FRAUD MAGAZINE

発展途上国における不正調査
They Stole Food from the Mouths of Babes
人道支援団体による不正
Examining Humanitarian Aid Fraud in Developing Countries




翻訳協力:佐藤恭代
著者:Catherine Cole, CFE


 テキサスのBrazos Valley Community Action Agency in College Stationのコミュニティ・サービスの上級役員(Senior Administrator)。前職は、ワールド・ビジョン(World Vision)の国際プログラムグループにおいて、財務・戦略企画部(financial and strategic planning)の取締役であった。

要約 著者は人道支援団体の財務・戦略企画室の取締役だったが、西アフリカでの調査経験があったため、リベリアでの不正調査に派遣された。調査の任務は、アメリカ当局の要請に応じて、米国国際開発庁.(USAID)に返済すべき最終的な損害額を算定し報告することだった。

著者は本件の不正調査について解説し、アフリカでの活動のコツを紹介する。
不正事件の概要 <不正の概要>
アメリカ政府主導のリベリア救済プロジェクトにおいて、現地職員2名が援助を必要としている数千もの家族から食料その他の救援物資190万ドルを奪った罪で起訴された。

<不正の発覚>
2年間の援助期間の終わり頃、米国の責任者やプログラムの上層部宛てに『リベリアの貧困に喘ぐ家族に渡るはずの食糧や日用品を、スタッフが横領している』という内部告発メールが多数届くようになった。調査の結果、リベリア人の被告2名はこのプログラムの有給のマネージャーで、遂に起訴・逮捕された。彼ら2人は、貧しい僻地で、若者や赤ちゃんを抱える母親など、弱者の中でも最も弱い人々から食料を巻き上げたのだった。

<不正調査の結果>
管理職レベルの職員が職業的立場を利用して、飢えに苦しむリベリア人に渡るべき食糧を横領し、それを隠蔽するために、関連書類を偽造して辻褄合わせを部下にやらせていたことが判明した。犯行者は盗んだ食料を市場で売り、私腹を肥やしていた。また、救援物資のたった9%しか被支援者に渡っておらず、インフラ整備プロジェクトのほとんどが未完成だったことも判明した。

<事件の結末>
米国法務省(US.Jury)の発表によれば、最終的に Joe O. BondoとMorris B. Fahnbulleh(いずれも リベリアのモンロヴィア出身)を、2010年11月に「電子通信手段による不正」により起訴した(http://tinyurl.com/3jr5om6)。また、Bondoは2件の証人買収の罪に問われ、約190万ドルを横領した罪でそれぞれ懲役12年の刑を言い渡された。
また、米国司法省はこの不正によって食料支援や予定されていた建設支援を受けられなかった家族は数千世帯にもなる、と発表した。その後、リベリアのオフィスは閉鎖され、人道支援団体は190万ドルをUSAIDに返済した。被害者であるリベリアの被支援者が基金に対して直接クレームを入れたりや報告することができなかったため、その人道支援団体は、アメリカ当局とともに広範囲な不正調査を行った。著者らはオフィシャルスタッフの報告書を超えて、支援団体を通して詳細な情報を得て、USAIDへの賠償額を軽減し、最終損失額を計算して団体と監督官庁に報告した。
不正調査を実施する際の注意点(1) 文化の違いを把握することの重要性
回答者は遠隔地に住んでいるため、緊密な情報網を作るのは困難と思われた。著者は下記のような方法で対処した。

村の子供と仲良くする
子供だからといって無視をせず、歌を歌ってもらったりしながら信頼関係を築くことでやがて、両親の信頼をも得ることとなる。

村のリーダー
村のリーダーに許可なく、インタビューをしてはならない。会うことができたら、敬意を表すために、軽く握手をする。強く握手を交わすと、侮辱していると受け取られるので注意が必要。村の慣習に従い、時間をかけてお互いを知りあうために、お互いの家族の話などをすると良い。食事の誘いもあるかもしれない。

欧米社会との時間感覚の違い
アフリカの時間に対する概念は西洋の概念とは異なるため、何をするにも急がないほうがよい。

言葉の壁
アフリカ諸国のごくわずかな地域でしか話されない言語の通訳者を探すことは至難の業である。そこで、作者が以前使った方式は、現地で通訳者を募集することである。注意すべきは、少しでも権力をふりかざすようなことがあれば、真実の情報を得られなくなる可能性がある。

