FRAUD MAGAZINE

中国でのトラブルを避ける
AVOIDING TROUBLE IN CHINA
国際的贈収賄対策法に遵ずる方法
How to stay on the right side of international anti-bribery laws


過去30年において、中国は目覚しい経済的・社会的発展を遂げた。しかし、その凄まじい成長は代償を伴うものであった――驚くべき汚職の増加と蔓延した不正。これらは多国籍企業が中国においてトラブルから回避できる方法である。

Peter Humphrey, CFE
翻訳協力:石原 直人、CFE



 中国にルーツを持つ米国上場会社UTスターコム(UTStarcom)は、中国国営企業である情報通信会社に対し、何百もの「カスタマー・トレーニング」名目の海外渡航のために、総額700万ドルの費用を支出した。実際のところ、これら渡航研修は観光やギャンブルのできる、ラスベガス、ハワイ、ニューヨークを含む都市への小旅行であった。

 このような不正はどのようにしてまかり通るのか?大手中国国営企業幹部はしばし、米国製造業者側が費用負担する「製品検査」を要求するための渡航計画を要求する。組まれる一人あたりの予算は4,000から6,000USドルからであり、日数は14日間、場所は米国、ヨーロッパ、またはオーストラリアである。

 典型的な渡航計画にはニューヨーク、ラスベガス、ロサンゼルス、ハワイ、またはタイへの立ち寄りを含むオーストラリアの都市、或いはローマ、マドリッド、コペンハーゲンが追加される。

 一味はこのような条項を盛り込むことを製造業者の中国国営企業代理店と話合うが、正規の契約書には製品検査を目的とする渡航の予算を含むことはなく、万一存在する場合は「購入者の有する製品を検査する権利」という表現に留まるであろう。

 しかしながら、「訪問費用」の文言が、会計処理上、製造業者の販売注文書に現れる。製造業者は資金を代理店が保有する個人口座または海外口座に送金する。金額の一部は国内または海外の旅行代理店に支払われ、別の一部は旅行する国営企業幹部の懐に入る。時には代理店は資金を海外口座に送金する。

 一社以上の海外製造業者は時には複数のツアー先に資金をあてがうために、裏金をプールする。

 もし中国国営企業による訪問が実現しなかったら、米国製造業者は費消されることのなかった資金を会社の口座に戻すことができない。何故ならば、もしそのようにしたら、中国国営企業幹部が捕まるからだ(「情報通信企業、中国贈賄事件で300万USドルを支払う」、David Barboza、2010年1月1日、http://tinyurl.com/858fho9 及び、「証券取引所が在カリフォルニア州情報通信企業を贈賄その他の海外汚職防止法違反で制裁」、2009年12月31日、http://tinyurl.com/y98y5dp を参照)。

 これは中国内の文化・経済動向の変化に伴い生じている、新しい汚職の形態である。


 私はここ30年程中国で過ごしてきた−うち、最後の14年は不正と汚職調査に従事した。今日の中国の様子を見渡してから、私が始めて降り立った1979年当時を振り返ってみると−当時は馬車が行き交う深刻な貧困事情を抱えていた国であったことが思い出される−その目覚しい発展を看過することはできない。しかしながら、中国の驚異的な成長は代償を伴うものであった−凄まじい勢いで増えた汚職と不正である。この疫病は国際的な贈賄防止法上のリスクを抱えながら中国でビジネスを展開する多国籍企業にとっては非常に手ごわい敵である。

 先ずは中国における汚職蔓延を誘発させた経済的・社会的環境を見てみよう。

 確かな統計によれば、中国はいまや米国に次ぐ世界第二位の経済規模を誇る。世界の大多数の国が深刻な不景気に見舞われる中、中国は突き抜けるように成長し、GDP成長率約10%を維持し続けた。中国国家統計局によれば、2011年の中国のGDPは7.12兆USドルに達した(http://tinyurl.com\7pt5zfb)。中国商務部の発表では、2011年の中国に対する海外直接投資額は1,177億USドルであった(http://tinyurl.com/7t359m3)。

 中国の驚くべき経済背景に対しては、同国は世界最大の人口を抱える−13億人に加え、現在も人口は増え続けている。人口の半分は今でも農業で生計を立てる、沿岸部や都市部のエリート層よりはるかに低い所得水準で暮らす人々である。

