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松倉 泉(まつくら・いずみ) 群馬県生まれ。大学卒業後、1985年から日本IBM(株)、94年から日本オラクル(株)、97年からマイクロソフト(株)に勤務。一貫してマーケティング関連業務に従事するする。2006年、マイクロソフトを退社後、Harness LLPを設立し理事長に就任。中小IT企業のM&Aなどを支援する活動を本格的に開始した。Harness LLPはIT業界のM&Aや経営企画、ファイナンス、営業、マーケティングなどを20年以上経験したプロ集団。事業売却や譲渡、事業価値を高めるパートナーを探し、企業再生など1億円以下の案件も支援する。団塊の世代の後継者問題、IT企業の新規事業拡大ニーズや人材不足が顕著になっているため、適したM&A案件があれば投資したいというニーズが中小IT企業でも活発化。このため、事業売却企業と事業拡大企業のマッチングさせる活動などを展開している。また、2007年9月より株式会社フォーサイト21の取締役にも就任している。 【3つのキーワード】 1.決断(やるかやらないかを迷うより、やるにはどうするかで迷った方がよい) 2.業種特化(IT業界に強いM&A会社) 3.LLP(プロフェッショナル集団によるプロジェクト実行型の組織) 【起業の頃について】 ――起業のきっかけは。 松倉: IBM、オラクル、マイクロソフトで、マーケティング・コミュニケーション及び企画業務に従事した後、2006年にHarness LLPを設立しました。 マイクロソフトには約9年間在籍し、仕事も充実していました。しかし当時、マイクロソフトはすでに成熟した大企業であり、将来を考えたときに、これまでのように新しいことにチャレンジする余地は少ないかなと感じていました。そうしたときに、ある会合で、会社に属さずに独立して事業を行う起業家の人達と接して、影響を受けました。 その後、LLPの創業メンバーと半年ほど議論を積み重ねていく中で、徐々に起業への思いが大きくなっていき、会社を辞めて独立する道を選びました。 ――会社の形態をLLPにした理由は。 松倉:創業メンバーは、それぞれ独立してすでに会社を経営している者たちの集まりですので、株式会社よりもLLPのほうが、柔軟な考え方のもとに運営できる組織であると考えました。 株式会社には法人税が課されますが、LLPは法人格がありませんので、構成員である各個人が事業所得税を払います。また、株式会社では株主は株式の持分に応じて議決権を有しますが、LLPでは出資額にかかわらず1人が1個の議決権を有します。 LLPは、色々な規律を自由に作って運営できます。私たちのように、様々な分野の専門家が集まって、プロジェクト単位で事業を行う場合には適した組織形態だと思います。 ――起業時に苦労したことは。 松倉: 私たちは、IT業界に特化したM&Aを、事業の大きな柱のひとつとしています。 M&Aというと金融業界出身の方が多いのですが、彼らは様々な業界のM&Aを取扱うため、IT業界にそれほど精通しているわけではありません。私たちは逆に、IT業界のことには強いのですが、M&Aのことは良くわからない(笑)。もちろんメンバーには、M&Aを専門にやってきた者もいますが、私を含めてメンバーの多くは、IT業界の出身です。そういう点では、M&A業界の中では異色の存在といいますか。 また、起業当時は、LLPという制度ができたばかりだったため、LLPという組織そのものの認知度がまだ低かったですね。LLPの日本語名称も良くないですね。「有限責任事業組合」というと、「責任を最後までとってくれないの?」と思われたり(笑)。株式会社も、有限責任である点は同じなのですが。 【経営について】 ――現在の事業内容は。 松倉: IT企業に特化した、M&Aサポート及び事業サポートを、2つの大きな柱としております。中小企業では、M&Aを含めた経営戦略、マーケティング・営業戦略などに、高い専門知識を備えた人材を確保することは、なかなか大変です。私たちは、会社の運営に必要なノウハウを有したプロフェッショナル集団として、中小IT企業の皆様へのご支援をさせて頂いております。 ――M&Aサポートをはじめたきっかけは。 松倉: IT業界においては、成長過程の企業は、優秀な人材を採用するために、時間もコストもかかり苦労しています。その一方で、創業30年〜40年の企業の経営者は、引退の時期を迎えて、後継者問題を抱えています。中小企業は特に、これまで社長が1人で会社を引っ張ってきて、なかなか後継者を育てるところまで余裕がなかった方が多いのです。そこを上手にマッチングできないかと考えました。両者がお互いにWin−Winの関係で次のステップに行けるようにご支援したいと思ったのです。 ――IT業界に特化した理由は。松倉: 私たちが起業した当時、中国やインドなど海外の企業や人材がどんどんIT業界に入ってきました。一方で、日本ではIT技術者は「3K」などと言われて、IT企業には就職したくないというような時代でした。このままでは日本のIT業界はどうなってしまうのだろう、という危惧がありました。私たちが何年もお世話になってきたIT業界に、何らかの恩返しができないかと考えて、IT企業を応援するLLPを設立しました。 ――会社が成長している理由は。 松倉: 私たちが、M&A業界の中では、非常にユニークな存在であることでしょう。IT業界のことがわかっていてM&Aができるという会社は、ほかにはありません。IT業界のM&Aでは、企業価値は、ファイナンスの面だけではわからない、人や技術の価値をどう見るかという部分が、非常に大きいのです。