FRAUD MAGAZINE

人道的組織の職員による不正行為
EMPLOYEE FRAUD IN HUMANITARIAN ORGANIZATIONS
奉仕する立場の人々から盗む
Taking from the givers

クリシュナ・メノン、CFE/CIA/LL.B:著
Krishna Menon, CFE, CIA, LL.B



 国際人道組織の職員は、社会に奉仕する立場にある人々である。しかし残念ながら、中には少数だが、まんまと金をだまし取る者もいる。緊急事態によく見られることだが、早急に支援を提供できるように組織幹部が規則を緩めた結果、図らずも職員が不正行為を働くことのできる状況を作り出していることがある。本文では、人道的組織の不注意により、被害を軽減するためではなく、他の目的のために資金を流用できる環境が作り出されている状況について探る。


 サムは国際人道組織のファイナンス・アシスタントで、同僚を気遣う思いやりのある男性だ。実際はともかく、一見したところ、そのような人物だった。サムは、片田舎の出先機関で任務に就く職員に対して支払われる特別手当の処理を担当していた。サムの上司は、受給資格のあるスタッフに速やかに手当が支給されるようにするには、複雑な規則のためにサムの業務が滞ってはいけないと考えていた。しかし残念なことに、サムは銀行員と共謀して、自分にも金が支払われるようにしていた。その額は、3年間で120,000ドルにのぼった。

 人道的組織は、不正行為へと発展する恐れのある、内部統制問題が生じやすい組織であるが、組織の幹部は、頻繁に緊急事態に遭遇しており、お役所的な規則が原因で、遠く離れた場所の職員や被害者への援助が遅れると考えることが多い。あいにく、このような考え方こそ、組織内に不正の常習犯を生み出す可能性がある。

 スタッフによる不正行為は、経済的なコストがかかるだけでなく、人道的組織の名声や信用性にも長期にわたり悪影響を及ぼす。組織の評判が汚されると、資金提供者からの援助額が激減する恐れもある。



監査と不正発見 (AUDIT AND FRAUD DETECTION)


 カウティリヤの著作、『アルタシャーストラ』(『実理論』)は、政治および政府に関する古代インドの論文で、40タイプの横領について言及している。昔からよく知られているように、不正行為のタイプを挙げたら切りがなく、そのバリエーションは、まさに、不正行為を働く者の誤った創意と想像力により決まる。

 現場では多くの人々が、内部監査人は不正発見に関する責任をどの程度負うべきか議論している。言うまでもなく、どの組織においても、不正行為の発見時にこのような議論が高まり、なぜ監査人はもっと早い時点で犯罪に気付かなかったのかと組織の幹部は問いただす。だが、監査人の側からすると、不正の未然防止・発見において監査人はたしかに大事な役割を担っているが、誰よりも責任を負っているのは幹部だという見方で一致しているようだ。とはいえ、不正検査研修を受ける監査人が増えれば、警戒信号の察知、不正行為の発見・抑止が可能となるわけで、幹部にとっては喜ばしいことだ。

 監査人と不正検査士は、面接や書類検査により、怪しい取引および支払いを特定および追跡し、値段や実績を検証し、仕事や成果を調べることができる。不正行為を暗示するものは、ある特定の分野または活動を詳細に調査すべきであると示唆しているだけだ。詳細な調査により、問題なしと判定されたり、お粗末なマネジメント或いは怠慢が露呈されたり、また、不正行為の兆候が示されたりすることもある。



直感 (GUT FEELINGS)


 国際人道組織の現場の監査人として関わった不正行為事件をいくつか挙げてみよう。(私は、スーダン、チャド、ブルンジ、ケニア、ザンビア、ナイジェリア、ガーナなどの国々で、監査を行ったことがある。)数々の不正行為事件から分かったことは、健全な懐疑的態度、監査判断、直感が、不正行為の発見の鍵となるということだ。監査判断とは、監査プログラムやデータ解析技術に勝るもので、非常に漠然としているが、なんとなく何かおかしいと感じることである。このような段階に入ると、優秀な不正検査士は、深く掘り下げて調査し、検査の範囲を広げ、必要となる詳細な調査を行う。もちろん、その際大事なことは、不正行為の事実が示されるかもしれない監査の全段階において、監査人および不正検査士は警戒信号に注意すべきだという点である。



ファイナンス・アシスタントによる計画的な不正行為
(SYSTEMATIC FRAUD BY FINANCE ASSISTANT)



