抵当権付住宅ローン不正の傾向
Mortgage Fraud Trends
家を賭ける
BETTING THE HOUSE

ディック・カローザ:著
Dick Carozza



 サブプライムローン恐慌によって差し押さえ対象の住宅が増加した。その結果生じた不正のタイプは、新しいものではなく、特別な状況に合わせるべく強調され、形を変えただけである。ここでは、主流となった3つの住宅ローン不正とその不正の兆候を紹介する。


 35歳にして、ロジャー・バックリー(仮名)は家庭を築くために家を持つ用意もでき、将来のための資産運用も真剣に考え始めていた。キャリアも公認会計士事務所で順調に築き上げていた。ロジャーは稼ぎもよく、新車に乗り、素敵な持ち家に住み、学生ローンやその他の大学時代の借金も完済していた。だが、ロジャーはさらに多くを望んでいた。

 同僚がロジャーにあるウェブサイトを紹介した。そこでは、金になる不動産市場へ参入したがっている信用度の高い投資家を探していた。サイトの主催者は、頭金不要の投資不動産を最大10件購入すると、1件につき20,000ドルを受け取ることができると投資家に約束してした。投資家の出資の全ては、ローンの権利を得るためだけに使われると、サイトには書かれていた。また、サイトに明記された抵当権付住宅ローン・ブローカーによって、投資家は契約手数料の値引きを得ることができた。契約後は、あらかじめ指定された不動産管理会社が不動産所有に関する、テナントの募集、賃料の回収、住宅ローン支払い、投資家への毎月の利益の分配などの一切を対応することになっていた。

 バックリーは思った。「失うものがあるだろうか。この受動的所得をフィアンセが欲しがっているエンゲージリングの購入や彼女の希望に沿うような豪華な披露宴のために使えるじゃないか。しかも、この会社を通じて3人もの同僚が不動産を購入していて、今じゃ金を持て余している。よし、申し込もう」

 しかし、バックリーは多くを失うことになる。抵当権付住宅ローン・ブローカーは主催者と共謀しており、貸し手の承認を得るために、バックリーの融資資格対象となる情報を改ざんしていたことに彼は気づいていなかった。査定額は販売価格を引き上げ、その不動産は「全面改装済」と偽装されていた。バックリーは地元のピザ屋へ行き、不動産売買手続完了の書類に署名した。主催者は、バックリーが知らない人物とともに、契約の履行を操作していた。10分の間に、バックリーは5件の不動産を所有し、100,000ドルを儲けた。

 しかし、バックリーは性急に財産を得ようとしたため、契約書類を見直していなかった。見直していれば、所得が水増しされ、職業が偽って記載されていることに気がついただろう。バックリーはさらに、署名した書類には、彼が主たる居住地としてそれぞれの不動産を所有する旨と、それぞれの不動産に対し相当額の不動産資金を借りている旨が記載されていたことに気がついただろう。さらに市場で予想される賃料が、たった今彼が負うことになった債務返済を補うに足らないことを把握していなかった。

 契約締結後すぐに、バックリーは不動産にかかる支払遅延の通知を受け取った。主催者と連絡を取ろうとしたが、連絡先の電話番号は不通だった。バックリーは、そこで初めて不動産を調べ、それが空き家ということだけでなく、居住可能な状況ではないことを目の当たりにした。改装が施されていないことは明らかだった。バックリーは苦労して貯めた貯金をローンの現状維持のために使い果たし、不動産を売却しようとしたが、不動産は借りた金額とは程遠い金額にしかならないことを知った。なすすべもなく、不動産は差し押さえられることとなった。会計士事務所での職に残るためには、自己破産という選択肢はありえなかった。

 バックリーがもうこれ以上悪いことが起こるはずがないと思っていたとき、FBIが逮捕令状を携えて戸口にやってきた。バックリーは取引で100,000ドルを得ていたので共謀者として告発された。だが全てが失われたわけではない。新妻は刑務所にいる彼に面会に来ている。

 フレディー・マック社で抵当権付住宅ローン不正調査マネージャーを務めるCFEのジェニー・ブローリーによれば、この実話は、過熱する抵当権付住宅ローン不正現場に見られる傾向の一つ、身代わりの借り手/キャッシュ・アウト・スキームの一例である。抵当権付住宅ローン不正行為者は、投資先の不動産を探している中流階級購入者のみならず、サブプライムローンの「資格がある」低所得住宅所有者もだましている。何千もの人が、住宅資産価値下落の苦闘の日々を招いた高価値不動産の勢いの中だまされてしまった。

 次に、身代わりの借り手/キャッシュ・アウト・スキームに加え、恒常的な不正を2種紹介する。差し押さえ救済とキャッシュ・アウト・パーチェイスによる違法な不動産転がしだ。



身代わりの借り手/キャッシュ・アウト・スキーム
(STRAW-BORROWER/CASH-OUT SCHEME)



