成功する不正防止文化の醸成
Fraud prevention culture that works
コンプライアンスを超えて
Beyond compliance
マーティンT.ビーゲルマン(CFE、ACFE特別研究員)
By Martin T. Biegelman(CFE、ACFE Fellow)
ジョエルT.バートウ(CEF、CPP〔公認プロテクション・プロフェッショナル〕)共著
Joel T. Bartow(CFE、CPP[Certified Protection Professional])
有効な不正予防文化を築くことは、現在の経済界においてはもはや選択肢ではなく、生き残るための必要条件である。官民を問わず、全ての組織はいかなる違反も許さない姿勢で臨まなければならない。
[“Executive Roadmap to Fraud Prevention and Internal Control: Creating a Culture of Compliance,” (John Wiley & Sons, Inc. c2006.) 第17章から許可を得て抜粋・改作]
企業の成功に、不正及び不正防止に対する高い意識は不可欠である。新しく、より強化されたコーポレート・ガバナンス要求事項を実施することは、コンプライアンス文化構築へのスタートラインでしかない。いかに多くの内部統制システムがあっても、「チェックリスト思考」では、明らかに不十分なのである。不正は、組織の大小、新旧にかかわらず、どの企業をも襲い得るものであり、サーベンス・オクスリー法が考え出されるよりはるか以前から存在し、またどれだけ多くのコンプライアンス要求事項が制定されても、残念ながら、存在し続けることになるだろう。しかし真のコンプライアンス文化を構築すれば、不正は大きく減らすことができ、防止することさえ可能になる。
予期されたことではあるが、サーベンス・オクスリー法の必要性は、全ての経営者が認めているわけではない。経営者186人を対象とした2005年の調査によると、34%がサーベンス・オクスリー法を撤回すべきと回答している1。新しく、面倒そうな政府規制の制定に、企業は抵抗があるのかもしれない。企業からほぼ共通して寄せられた苦情は、サーベンス・オクスリー法の様々な規定 −特に内部統制の見直しを強く要求する404条 −に対応するための、多大なコストに関するものであった。法令遵守にかかる膨大なコストに加え、手順に従っても内部統制の重大な欠陥を見落としてしまうという苦情もあった。404条を適用した結果、重大な欠陥を報告したのはわずか8%であったが、それらは時価資本総額が7,500万ドル以上の企業であった2。株で大損をした投資家は神経質になっているので、サーベンス・オクスリー法制定前に比べると、報告した会社数が8%でもそれは高い数値と言えるであろう。当時の公開会社会計監視委員会(PCAOB)委員長、ウィリアム J. マクドナー(William J. McDonough)は、改善された財務コントロールの仕組みは「財務諸表の信用性を高め、より信頼できるものにする」ので、投資家に強く支持されているのだと述べている3。
規制当局も、コンプライアンスにかかるコストの負担が重く、株主の利益や出資金の保護とバランスを保つ必要があることを理解している。証券取引委員会 (SEC)は2005年5月16日、「内部統制報告の要求事項の実施に関する委員会報告書」(“Commission Statement on Implementation of Internal Control Reporting Requirements”)を公表し、サーベンス・オクスリー法404条適用初年度に挙げられた問題点についてコメントした。株式公開企業からSECに寄せられたフィードバックから、主に二つの要点が見えてきた。第一に「404条の遵守は、企業のトップレベルでの内部統制に対する認識の高まりなどの利益を生んでいる」という点、そして第二に、コスト負担が大きく、一部の負担は不要かあるいは過大ではないかという点である4。
SECは、404条の実施について補足説明を公表するなど、柔軟に対応すると表明してきた。さらに同委員会は、内部統制を改善し、結果として不正防止につなげるためには、規制当局と企業経営者間で、常識とオープンな意志の疎通が必要だと述べている5。SEC、PCAOB及びその他の規制官庁が、企業と協力して法令遵守に取り組む姿勢であることは明らかである。サーベンス・オクスリー法は比較的新しい法律であり、未だ解決すべき課題もあるので、この傾向は続くと予想される。しかし、同法が撤廃されたり大幅に弱められたりすることはないであろう。発案者の一人であるオクスリー議員は、同法を改正するような提案には反対している。同氏は、「話を聞いたほとんどの最高財務責任者(CFO)は(同法にかかる)コストを1ドルまで正確に諳んずることができます。」と言い、さらに「いや、10セントまで覚えているでしょう。」とつけ加えている。同氏は、サーベンス・オクスリー法に対応するためのコストは「アメリカの資本市場の強さへの投資なのです。」と主張している6。大衆投資家はよく覚えているであろうし、騒ぎに対応した連邦議会もまたよく記憶していることだろう。例えば、郵便詐欺法(Mail Fraud Statute)は郵便を手段とする様々な企てを起訴する目的で1872年に制定されたが、同法は現在でも使われており、さらには連邦議会によって長年にわたり強化されてきている。今後のサーベンス・オクスリー法も、同じ道をたどることになるであろう。