 中国における汚職と不正を誘起する最大の要因は、この二極化した経済的格差並びに、人々の間にある、考えられる全ての方法により、短期間で多くの金を稼がなければならないというプレッシャーである。

 中国が世界第二位の経済を誇る一方で、国民一人あたりGDP額は米国のほんの一部でしかない。中国国家統計局の試算では2011年の中国本土の国民一人あたりGDPは5,555USドルであり、米国の同統計は、国際通貨基金発表の世界経済見通しによれば48,387USドルである(http://tinyurl.com/6omo7ap)。我々は例えば、2011年、世界各地が不況に見舞われる中、中国の小売業売上が17.1%伸びたといったデータを目にする。しかし、2011年の都市部可処分所得は、微々たる年間3,461.9USドルの値に留まる(中国国家統計局による。http://tinyurl.com/7pt5zfb)。

 国の人口の半分が居住する郊外では、2011年の郊外部可処分所得は年間1,107USドルである。(中国国家統計局による。http://tinyurl.com/7pt5zfb)我々は中国の億万長者の話を数多く耳にするが、上掲した数値は中国の半分の人口が1日あたり2USドル強で暮らしていることを示している。貧富の格差は中国で贈賄が蔓延する大きな原因の一つであると言える。

 そして倫理の問題がある。中国は文化大革命の遺産を引きずっている。この1960年・70年代に発生した、急進的な毛沢東主義派による大変動は、あらゆる伝統的美徳、宗教、哲学を否定し、学校を閉鎖し、教師を非難した。文化大革命の終焉はモラルの欠如をもたらした。人々は子供に何を教えてよいか分からなかった。そして、新しい指導者であるケ小平が人民に告知した「豊かになることは素晴らしい」「白猫でも黒い猫でも、ネズミを捕るのが良い猫だ」というスローガンは、中国社内に自由参加経済の門戸を開いた。

 近年では、政府高官の摘発が続出している。汚職はあらゆる職位において存在するが、最近の事例は汚職に関与する者に対する厳しい警告となっている。その中でも最も厳しいものの一つと言えるのが、中国食品薬品監督管理局のトップに対する大規模な汚職関与に基づく処分である。

 2011年には、中国政府は鉄道省内で発生した、国内高速鉄道プロジェクトに関わる20億USドルのスキャンダルを鎮圧した。胡錦濤は国家主席に就任して以降、汚職摘発の強化を公約したが、彼の任期終了が迫る昨今では、人々は相次ぎ露呈する汚職事件の規模が拡大するばかりで、状況は改善していないと見ている。

 これらが西洋の多国籍企業が活動する中国の環境なのである。同時に、多国籍企業は、母国の贈賄防止関連法が禁じる海外での贈賄行為への遵守することに対し、高いプレッシャーを受けている。抜け出すことの難しい状況であると言える。



国際的贈賄防止法 (International Anti-Bribery Laws)


 米国は1977年海外汚職行為防止法により、贈賄防止法整備の先駆けとなった。法制化後の初期段階では、米国政府は同法の適用を多用することはなかった。米国司法省は海外汚職行為防止法違反容疑で多数の米国及び他国の多国籍企業を追求し、多額の課徴金を課した。同様の法律は汚職取り締まりに拍車をかけた。OECD贈賄防止条約(及び、その結果39カ国が採用した2009年汚職行為防止に関する推奨)並びに国際連合の汚職防止条約が、海外汚職行為防止法に準ずる。更に現在では多くの国がこれら法律に沿った国内法を整備しており、中でも特筆すべきは英国重大不正監視局(Serious Fraud Office)が執行者となっている英国での法整備である。

 これら法律は企業が海外公務員等に対して、ビジネスを得るために贈賄行為をすることを禁止する。中国における「海外公務員等」の定義は、国営企業幹部に対して隔てなく適用される。当然に、中国で事業活動に従事する殆どの多国籍企業は国営企業と定期的に接触する。そして、現金等の形態での贈賄を取引認可以前の段階で要求する公務員と対峙しないことの方が不可能に近い。明らかに、これは中国で商行為をする際の最大の障壁であると言える。多くの多国籍企業は、賄賂提供の準備が出来ている国内業者に競り負けてしまう。中国政府側はこのような汚職行為には、政治的意味合いで経済発展に影響をもたらす事案を除けば、大抵目をつぶる傾向があることを私は知った。このような一様でない市場は、海外企業にとって非関税障壁となっている。