 不正行為者は、バックリーのケースのように身代わりの借り手となる個人の略歴を用いて取引を隠ぺいする。隠れみのとなる人物は、取引に自発的に参加する場合と、個人情報窃盗の犠牲者の場合がある。そうした身代わりによって、通常ならば拒否されるような貸付が承認されることとなる(多くの抵当権付住宅ローン不正で、不正行為者は、隠れみのとなる人物を利用する)。

 「このスキームの犠牲になるような借り手の多くは、ホワイトカラーの高学歴の人物で、単純にだまされ、夢のような取引に誘惑されてしまうのです」と、ACFEの抵当権付住宅ローン不正セミナーの講師であるブローリーは言う。「キャッシュ・アウト・パーチェイスは下落傾向の市場で、売れ残っている不動産を売りたいと思っている建築業者に特に見られます」と彼女は続ける。「彼らは負債を返済せねばならず、それらの物件をなんとかしたいと思っているので、どんな価格でも売却したいのです。そこで、彼らは資格のある借り手を探そうとします。ウェブでは、頭金なしで抵当権付住宅ローン4年間を保証する豪華な特典をうたった広告を見かけます。査定額は引き上げられ、差額が不正行為者に渡ると、それがローンを現状維持するための貯えとなり、発覚を免れるのです」

 建築業者の多くが融資担当者と共謀しており、融資担当者が借主の信用を偽って提示し、特典や頭金補助についての記載を貸主に見られないようにしている。

 身代わりの借り手による不正の兆候は、以下の通りである。

 ・投資資産には所有者が入居していると説明される
 ・借り手に代わって他の人物が署名をしている
 ・借り手に代わる委任状が使用されている
 ・購入契約書に氏名が加筆されている
 ・売買に親戚や関係者が関与している
 ・資産販売者の債務不履行が表示されている
 ・ 借り手は高いFICOクレジットスコア(Fair Isacc社が提供する融資申込者の信用度を示すスコア)を持っている
 ・ 借り手は良質な資産を所有するが、特典として頭金を用いている
 ・ 借り手が、短期間になじみのない特定の地域内で複数の不動産を購入している
 ・権利者として突然、氏名が追加されている
 ・借り手が、居住地の50マイル以内に2軒目の家を購入している

 2006年に、マイケル・D・グッドソン、ナンシー・ブース(別名、ナンシー・キャンベル)、レスリー・R・タランス Sr.が、1,100万ドルに及ぶ身代わりの借り手スキームに関して告訴され、今年、三人ともに有罪判決を受けた。タランスは司法取引をし、グッドソンとブースは刑期の公表を待っている。

 グッドソンは、ヒューストン近くのタランスが経営するウルトラ・クラシック・カスタム・ホームズ(同社は1997年にモンゴメリー郡で注文住宅建築業者の頂点に輝いた)で働き、不動産への投資を望んでいる借り手を募集していた。起訴状によると、彼は借り手に自身の財産管理会社が抵当権付住宅ローンと税の支払いを行うと伝えていた。タランスはグッドソンと話し、身代わりとなる購入者にわからないように資産を販売させた。有資格の融資担当者であったブースは、借り手名義のローン申込書を記入していた。ブースとグッドソンは、貸し手に虚偽の職業、所得、賃料、抵当権付住宅ローン証明書を提示していた。

 わずか1件だけであったが、タランスとグッドソンは住宅の購入者がウルトラ・クラシックに10,000ドルの頭金を支払ったと貸し手に偽って示していた。告訴では、タランスがブースと共謀して、住宅販売価格を695,000ドルに値上げし、借り手が実際には支払っていない内金10,000ドルを補っていたと訴えられている。その結果、タランスが建築費用として490,000ドルを支払った住宅に対して、貸し手は569,000ドルと100,000ドルのローン資金を拠出したことになる。タランスはグッドソンとその差額を山分けしていた。

(The Villager、2007年11月2日発行「元TCI役員に課される刑期」ティファニー・ウィリアムズ著)



差し押さえ救済スキーム (FORECLOSURE RESCUE SCHEME)


 この不正は、住宅ローン支払いを滞納している、サブプライムローンの悲劇を被った多くの人を含む住宅所有者を利用したものである。滞納している抵当権付住宅ローンを支払い、所有物件に住み続けることができるようになると約束することで、不正行為者は住宅所有者に近付く。

 通常、犠牲者は郵便で勧誘を受け(差し押さえ通知は公文書のため、誰でもその情報が得られるため)、そこには「個人的な投資家」が滞納しているローン返済に関して短期の融資を提供することが約束されていた。不正行為者は住宅所有者に対して、「投資家」から資金を借りることで住宅に住み続けることができ、家屋の権利が担保として「投資家」に書き換えられるだけだと納得させる。そして、長期融資を得られる信用を取り戻すための2年間、その投資家から住宅を借りることができると約束する。もし不正行為者が新たな出資を約束したら、それは身代わりの借り手から得た金だろう。しかし、不正行為者は不動産を奪い取り、逃亡する。身代わりの借り手がローン支払いを滞納すると、住宅所有者は住宅から退去させられ、知らぬ間に不動産は売却され、すべてを失うはめになる。