連邦準備制度理事会(Federal Reserve)の前議長、アラン・グリーンスパン(Alan Greenspan)はサーベンス・オクスリー法の有力な支援者で、施行からの短い期間で企業不正と戦ってきたその有効性を支持している。彼はさらに、より高いコンプライアンスの実現に向かい、同法に微調整が施されると考えている7。グリーンスパンは、「企業を所有するのは株主であり、企業経営は株主に代わって彼らの利益になるよう資本を最適利用して行われなければなりません。」という単純な真実を再度強調している8。彼は経営トップの姿勢と、またその従業員や社外の人たちへのプラス効果の重要性を説いている。彼の願いは、経営幹部が倫理的姿勢を身につけ、「細かい行動規範が要らなくなる」ことである9。ただ、万が一の時のために、強化策も備えてある。グリーンスパンはまた、倫理的行動の重要性に関して次のような鋭い意見も述べている。「この世で物質的な成功というものは可能ですが、他人を食い物にせず成し遂げられればより達成感のあるものになるでしょう。」10
今後のSECの積極的な法令遵守活動には、波乱の兆しも見受けられる。SECの委員長、ウィリアム・ドナルドソン(William Donaldson)が2005年6月1日に辞任を表明した。彼は金融市場の信用・信頼性の回復に重要な役割を果たした人物である。後任のその当時議員だったクリストファー・コックス(Christopher Cox, カリフォルニア州議員)は、SECの強引な市場規制に批判的で、ビジネスを擁護することで知られている。彼は、被害を被った投資家が加害側を相手取って民事訴訟を起こすことを困難にした、1995年の民事証券訴訟改革法(Private Securities Litigation Reform Act)の中心的支援者であった11。コックスのもとで、SECは企業の不正行為に対して多額の罰金を課すよりも、個々の経営者の行動に重点を置き、また明確な法違反のみ起訴するようになることも考えられる12。それでも、企業不祥事の結果、有権者が被った金銭的損失を忘れ彼らの怒りを買うことは、コックスも望んでいないだろう。もしも、SECが投資家の有力な保護者であり続けなければ、周りが介入するであろう。ニューヨーク州検察局(New York State Attorney General’s Office)ならきっと企業不正との戦いを続け、SECが投資家を守れない領域があれば、必ず行動を起こしてくれるはずである13。
本気で、不正に情け容赦するな (HAVE A ZERO TOLERANCE FOR FRAUD AND MEAN IT)
2005年4月25日の「トゥナイト・ショー」(The Tonight Show)に、あの伝説的なゼネラル・エレクトリック 社(General Electric)の元CEO、ジャック・ウェルチ (Jack Welch)が出演した。ホストのジェイ・レノ(Jay Leno) が、何故一般大衆のCEOに対するイメージが悪いのか尋ねると、ウェルチは彼独特の言い方で、「何故なら卑劣な人々が多すぎたからです。」と答えた。確かに、数多くの「卑劣な」経営者らが欲に負けて不正に走り、投資家や従業員よりも自分の利益を優先してきた。多くのマスコミ報道や有罪判決の事例を見ても分かるように、今、経営者の責任が問われている。どの企業も、どの従業員も、企業の全てのレベルにおいて法の条文と精神がともに遵守されるよう心掛けねばならない。不正が良いことだと言う経営者はもはやいないだろう。しかし、懲戒処分の程度が経営者と従業員とで異なれば、不正がある人には許され、ある人には許されないというメッセージを与えてしまう。
企業の行動規範には、不正問題への対応として、いかなる不正も情状酌量の余地はないということを明記すべきである。50ドルの経費報告書の水増しであろうと、5千万ドルの収益認識の問題であろうと、企業はいかなる不正に対しても適切な対応をとらなければならない。拠るべきよいルールは、不正金額に関わらず、発覚し専門家の調査によって検証されたどのような不正行為も、かかわった従業員の解雇という結果に終わるべきだというものである。また企業は、事業者、納入業者などによる不正を、刑事訴追のために関係司法当局に報告することも検討すべきである。犯罪通報の件については、法務担当が中心となって最終決定するのがよいであろう。さらに、コンプライアンス文化と「情状酌量なし」の姿勢を強化するために、企業は不正行為を犯した社員の告訴を公にすることも検討すべきである。