ある企業の持っている技術が、どこと結びつけば有効なのかということは、IT業界に精通している私たちのような者でなければ、なかなか判断ができません。同業他社からも、IT企業のM&A案件はよくわからないからということで、ご依頼いただくことがあります。 また、M&Aというのは、経営者にとっても大きな決断ですから、何よりも信頼関係が第一です。私たちは、IT業界におけるこれまでのネットワークの中で築いてきた信頼関係からご相談をいただくケースがほとんどです。コンサルティングで実績のあるメンバーが多くいることも強みです。 ――LLPの組織運営は。 松倉: 理事長が全体の統括、組合長が営業の統括、常務理事2名が営業担当役員といったところでしょうか。この4名で毎週ミーティングを行い、組織を運営しています。 あとは案件ごとに各理事が中心となりプロジェクトチームを組成しますので、全体での会議は月1回です。 【会計・財務について】 ――LLPの会計・税務については。 松倉: LLPは、立ち上げるときには簡単なのですが、「パス・スルー課税」は思ったより面倒でしたね。当時、できたばかりの制度でしたので、これといった運営マニュアルのようなものが、まだなかったのです。この本を読めばわかるというものもなく、インターネットで色々検索して調べたりして、結構大変でした。現在は4期目なので、会計や申告のやり方も、だいぶわかってきましたが。 ――資金繰り・資金調達については。松倉: LLPとしては、事務所や人件費、広告費などの固定費はほとんどかかりません。 また、M&Aという事業は、「大間のマグロ」と言っているのですが(笑)、マグロの一本釣りと一緒で、案件が決まれば大きな売上げが立ちますが、それが毎月、規則的に発生するわけではありません。一方、コンサルティングサービスのほうでは、毎月安定した収入がありますので、その2つを両立してやっています。 ――今後の展開は。 松倉: 今後は、事業サポート部門のコンサルティングをもっと充実させていきたいと考えております。 現在14名いる理事のうち、多くのプロジェクトに参加している者もいれば、あまり参加できていない者もいます。本当は14人でプロジェクトを組めれば、もっと大きな事業に取り組めるのですが、現状は3〜4人でのプロジェクトが中心です。 今後は、社外のネットワークも活かしながら、コンサルティングサービスのメニューを増やし、中小IT企業のための窓口として使っていただけるような組織にしていきたいと考えております。 【パーソナル情報について】 ――好きな言葉は。 松倉: 「吾道一以貫之(わがみちいつもってこれをつらぬく)」です。論語の一節です。 論語では、慈しみの心を持ちこれを貫いていく、というような意味なのですが、私はこれを、「ひとつの信念に基づいて、その自分の信念を貫いていく」という風にとらえています。信念を貫くというのは、我を通すということではありません。信念を貫くことが、周りの人の役に立つことと信じて、何か困難なことにぶつかっても、あきらめずにやり遂げることが重要ではないかと思います。 あとは、「やらなかったことを後悔したくない」と思っています。何かやってみようかと思ったら、基本的にはやってみる。これからベンチャーを立ち上げる方に申し上げたいのは、会社を辞めて独立しようか、新しい事業を始めようか、ということを迷っているのでしたら、まずそれを「やろう」と決めてから、「ではどうすればできるのか」ということを迷った方がいい。 ――同感です。自分がやりたいと思うことは、自分にできる範囲のことなのですよね。では、尊敬する人は。 松倉: この人、という特定の人はいないのですが、自分の信念を持ちそれを貫いて何かを成し遂げた人は、尊敬しますね。身近な人のなかにも尊敬する人は沢山います。何か尊敬できるところがある人と一緒に仕事をしたいと思っています。
松倉: 2冊あるのですが、まず1冊目は、「21世紀の歴史」(ジャック・アタリ・著)です。22世紀から21世紀を振り返ったときに、21世紀がどんな時代であったかという視点で書かれており、大変参考になりました。経営者も、過去から現在を分析した上で、将来を予測すること、未来を考え行動することが、非常に重要であると思います。 もう1冊は、「イエイガー」(チャック・イエイガー・著)です。飛行機で、世界で初めて音速の壁を破った方の自伝です。彼は高卒で空軍に入りながらも、目の前のチャンスを逃さずにつかみとっていきます。経営においても、確かに運というのはありますが、挑戦する心があるからこそ、運をチャンスに変えることができるのではないでしょうか。 ――本日はありがとうございました。 松倉: こちらこそありがとうございました。 |
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外資系IT企業で活躍された後、IT業界に恩返しをしたいとの思いから、仲間とLLPを設立した松倉理事長。日本でもLLPという組織形態を今後より活用していくためには、税制も含めた法整備と、現場での成功事例をつくることが大切だと思います。取材では、「やるかやらないかを迷うくらいなら、やると決めてから、やるにはどうするかで迷った方がよい」という言葉が印象的でした。取材への準備もしてくださっていて、何事にも真摯に取り組む姿勢は、尊敬します。これからも、中小IT企業の心強いパートナーとして、益々のご活躍をお祈りしております。 取材:2010/02/02
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