FRAUD MAGAZINE

言葉に耳を傾ける
LISTENING TO THE WORDS
発言の中に潜むごまかしを見抜く
Detecting deception in what they say


誰かが嘘をついている場合、あなたはその嘘を見抜くことができるでしょうか。ここに書かれた話には、人の言葉や語句の断片から、ごまかしている部分を見つけるためのヒントがあります。

Pamela Meyer, CFE
翻訳協力:岩崎 香奈




 「人は、自分がやった行為を話したがる。そして告白したがっているものだ。だからとにかく注意深く聞くことだ」―Todd Brown, 探偵1

Pamela Meyer著 「嘘を見抜く」より。セントマーティンプレス,LLC刊

 FRAUDマガジン25号で、Paul M. Clikeman博士・CFEは、言語分析における「虚言を見抜く10の兆候」を私たちに教えてくれた。Pamela Meyer氏はさらに、人が話した言葉の中に潜んでいる嘘を見抜く方法を私たちに示した。Meyer氏は、嘘を見破るために有効な手がかりとして、目に見えるものと心理学の要素を用いる専門家で、フロリダ州オーランドで6月17日から22日まで開催されるACFEの第23回年次総会で基調講演を行う。この記事は、Meyer氏の著書「嘘の見抜き方:ごまかしを察知する有効な手法」から引用した。同書はACFEのオンライン書店でも購入可能である。

 Jeffは、工業用複写機販売会社の地域責任者であった。彼の販売チームは西海岸全域を対象にして販売活動を展開していた。Jeffはスタッフの仕事ぶりにおおむね満足していたが、ある販売スタッフを気にかけていた。販売スタッフのWadeはこれまでのところ業務に熱心だった。常に、チームの重要なメンバーで、信頼でき、目標に向かって行動していたが、最近は目標達成や契約締結を目前に控えた土壇場でうろたえ切迫してなにか苦しんでいるように見えた。ここ1年の間にWadeは携帯電話に長い間応答しないようになった。やがて、彼は何の理由も言わずに顧客とのミーティングをすっぽかしたため、クライアントはJeffに苦情を言った。

 Jeffは、いずれWadeは持ち直して挽回できるだろうと信じた。将来のあるスタッフを解雇したくはなかった。Wadeの身に何が起きているのか、もっとよく理解しようと思い、JeffはWadeをランチに誘い、連れ立って近くのカフェに行った。彼らは角のテーブルに案内され、JeffはWadeに先に席を選ばせた。Jeffは、Wadeが何か感じて警戒してしまうような態度を取りたくなかった。

 食事を注文し、Jeffは、Wadeが少し無口な様子で皿の横に置かれたきれいなフォークの歯に指をかけたままであることに気付いた。彼の右手は、なにかぎこちなく膝の上に置かれていた。この時点ですでにWadeは気まずい思いをしている様子だったが、Jeffは努めてWadeを気楽にさせようとした。

 しばらく地元のスポーツチームや互いの家族の話題などで気さくな会話をした後、Jeffは明るく言った。「Bayern Designs向けの販売のことでキミに“おめでとう”と言うつもりだった。あのビルでさらに2フロアから仕事を取ったなんて信じられない。うまくいっているようだね」

 Wadeは頷いて「そうですね」と答えた。ちょうど食事が運ばれてきた。Wadeは、Jeffが膝にナプキンを置くわずかな間さえも待たず、自分のランチをさっさと食べ始めた。

 「調子はどうだい?順調かい?」 Jeffは威圧的に取られないよう細心の注意を払いながら尋ねた。

 Wadeは噛み終わってから飲み込み、答えた。「調子はどうかって?順調ですよ」

 Wadeは明らかに落ち着きを失っていた。本題に移るときだった。Jeffはフォークを置いた。「Wade、キミがAnn Fischerとのミーティングをすっぽかしたことについて聞かなくてはならない。何があったのか話してくれるか?」