 仮に企業がクリーンな取引を締結したい場合でも、海外企業という職場では、言語と文化の壁を利用して、経営幹部に検知されずに腐敗した職員が不正行為に及ぶリスクもある。

 このような行為には、購買部や販売チャネルを通じて従業員を騙し、その過程で行政命令を取得するために賄賂を贈る行為が含まれる可能性があり、従って会社を海外汚職行為防止法上のリスクにさらす。

 海外汚職行為防止法様式の法律は会社自体以外にも様々な外部組織にも適用が及ぶ。企業は法的には営業代行者、販売代理店、再販業者、または「コンサルタント」のような、間に入る第三者である仲介者(仲介業者)が国営企業のエンドカスタマーに贈賄した場合、これら仲介者の影に隠れて責任逃れすることはできない。国際的贈賄防止法においては、仲介者の活動内容を知りえていないことは抗弁事項として認められない。

 企業は自発的に海外汚職行為防止法対策としての倫理条項や禁止条項を契約書に盛り込むことを求められている−特に第三者、パートナー、買収先に対するデュー・デリジェンス、並びにあらゆる疑惑事項や贈賄行為の告発に対し、入念且つ断固たる態度で対応する必要がある。情報公開は義務である。実質的には法的責任を逃れる術はない。

 汚職事案への対応は高額な支出を伴う可能性がある。多くの場合、企業はトップレベルの法律事務所と法定会計専門会社を雇わなければならず、通常、網羅すべき調査は広範囲であり、業務に悪影響をもたらし、潜在的に当惑させる要素を持つものである。調査結果が明らかに汚職の存在を認めた場合、通常、企業は司法省または証券取引委員会に対し陳謝した上で告白し、訴外での和解や司法取引の交渉に入るものである。

 このような調査の多くは、内部告発または内部監査により検知された不正関与の嫌疑が引き金となる。不正の端緒が発見されたならば、企業は弁護士、犯罪科学調査会社、法廷会計士と調査会社と連絡を取る以外に法的に残された手段を持たない。事案によってはニュースの一面を飾り、その結果関与を取り沙汰された会社には、財務的・風評的損害が待っている。他社は僅差のところで報道や訴追を逃れる。



僅差の回避とニアミス (Narrow Escapes and Close Shaves)


 私はこれまでに新聞の一面に載ることのなかった複数の調査に携わった。



IT製造業者 (IT Manufacturer)


 政府機関に対し販売する高名なIT製造業者のセールスマネージャー間に汚職の疑いがあると告発者からの通報を受けた。同IT製造業者はその行為がFCPAに抵触する可能性を恐れた。経営陣は従業員間で流れている噂を耳にした。我々の手による広範囲なフォレンジック調査により、上級セールスマネージャー複数名が精巧な恐喝詐欺行為に及んでおり、それは同社製品の事実上の販売代理店となっていたシステムインテグレーション業者(編集部註:SIer)からキックバックを受け取る仕組みになっていた。

 高度な規制にさらされている中国のビジネス環境上では、「代理店」は、ITシステム納入による多額の収益獲得を目当てに大型政府案件への関与に躍起になっている。IT製造業者のセールスマネージャーはプロジェクトに共に取り組むSIerを選定し、彼らからの支払いを強要する。SIerは秘密裏に、「周辺契約」を利用してキックバックを提供する。

 この事案では、セールスリーダーは意図的に政府関係者への贈賄に纏わる懸念を社内に提起した。同人としては会社側がFCPAに抵触する可能性のある事案を調査することは控えるものと予想していた。しかし現実には、これは同社従業員により執り行われた広範囲な代理店を利用した不正であった。陰謀の首謀者は反社会的組織と関係を有するギャンブル中毒者であった。彼は不当利得の大半を、繋がりを有している反社会的組織が関与するマカオ内のカジノに注ぎ込んだ。

 内部統制システムは不正行為の発見と防止に失敗した。年長者であり、上位職位者で構成される経営陣は、若輩者で構成される内部デュー・デリジェンス・チームを押さえ込み、且つ一般従業員を管理支配した。経営陣のセールスに関する様々な主張は、内部統制やコンプライアンスの論理を常に優越した。怠慢な中国代表者は暗黙の了解を与えた。我々の調査結果に基づいて複数の解雇、契約解除、疑問が持たれるリスクの高い取引の評価額減少がもたらされた。

