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戦前の兵役義務と納税義務
(2016/03/10)

 第二次世界大戦前、大日本帝国憲法には、兵役義務と納税義務の2大義務が示されていた。戦費調達のため創設された非常特別税が廃止されるに伴い税財政の見直しが急務となり、日露戦争後、「壮丁税」が提案された。徴兵適齢期で兵役についていない者に年3円を3年間課す。これは見送られたが、その後類似のものとして大正4年には「兵役税」が提案されている。「壮丁税」も「兵役税」も代人料的性質を有することから問題視された。

 昭和17年国会で曽根委員は、「兵役ノ義務ト此ノ納税ノ義務トガ、要スルニ相竝ビ稱サレル所ノ國民ノ義務ノ上ニ於テ、車ノ兩輪ノ如キモノ」と論じている。さらに、それなのに、兵役の義務こそ守られるが、納税についてはこれをごまかそうとする者がいるのはけしからんと指摘している。この主張は、「兵役ノ義務ハ、幸ヒニモ國民忠誠ノ念ニ依ツテ、遺憾ナク履行サレテ居リマスルガ、納税ノ義務ニ至ツテハ今申シマスル如キ逋脱者ト云フモノガ跡ヲ絶タナイ」という点への問題視だった。

 「壮丁税」や「兵役税」の考え方は、兵役の義務と納税の義務が車の両輪であるとする発想から外れていたといえよう。兵役の義務負担を税負担に代えて賄おうとする考え方は、採用されなかったのである。

(出所:酒井克彦・税のしるべ平成24年4月9日号)