会計事務所経営に役立つ情報
(2012年5月)

年に一度の決算申告を税理士の見せ場にする

 顧問料の価格はほぼ下げ止まり、今年が低価格競争のピークであるという見方がある。

 そんなとき、税理士はどう動けばいいのか。一般的に、ビジネスにおける競争の分布は「2:6:2」である。

 しかし、会計業界での競争は「1:6:3」の比率でのグループに分類される。1割は「トップ集団」。税理士業界でいうと、目覚ましい新規拡大を遂げた若手税理士が該当する。彼らは低価格路線を掲げて、短期間で新規顧客を根こそぎ獲得し、駆け抜けていった。

 トップ集団に位置する若手税理士は、これまでの慣習やしがらみがない分、失うものは何もない。大部分の税理士にダメージを与える価格破壊でさえ、プラスに転化させた。「流行は若者によってつくられる」というが、その言葉通りに低価格路線は、税理士業界の6割を占める「本隊」に流行していった。

 業界の過半数を占める本隊に位置する税理士は、トップ集団を模して低価格路線にシフトした。しかし、トップ集団が既に多くの顧客を獲得していったマーケットに飛び込んでも、もはや「落穂拾い」に近い苦戦を強いられている。

 それはなぜか。

 低価格でも収益が上がる組織や体制をつくらないまま、低価格路線を追ったからだ。ホームページに掲げた顧問料を、無理やり3万円から1万円に変えただけでは、利益率が下がって苦戦に陥るだけ。低価格路線にするのなら、事務所の体制、風土、職員教育、給与体系等根本的な部分から見直す必要がある。トップ集団の若手税理士は、低価格路線でも収益を上げられる仕組みと組織をつくり上げているのだ。

 残り3割に位置するのは「消えてゆく集団」。競争からはもはや脱落寸前で、近いうちにマーケットから消滅していく。こうした層が消えることで、業界内で新旧交代が起きる。

 現在、日本では1年間に約120万人が死亡している。しかし、今日という社会には変化が生じない。これと同様に「トップ集団」「本体」「消えてゆく集団」のうち、自分が見える一部だけで判断し、小手先だけ流行を追っても、競争は勝ち残れない。業界全体がどう動いているかを、確固とした信念を持って見ていく必要があるのだ。

 そういう意味から、低価格競争から抜け出すには「税務から離れないが、税務にはこだわらない」ことが鉄則。そのポリシーを表す会計事務所の次なる武器は、年に一度の決算申告である。決算申告を税理士が付加価値を上げる見せ場に高めることが、低価格競争から脱却するための有効な方法といえるだろう。

 こうしたことを見据えながら、これからの戦略を立案するときがきたのである。