 冒頭の例に話を戻すと、ファイナンス・アシスタントのサムが犯した不正行為は、偽の支払伝票を作成した後、その伝票を破棄し、いつものように小切手に署名を偽造し、銀行の共犯者を通して金を受け取るという手口によるものだった。サムが不正行為を犯すことができた大きな理由は、幹部がサムに複数の業務を任せ、全職員が規定の手順を順守していることを確認せず、業務の遂行に関して定期的な見直しを図らなかったからだ。

 主要都市から離れた地域における現場の国際スタッフは、割増手当などの奨励金を受給されることがある。奨励金の金額は、勤務場所や作業の大変さにより異なる。多数のスタッフが遠隔地に赴任することが頻繁にあるため、月間支払額を累積すると、組織にとって膨大な額となる。我々は、監査の計画段階において、支払いが頻繁に生じていること、また、支払いを未払勘定に頻繁に付けていることに驚いた。そして、リスクが生じる恐れのある分野としてこの点に注意することにした。

 我々は、沢山の警戒信号に気付いた。前述の手当の支払いの際に作成される支払伝票の多くは、伝票が入っているはずの月々のボックスファイルに保管されておらず、懸命に探したにもかかわらず、支払伝票は見つからなかった。幹部は、記録は保管されていたが、誰かが間違って他の場所に置いてしまったのかもしれないと下手な言い訳をした。

 サムは、我々が紛失文書について尋ねたり、直接会って話をしたいと申し出たりすると、いつもうまくかわしたり、都合が悪いと言ったりしていた。サムは、めったに事務所におらず、用事があって出かけたと言われることがよくあった。短い時間ではあったが、やっとサムに会えたとき、我々は、サムが最新式の衛星電話と携帯電話を持っていることに気付いた。おそらく、両方ともサムの月給より高かったにちがいない。サムは、他にも高価な小型機器を所有していた。

 我々の調査により、指示に反して、以下のようなことが行われていることが分かった。(1)明確に禁じられているにもかかわらず、事務所では、同時に複数の小切手帳が使用されていた。(2)受取人の名義で振り出されていない小切手が多数あった。(3)受取人は、自分宛ての支払いを何件も承認しているようだった。(4)会計システム上の小切手番号と銀行での支払いで実際に使用された小切手番号に食い違いがあった。(5)銀行勘定調整が満足に行われていなかった。(6)複数の無効小切手が支払いに使われた。(7)過度で不当な額を未払勘定に付けていた。(8)承認書の裏面に、これまでの支払いが記録されていなかったため、支払いに関するハードコピーの記録は存在しなかった。

 また、ずさんな記録管理や支払い関連書類の不備もよく見られた。支払伝票には十分な記載がなされていなかったり、職員の名前が頻繁に間違っていたり、手当の支払い月数が記入されていなかったりした。数人の職員については、何か月にもわたって、十分な説明も記されないまま、同じ伝票を使って支払いが行われていた。そのため、支払い履歴をたどるのが大変で、受取人が特定しづらくなっていた。

 サムは、支払いに関する統制業務をほとんど一切任され、サムの仕事はきちんと監視されていなかった。これが最悪の事態を招く原因となった。しかも、サムは休暇をほとんど消化していなかった。

 我々は、内部会計ソフトを使って、受取人、勘定、小科目ごとにプリントアウトを作成することができた。どうやら、調査の対象となった3年間に、国際スタッフに対して約76,000ドルの過払いが生じていたようだった。支払金を受領したことになっているスタッフによると、実際には金は受け取っておらず、伝票の署名は偽造されていたようだ。我々はサムに問い詰めなければならなかったが、困ったことに、サムは辞職して、国外に逃亡してしまった。

 さらに検査および調査を進めると、不正、偽造、地元の銀行員との結託という一連のパターンが明らかになってきた。サムは、専門職員が全員、給料および手当を必ず予定通りに受け取ることができるようにしていた。本来の支払いを行った後、サムはスタッフの名前で支払伝票を新たに作成した。通常、この伝票は、スタッフが休暇を取得している間、或いは仕事から離れている時に作成されていた。そして、自分が受取人となっている伝票または小切手に、許可または承認を与える幹部と銀行の調印者の署名を偽造した。小切手は銀行に提示され、サムの共犯者である銀行の出納係が支払小切手を承認した。サムは、本来ならスタッフに送るはずの小切手の裏書を偽造し、銀行の共犯者の手を借りて支払金を受け取った。我々は、サムが3年間にわたって120,000ドル横領したことを突き止め、調査部門もその事実を確認した。結局、サムは居場所を押さえられ、逮捕された。だが、地元のコネや関係を利用して、再びどうにかして謎の逃亡を果たした。我々は、サムにとって不利な完璧な証拠を握っていたが、サムが勤務していた組織は、サムの共犯者を雇用した銀行に対して真剣に損害を回復させることもなかったし、また、法的手段を取ることもなかった。この期に及んで、組織は事件から何も学んでいなかったので、この手の不正が再び生じる可能性はある。