 Wadeは、答える前に水を一口飲み注意深くグラスを置いた。彼はJeffから目をそらさずに言った。「わかっています。私は彼女に謝り、電話もしました。だからと言って、取り返しがつくわけではありませんが。まったくひどい一日でした。スタートから遅れました。家で提案書を印刷していて遅くなりました。スターバックスのドライブスルーを利用しなければよかった。いつも時間を取られるのだから。コーヒーをひったくるように受け取って、注文したマフィンは待たずに車を出しました。私はプレゼンテーションに遅れるのではないかととても心配でした。でも9時までに間に合いました。それはうまく行きました。キヤノン製品の特長に興味を持ったようですが、東芝製品についてもいくつか質問を受けました。一度料金をまとめれば、キヤノン製品が彼らのニーズに合っているとわかると思います。」

 Jeffは、「よくやった。それでミーティングについては?」と言った。

 Wadeは首を振った。「すみません、ええ、それで私は朝食を食べていなかったのでとても腹が減っていて、Fischerのオフィスに向かう前にサンドイッチを食べることにしました。車を降りたとき、車は動かなくなっていました。何が起きたのかわかりませんでしたが、バッテリーが上がったのでした。その上、私は家に充電器を忘れており、携帯電話も電池切れでした。ばかげて聞こえると思いますが、これは本当です。私は車の上で手を叩き、周囲の人に電話を貸してもらえるよう大声を出しました。しかし、私が変人に見えたのでしょう。誰も助けてくれませんでした。」

 「ようやく私は気を取り直すためにサンドウィッチの店で責任者を呼びました。しかし、その時点ですでに遅すぎて、Fischerとのミーティングのために急いで行く意味があるとは思えませんでした。―いずれにしても先方は私に腹を立てているのですから。そこで私は家に帰りました。愚かなことをしたと思います。本当に心から申し訳なく思っています。二度とこのようなことはないように誓います」

 Wadeは真剣にJeffを見つめた。Jeffは、Wadeが事実を話していないことをわかっているとは言えなかった。彼らは、つつがなくランチを終えた。しかし、彼らがオフィスに戻ってから、Jeffは人事部門のヘッドのMaxineに、Wadeが懲戒免職処分になる可能性があることを警告する文書を用意する必要があると言わなければならなかった。「ファイルは近くに置いておいてほしい」とJeffはMaxineに言った。

 それから数ヶ月のうちに、Wadeはまた約束をすっぽかしたため、Jeffは彼を解雇するにいたった。Jeffはそれから間もなくして、Wadeが薬物中毒の更生施設に入ったことを知った。

 人は必要に応じて言葉を巧みに選んで話をするものだ。私たちは誰かの巧妙な言い回しを聞き、自分も同様の言い回しを使うこともある。あえて俗語を使う場面もあるだろう。例えば「ソーダ」を注文するときに、別の地域に行けば「ポップ」と言い換えることもある。誰しも自分がいる地理的な場所や人生経験、社会的・民族的、経済的な背景などによるさまざまな影響を受けながら、言葉の伝え方において固有の特性を持っているものだ。

 人それぞれに、自分が言いたいことを表現する独特の方法を持っているわけだが、それでも、嘘をついていることがばれてしまう場面には、いくつか共通の特徴がある。



嘘をついている人の言葉の傾向 (The verbal habits of deceptive people)


 見通しの甘さと、機器類の性能の低さや不十分な装備のせいで最悪の事態に陥りミーティングに出られなかったというWadeの話に、Jeffは全面的に納得し、話の筋が通っていると思っただろうか。Wadeは、自分の話の信ぴょう性を高めようとすればするほど、嘘をついていると相手に気付かせる言葉を髄所で露呈してしまった。嘘をついている人はたいてい、信用させるような話を懸命に組み立てて、話の内容がいかにももっともらしく論理的と思われるよう必死で取り繕う。しかし、無意識に顔ににじみ出る表情や、身振り手振りに本当の感情が現れ、本人が気づかない言い間違いの中に、考えの脈略を垣間見せてしまう。嘘を見抜く人は聞き上手で、ちょっとした言葉の断片や抑揚、声のトーン、言い回しを聞き逃さない。一見、何の意味もないように思える断片から、重要なことを感じ取ることができる。嘘をついている人の心理を、はっきりと掴むことができるものだ。

