FRAUD MAGAZINE

虚言を見抜く10の兆候
The 10 Tell-Tale Signs of Deception
言葉から読み解く
The Words Reveal

ポール・M・クリッケマン(博士、CFE):著
By Paul M. Clikeman, Ph.D., CFE
翻訳協力:上石 尚子



容疑者や目撃者は発した言葉によって、意図した以上に多くのことを打ち明けていることが多い。書面かつ口頭による言葉の中に虚偽の可能性を発見する方法を紹介する。


 ファーストフード店のマネージャーが夜遅く警察に電話をし、オフィスで一人残業中に武装した強盗が店に入ってきたと通報した。マネージャーは、銃を持った強盗がその日の売り上げ4000ドル超の現金を盗んだと言った。このマネージャーは、半年前にも店が同様の強盗にあったと通報していた。どちらの疑わしい強盗事件も目撃者は誰もいなかった。店のオーナーは、武装した強盗事件は周辺地区では極めて異例であると警察から聞いた。またオーナーは、マネージャーが昨年の養育費が未払いのため給与が差し押さえられていることを知っている。オーナーはCFEであるあなたを雇い、マネージャーが自分の盗みを隠すために警察に偽の通報をしたのではないか調査を依頼した。あなたはその晩の出来事を詳細に記載するようマネージャーに依頼し調査を開始する。



異常を検出する (Detecting Anomalies)


 言語テクスト分析(linguistic text analysis)は、被験者がある出来事を表現する際に使用する言語、文法、構文から何らかの異常値を検出するための研究をいう。経験を積んだ調査員は被面接者のアイコンタクトや手の動きなどの非言語行動を検証することに慣れている。一方、テクスト分析は、相手の言語行動のみを考察する。テクスト分析は言葉のみを評価するため、調査員はその手法を口頭による供述だけでなく書面にも適用できる。実際、多くの調査員は面接の前に虚言の兆候がないか容疑者の供述調書を分析することを好む。

 テクスト分析は1970年代の研究に基づいている。心理学者や言語学者は、制御実験において被験者が発する言語や言葉について研究し、真実と虚偽の文章の間に予測可能な違いを発見した。Susan Adamsは、長年FBIアカデミーでテクスト分析(彼女はステートメント分析と呼ぶ)のインストラクターを務めていた。彼女によると、2つのプロセスがあると言う。第一に調査員は真実の供述の典型的なパターンが何かを定める。次に正常なものと比較し差を探し出す(“Statement Analysis: What Do Suspects’ Words Really Reveal?” FBI Law Enforcement Journal, October 1996)。



偽装の10のサイン (Ten Signs of Deception)


1.自分を主語にしない(Lack of self-reference)

 真実を述べる人は「私」という代名詞をよく使い自分の行動を描写する。「私は6時半に家に着きました。私が玄関のドアの鍵を開けると電話がなっていたので、私は電話に出ようとして台所にまっすぐ行きました。私は母と10分話したあと、私のテレビとコンピューターがリビングからなくなっていることに気がつきました。」この簡潔な3つの文章中に「私」という代名詞が4回含まれている。

 虚言する人は自分について言及することを避ける言葉をよく使う。自分について話さない方法の一つは起こったことを受身形で表すことだ。

−「私は金庫の鍵を施錠しなかった」のかわりに「金庫の鍵は開いていた」
−「私は出荷を承認した」のかわりに「出荷は承認された」

 自分について言及しない別の方法は、「私」という代名詞の代わりに「あなた」を使うことだ。

質問:「銀行ステートメントの照合について教えていただけますか」
回答: 「(あなたも)ご存知のとおり、(あなたは)全ての未処理の小切手と預金を洗い出すようにするでしょう。(あなたが)とても忙しい場合は、差について仮勘定に立てることもあるでしょう。」

 証人が口頭やインフォーマルな文書で虚言する場合は、自分を表す代名詞を省略することもある。妻を誤って殺してしまった夫の供述を見てみよう。

 「私は、その銃を取って掃除しようとしました。クリーニング用の棒を取ろうとして、その左手にそれを移動しました。何かがトリガーに当たりました。銃が発射され、私の妻を撃ちました。」夫は第一文で彼が銃を取ったと認めている。しかし、第二文では文法的に不完全で、「私」という単語が文頭から省略された。第三文では、「私」のかわりに「何か」がトリガーに当たったとある。この供述には所有格代名詞がほとんどない。「私の」という言葉が使用されてもいいような箇所に、証人は「その」銃、「その」左手と言っている。


2.動詞の時制(Verb tense)