 我々の評価によると、サムがこのような不正行為を犯すことができたのは、以下のような様々な要因が重なったからだと思われる。

多くの横領事件に見られるように、サムの部署では職務が分離されておらず、サムには過度の権限、責任、信用が与えられていた。サムはあらゆる業務にあまりにも精通していたため、支払伝票を破棄することにより、犯罪をもみ消すことができた。

サムは7年間ファイナンス・アシスタントとして働いており、他の職務に就いたことはなかった。これは、定期的に配置転換をするという方針が組織になかったためである。

幹部はサムの業務を適切に検査していなかった。職員に対する特別手当の支払いが頻繁に生じていたこと、また、その額が未払勘定に頻繁に付けられていることに気付くべきであった。

常に、手順や統制が回避され、故意且つ意図的に内部統制が無効にされた。

この人道的組織は、広範な地域における被害を速やかに軽減しなければならず、「複雑な規則」が組織の業務遂行の妨げになってはならないと幹部が頑なに考えていた。

 我々は、すぐさま幹部に以下の通り提言した。(1)すべての金銭上の取引について、監督者が入念且つ徹底的に点検するシステムを再導入する、(2)ファイナンス・アシスタントの職務を厳密に分離する、(3)会計記録は、確実で、安全で、干渉および破棄される心配のない状態に保つ、(4)不正な支払いにおいて銀行が果たした役割に関する調査は州当局に委ねる。ついに、幹部は我々の提案事項のほとんどを実践に移した。

 ここまでを振り返って、警戒すべき事項について以下に列挙する。

・ぜいたくな生活を維持するのに十分ではない収入
・金銭上の取引に関して、過度に精通・統制していて、職務の分離がない
・休暇をほとんど取らない
・配置転換が行われず、業務に従事する期間が長すぎる
・規則を無視しても寛容な組織体制
・システムや手順をいつも回避する
・監査証跡に対する障害
・組織内に「緊急事態において」作業しているという気風がある。



コンピューター購入における不正 (FRAUD IN COMPUTER PURCHASING)


 人道的組織にとって、調達はハイリスクな行為だ。特に、非常時の現場ではリスクが高い。ある現場の事務所では、あまりにも高い値段でコンピューターを50台以上購入していたことが監査で明らかになった。

 文書が不適切且つ不十分であるため、我々は当初、一般的な調達データを収集するのは難しいと感じていた。取引を精査した結果、調査対象となった2年間について、IT関連の調達の95%はほぼ、3社の企業が調達先となっていたと断定された。統制環境はあまり整っておらず、調達リストや正式なファイリングシステムはきちんと保管されていなかったため、徹底的な検査を実施し、幹部を評価し、公正で、透明性のある手順だとは断言しがたかった。入札要請や調達委員会会議の議事録など、重要書類が揃っていなかった。また、事務所内の秩序が乱れているため、不正が横行し、気づかれない状況だった。組織が業者と適切な契約を取り決めても、現場の事務所が地元から購入することを決めていた。

 我々が収集した情報によると、検査対象となった期間に、約50台のコンピューターがおよそ132,000ドルで購入されていた。地元の業者は、国外から――ほとんどはドバイから――品物を仕入れていた。入札要綱は、購入先候補となる業者に行きわたる分だけ発行されておらず、3社からの入札案が確かに受領されるようになっていた。

 調達委員会に入札案を提出できても、後に明らかになったように、提出物が改ざんされていたケースもある。たとえば、調達実施日が200X年10月で、3社が入札を提出したというケースがあったのだが、そのうち2社の入札案は日付がそれぞれ200X年3月、200X年4月となっており、その調達が実施されるずっと前の日付になっていた。また、スペックが異なる、様々なタイプのラップトップパソコン、すなわちノートパソコンに業者が入札したため、同種のもの同士を比較できなかったということもある。さらに、ラップトップパソコンの入札時に、デスクトップパソコンの入札2件とラップトップパソコンの入札1件を比較していたこともある。

