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法人の行う寄進

(2016/08/10)

 アメリカの経済学者ロバート・B・ライシュは、クリントン政権の労働長官であったときに「企業法人格の廃止」という抜本的な変革を提言していた。それは、法人税の撤廃、雇用を通した社会保障の全廃、企業の刑事責任を追及する慣行の廃止などを提案するものであった。元来、人間に帰属しているはずの義務と権利が企業にも付与されている点が、民主的な意思決定プロセスを歪めているというのだ。

 ところで、法人を実在説的に捉えるべきか、擬制説的に捉えるべきか、という点の論争には決着点を見出しづらい。いずれの立場を採るにしても、寄附金税制などを考えるについては、そもそも寄進や喜捨という観念を法人が持ち得るのかという素朴な疑問が起こり得る。法人が神社にお布施をし、玉ぐし料を支払うことを、心を有しない企業の行為としてどのように理解すべきなのであろうか。それは、寄附という概念で説明すべきものなのであろうか。効果的・直接的であるかどうかは別として、交際費や宣伝広告費などに結び付けられるものではないのだろうか。

 しばしば、法人税法上の寄附金概念については、一般にいう寄附金よりも広いものと捉えられるが、むしろ、その反対に、法人の行うかかる支払を寄附金と理解すべきではないとして、寄附金税制そのものに疑問視する向きもあるのである。

(出所:酒井克彦・税のしるべ平成22年12月6日号)