郵政捜査官 (Postal Inspector) として22年間の経験を持ち、ブルックリン、クイーンズ及びロングアイランド地区を担当する不正調査チームのリーダーを務めるジョン・マクダーモット(John McDermott)は、企業詐欺調査のエキスパートである。彼は長年にわたり、シンボル・テクノロジーズ社(Symbol Technologies)、スペクトラム・テクノロジーズ社 (Spectrum Technologies)、ブローカー、ストック・プロモーター、企業経営者の60以上の有罪判決が出た大規模な株式詐欺事例としてのハノーバー・スターリング社 (Hanover Sterling)など、ニューヨークの有名な詐欺事件の調査を実施・監督してきた。マクダーモットは不正防止と法令遵守の推進力として刑事訴追と処罰を強く支持している。彼は言う、「刑務所で20年や一生過ごすというような脅しに怯えない人は、どんな脅しにも動じないでしょう。私だったら絶対、投獄されるリスクがあると知っていて、粉飾されていると分かっている年次報告書や四半期報告書に署名はしません。」14
マクダーモットはまた、「企業経営者はおろかにも犯罪に手を染めた者から教訓を得」、「より良く自己警備すること」を望んでいる15。企業不正の調査に携わってきたことで彼は、企業が一層よく「その経営幹部に倫理観と道徳観を教育し」、コンプライアンス問題が生じた際には「さらによく内部・外部の監査人に耳を傾ける」べきであると信じるようになったという16。
また企業は、詐欺や知的犯罪を調査、起訴してきた元連邦捜査官や検察官を内部調査や法務担当として雇うことで、従業員、株主及び政府に対して、不正発見と防止に真摯に向き合っているということを示すことができる。賢明な企業は、不正発見に精通した人材を雇い入れることでコンプライアンス・プログラムが強化され、不正リスクが軽減されることを知っているのである。
企業にとって一番の大変化は、不正があった場合の政府への対応方法であろう。企業がお金で買える最高の弁護団を雇って政府と事ある毎に戦ってきた、「我々」対「彼ら」の時代は終わったのである。今日、もし不正の疑惑が事実ならば、政府と戦うということは負け戦をするということである。透明性を担保せず、自分の思うままに公開会社を経営してきた古臭いCEOたちの時代は過ぎたのだ。経営トップの姿勢は、コンプライアンスと政府調査官との協力を重視するものである必要がある。そうしなければ、最終的に苦しむのは企業なのである。
ニューヨーク州検察局がマーシュ&マクレナン・カンパニーズ(Marsh and McLennan)を、談合でクライアントを欺いた容疑で調査中、エリオット・スピッツァー(Eliot Spitzer)は同社の経営陣の協力を得られていないとの不満を表した。2004年10月に、同社を相手取って民事訴訟を起こすと表明した際、彼はマーシュ社の経営陣に向かって、公然と次のように語った。「あなた方の会社のリーダーシップについては、よく時間をかけてじっくりと考えた方がよいでしょう。」17このマーシュ社トップの姿勢を批判する、検察官からの強い通達のすぐ後、CEO のジェフリー・グリーンバーグ(Jeffrey Greenberg)が取締役会によって解任された18。 後任は、元検察官かつ企業調査会社のCEOで、清廉潔白なことで知られるマイケル・チェルカスキー(Michael Cherkasky)であった19。マーシュ社は、そのCEOを犠牲にして、会社を守るために早急な行動をとったのである。興味深いことに、グリーンバーグの父親でアメリカン・インターナショナル・グループ (American International Group)元社長・会長かつCEOのモーリス・「ハンク」・グリーンバーグ(Maurice “Hank” Greenberg)は、保険業界の伝説的存在であったが、彼もまた不正事件により辞任した。
ウォール・ストリート・ジャーナル・ルール (THE WALL STREET JOURNAL RULE)
夜、経営者を不眠にするのは何であろう。致命的な不正会計であろうと、その他の資産横領であろうと、彼らの大きな心配事の一つは自分の会社で不正が起こるかもしれないということであろう。発覚した不正をどのように株主や従業員、政府当局及びメディアに伝えるかによって、最終的な結末は異なる。今日、不正の存在を黙殺することは、従来にも増して難しくなってきた。数多くの内部告発者や、企業及び経営者に義務付けられた自己申告制度によって、不正を隠蔽することは非常に困難である。どのような隠蔽策でも、考えること自体が無謀なのである。悪いニュースというものは、常に公にされるようである。もしもある企業の言動がウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal) の一面を飾っていたら、あなたならどう思うだろうか。従うべきよいルールは、常に最悪の事態を想定して、その発生を避けるためにできる限りのことをすることである。
