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東京地裁平成24年4月27日判決(裁判所HP)
―寄与度利益分割法の適用が認められた事例―
(2014/07/10)

1.事案の概要

 本件は、原告Xが、Xに対してバナナを販売しているバハマ法人で租税特別措置法66条の4にいう国外関連者に該当するP1からエクアドル産バナナを輸入した取引(以下「本件国外関連取引」という。)について、XがP1に支払った対価の額が同条にいう独立企業間価格を超えているとして、税務署長Yが、平成11年12月期ないし平成13年12月期について、上記独立企業間価格と本件国外関連取引の対価の額との差額をXからP1に対する所得移転額であると認定し、平成11年12月期ないし平成16年12月期の法人税について本件各更正処分を行うとともに、平成11年12月期、平成15年12月期及び平成16年12月期の過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分をしたことに対し、本件各処分は、寄与度利益分割法を用いて独立企業間価格を算定したこと、寄与度利益分割法を用いるに当たり日本市場の特殊要因により生じたXの営業損失を分割対象利益から控除しなかったこと、XとP1が支出した販売費及び一般管理費(以下「販管費」という。)の額の割合により分割対象利益を分割したことなどを理由に違法であると主張して、本件各更正処分のうち確定申告に係る所得金額、納付すべき法人税額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額を下回る部分並びに当該部分に係る過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。


2.争 点

(1)本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことの違法性。

 すなわち、寄与度利益分割法は、基本三法を用いることができない場合に限り、これを用いることができる(措法66の4(1)一柱書き)ところ、本件国外関連取引について、基本三法のうち再販売価格基準法を用いるに当たり、エクアドル政府規制が「通常の利益率」(同号ロ)の算定に当たって必要な調整を加えるべき「差異」(措令39の12(6))に当たるにもかかわらず、その調整が不可能であるとして、再販売価格基準法を用いることができないとしたことは違法か否か、である。

(2) 寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、Xが平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失の全額を分割対象利益としたことの違法性。

 すなわち、上記各事業年度におけるXの営業損失の全部又は相当部分は、日本市場におけるエクアドル産バナナの市場価格の下落などの日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであったのにそれをせず、営業損失の全額を分割対象利益としたことは違法か否か、である。

(3) 寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、分割要因として、X及びP1が支出した販管費を用いたことの違法性。

 すなわち、措置法施行令39条の12第8項は「支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」を分割要因とすべき旨規定しているところ、本件において、X及びP1が支出した販管費がこれに当たるとしたことは違法か否か、である。


3.判決の要旨

 東京地裁平成24年4月27日判決は、争点(1)について、「エクアドル政府規制は『通常の利益率』に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり、当該規制の有無により通常の利益率に生じる差について調整する必要があるところ、その具体的な影響を数値化して特定することは不可能であり、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないから、本件国外関連取引について、A社のフィリピン産バナナの輸入取引を比較対象取引として、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許され」ず、また「本件国外関連取引について、原価基準法における適切な比較対象取引が存在しないというべきであるから、原価基準法を用いてその独立企業間価格を算定することはできない」として、「本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法である。」と判示した。

 また、争点(2)について、「寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、Xが平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失は、日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであるとのXの主張は、法令上の根拠を欠くものであって、その理由として述べるところもいずれも採用することはできない。…よって、本件国外関連取引について、平成11年12月期ないし平成13年12月期におけるP1のXに対する取引に係る営業利益を円換算した額及びXの営業利益(損失)の額の合計額を分割対象利益として、寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定したことは適法である」と判示した。

 さらに、争点(3)について、「X及びP1の支出した販管費は、措置法施行令39条の12第8項にいう『当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因』に当たるというべきであって、この点のXの主張、すなわち、およそバナナの輸入販売業においては、販管費の支出が増加すれば営業利益が増加するという関係がなく、平成12年12月期及び平成13年12月期における分割対象利益は、その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日本市場の特殊要因により生じたXの営業損失から構成され、X及びP1の販管費との間に関連性はないから、販管費は、『当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因』に当たらないという主張は、採用することができない。よって、本件各処分が、販管費を分割要因として寄与度利益分割法を用いて算定された独立企業間価格に基づいてされた点に、何ら違法な点はない。」と判示した。

 判決は、Xのその余の請求も理由がないとして、Xの請求をいずれも棄却した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)