FRAUD MAGAZINE

刑務所送りになった最高財務責任者
How a CEO landed in prison
資産及び収益の過大計上における危険性(またその他の計略)
THE PERILS OF ASSET AND REVENUE OVERSTATEMENTS (AND OTHER SCHEMES)




 最高経営責任者(CEO)に抗えない最高財務責任者(CFO)が、会社の純利益を水増しするために、会計を粉飾し不正なスキームを実行した。ここに最高財務責任者が使った手口と、組織内の不正に注意すべき点を紹介する。

ジョン・J・ランビラス(Jon J. Lambiras)
法務博士(J.D.) 公認不正検査士(CFE)、公認会計士(CPA)
翻訳協力:穐吉孝明




 最高財務責任者の会計不正は会社の財務諸表を改善し、株価を上げることを意図したものだった。双方の意図は達成された。不正により会社の株式時価総額は、増加し、つり上げられた価格で株を購入した株主は数百万ドルを失うことになった。

 その最高財務責任者はほぼ2年間にわたって不正な手口を実行し続けた。ファイナンシャルプレスの機敏な記者が、最終的に起訴につながる不正を公開した。最高財務責任者は結局、有価証券詐欺で5年間の服役に処されることになった。

 この記事は、不当に収益を上げ、売上原価を下げ、純利益を膨らませるために彼がいかなる計略を練ったか、その仕組みに着目したものである。

 執筆にあたって、彼が用いた計略に対する注意を喚起し、不正検査士がこの種の会計上のからくりを防ぎ、突き止める一助になることを願っている。

 私は弁護士及び公認不正検査士として、この犯罪事例と似たような民事訴訟に関わってきた。会計記録と監査調書を分析し、刑に服している最高財務責任者の証言録取書を補い、とりわけ最高財務責任者の不正をパズルのピースを集めるように組み立てようと試みた。その最高財務責任者と会社の身元は本来、非公表情報を含むので匿名にとどめておく。



高圧的な最高経営責任者 (The pressuring CEO)


 その会社の最高経営責任者は最高財務責任者(ここでは彼をジャックと呼ぶことにする)に過度にプレッシャーをかけていた。最高経営責任者はマスコミに自信にあふれた強気な財務予測を提示し、ジャックに市場の期待に応えるよう発破をかけた。最高経営責任者は横柄で高圧的な人格だった。比較的新しく入社したジャックは、意思を強く主張する上司にノーと言い難い状況にあった。

 ジャックは社の株式の一部を所有していた。このことは不正に株価をつり上げる動機になったとはいえ、主な理由は最高経営責任者を満足させることだった。ジャックにはストックオプションや報奨金ベースのボーナスはなかった。

 ウォールストリート(Wall Street)と最高経営責任者の期待を満たすことは難しい。ジャックは強固な財務結果を求めて一計を案じる必要があった。ジャックは最初に、短期決算を良く見せるために、さほど重要ではない会計トリックをいくつか使ってみた。そのときは長期あるいは本格的な不正に発展させる意図はなかった。彼は後の会計期間に不正取引を取り消すつもりだったのだ。準備中の新製品がもたらす将来の売上増が不正取引の逆仕訳となる効果を著しくかつこっそりと吸収してくれるのではないかとジャックは期待していた。しかしながら、売上増は実現することはなく、不正取引の痕跡を覆い隠すことはできなかった。

 このパターンは不正検査士にはなじみがあるだろう。この動機は典型的な例で、しばしば大規模な不正につながる雪だるま効果だと言えよう。



架空の売上請求書 (Fictitious Sales Invoices)


 ジャックが行った不正は主に架空の売上取引で構成されていた。これら不正取引を記帳するために、会社の会計システムで虚偽の請求書を作った。顧客注文、積荷書類、または払込には何ら紐づいた項目はなかった。ジャックは単純に実在あるいは虚偽の顧客名、品目明細、単価、数量、売上日付のような情報を請求書システムに入力した。システムが請求書を作成する際、自動的に借方に売掛金総勘定元帳、また貸方を売上勘定に記録した。請求書作成は容易だった。難しい点は、このような処理によって会社の帳簿に残ってしまう不正な売掛金の取り扱いだった。

 続いてジャックは、不正な売掛金が支払われたかのように見せるため、無関係の取引から得た現金でいくつかの売掛金と相殺した。例えば、大口出資者の過去の株式購入から売掛金を相殺するために会社が現金を受け取っていたケースで、入金された際、ジャックはそれを正確に現金の借方として記帳した。しかしながら、彼は貸方への入力を出資者からの売掛金ではなくむしろ架空の売上から得たものとして売掛金に記帳した。このようにして、不正な売掛金の残高は会計期末には会社の帳簿に残らなかった。