 嘘をつくことは、骨の折れる行動だ。スウェーデンの研究者、Aldert Vrijは嘘をついている人が「もっともらしく思われるような答えを考え、その答えに矛盾がないように取り繕い、自分の話が首尾一貫していると思わせるように嘘をつく」ものであると述べている。そして、嘘をつく人はどんな小さなボロも出さないよう終始気を回さなければならない。それに加えて、緊張していることを悟られないよう常に意識しなければならない。さらに、ごく自然に話しているよう振る舞わなければならない。話し方も、感情もごく自然に見えるよう演技しなければならない2

 こんな芸当をずっとやり通せるものではないだろう。

 言葉の中からにじみ出ている嘘を察知するために、嘘を見抜く人は次の4つの指標(特徴)――話の構成、ふと漏らした言葉、声色(声のトーン)、態度――に注意を払う。


話の構成 Statement structure

 人が話をするときの組み立て―どんな言葉や言い回しを選ぶか―は、偽証の可能性を察知しようとするすべての嘘発見者にとって豊富な情報源である。言うまでもなく、たくさんの身体的・心理的な状態、疲労感、ストレス、空腹感、定時に帰宅できるかどうかの不安などすべての要素が作用して、話が組み立てられるため、それらを見逃さないことが重要である。

 自分の話を信じてもらえるという確信をもって事実を話している人は、意識的でなくごく自然に話をする。しかし、自分の話を信じてもらえると確信できない場合、正直に話しているように見せようと意識して懸命になるだろう。あいにく、信じてもらおうと懸命になればなるほど、結果的に嘘っぽく聞こえるようになるだけだ3。もちろん、すべての不自然な言い回しが嘘というわけではなく、嘘を見抜く人にとってピンとくるポイントがある。それは、疑わしいことを言っているときではなく、言いたくないことを避けていると感じるときである。

 質問をはぐらかし、疑念をそらすために見られる典型的な言い方がいくつかある。


オウム返し Parrot statements

 質問したときに、相手の質問を繰り返して聞き返す場合、その人はどう答えれば自分にとって都合がよいのかを考えて時間稼ぎをしている可能性がある。例えば、「あなたは仕事のやり取りをするとき、勤務時間外にはどのメールアカウントを使っていますか」と聞かれたときに、こう聞き返すとする。「勤務時間外に、私が仕事のやり取りのために使っているメールアカウントがどれか、と聞いているのですか?」と。こう聞きながら、会社のメールアカウントを答えればいいのだろうかと考えているのかも知れない。もし、明快に「仕事で使うメールアカウントを聞いているのですか?」それとも「仕事以外で使うメールアカウントを聞きたいのですか?」と聞けば、その人は相手が何を聞いているのか確認して、聞きたいことに答えようとしていることがわかる。しかし、答えたくない人は、質問を繰り返すことで、答えたくないという心理をのぞかせている。


ドッヂボールのような説明 Dodgeball statements

 仮に、こう聞いてみよう。「会社にいるときに、主に使うコンピュータシステムは何ですか?」すると、相手はこう答える「IT部門全員について尋ねているのですか?」通常、質問をはぐらかしたり、そらしたりする場合、あるいは別の新たな話題を持ち出して矛先を変えようとする人は、自発的に答えを言う前に、あなたが何をどの程度知っているのかを確かめようとしている。この例では、自分は、電子メールの利用方法を疑われている可能性を見極めていると考えられる。「何らかの弁明をしなければならないのだろうか?」と自問自答しているかも知れない。


罪悪感を持たせる話 Guilt-trip statements

 質問した相手に罪悪感を抱かせるような返答は、自分を守るために質問者に揺さぶりをかけるための逃げ口上である。会社から帰るときにいつも使う出口はどれかと従業員に聞いてみるとよい。もし、相手が答えたくなければ、憤慨した態度に出るだろう。「あなたは従業員の出入りについて、しつこく把握しようとしていますが、どうせ管理職には聞かないのでしょうね。人事部は、自己の利益を追求しているのはいつも現場の人間だとお思いなのでしょうね。」 質問者が自分は先入観を抱いていないことを弁明する間に、彼女への質問を断念することを望んでいる。相手の思惑に乗ってはいけない。