 通常、誠実な人は過去に起きた出来事を過去形で描写する。偽装する人は過去の出来事を現在起こっているかのように言うことがある。現在形で描写するのは、頭の中でその出来事を何度もリハーサルしていることを暗示している。調査する際には発言の中で話し手が不適切な現在形を使用した時に特に注意を払うべきだ。ある従業員が銀行に預金する前に6千ドルの現金が入ったポーチを盗まれたと主張した以下の供述を見てみよう(何語か太字にしてある)。

 「店を閉めた後、私は現金入りのポーチを私の車に置いて、エルム通りのオリンピア銀行のビルに向かいました。雨が激しく降っていたので私はゆっくり運転しなくてはなりませんでした。駐車場に入ってから夜間金庫の場所まで行きました。私が車を止め、自分の車の窓を開けた時に、男が生垣から飛び出して、私に向かって叫びます。私は彼が銃を持っているのが見えます。彼は現金のポーチを掴んで逃げます。私が最後に彼を見た時、彼はエルム通りを南に向かっていました。彼がいなくなってから、私は自分の携帯電話で警察を呼び窃盗を報告しました。」

 最初の3つの文は社員が銀行に向かって運転したことを過去形で描写している。しかし、次の3つの文は疑わしい窃盗について現在形で描写されている。注意深い調査員は、この従業員がその日受領した現金を盗み、銀行まで運転して、偽りの窃盗を報告するために銀行の駐車場から警察に電話したのではないかと疑うだろう(他の例については行動と意味論“Antics with Semantics”を参照)。


3.質問に質問で答える(Answering questions with questions)

 虚言者でさえ嘘をつくのを好まない。あからさまな嘘は見つかるリスクがある。質問に嘘で答える前に、質問に全く答えないようにする。質問をかわす一般的な方法のひとつに、質問に質問で答える方法がある。調査員はこのような答えに注意すべきである。

−「なぜ自分の兄弟から盗む必要があるのですか?」
−「私はそのようなことをするような人間に見えますか?」
−「自分のレジから現金を取るのは、かなり愚か者だと思いませんか?」


4.曖昧な表現(Equivocation)

 被疑者は、面接者の質問を避けるために不明確で多少変更を加えた曖昧な表現を用いる。思う、推測する、一種の、多分、かもしれない、おそらく、ほとんど、だいたい、あり得るなどの言葉に注意すべきだ。曖昧な発言と不明確な表現を用いることで、後から自分の主張を元の供述から矛盾せずにそのまま変更する余地を与える。

 曖昧な動詞:考える、信じる、推測する、仮定する、予想する、みなす等。言葉を濁す形容詞と形容動詞:一種の、ほとんど、主に、多分、おそらく、だいたい等。曖昧な修飾語句:とも言えるだろう、多かれ少なかれ等。


5.誓い(Oaths)

 虚言する被疑者は最小限の情報を面接者に与えようとする一方、面接者に自分の話を信じてもらうよう最大限の努力をする。自分の供述をもっと説得力があるよう聞こえるように誓いの言葉をよく口にする。誠実な人と比べて、「誓って」「名誉にかけて」「神に誓って」「胸に十字を切って誓う」などの表現を多くちりばめる。誠実な目撃者は、供述を後押しする「誓い」がなくとも事実が彼らの供述の信憑性を証明する自信があると感じている。


6.婉曲(Euphemisms)

 多くの言語は、ほとんどの行動や状況について別の言い方がある。罪を犯した人の供述は厳密ではっきりとした明確な同義語より、遠まわしで曖昧な言葉を含んでいることが多い。婉曲は被疑者の行動をより有利に描き且つ被疑者の行動が引き起こす可能性のある被害を最小限に抑える。調査の際には婉曲的な言葉を探すべきだ。例:「盗まれた」→「無くなった」、「取った」→「借りた」、「衝突した」→「ぶつかった」、「脅した」→「注意した」などだ。


7.行動をほのめかす(Alluding to actions)

 人は実際に行ったと供述せずとも行動をほのめかすことがある。重要なデータ損失について疑いを持たれた従業員の供述を見てみよう。「私は、毎晩家に帰る前に自分のコンピューターにバックアップを取り、書類を片付けることを心がけています。この前の火曜日に私は自分のファイルをネットワークドライブにコピーすることを決め、書類を机の引き出しに片付け始めました。また、私はオフィスの金庫にある顧客リストに施錠する必要がありました。」この従業員は、自分のコンピューターをバックアップしたのだろうか。ファイルをネットワークドライブにコピーしたのだろうか。オフィスの金庫にある顧客リストを施錠したのだろうか。従業員はこれら全ての行動を完了したとはっきり言わずに暗に示していた。調査の際には、被疑者がほのめかしたすべての行動を実際に行ったと思い込まないよう注意しなければならない。


8.詳細の欠如(Lack of detail)