 別のケースでは、彼は会計期間中ずっと会社の帳簿に架空売上からの売掛金を残しておいた。これはリスクのある行為だった。なぜならジャックは会計監査人が少なくともいくつかの会計期末の売掛金残高をテストするだろうことを知っていたからだ。実際、虚偽の売掛金の一つについては、会計監査人が残高確認状をリストにある顧客に送っていた。顧客は、会社と以前にビジネスをしていた実在の法人だ。しかし、その法人は不正を手助けする共謀者によって経営されていた。共謀者は残高確認状にサインし、実際に売買が行われ売掛金は合法だと偽って同意した。

 前職が会計監査人だったジャックは、会社の会計監査人が会計期末に執り行うほとんどの監査手続きを知っていた。さらに重要なことに、彼はこれらの手続きを回避する方法も知っていた。例えば、会計監査人の注意をひきかねない売掛金残高については大がかりな処理や目立つ口座を作らないですむように小口の架空売上をしばしば記録した。彼はまたカットオフテストを避けるために会計期末の少なくとも5日前の売上記載を慎重に処理した。



対応する売上原価のない売上 (Sales with No Corresponding Cost of Goods Sold)


 不正な売上のいくつかは対応する売上原価とともに記帳されるが、そうでないものもある。対応する売上原価は、売上げた棚卸資産の原価基準を反映する費用勘定である。対応する売上原価の入力がないということは、その売上は100パーセント利益として記録されることを意味する。言いかえれば、売上た棚卸資産の原価基準を記録する費用勘定へ記帳される対応する売上原価がないのだから、売上全体の金額が直接純利益を増加させることになった。

 説明すると、合法的な会計システムにおける売上の入力は、一般的に、売上総額につき、借方は売掛金に、貸方は売上として記帳される。対応する入力項目は、会社の棚卸資産の原価基準につき、借方は対応する売上原価に、貸方は棚卸資産として記帳される。棚卸資産の原価基準は通常売上価格以下で、その差額は売上から得る利益となっている。

 対応する売上原価が記帳されてない場合、(すなわち、借方に売上原価、貸方に棚卸資産の入力がない)、売上から得る収益をネットさせる費用が記録されていないことになる。そして、全売上金額は、利益が純利益へと流れていることを表している。

 会社の会計システムは、在庫目録番号が売上請求書に載っていれば、自動的に借方に対応する売上原価、貸方に棚卸資産を記帳する。最高財務責任者が、対応する売上原価の入力を避けたい場合は、単純に請求書の在庫目録番号を省いた。別の方法として、もし在庫目録番号が請求書に載っていれば、同システムで記帳される売上原価の入力を逆転させるためにマニュアル仕訳入力で記録した。結果として、100パーセントの利益という売上取引になった。



合法的売上でないとしたら得られる過大利益
(Exaggerated profit margin for otherwise legitimate sale)



 ジャックは利益を大きくみせるために少なくとも一度は、売上が記帳された後に、別の方法で合法的な売上取引に手を加えた。会計システムに入り、棚卸資産項目に記載される取引された数量を少なくすることにより実施した。彼が数量を減らしたときに、会計システムは自動的に、変更後の商品量を基に入力項目を減らすために対応する売上原価を調整した。このことは、売上から得る利益の増加をもたらし、それは純利益に流れることとなった。



前の会計期間に組み込まれた合法的収益でないもの
(Otherwise legitimate revenue pulled into earlier accounting periods)



 ジャックはまた、売上取引からの収益を早く認識するために、合法的売上取引でないとした場合の取引を前の会計期間に引き入れた。

 彼の手口はこうだ。実際の売上があった後、前の日付を反映させるために請求書システムの売上請求書日付を変更した。総勘定元帳上のもともとの会計入力(借方に売掛金及び貸方に売上、さらに借方に売上原価及び貸方に棚卸資産)は自動的に前の日付にさかのぼり修正された。

 ジャックは通常この方法を会計年度ではなく四半期に実行した。彼は会計会計監査人が四半期より年次で徹底的なレビューを行うことを知っていたので発覚の可能性を最小限にしたのだ。