 調査実施にあたって我々は複数の統制の取れたアプローチを展開した。その方法論には広範囲なオンライン情報収集とデータベース検索、複数の管轄地域での記録収集及び分析、コンピュータ・フォレンジックと大量のEメールレビュー、内部者インタビュー、監査並びに取引分析、筆跡分析、偽造印鑑分析、外部での覆面調査、また複数国で同時に張り込みによる監視を実施した。FCPA案件に精通した米国弁護士が弁護士秘匿特権に基づき、調査プロジェクトを統括した。

 一般的なIT契約には複数の業者が介在するため、そのプロセス内に、営業担当者・職員等の取引「利害関係者」を組み入れる機会が豊富に存在するといえる。込み入った相関関係や、難解な要素を含むIT取引が、監査人が各取引の必然性を判断する障害となっている。

 不正検査士や監査人が参照できる契約書類は一見非の打ち所がないように見えるが、不正に利益を得んとする不正行為者の利益の源泉となるものは、入念な書類整備作業の裏に隠されている。不法に取引に介在する、これら「利害関係者」が所有する組織は、IT製造業者との直接的な契約関係にない。だからこそ、内部統制関係者や外部監査人はいとも簡単に不正のスキームを見落としてしまったのである。

 これらに対抗するため、IT製造業者は現場監査・調査に従事する専門チーム、それも、不正の端緒発見に強い嗅覚を有するCFE資格者を含む部隊を、社内または外部の第三者機関を持って確保し、上掲したようなケースにおいて、取引当事者の関係、プロセス、そして不正に構築されたプロセスの裏で利益を享受する者の洗い出し、並びに不正の抜け道を発見できるよう、備えるとよい。



産業機器メーカー (Industrial Equipment Maker)


 米国に本社を有し、中国に工場を持つグローバル産業機器メーカーは、自社の中国部門のマネージング・ディレクター(MD)、ジェネラル・マネジャー、CFO、生産部長と主任技師全員が様々な不正行為に携わっていたことを知った。同社による不正調査が完了した後、これら人物は全て解雇され、新しく外部から採用した。

 解雇されたMDは、本人が知る中国拠点にて行われている贈賄事実の公開を脅迫手段として用いることで、組織内での更なる優位な立場を得ようとした。その後、社内関係者はMDの中国駐在時の動向を事細かに検証し、結果、同人の脅迫行為の理由となりうる情報を掴んだ。

 同産業機器メーカーは多くの中国政府国有企業を顧客としていた。腐敗したMDの元、地元の販売代理店が国有企業幹部のための米国遊覧旅行実現の手引きをしていた。その流れとしては、先ず腐敗したMDは公式に国有企業幹部を米国工場内覧の名目で招待する。その後国有企業は購入契約書上の金額を上乗せし、現地代理店業者は増加額を利用して旅行手配をする。公的には国有企業幹部は施設査察をしていることになっているが、実際には査察を一日で終え、ラスベガスで一週間ギャンブルと買い物に従事していた。時には査察旅行はキャンセルされ、会社からの払戻金を受け取った販売代理店は、「返金」として国有企業に渡していた。

 査察旅行のための支出は定期的になされるようになり、非公式なものと変わった。その産業機器メーカーが果たす機能は旅行代理店のような役割になっていった。やがて、国有危害と同産業機器メーカーの販売代理店は、査察に要する支出に係る記載を契約書に落とし込むことをやめた。直ぐに同産業機器メーカーは国有企業に対し、中止された査察旅行費用の払い戻しを支給する動きに転じた。査察旅行を実施することは既に契約書から消えている。同産業機器メーカーは、国有企業が実際に査察旅行費用を支出したのか否かを確認する術がなかった。

 同産業機器メーカーは国有企業幹部へのキックバックを払うための手段として査察費用の払い戻しを用いた。腐敗したMDの元では、現地販売代理店が多額の金銭をこれら幹部へ直接流し込んでいた。

 産業機器メーカーは費用のかさむFCPAに特化した弁護士を迎え入れ、弁護士に法的責任の評価をするとともに、調査を実施するために我々の会社を雇った。我々はまたしても複数の統制されたアプローチを採った。我々は経営陣と従業員のEメールを隈なく調べ、オンライン情報とデータベースを参照し、中国・香港・米国内の登記記録や個人情報を取得・分析し、会社名義の中国携帯電話の通話履歴を分析し、内部関係者、販売代理店、主要な第三者へのインタビューを行い、そして中国国内の社外関係者に対しヒヤリングをした。