 「私が2002年にフレディー・マック社に入社したときから、この不正を見てきています」ブローリーは続けた。「けれど、最近はさらに多く見られるようになってきています」

 差し押さえ救済スキームの変化形で特筆すべきは、ブローリーによれば、実態のない支援による詐欺である。「詐欺師は、住宅所有者の救済と、小額の月次払いを約束します。そして、詐欺師は差し押さえの対応手数料を要求するものの、実際には何もせず、物件は差し押さえとなってしまうのです」と彼女は言った。

 「もう一つの変化形は、スキームが発覚しないように詐欺師が自己破産を申告するというもので、これにより住宅所有者は全てが対処されていると思ってしまっている。」ブローリーは続けた。「しかし、結局のところ、家は差し押さえられ、住宅所有者は家を失うだけでなく、実態のない救済スキームのために支払った手数料も全て失うことになるのです」

 不正の兆候を特定するのは難しいかもしれない。なぜなら不正行為者がいなくなるまでスキームを特定できないことが多々あるからである。しかし、以下に示す不正の兆候が2つ以上該当するようならば、借り手を疑ってみてもいいかもしれない。

 ・税の滞納や差し押さえ物件と公表されている住宅を購入している
 ・不動産業者を介さず住宅を購入している
 ・テナントがすでに入っている住宅を購入している、そして
 ・住宅所有者に現金の払戻し(cash rebate)が適用されている

 最近の差し押さえ救済スキームでは、27の州で何百という犠牲者がすでに現存しないFundingForeclosure.comを通じて「投資家」に自らの家を売却してしまった。ここでも、不正行為者は「投資家」が不動産を買い取るので、住宅所有者は賃料を支払い、2年の間に家を買い戻すことができると説明していた。不正行為者は、身代わりとなる購入者に名義と健全な信用度を示すクレジットスコアを貸してくれれば、年間5,000ドルから40,000ドルを払うと約束していた。しかし、実際には、全て身代わりとなった購入者の名義のもとで、切り替えをした抵当権付住宅ローンよりもさらに多額のローンが不動産に掛けられていた。多くの場合、ローンはサブプライム市場で住宅金融専門会社や投資銀行間で再販売された。結果、多くの人が家を失い、身代わりとなった購入者は数千ドルを失ったのである。(アズベリー・パーク・プレス、2007年11月4日発行「詐欺犠牲者を襲う住宅損失」ジェイソン・メソッド著)



違法な不動産転がし (ILLEGAL PROPERTY FLIPPING SCHEME)


 合法な不動産転がしとは、次のようなものである。投資家が7月に250,000ドルの住宅を購入し、50,000ドルで台所と風呂場の改装、造園をしたとする。彼は9月に正当な市場価格で家を再販売する。

 違法な不動産転売者は、購入した住宅を、短期間に人工的に価値を引き上げ再販売する。価格上昇は、通常不正な査定額を含み、完了していない改装を含むこともある。

 新しいキャッシュ・アウトの手口では、不動産業者は、不動産の売り手に近付き、現在の価格よりもかなりの高値を持ちかけ、不正を働く。その提案には、契約締結の際に身代わりの購入者・借り手となる業者に対して、希望価格に追加額が上乗せされ支払われるという条項が含まれているだろう。購入者または借り手へのキャッシュバックにかかる契約条項は、多くの場合、売り手、融資担当者、借り手が知ることのない購入契約書の添付書類に記載されている。水増しされた販売価格を裏付けるために、実際は行われていない家屋改装による資産価値の増加が利用されるだろう。

 不正の兆候は以下の通りである。

 ・その物件は市場にしばらくの間、売りに出されていた
 ・ 売買契約に修正が加えられているか、借り手への支払いについて追記されている
 ・ 査定額に価格引き上げの兆候が見受けられる
 ・ 身代わりの借り手、虚偽の資金提供元、居住状況の虚偽といった、典型的な不動産転がしの兆候にも注意すべきである



氷山の一角である3種類のスキーム (THREE SCHEMES OF MANY)


 抵当権付住宅ローン不正は、好景気、不景気を問わず、まん延しており、今回挙げた3件にとどまらない。

 さらなる情報は、下記URLを参考のこと。

www.freddiemac.com/sell/factsheets/pdf/qc.pdf
www.freddiemac.com/dgtq/pdf/fr.pdf
www.fbi.gov/publications/fraud/mortgage_fraud06.htm
http://mbafightsfraud.mortgagebankers.org/
https://eweb.ACFE.com/ and click on Archived Webinars to find “Combating Mortgage Fraud.”



ディック・カローザ(Dick Carozza)は、Fraud Magazineの編集者である。


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