ラポールを形成する(信頼関係を形成する)
現地の人に喜ばれる飲み物(ソーダや紅茶)を出したり、お互いの家族の話をしたり、気軽な雰囲気を作り信頼関係を築きつつ、有益な情報を引き出す。できればインタビューの記録係を置き、自分はインタビューに専念できるようにする。そうすれば相手の目を見て話す余裕ができるのでラポールを形成できる。
また、今は発展途上国でも携帯電話はかなり普及しているものの、中には電気機器は好ましくないという迷信も残っているので、テープレコーダー等の機器を使う場合には事前に許可を得る。
不正調査を実施する際の注意点(2) 上級管理職と技術支援の重要性
2週間程度の現地滞在では、現地文化の影響を理解することができない。そのため、民族や家族の繊細な結びつきが分かり、活動の助けになる経験豊富なスタッフを見つけることが重要だ。著者は、リベリアでの救援物資援助の複雑さに精通した流通の専門家の支援を受けた。
不正調査を実施する際の注意点(3) 現地での注意点
辺鄙な土地での旅には、頑丈な車と知識豊富で信頼できる現地ドライバーが必須である。そのようなドライバーがいなければ、不正調査は極めて限定されたものになる。携帯電話の利用も限られているので、何かあっても警察に電話するわけにはいかず、ドライバーに最大限頼らざるを得ない。

以下はその他の注意事項である。
1. 旅行前に外国人旅行者にとって発展途上国の安全な経路を教えてもらう。
2. 信頼できる同僚に、定期的に貴方の居場所を報告し、頻繁に確認してもらう。
3. 保険に入る(避難・誘拐・救助用)。
4. 地元の大使館に登録する。
5. シートベルトを着用する(多くのアフリカ文化では、シートベルトは推奨されていない)
6. 現地のものを自由に飲食できるよう、毎日予防として抗生物質を服用する。
不正調査を実施する際の注意点(4) 村の名前は混同しやすいので、GPSで座標を記録する
アフリカでは、正式な村の名称と書類等に記載される名称が一致しないことはよくあることだ。
ポータブル機器(携帯電話以外)で別々にGPS座標を記録しておけば、再訪の際に役立つ。報告されている名前(スペルの違いなど)に関わらず、位置を特定できる。
帰国後、情報地理システムのスペシャリストは座標情報をダウンロードすることで、地図が証拠に基づいたものとなる。
不正調査を実施する際の注意点(5) 文盲の被支援者への対応方法
文盲の人々が調査対象の場合、財務データの突き合わせは柔軟に対応しなければならない。
例えば、家畜の棚卸報告書を作成する際、ヤギ、鶏、牛等の大きな絵を描いて計算表(tallies)を示し、在庫量を確認した。
不正調査を実施する際の注意点(6) 性別の問題
調査対象となるコミュニティが、外部の男性が女性にインタビューするのを許可しない場合には、女性調査官が最も有効だ。著者は、女性達とコミュニケーションを取ることによって、現地女性グループに自由に加わってディスカッションしたり、在庫の文書化システム(Inventory documentation system)の証拠として写真撮影を許されたりした。
不正調査を実施する際の注意点(7) 実地調査に勝るものはない
発展途上国での不正調査は、インタビューや証言等必ずしも正式な方法に頼ることができないため、現場で自ら証拠集めを行わなければならない。実際、報告された内容と実地調査では全く異なることがあった。
対策および教訓 <人道支援不正の予防策>
人道支援組織は、被支援者のことを単に救援物資の受取人とは考えず、重要な情報を提供する心強いパートナーであると考えることこそが、職業不正や濫用を予防する。
具体的な方法としては、困難な状況であっても、現地スタッフのリーダーが通常の活動の中で閉ループフィードバック(close feedback loop)を形成するべきである。それにより被支援者は問題が大きくなる前にリーダーに報告でき且つスタッフは、支援期間を通じてモニタリングし、被支援者にインタビューを行える。それにより、被支援者は自分達が何を受け取るはずだったのか、問題があれば誰に知らせるべきかを知ることができる。
その他に、被支援者とコミュニケーションはとるために、現地メディアを通して呼びかけたり、コミュニティを基盤としてグループやクラウドソーシング(crowdsourcing)を通じてフィードバックを得たりすることができる。また、最近はどんな田舎に住んでいる被支援者でも携帯電話を持っているので、プログラムのリーダーは仕事用携帯電話の番号を彼らに知らせるべきである。
もちろん、不正を許さないという経営者の姿勢や企業文化の構築、優れた不正リスク評価・コンプライアンス・方針、継続的な社員教育を実施することも、支援物資が本来意図されていた人々に行き渡ることが徹底される一助となる。


【参考】 トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International)の腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index、2005年)による国の腐敗度(level of corruption)は、リベリアは158カ国中137位だった(http://tinyurl.com/cezvnex)。【順位が低いほど国の腐敗度が大きい】


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