コンプライアンスを組織としての「取り組み」から「文化」へ (MOVING FROM A COMPLIANCE INITIATIVE TO A CULTURAL MIND-SET)
内部統制に関してSECが述べているように、「全ての内部統制のシステムを同様に扱う、一律的でボトムアップのチェックリスト式アプローチは、完璧性よりも適度な安心に重点を置き、熟考された誠意ある専門的判断に比べ、内部統制や財務報告を改善できる可能性は低いのです。」20不正を行う人たちは順応性が高く巧妙な企みをするため、チェックリスト式の不正リスク対策は成功しにくいのである。「あらゆる状況に合った包括的なきまりをつくることは不可能」21なので、より適しているのは原理に基づくシステムだといえる。真の世界企業は、チェックリストを確認するだけで不正防止や内部統制の強化を達成できるのではないということを知っている。コンプライアンスは単発のプロジェクトや一時的な思いつきに過ぎないという初歩的な考えは、しっかりとした不正防止の原理を全従業員の文化的思考に植え付けるという発想に置き換えていかなければならない。
アメリカ量刑委員会(United States Sentencing Commission)は2004年4月13日、団体被告に対する量刑ガイドラインの改正を発表し、企業における効果的な法令遵守・倫理プログラムの重要性を強く述べた。「(同委員会の)倫理的企業行動への専念は、団体被告に対する量刑ガイドラインの13年間の歴史の中で築かれてきた比類のないものである」が、近年の企業犯罪の重大さを考えれば、それも当然のことであろう22。 同委員会が全経営者に送ったメッセージは以下のとおりである。
アメリカ量刑委員会が1991年に発布した団体被告に対する量刑ガイドラインの重要な要素は、有効な法令遵守・倫理プログラムです。委員会は先週、プログラムの基準を強化し、管理・監督する取締役会や経営幹部の責任をより重大なものにした。特に、取締役会や経営幹部は法令遵守・倫理プログラムの特徴や運用において積極的な役割を担うことになる。今後罰金額の軽減を望む企業は、法違反になりうるリスクを認識し、関連した法的基準や義務について、従業員はもとより上級レベルの役員もトレーニングを行い、コンプライアンス・オフィサーが責任を果たせるよう十分な権限と情報源を与えていたということを示さなければならない。さらに改正後のガイドラインでは、罰金額や量刑の軽減が認められるには、コンプライアンス基準を満たしていることを確認し、倫理的な行動と法遵守を奨励するような会社文化を促進することも求められている23。
不正防止の文化的思考の醸成には、企業において以下の主要な要素が整い、また保たれる必要がある。
1.経営トップの姿勢(Tone at the top)
経営幹部、役員及び取締役は、一つ一つの言動で社風を左右する重要なポジションである。彼らのアカウンタビリティや責任、また最下部の社員にまでメッセージを浸透させる手段が、現実に成功する不正防止文化の構築に最も重要なことかもしれない。会社の方針や法令の遵守は、経営トップが行わなければ従業員に望むことはできない。
2.取締役会及び監査委員会の「警察」能力(The ‘policing’ role of the board of directors and the audit committee)
取締役会の役員及び監査委員会の委員は、真の意味で企業における「警察官」といえる。彼らは法令や規定に加え、企業の規則や方針の遵守も保証します。サーベンス・オクスリー法は、経営トップの「抑制と均衡」の機能として、取締役会がコーポレート・ガバナンスへの積極的な役割を果たすことを要求している。強く自立した監査委員会は法令遵守を保証するが、弱く効果的でないものは、不祥事を起こした企業に見られるように、犯罪を助成してしまう。その重要な役割を放棄する取締役は、刑事・民事ともに責任を問われることになる。
3.内部監査への試練(The challenge to internal audit)
企業の内部監査部門は、不正防止においてリーダーシップを発揮するという試練に対応しなければならない。内部監査部門の重要性は、サーベンス・オクスリー法の制定と不正発見・防止策全般の強化傾向によって強まってきた。理想の世界であれば、問題点はウォール・ストリート・ジャーナルの見出しを飾る前に、内部監査によって明らかにされるはずである。監査機能とのつながりと継続的な相互作用を確立するために、内部監査の要素の中に、不正の発見・調査・防止の要素も加える必要がある。検討すべき措置として、内部監査チームに必要な専門家を雇い入れ、トレーニングを行い、彼らに権限を与え、経営トップへの直接的コンタクトを可能にし、監査委員会に対する内部監査部門の認知度を高めることが挙げられる。