 我々は更に、腐敗したMDのEメールデータを入念にレビューした結果、査察旅行支払いに係る詳細情報を入手した。我々はここで得られた情報の信憑性を検証するために販売代理店と我々のクライアントである産業機器メーカーの現地従業員の話を聞いた。腐敗したMDはキックバックの事実を十分に認知していた。

 現地販売代理店は、法的助言に基づき、有していた専属代理店契約を失い、同産業機器メーカーは社内に厳格な内部管理体制を敷くことで、不正な販売手法の防止を試みた。その後数ヶ月間で、会社は更に不正スキームに関与していた数名を解雇した。会社は刑事告訴しなかった。



これらのケースが示す重要なポイント (Important Points From These Cases)


 本稿で掲げた事案から、CFEスタイルに沿った電子情報レビューやドキュメント・レビューをこなす能力はパズルを解くために必須な要素であると言えるが、作業では更に中国語と英語が混在する各種書類を読み解くことも求められた。あなたは以下のことができる:

あなたが勤務する国に関わらず、ビジネスプロセスの流れと不正が起こりうるポイントを把握することが重要である。不正実行者のように思考を巡らせることが大事である。

人に注目すること。一般従業員のモラルの程度は、往々にして参考基準となる。

チェックリストを利用すること。但し、リストの内容だけに留めないこと。

中国内で法的に有効とされる税金領収書(fapiao)を、絶対的に真正なものとして信用しないこと。税金領収書は広く偽造されており、且つ間違った方法で使用されている。税金領収書からは、取引に関する確たる情報は殆どの場合判明しない。

倉庫記録と車両記録の方が、不正の端緒、関与者の名前、住所、電話番号等が浮上する良い手がかりとなる可能性がある。

物理的に周囲に所在するものに着目する。人、モノ、その他の対象を見る。

マネージャーレベルに限定せず、下位の従業員、運転手、用務員、門番、倉庫労働者、警備員、現場作業員と話すこと。彼らは情報を持っている。



典型的な汚職のヒント (Typical Corruption Clues)


長期的な取引関係にあった仕入先が突然姿を消し、新しい仕入先と、以前より高値で、且つ、より大量の取引契約を締結する。

バイヤーが市場価格の降下に対応できない、または容易に市場価格の降下が予見できる状況にありながら、大量発注をする。

組織内の人材の流動性が高く、従業員モラルが低い中、給料について一度も文句を言わない従業員がいる。

特定の従業員に対し、優位な給与支払い体系が適用されている。

従業員の大半のモラルが低く、質問されたとき、一様に曖昧な答え方をする。

贅沢な生活、不動産購入、高級車、豪華な休暇の噂が存在する。

特定の取引に都合よく丸い数字が使われている。

 これらはあくまで汚職の端緒発見のヒントとなる極僅かの例である。魔法のリストなるものは存在しないため、あなたは常に探偵のように、深く考え、行動しなければならない!



Eレビュー (E-Reviews)


 Eレビューは中国におけるホワイトカラー犯罪調査では益々重要性が増しており、特にFCPA抵触懸念のある事案では殊更である。贈賄に纏わるコミュニケーションの多くは内密に行われるが、見つけることができる。

 明白なものをレビューせよ:Eメールと業務上使用する形式のファイル(ワード、エクセル、パワーポイント、アドビファイル等)を見る。合わせて、明白度は下がるが、オンライン・チャットやSMS(編集部註: ショート・メール・メッセージ。テキストのメッセージ)。これらデータの入手は多くの場合困難だが、時には有効な結果をもたらすことがある。

 中国の人は言葉を混ぜ合わせて使用する傾向があり(例えば、米国系企業内で、中国語と英語を、ドイツ系企業で、中国語とドイツ語を)、その傾向は一つのフレーズでも文章でも表れる。ファイル名は中国語と英語が混じって付されているかもしれない。その場合、キーワード検索に悪影響をもたらす。

 彼らは複数言語に及ぶ俗語や隠語を使用する。例を挙げると、一つの中国語をローマ字読みに書き換え(例えば「水分」という言葉は婉曲表現としては「贈賄」を意味し、英語表記すると「shui fen」になる)、その後特殊な方法で英語でのメッセージのやりとりがなされる。または、英語名が中国語表記に書き換えられ、発音は英語のものに近いが、全く異なる意味を持つものに転換される場合である。