 収益を前に引き入れたことと同様に、ジャックは時々、出荷日付を前の期間に変更するために、別の方法による合法的な出荷書類の日付をさかのぼらせた。ジャックは必ず出荷書類の実際の日付を虚偽の日付に置き換えた。それは偽造された売上請求書の日付と一致したものだった。顧客への出荷は現実にあったことだ。出荷が前期間に起こったようにみせるために単に日付を改ざんしたにすぎない。彼は不正取引にあたって、よりしっかりとした書面記録を作るためにこの方策を用いた。



会計期間を後ろにずらして組み込まれた売上原価
(Pushed cost of goods sold into later accounting periods)



 ジャックはまた別の方法による合法的売上のために売上原価(借方に売上原価、貸方に棚卸資産)の入力を後の会計期間に押し込んだ。これは前期間の売上が100パーセントの利益という結果になった。なぜなら売上原価費用は後の期間に移されたが売上入力(借方に売掛金、貸方に売上)は依然として前の期間に残っていたからだ。

 ジャックは通常、会計年度にかわって四半期にこの方法を用いた。会計期末に会計監査人が探り当てる機会を最小限にしようとしたのだ。

 この方法は会社の賃借対照表上の在庫残高を一時的に過大計上した。説明すると、売上が発生した時に、棚卸資産は前の四半期に実際に顧客に発送された。しかし、棚卸資産入力(借方に売上原価、貸方に棚卸資産)は後の四半期に押し戻され、賃借対照表上の在庫残高は一時的に実際の手元在庫と差異があるものだった。この差異は、棚卸資産入力(借方に売上原価、貸方に棚卸資産)が記帳されたときに、次の四半期で修正された。ジャックは会計期末前に差異を解消したので、会計監査人による会計期末の実地棚卸観察では不正を探知できなかった。



売上取引の二重帳簿 (Double-booked sales transaction)


 ジャックはまたある売上取引において二重に記帳した。このケースでは実在する顧客への合法的な売上だった。しかしながら、本来の取引が会計システムに記録された後のある時点で、ジャックは同システム内に売上請求書を複製した。新しい請求書は売上を複製するために第二の会計入力記録を作り出した。

 もし会計監査人が架空の売上のバックアップを要請した場合、ジャックは架空の売上を実証するために合法的売上から同一の出荷記録と他の原始資料を使うことができた。



崩壊していく不正 (The Fraud Unravels)


 ファイナンシャルプレスの記者が会社の収益増加の合法性に疑問を持ったとき、不正は崩れ始める。記事の掲載後まもなく、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)を含む政府の監察官が調査を開始した。その後、連邦検察官も加わり結果的に起訴に至った。また、騙された出資者たちは集団訴訟を起こした。

 収益を膨らませるためにジャックが使った方法から浮かび上がった構図は、売上原価の減少と純利益の過大計上というものだった。ジャックは最終的に罪状を認め、集団訴訟では和解に達した。

 このケースでは会社は不正を防ぐためにほとんど何もできなかった。なぜなら不正は管理職の最上級レベルで計画されたからだ。追加的な職務分離は役に立っただろうか。それでもなお最高財務責任者が各種取引の取り扱いについては最終的な権限を持つ。しかしながら、会社が最上級管理職レベルでの財務諸表不正を防ぐことができるいくつかの方法がある。(補足記事参照『管理職レベルで行われる財務諸表不正の予防策』(“How to prevent financial statement fraud at the management level”)

 そして、当然ながら、米国のサーベンス・オクスリー法(U.S. Sarbanes-Oxley Act)は株式会社の最高経営責任者と最高財務責任者に年及び四半期の証券取引委員会の財務報告を自ら承認することを要求している。これらの承認は必ず最高経営責任者と最高財務責任者が会社の財務諸表に責任を持ち、この責任を部下に委任することがないよう要請しており、財務諸表上の不正が露呈した時には最高責任者らの無知を非難している。

 あなたはマスコミ報道より早くこの種の不正方法を特定するため、幸いにもジャックが行った不正を教訓として生かせるだろう。




補足記事

 COSO報告:最高経営責任者と最高財務責任者は米国の不正財務報告事例においてもっとも多い違反者である。

 財務諸表と会計不正の事例は、米国証券取引委員会(U.S. Securities & Exchange Commission)に申し立てられたまさしく最大の違犯行為として分類され続けている。2010年、トレッドウェー委員会組織委員会COSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)が、『不正財務報告:1998-2007、米国の株式会社の調査』(“Fraudulent Financial Reporting: 1998-2007, An Analysis of U.S. Public Companies”)(www.coso.org/FraudReport.htm)という報告書を発表した。COSOは不正財務報告で訴えられた案件にからむ347社を調査した。