4.不正防止における管理者の重要な役割(The important role of managers in fraud prevention)
管理者には従業員の監督、及び不正防止と報告の義務がある。彼らは手本となって直属の部下を育成し、会社の方針及び法令・規定の遵守を保証する。管理者は、不正が会社にどのような影響を及ぼすのか、またその警告信号をどう探知するのかを知っていなければならない。企業行動規範の潜在的違反を適切に報告する手順を理解していることは、マネージャーにとって最も重要なことである。コンプライアンス・プログラムの全体的な効果に、強く献身的なマネージャーは大切な要素なのである。
5.社員全員の誠実性と正直さ(Integrity and honesty for all)
誠実性と正直さは、例外なしに全従業員の核心的価値観であるべきである。効果的な不正防止プログラムは、この価値観を企業の活動拠点に関わらず全レベルの社員の間で、絶えず強化しなければならない。企業における「不正に情状酌量なし」という理念は、「誠実性と正直さ」と 切り離して考えることはできないのである。
6.周知徹底された、感応性の高い報告システム(A well-communicated and responsive reporting system)
公開・非公開や大小を問わず、いかなる企業も社員や社外者が財務不正やその他の企業行動規範違反を報告できる、ホットラインのような効果的な報告システムが必要である。人々が報告の際、匿名で行え、秘密が厳守され、内部告発者も報復を受けずに保護されると安心できることが大切である。どのような報告システムであっても、全ての問題が漏れなく報告されるよう、周知徹底でき利用しやすいものでなければならない。
7.グループ間の協力(Cross-group collaboration)
企業内の全ての要素の一貫性と関連性は、経営幹部、役員、取締役、及び法務、コンプライアンス、内部監査、財務、人事、調査、企業セキュリティなど様々な部門間の効果的な協力につながる重要なものである。
8.コンプライアンス文化の積極的な受入れ(Embracing a culture of compliance)
真に優秀な企業は、サーベンス・オクスリー法やその他のコンプライアンス強化策を、コーポレート・ガバナンスを改善するよい機会と考えている。彼らは、究極的に競争上の優位性をもたらす、強化された不正防止プログラム及び内部統制システムを構築することの重要性を、理解し受け入れているのである。
未来への道 (THE ROAD AHEAD)
どんな企業も、不正防止と内部統制において最高レベルのコンプライアンスへたどり着くための「地図(roadmap)」が必要である。その道のりは必ずしも楽なものではなく、多くの障害に直面したり、回り道をしたりするだろう。しかし、最後まであきらめてはいけない。今日のビジネスの世界で、効果的な不正防止の文化を構築することは、もはや選択の余地のないことである。それは、サバイバルのための必須条件なのである。サーベンス・オクスリー法、団体被告に対する連邦量刑ガイドライン及びその他のコーポレート・ガバナンス強化策は、継続的なアカウンタビリティと監督を要する。そして法令を遵守するもう一つの単純な理由は、それが正しいことだからである。
投資家に何十億ドルもの損失をもたらした大小の企業不祥事によって、多くの人々が不正に初めて遭遇してしまったことは非常に残念である。株主やその他の人々は、結果として不正調査の専門家たちが随分昔から知っていたことを身をもって体験することになった。それは、不正はどこにでも起こりうるということ、そして、その影響としての損害は、財務的損失よりはるかに大きいということである。評判への打撃は尾を引き、しばしば致命的になる。突き詰めて考えると、不正とは非常に単純なものである。定義付けるならば、それは偽り、騙し、盗みである。また動機、機会、合理化もその重要な要素である。定義より遙かに重要なことは、いかにそれを防止するかということである。「捕まるかもしれないということが、ほとんどの場合不正の犯罪候補者を思い止まらせます。この原則のため、徹底した統制システムの存在が不正防止にとって不可欠なのです。」24 不正防止には、事後策ではなく事前策が必要である。アカウンタビリティと誠実さが不正を防ぐのである。
【脚注】
1 |
2005 Christian & Timbers survey of 186 United States executives, Business Week, May 23, 2005, 16. |
2 |
Floyd Norris, “Regulators Seek to Trim Cost of Rules on Auditing,” The New York Times, May 17, 2005, C6. |