 真実の供述は具体的な要素が含まれているのが普通で、中には聞かれた質問に関係しないものさえある。これは、真実を語る被疑者は長期記憶から出来事を思い起こしているからだ。私たちの記憶は、当時履いていた新しい靴、バックグラウンドで流れていた歌、隣のテーブルに座っていた女性が小学校3年生の担任に似ていたこと、火災警報器が鳴った時に中断された会話など経験毎にいくつもの事実を記録している。少なくとも真実を語る被疑者の供述にはこのような例が見られることがある。

 一方、物語を作りあげる人は、供述を簡単且つ簡潔にする傾向がある。偽りの出来事に十分な想像力を使って詳細な説明を作り上げられる嘘つきはほとんどいない。その上、偽装する人は、面接者が自分の供述要素のどこかに矛盾するエビデンスを見つけるリスクを最小限にしようとする。虚偽と証明される証言は、より少ない方がいいのだ。

 “Identifying Lies in Disguise”()(Kendall/Hunt、1994年)の著者ウェンデル・ルダシル(Wendell Rudacille)は、一見取るに足らない詳細を「脱線した言葉のデータ」とし、これらが、被疑者が真実を語っているという証拠になる、最も重要な指標であると言及している。


9.物語のバランス(Narrative balance)

 序章、本章、終章と物語は三つの部分から構成されている。序章では背景と本章に入る前に起こった出来事を描写する。本章は、物語の中で最も重要な出来事である。終章は、事件後に起こったことを表す。物語が完全で真実の場合、各章の構成率は以下のようになる。序章20−25%、本章40−60%、終章25−35%となる。物語の一部が予想より大幅に短い場合は、重要な情報が省略されている場合がある。物語の一部が予想より大幅に長い場合は、偽りの情報が埋め込まれている可能性がある。以下の保険請求申請のアンバランスな構成率を見てみよう。

 「私は、火曜日の4時ごろエルム通りの東に向かって走行していました。私はA&Pスーパーマーケットから自宅に帰る途中でした。エルム通りとパターソン通りの交差点の信号機は赤でしたので私は完全に止まりました。信号が緑に変わった時、私はゆっくり交差点に向かって動きました。突然、車がぶつかってきました。その運転手は止まらなかったので私は家まで運転して帰り、自分の保険代理店に電話しました。」被疑者の供述は序章に4文、本題および終章を説明するのは1文のみだ。序章には、事故の日時、運転手の目的地、事故の場所など信頼できる量の詳細が書かれている。しかし、本題(請求された事故)の描写は、疑わしいほどに短い。保険金請求者は、相手の車についてどの方角から来たのか、どれくらいの速度を出していたのか、運転手は事故を回避するためブレーキをかけたのか、どのように2台の車がぶつかったのかを描写しなかった。

 終章もまた2台の車の事故の完全で真実な説明として期待するものより短い。保険金請求者は、事故の後に相手の車がどの方向に走り去ったのか説明していない。彼は、被害の程度を確認するため車から降りたことも触れていないし、事故目撃者に話しかけたかどうかも語っていない。このような場合、損害保険査定人は、保険契約者が、自身の過失によって起きた損害を回収するために当て逃げ事故をでっち上げたかどうか調査することが賢明だろう。


10.発言の平均的な長さ(Mean length of utterance)

 文章中の単語の平均数は「発言の平均的長さ」“mean length of utterance”(MLU)と呼ばれる。発言の平均的長さは、文章の中の全ての単語数を文章の数で割ったものと等しい。

 全単語数/全文数 = 発言の平均的長さ

 ほとんどの人は10から15の英単語数でできた文を話す傾向にある(ACFEセルフスタディCPEコース“偽装と不祥事件の文章の分析”ACFE Self-Study CPE Course, “Analyzing Written Statements for Deception and Fraud,” 2009)。ある問題について不安を感じる時、人は通常より明らかに長いか明らかに短い文で話す傾向がある。調査の際は被疑者の発言の平均的長さから明らかに違う文章に特に注意を払うべきである。



言葉が明らかにする (The Words Reveal)


 実際の出来事に対する完全で正確な描写は、通常過去形が用いられ、序章、本章、終章の期待されるバランス構成率がある。真実の供述は自分を示す代名詞、一見関連性のない詳細をいくつか含んでいる。さらに、真実の供述は誓いの言葉、曖昧な言葉、婉曲した言葉をほとんど含まない。調査の際には、通常と違う書面や口頭の文章に対しては特別に精査すべきである。容疑者や目撃者は発した言葉によって、意図した以上に多くのことを打ち明けていることが多い。



ポールMクリケマン博士(CFE) (Paul M. Clikeman, Ph.D., CFE)
リッチモンド大学ロビンズビジネススクールの准教授。



コラム 補足(Sidebar)
行動と意味論
(Antics with Semantics)

