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東京地裁平成24年7月24日判決(判例集未登載)
―譲渡等制限付株式の付与利益に係る所得分類と収入計上時期等―
(2014/05/12)

1.事案の概要

 原告Xは、平成15年から平成17年までの間に、勤務先の親会社であるM社から付与された同社の譲渡等制限付株式(以下「本件リストリクテッド・シェア」という。)について、平成18年3月31日に同社退職後、その制限が解除された日(平成15年付与分については平成19年1月31日、平成16年及び平成17年付与分については平成20年1月31日)の属する各年度の年度末の株価及び為替相場で株式価格を計算して、その経済的利益(以下「本件経済的利益」という。)の価額を退職所得として平成19年分及び平成20年分の所得税の確定申告をしたところ、税務署長Yが、これらの所得は給与所得に当たり、また、上記譲渡等の制限が解除された日の株価及び為替相場で株式価格を計算すべきものであるとして更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことから、Xがその取消しを求めた。

 なお、M社のリストリクテッド・シェアを付与された従業員は、当該株式の議決権及び配当受領権を各付与日に取得するものの、各付与日から4年後の1月末日まで当該従業員の雇用が継続していることなど一定の条件が満たされるまでの間は、株券を受領せず、当該株式の譲渡等が制限(売却、名義書換え、譲渡及び担保としての差入れをすることを禁止)されていた。


2.争 点

(1)本件経済的利益は給与所得又は退職所得のいずれに該当するか。
(2) 本件経済的利益の収入計上時期及び株価・為替相場の算定基準日はいつか(譲渡等制限解除日(権利確定日)又は各権利確定期間が終了した後の申告年度末のいずれか)


3.判決の要旨

 東京地裁平成24年7月24日判決は、以下のとおり判示して、Xの請求を棄却した。

〔争点(1)について〕

 本件経済的利益について、「退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること」という退職所得の要件を満たさないなどとして退職所得該当性を否定する一方、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものであるとして、給与所得に該当する旨判示した。

〔争点(2)について〕

 「所得税法36条1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条2項は、同条1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定しているところからすれば、同項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、同権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するいわゆる権利確定主義を採用したものと解すべきであり、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである(最高裁昭和50年(行ツ)第123号同53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)」と判示した。

 その上で、「リストリクテッド・シェアは、権利確定期間中に一定の要件を満たすことによって、リストリクテッド・シェアに基づく権利が確定し没収されないものとなり、譲渡等制限が解除されるものであるから、付与されたリストリクテッド・シェアに基づく経済的利益は、権利確定日に権利が確定し、併せて、譲渡等制限が解除されることによって初めて現実化するものといえる。

 そして、Xに付与された本件リストリクテッド・シェアについては、権利確定日及び制限解除日が同一日であり、平成15年付与分は平成19年1月31日に、平成16年付与分及び平成17年付与分は平成20年1月31日に、それぞれ権利が確定し没収されないものとなり、併せて譲渡等制限が解除されたものであるから、本件経済的利益に係る所得は、上記の各権利確定日において確定的に実現したとみることができ、本件経済的利益の収入計上時期は、上記の各権利確定日と解するのが相当である」と判示した。

(執筆:一般社団法人アコード租税総合研究所)