3 |
同上 |
4 |
United States Securities and Exchange Commission, “Commission Statement on Implementation of Internal Control Reporting Requirements, May 16, 2005, 2005-74, www.sec.gov/news/press/2005-74.htm. |
5 |
同上 |
6 |
Tim Reason, “Feeling the Pain: Are the Benefits of Sarbanes-Oxley Worth the Cost?,” CFO, cfo.com, May 1, 2005, www.cfo.com /printable/article.cfm/3909558?f. |
7 |
Byron Acohido, “Greenspan Marvels at How Effective Sarbanes-Oxley Has Been So Far,” USA Today, May 16, 2005, 3B. |
8 |
同上 |
9 |
同上 |
10 |
同上 |
11 |
Robert Kuttner, “Cox’s SEC: Investor Beware,” Business Week, June 20, 2005, 42. |
12 |
Amy Borrus, “What to Expect from Chris Cox.” Business Week, June 20, 2005, 42. |
13 |
同上 |
14 |
Statements to the authors on April 22, 2005. |
15 |
同上 |
16 |
同上 |
17 |
Monica Langley and Ian McDonald, “Marsh Directors Consider Having CEO Step Aside,” The Wall Street Journal, October 22, 200, A1. |
18 |
Thor Valdmanis, “Spitzer Backs Down a Bit after Marsh CEO Resigns,” USA Today, Oct. 26, 2004, A1. |
19 |
Ian McDonald, “The New Sheriff at Marsh,” The Wall Street Journal, Oct. 26, 2004, C1. |
20 |
United States Securities and Exchange Commission, “Commission Statement on Implementation of Internal Control Reporting Requirements, May 16, 2005, 2005-74, www.sec.gov/news/press/2005-74.htm. |
21 |
Peter Norton, “Risky Business,” camazine.com, May 2005, www.camagazine .com/index.cfm/ci_id/26177/la_id/1.htm. |
22 |
“Sentencing Commission Toughens Requirements for Corporate Compliance Programs,” News Release of the United States Sentencing Commission, Washington, DC, April 13, 2004, www.ussc.gov/PRESS/rel0404/htm. |
23 |
同上 |
24 |
Association of Certified Fraud Examiners. Fraud Examiners Manual. (Austin, TX: ACFE, 2006) 4.601. |
マーティンT.ビーゲルマン(Martin T. Biegelman, CFE/ACFE特別研究員)は、マイクロソフト(Microsoft Corporation)の財務保全ユニットのディレクターである。彼はまたACFE財団(ACFE Foundation)の役員も務めている。 |
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ジョエルT.バートウ(Joel T. Bartow, CFE/CPP)は、国際的アウトソーシング会社であるクライアントロジック社(ClientLogic)の不正防止ディレクターである。 |
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