 誰か他の人がはじめたケースを引き継いだとしよう。財務書類以外にあなたの手元にあるのは目撃者や容疑者からの書面だけだ。言葉をみるだけで言い逃れ、協力の欠如、偽装の意図を見つけることができる。

 意味論は、文中に意味を形成する言葉の意味や言葉の組み合わせを考える分野だ。名詞の「ロック(rock)」を例に挙げると、岩か音楽のジャンルを表すことができる。動詞の場合は、何かを揺り動かす(ゆりかごを揺らす)動き、椅子に座って自分を揺らす(玄関先で椅子に座って揺らす)動き、お祭り騒ぎの様子を表す(昨晩はお祭り騒ぎだった)ことがある。

 誰かの言葉を解釈する時はいつでも−会話の途中や専門職の遂行時でも−誰しも意味分析を行っている。以下の例を見てみよう。


過去の出来事を描写するのに現在形を使うこと
(Use of Present Tense when Describing a Past Occurrence)

 偽装する人は、過去の事象が調査の対象となる場合は特に、過去に起こったことを過去の事象として言及するのを嫌がる。彼らはまるで現在起こっているように過去の事象について言及する。話し手が不適当な現在形を話の中で使い始めたら特に注意を向けるべきだ。以下の例を見てみよう。この文書の中で何回現在形に変わっただろうか。変化があった時のポイントは何だろうか。

 「2009年12月15日の午後遅くに、ドン、妻ワンダ、友人エイミー、ジュディと私ボブはタイラーの店に行き予約していた品物を取りにいきました。自転車やバッテリーカーなど大きなものがいくつかあったので私たちは2台の車を使いました。給与小切手を受け取ったばかりのドンは、銀行に寄らずに、予約商品を小切手で払おうとしました。いつも妻のワンダが家計を握っていたのでドンの小切手をワンダの財布にしまっていました。ワンダはドンに小切手を渡し、それからドンがそれを店員に渡します。店員は小切手を見て、受け取れないと言いました。別の店員が、この店員にまずマネージャーに確認すべきだと教えられていたため、この店員はまだ経験が浅いのでしょう。それでこの店員がマネージャーに確認したところ、マネージャーが「受け取れない」と首を横に振っているのを私たち全員が目撃します。個人用小切手ではなく給与支払用小切手が使えないことに驚きましたが、小切手が使えないとわかると、大ごとにするより現金で支払うことを決めました。ドンはワンダに現金を貰い、それを店員に渡し、店員は彼に領収書を渡しました。私たちは店の裏に回り商品を取りに行きました。混乱の間ずっとドンはワンダが小切手を持っていると思っていましたし、ワンダもドンが持っていると思っていました。その頃には私たちはドンの家に着いていました。それで、ドンはABC会社に電話して人事部に自分の小切手が無くなったと告げました。」 ボブは現在形を3回使っている。

 「ワンダはドンに小切手を渡し、それからドンがそれを店員に渡します。」

 「この店員がマネージャーに確認したところ、マネージャーが『受け取れない』と首を横に振っているのを私たち全員が目撃します。」

 「個人用小切手ではなく給与支払用小切手が使えないことに驚きましたが、小切手が使えないとわかると、大ごとにするより現金で支払うことを決めました。」

 注目に値するのは現在形への変化は重要な取引時に起こっていることである。小切手が手渡され、マネージャーが小切手の受け取りを拒否し、ドンが給与支払小切手は使えないと認識する時である。これは、供述者がこの瞬間に神経質になっているということを示している。人は、事柄を頭の中でリハーサルする時、過去の事柄について現在形を使うことがよくある。これは、事柄をわかりやすくする方法なのだ。この人はただ注意深くなっているだけかもしれないが、偽装しようとしているのかもしれない。

 調査する際には、発言中に現在形に変わったこと、そして、いつ変わったか、について気がつくべきだ。そこから、問題をどのように深く調べるかを決定するのだ。

 ACFE Self-Study CPE Course, “Analyzing Written Statements for Deception and Fraud,” 2009からの引用および編集。この引用はドン・ラボン氏(Don Rabon, CFE)によるもの。


参考文献
“Analyzing Written Statements for Deception and Fraud,” ACFE Self-Study CPE Course, 2009 (ACFE.com/products.aspx?id=2809).
“Investigating Discourse Analysis,” by Don Rabon, CFE (Carolina Academic Press, 2003).
“Identifying Lies in Disguise,” by Wendell Rudacille (Kendall/Hunt, 1994).
“I Know You Are Lying,” by Mark McClish (The Marpa Group, 2001).
“Statement Analysis: What Do Suspects’ Words Really Reveal?” by Susan H. Adams, FBI Law Enforcement Journal (October 1996).



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