 我々の調査により、製造元やスペックの違いを考慮に入れたとしても、事務所は一貫して、ラップトップパソコンに対し相場より高い金額を払ってきたことが明らかとなった。我々の概算によると、もし、ラップトップパソコンを標準価格で購入していたら、或いは、組織の本部から調達していたら、事務所は58,000ドル節減できた。当初、地元でコンピューターを購入した理由について、事務所側は、コンピューターが早急に必要であり、集中調達にすると、発注から配達までの時間が比較的長くかかってしまい、待ちきれなかったからだと話していた。監査人が調達ファイルを調べてみると、以前依頼したことのあるコンピューター業者から、最近、事務所からの発注がないという内容のクレームが書面にて届いていたことが明らかになった。

 我々は、さらに証拠を収集し、情報サービスのアシスタントであるスーザンというスタッフが、コンピューター調達を異例なほどすっかり管理していたようだと結論づけた。管理職員はスーザンを非常に信頼していて、コンピューター購入に関してスーザンの提案に疑問を呈することはまったくなかった。スーザンは幽霊会社を3社作り、その3社が常に入札し、コンピューターの供給契約を獲得するようにした。コンピューターを発注すると、スーザンはドバイの関係筋から航空貨物で納品させた。コンピューター価格は、売却前にかなり吊り上げられ、ドバイでの価格と、組織に対する最終売却価格との間に大きな開きが生じ、その差額分がスーザンのふところに流れた。表面上、すべてきちんとして見えた。書類を見てみると入札要請は揃っているし、調達委員会はすべての入札を検討していた。しかし実際には、スーザンは入札案を改ざんしていたのである。我々は、スーザンが3社の業者について、私書箱の住所のみを記載し、実際の住所は表記していなかったということに気付いた。また、スーザンが記した3件の電話番号に電話をしてもつながらなかった。おそらく、これら3社は存在していなかったのだろう。なかには、スーザンが後で業者に送金するという約束で、スーザンに対して現金支払が行われたものも1件ある。さらに、品物の受領については、組織を代表してスーザンが行っており、いくつかの重要な段階においてスーザンの統制がかなり利くようになっていた。

 我々は、スーザンは組織の調達ルールを順守していなかったと断定した。スーザンが早急にコンピューターを必要していたからだと言われているが、手順の無視とスーザンの既得権があらゆる面で露呈された。我々は懲戒処分を勧告し、スーザンは解雇された。

 ここまでを振り返って、警戒すべき事項について以下に列挙する。

・ある業者からの購入が増加している
・信頼されていて、業務のあらゆる側面を熟知しているスタッフ
・調達手順を繰り返し無視する
・競争入札がない
・発注した商品を受け取ることが可能
・かつての業者から抗議の手紙が届く
・緊急事態だからと言って、担当スタッフが早急に品物を必要とする



医療分野での不正 (FRAUDS IN MEDICAL MATTERS)
医療救助 (MEDICAL EVALUATION)



 医療救助が承認されると、スタッフや適格の扶養家族が、病気やけがをして、現地では受けられない、または充分に施されない医学的介入が必要となった場合、必要不可欠な診療や治療を確実に受けることができるようになる。組織は、交通費やかかった費用を支払うことに合意し、職員がホテルや宿泊施設の領収書を提示すれば、実際の宿泊費がいくらであろうと、特別手当が全額、職員に支払われることになっている。このような方法は、高額の特別手当が支払われる地域において、医療救助の拡大適用を金銭的に誘発することになり、不正行為につながりうる。物価の高いヨーロッパでは、よく職員が医療救助を利用するため、特に、適格の扶養家族または同伴者と一緒に赴任する場合、組織が支払う特別手当は非常に高くつく。我々は常々、これは潜在的に危険な分野だと感じていたのだが、組織は4年間に交通費や特別手当として、600万ドル近くの金を支払っていた。

 不正が行われている国に我々が訪問した時、職員は初め、医療救助に関するデータを収集するのは難しいと思っていた。なぜなら、医療救助に関する所要の統制図が部署内で保管されていなかったからだ。調査対象となった2年間に、約60件の医療救助が行われ、特別手当として組織が支払った額は約100,000ドルであることが分かった。実際に行われた医療救助の例を調査した結果、我々は、組織の財務部が日常的に支払いを清算し、関係書類の内容に関して滅多に質問などしていなかったと断定した。質問をしなかった理由は、「人道的または個人的な微妙な問題が関わっている」からということだ。