抗議の意見 Protest statements

 異論を唱えて嘘をつく人は、あなたを劣勢の立場に持ち込もうとする代わりに、自分自身の経歴を示唆することで嘘をつくような人間ではないとアピールする。

Q:「仕事を終えて会社を出るとき、いつも使う出口はどれですか?」

A: 「その日によって違います。言うまでもなく私は一母親で、教会にも行きますし、献血もします。なぜ、犯罪者のように話しかけられるのかわかりません」


不十分過ぎる説明や多すぎる説明 Too little/too much statements

 質問に答える前にほんの一瞬、意識的にでも無意識にでも、誰でも何が最善の答えなのか考えるだろう4。誠実な人にとって最善の答えは、余計な話をまじえず答えることだろう。質問の答えに関係ない話はあまり入れず、聞かれたことに対してはきちんと答える。

 「先日、クライアントから受け取ったメールについて知っていることを話してください」と質問されたとする。

 誠実な従業員は言う。「私が明確に言えることは、金曜日にBill Pattersonから電話がきて、JaneがBillを酔っ払いで非常識呼ばわりしたメールを彼に送った、と言ったことです。Janeは、私が彼女のメールアカウントを何らかの手段で使ってそのメールを送ったと言っています。Janeと私は仲が良くないことは知られていますが、私は彼女にそんな嫌がらせをして自分の仕事がやりにくくなるようなことをするほどバカではありません」

 嘘をつく従業員―仮にToddとしよう―の場合には、自分の行為の見苦しい詳細を言わないようにすることが、最善の答えになる場合がある。その従業員は、「よく知りません」と言って答えを避けようとするだろう。「彼はJaneから侮辱的なメールを受け取ったと言ったんですね?そして彼女はそれを私がやったと思っているのですか?私がそんなことをしたとなぜ彼女が思うのかわからない」 やっかいな事態をなんとかして乗り切ろうと、自分をまるで無関係の第三者にするかのような答えをすることもある。

 または、余計なことを言って冗長になる場合もある。「私が知っていることですか? Janeが私を陥れようとしていることはわかっています。もともと彼女は私を嫌っていますから。彼女が私をトラブルに巻き込もうとしたことは、これが初めてではありません。去年のゴタゴタのときは、数日彼女の(担当する)商品の出荷が滞ったとき、彼女は私が出荷指示書を処理しなかったからだと言いました。私は間違いなく処理しました。そういう不測の事態に対応できるようシステムを整えておく必要がある、ということを私は周囲に言いました。今度は誰かを怒らせて、Janeは私のせいだと言っているんですか?ずいぶんと、ずうずうしいものですね。」

 この答えには、罪の意識を示唆する2つの手がかりがある。1つは、Toddがごくわずかなことを言うためにたくさんの言葉を使っていることだ。2つ目は、彼が持ち出した言い回しの中のどこにも、質問に対するまともな答えがないということである。


本章の全文は、『Fraud-Magazine.com』を参照。



Pamela Meyer, CFEは、独自ブランドのソーシャルネットワーキングサイトを提供するSimpatico Networksの創設者・CEOで、ハーバード大学でMBAを取得し、虚偽を発見するための目に見える手がかりと心理分析を用いた研修の普及に取り組んでいる。


1 Christopher Quinn, “Technique Sets the Truth Free,” Orlando Sentinel, Sept. 23, 1991, per LSA Laboratory for Scientific Interrogation Inc., http://www.lsiscan.com/id36.htm.
2 Par Anders Granhag著, “不正事案における虚偽の発見(The Detection of Deception in Forensic Contexts)”  (英国・ケンブリッジ:ケンブリッジ大学出版 2004), 292.
3 同著、17
4 http://tinyurl.com/7xttr6a.


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