退職後KPMGに入所し国際フォレンジックグループを率いていました。彼が就任して数ヵ月後、私はそこのオファーを受けました。何だこれは?ひょっとして別の冒険の始まりか?と思ったのですが、その通りでした。
 数年の間に、ノーマンと私は大変親しくなりました。彼が退職したのは、私がちょうど本を書き上げ、専門的講演を始めた時でした。私はKPMGを離れ、独立して仕事をしようと決めました。KPMGでは優秀な人々と素晴らしい仕事ができました。その頃は大いに楽しみましたし、古い仲間とは今でもよく会っています。

CFEの多くは自分の事務所を持つことに興味を持っています。独立開業する前に知っておくべきことは何でしょうか?

CM:  不正調査ビジネスでは、明らかに弁護士が最大の仕事の窓口です。一般に、法人弁護士、商業・雇用・訴訟を専門とする弁護士はリストのトップに来ます。
 ある会社の依頼案件に成功したとしても、同じ会社から次々に依頼が来るとは限りません。もし来るとすると、その会社そのものが危ないということです。一方、ある弁護士に良い結果を示したならば、その弁護士は、自分の持つ多くのクライアントから、年に何件も案件を紹介してくれるでしょう。

講演の他には、今はどんなお仕事をしていますか?

CM:  国際的企業から、汚職・不正・物理的セキュリティ等々についての案件を受けています。国際ビジネスの常として、デューディリジェンスも相当やっています。
 最近はアフリカが増えてきました。現在大きな汚職プロジェクトが1件進行中で、他にも幾つか類似のものを提案中です。

もちろん、一つとして同じ案件というものはないわけですが、不正調査であなたが必ず行なう基本的手順は何ですか?

CM:  犯人探し案件でも他の案件でも、インタビューが全てだということは、言っておかねばならないでしょう。文書は確かに重要です。しかし、それを生かすも殺すもインタビュー次第です。
 とは言え、技術の進歩に従い、新しい側面が加わってきています。コンピューターとブラックベリー以前では、不正が他の犯罪と異なる点の一つは、犯行現場が本来無いことでした。現在はコンピューターという犯行現場が存在します。もう一つ、以前は、「罪を犯す意思」の証明は常に難題でしたが、近頃はeメール等に「罪を犯す意思」を示す犯人も多く、証明しやすくなりました。

最近の資金洗浄で多い方法は何ですか?

CM:  近頃は貿易ベースの資金洗浄をよく見かけます。
 基本的には、まず不正資金を貯めた国で何か物品を購入します。次に資金を移したい国にその物品を密輸出します。密輸入された物品を販売し、その国の通貨を手に入れます。
 この方法の利点は、まず為替規制を回避できること、同時にその国の国内でしか通用しないような通貨の問題も処理できることです。

どのようにすれば、銀行は行員が資金洗浄を防止し発見することができるようにさせられるでしょうか?

CM:  資金洗浄防止(AML, Anti-money laundering)は顧客を知ることに尽きます。一時、銀行が非常に機械的になったことが問題です。今、それを取り戻そうとし始めました。今、銀行に行くと、ウォルマートのようなお客様案内係がいますよ!
 資金洗浄の防止・発見を、人にさせられるかどうか確信はありません。適切な訓練が必要だと思います。資金洗浄防止について、我々は多くのオンライントレーニングや講演会を行なっています。興味を引くようにしないといけません。私には、あちこちで行なわれている資金洗浄防止トレーニングは最強の睡眠薬に見えます。勿論ACFEのものを除いてですよ!

クライアントの資金洗浄対策をレビューし、コンサルティングするときに、あなたがクライアントに強調することをいくつか教えて下さい。

CM:  顧客を知りなさい(Know your customer.)。顧客を知りなさい。顧客を知りなさい。
 あなたの顧客に犯罪歴がある、または反社会的団体とのつながりがあるならば、あなたは多分、資金洗浄に組み込まれています。
 あなたが金融業として財務取引を行なっているならば、あなたは多分、資金洗浄に組み込まれています。
 顧客を知りなさい。