 調査対象の2年間に、キムというスタッフが医療救助のために4回英国へ行き、費用は総額52,048ドルかかった。我々は、偽造された不正な領収書3枚発見した。キムは、シカモア通りの26番地にあるミレニアム・ホテルに泊まったと主張し、彼女の言い分を示す領収書を提出していた。領収書には、電話番号とメールアドレスが記載されていた。

 だが、領収書は標準的なものではなかった。おそらくコンピューターで印刷されたものだろう。記載された番号に電話をかけてみると、一度だけ相手が電話に出たが、それはホテルの人ではなかった。また、メールアドレスは有効ではなかった。3枚の領収書には微妙に異なる点があった。レジ係としてサインしているのはそれぞれ別の人だったし、フォントも領収書毎に異なっていた。さらに、「Millenium」のスペルは間違っており、インターネット検索をするとそのような名称のホテルは存在しないということが分かった。我々はそこで調査を終了してもよかったのだけど、さらに調べてみると、キムが記した住所にはホテルなど存在しなかった。

 事務所の財務部がこの事態に気付き、特別検査を実施すべきだったということは誰が見ても明らかだ。キムはあぶく銭を稼ぎたいという気持ちを抑えられなかったのだ。組織はキムを解雇した。



架空医療費の払い戻し (FICTIOUS MEDICAL EXPENSE REIMBURSEMENT)


 組織の医療保険制度は、加入者と適格の家族に対して、医療サービス・医療施設・医療品にかかる費用を一部負担するものである。アフリカやアジアには、給与表と比較して治療費が高すぎる地域もある。このように医療費と給与額がかい離しているために、高額な治療や医療処置を受けたとうそをつき、架空の払い戻しを得ようと考える者も出てくる。

 我々が国の事業を監査していた時、保険請求を処理する前に行う、請求の照査および承認について規定した医療保険制度ガイドラインに沿って、事務所が適切な管理手順を確立していなかったということが明らかになった。多くの払い戻し請求には、どのような医療サービスをいつ受けて、詳細費用はどれ程だったのか記載されておらず、また、処方箋の原本、詳細が記された薬の領収書も添付されていなかった。大半の払い戻し請求はただ請求書が添付されているだけで、支払いを証明するものは何もなかった。支払い(現金払い)を証明するものがあったとしても、病院や診療所に支払った額を示すだけで、診察料や薬などの明細は記されていなかった。そのため、我々は、処理された払い戻し請求が妥当であるか、また、任地で同様のサービスを受けた場合、通常、請求額程度の費用がかかるのかという点について確認できなかった。

 我々は、事務所で発生する保険請求をすべて処理しているベラというスタッフが、2年間で22件、治療費として8,400ドル請求していることを知った。しかも、その大半が、ある1件の病院で受けた治療に対するものだった。添付書類は、たいてい病院の請求書のみで、明細はなかった。請求書は、それぞれ異なるサインが記され、病院の判が押されていないものが多かった。病院側は、請求書の中には本物ではないものもあると話している。

 我々は、事務所が医療保険の処理に関して内部統制を課していなかったため、制度の悪用や不正行為が起きやすくなったと断定した。ベラが行った保険請求を、誰か他の人がチェックしたり、システム入力したりすることはなかった。言うまでもなく、ベラが請求したものを自分で承認し、処理していたということが際立ってまずい点だ。調査部門は我々の結論を確認し、組織はベラを解雇した。我々は、細心の請求審査と綿密な認証および承認プロセスを勧告した。



学び取った教訓 (LESSONS LEARNED)


 管理者は、常に用心深く、公正な行為に対する揺るぎないコミットメントをはっきり示し、倫理観を曲げたり、品位を汚したりしてはいけないというメッセージを明白に伝えなければいけない。ここで論じられた数々の実例に共通する点は、緊急事態だと考えるあまり、統制環境が脆弱になってしまい、それにより不正行為が発見されずにいることである。複雑な場合は、不正検査士に、公正且つ平明で、満足のいく方法で、調査の支援または実施を頼むべきである。他の団体と同様、組織は常に、不正を発見し、積極的アプローチと予防的アプローチとの適度なバランスを保つことに重点を置くべきだ。監査人と不正検査士は、組織の業務や従来からのやり方をきちんと理解しつつ仕事を進める必要がある。不正検査士は規範を理解してはじめて、逸脱行為を発見できるものだ。

 そして何よりも大事なことは、奉仕する立場の人たちが他人から奪うようなことがないようにすることだ。



クリシュナ・メノン氏は、現在、国際組織の監査人として働いており、インドの会計検査院長の事務所に15年間勤務した経験もある。


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