 とりわけ強調したいこととして報告書は言及している;

 不正を犯した会社の72パーセントが最高経営責任者を不正の関係者の一人として名指している。

 2番目に頻度の高い役員として最高財務責任者が65パーセントを占める。財務諸表を偽るために二つの共通した手口が使われた。それは不適切な収益認識と資産の過大計上だ。不適切な収益認識の発生率は61パーセントだった。

 証券取引委員会によると最も共通して引用される不正の動機として、収益に関して社内外の期待に応える必要性、会社の悪化した財務状況を隠ぺいする試み、株価を上げる必要性、未決株式や負債金融のために財務業績を強化する必要性、そして財務結果に基づく経営報酬を増やしたいという欲望が挙げられている。

 公認不正検査士協会の2012年不正検査士マニュアル1208、1209(the ACFE’s 2012 Fraud Examiners Manual, 1.208, 1.209)から抜粋、改作。




補足記事

管理職レベルで行われる財務諸表不正の予防策
(How to prevent financial statement fraud at the management level)

 管理職は、組織の倫理観を構築する責任がある。他の種類の職業上不正と悪用と同様に、不正に寄与する3つの要素を減らすことは財務諸表不正の防止に大いに役立つだろう。それはつまり、不正を行うプレッシャーを減らすこと、不正を行う潜在的機会を減らすこと、不正を行う理由を取り除くことである。

財務諸表不正を促す状況的プレッシャーを取り除く
Reduce the situational pressures that encourage financial statement fraud

●達成できそうにない財務目標の設定を避ける。
不正な財務諸表を用意するために会計担当スタッフをそそのかしかねない外部プレッシャーを取り除く。
運転資金の制限、過剰な製品量または在庫の制限のような効果的な財務実績を阻む業務上の障壁を取り除く。
●例外条項を含まない明確で統一された会計手続きを確立する。

不正を行う機会を減らす
Reduce the opportunity to commit fraud

●正確で網羅的な社内会計記録を維持する。
商取引、サプライヤー、バイヤー、買付代理店、営業担当者そして財務部門で会計処理に接点のある者などの対人関係を注意深く監視する。
完成品、現金、資本的設備、ツールそしてその他の貴重品を含めた会社の資産を守るために物理的なセキュリティシステムを確立する。
一か所での包括的な統制を切り離し、従業員間で重要職務を分ける。
正確な人事記録を保持する。それには新入社員のバックグランド・チェック(法律で認められている範囲で)も含む。
会計手続きの実施を徹底するためにグループ内での強固な監視体制、統制力のある関係を進める。

不正を働く理由を減らす―従業員の個人的高潔さを強める
Reduce the rationalization of fraud ‐ strengthen employee personal integrity

マネージャーは会計部門において清廉潔白であることを奨励し、そのモデルケースを設けたほうがよい。モデルケースが伝えることを管理職が実行することも重要だろう。管理職による不誠実な行いは、例えその行いが組織の外部の誰かに指示されたものでも、社内外で他のビジネス上の活動や従業員に蔓延しかねない不誠実な環境を作り出す。
誠実または不誠実な振る舞いは会社の方針で規定されるべきだろう。組織的な会計方針は会計の手続きにおいてグレーゾーンをなくすことに役立つ。
規則を破った場合の結果を、違反者への懲罰を含め、明確にしておかねばならない。

公認不正検査士協会の2012年不正検査士マニュアル(the ACFE’s 2012 Fraud Examiners Manual) 1208、1209から抜粋、改作。



ジョンJ・ランビラス(Jon J. Lambiras)法務博士(J.D.)、公認不正検査士(CFE)、公認会計士(CPA)
は、バーガー&モンテイギュ法人(Berger & Montague,P.C.)の証券と消費者保護担当グループの上級参与である。公認不正検査士、公認会計士、公認不正検査士協会(ACFE)の創立者兼議長のジョセフT・ウェルズ博士(Dr. Joseph T. Wells)、公認不正検査士(CFE)、 公認会計士(CPA)による編集、ワイリー&サンズ(Wiley & Sons)(ACFE.com/CFC)から出版された「コンピューターによる不正のケースブック:噛みつくバイト」(“Computer Fraud Casebook: The Bytes that Bite,”) に掲載された「コンピューターが不法侵入された場合」(“Hacked”)の事例を提供している。


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