4月に、英国国際開発省(U.K. Department for International Development)の万人の正義プログラム(Justice for All Program)は、ナイジェリアの汚職防止庁(Anti-Corruption Agencies)への技術支援としてあなたを任命しました。この件のあなたの経験について、お話しいただける範囲でお願いします。

CM:  汚職撲滅に当るナイジェリア当局への支援チームをナイジェリアに作りました。この技術支援には、訓練や方針立案から、ナイジェリア検査官と共に汚職案件に当るような現場業務まで含まれています。
 我々は現在までに大きな進捗を達成し、2013年まで継続します。ナイジェリアに多くの友人を作りました。非常に献身的な検査官が何人もいますが、アフリカが直面している諸問題により、彼らの任務は大変困難なものとなっています。それでも彼らは進み続けており、とても素晴らしいことです。

警察は不正レポートで溢れており、事件捜査の為のマンパワーが取れないのではないかと、あなたは書いています。そういう趨勢なのでしょうか?それとも不正部門にスタッフが増員されるでしょうか?

CM:  不正は暴力犯罪ではありません。警察はベストを尽くしていますが、やはり、暴力犯罪の方が優先されます。FBIではテロ捜査が増大し、不正対応がどんどん削減されています。

捜査が行なわれた場合、あなたのクライアントが司法当局に提出する報告書面の準備の仕事もされていますが、そのような報告書の必須要件とは何でしょうか?

CM:  KISSルールを守ることです。Keep It Simple, Stupid! 単純に愚直に!
 最上のアドバイスは、警察に報告なり申し立てなりを行なう時には、弁護士をできる限り近付けるな、です。弁護士は、警察が必要としているものは解っていると自認していますが、私の経験ではそうではありません。彼らは全てをややこしくしてしまい、それは警察が最も望んでいないことです。
 まず、あなたが知っていて且つ証明できることのリストを作ります。そしてそれを裏付ける証拠を添えます。次に、あなたは知っているけれども証明はできないことのリストを作ります。何か役に立ちそうなものを添えます。
 そして、あなたの調査人が行なった全てのインタビューの記録を提出します。私の経験では、一度警察があなたを知るようになったら、彼らはあなたのレポートにだけ基づいて、悪者のところへ出向いたり逮捕したりします。彼らがあなたとあなたのレポートを信頼しているときには、彼らにとって十分な根拠となります。
 一般に、警察は証人の再インタビューに行かなければならないでしょう。この点を検察は強く主張します。しかし、あなたが十分に良い仕事をしていれば、悪者は多くの場合言い訳しかできないでしょう。

毎日最前線で働いているCFEに、あなたのベストアドバイスをお願いします。

CM:  ある幹部に不正疑惑が起きたがまだ不正が起きた企業に勤務しているとしましょう。その幹部にインタビューする場合、引き延ばすことです。火曜日に彼とコンタクトし、インタビューを金曜日に設定します。木曜日に再度コンタクトし、インタビューを翌週の火曜日に延期します。これは非常に有効なテクニックで、特に神経質な相手には良く効きます。火曜日にあなたが会いに行くまでには、彼はげっそりしてしまっています。
 似たような別のテクニックもあります。インタビューしなければならない相手が同じオフィスに6人いる。しかしあなたはそのうちの1人が黒だとかなり自信がある。そんなケースです。インタビューの時間や場所を指定して都合を問い合わせるeメールを、問題の1人以外の全員に送信します。5人ともオフィスでその話題を話すでしょう。唯一メールも問い合わせも受けなかった容疑者はそのことについて自問自答を始めるでしょう。もうこのことは彼の頭から離れません。ポイントは、相手の抵抗力・防御力を下げることにあります。
 不正を犯すタイプは、アルコールや薬物など、他のものにもよく手を出していますが、ほぼ全員がやっているのが浮気です。もし、あなたが彼らのブラックベリーや携帯電話を見ることができたならば、どれも申し合わせたように浮気相手の女性の写真を保存しているでしょう。インタビューの際、そのことを使うこともできます。
 クライアントには、誰が疑わしいと思っているのか、必ず尋ねることです。殆どの場合、当たっています。
 夜中にふと目覚めたとき、頭の中で、誰が犯人かを告げる小さな声が聞こえます。この小さな声を無視してはいけません。



Dick Carozza, CFE
フラウド・マガジン誌編集長


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