 彼らは普段中国語で婉曲的・中傷的表現を用いる。「サービス費」、「労働費」、「交通費」が、贈賄の隠語として使われることもある。

 結果的に、不正検査士やEレビュー担当者には双方の言語並びに組織間の実際のビジネスプロセスへの十分な理解が求められると言えよう。



防衛対策 (Preventive Measures)


 贈賄防止法規違反のリスクを回避するよう、企業は以下のような取組を促進している。

FCPAに焦点をあてたデュー・デリジェンス Due Diligence with an FCPA Focus

 贈賄防止法規が企業に課しているプレッシャーは、企業がFCPA遵守のため、パートナー企業、買収先企業、販売代理店に対するデュー・デリジェンスを行うことを促している。企業はCFEの視点をもってこれらを遂行しなければならない。例えば、相手先信用調査を実施する際には、営業手法、政府職員との関係を秘密裏に調べる必要がある一方、財務デュー・デリジェンスを展開する上では、裏金、不自然な代理店費用(エージェント・フィー)、そして丸すぎる数字に注意を払う必要がある。

 買収時には、企業は買収先企業のビジネスの中に、贈賄行為により獲得したビジネスを特定し、その部分を排除せねばならない。これは買収評価額の減少を招くこともあり得る。

内部統制 Internal Controls

 上級マネジメントは、内部統制機能を十分に支援する必要がある。さもなければ、商業部門の担当者に調査の結果をもみ消されたり、プロジェクトの失敗を責められたりすることもある。内部監査人は、商業事情や管理プロセスを理解し、サプライヤーや販売業者に現場に沿った質問を投げかけるべきである。

抑制と均衡 Checks and Balances

 購入及び販売の決定を複数名で行う必要がある。第三者サプライヤーまたは顧客への専用インターフェースを一人または販売員に任せきりにしないこと。

第三者機関に対する監視 Policing Third Parties

 通常の巡回監査を重要な仕入先や販売代理店に対し実施することで、これら業者の営業実態を確認し、存在しない幽霊会社でないことを確認する。偽造が容易にできるため、営業許可証等の証明書のコピーを入手して良しとすることは不十分である。契約書に監査権――抜き打ち検査も然り――を盛り込むべきである。

行動規範と契約書 Code of Conduct and Contracts

 企業は中国の実情に沿った、二ヶ国語版の行動規範、倫理規範、または商行為実施規定を策定することが必須である。単に英語でグローバル規範を配布するわけには行かない。規範でポイントとなる条項が、従業員、仕入先、販売代理店、再販業者、あらゆるタイプのエージェント並びに共同出資パートナー間との契約書に織り込まれると良い。

研修 Training

 中国で倫理認知トレーニングを行うことは、利害関係者に行動規範・契約条項・法律の内容を理解し、遵守してもらうことを教育するために大変重要である。企業は自社従業員を教育するのみならず、販売代理店や仕入先といった主要なパートナーも教育対象とすることが肝要である。

内部通報制度 Hotline

 倫理内部通報制度の整備は不可欠であり、行動規範と共に作成され、全ての従業員、仕入先、販売代理店、顧客、その他利害関係者に配布されなければならない。内部通報制度を通じたコミュニケーションのやり取りの安全性は磐石なものでなければならない。中国では特に、内部通報制度が有効であるのなら、告発者の匿名性は必ず担保されていなければならない。情報提供者は自身が提起する疑惑につき、会社側が確認作業に移行できるよう、詳細情報を提供する必要がある。中国では殆どの苦情はEメールで通知され、時折電話でなされる。苦情と通報を中国語で対処することが――読み・会話双方において――不可欠である。



中国で活躍するCFEへの機会 (Opportunities for CFEs in China)


 中国で高発生率を誇る贈賄と不正、国際的な汚職防止法の存在は、中国展開する企業に対し、CFEのスキルを売ることができる格好の機会である。

 商業的には、CFEは社内スタッフまたは外部コンサルタントとして、中国展開する企業、法律事務所、調査会社としての職を得ることができる。更に、中国に強みを持つCFEは、汚職対策監査に関わる欧米の政府機関内で果たせる役割があるかもしれない。

 既に中国語ができる、または学ぶ意欲を持っている者、或いは中国語会話能力を有しており、CFEとしての研鑽を積みたい意向のある人材は先駆者的な立場を得られると言えよう。



Peter Humphrey, CFE
China Whys Co., Ltd.のディレクター、ACFE上海チャプターの創業時代表者。


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