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すべての人が楽しくなれる環境を作ること…。
坂本 憲史(さかもと・けんじ)
1973年、東京世田谷生まれ。大学を卒業後、プロントコーポレーション(昼はカフェ、夜はバー形態となる「PRONTO」を展開する)に就職。その後も様々な業態の飲食業にかかわり、30歳で独立。安くて美味しい手料理の店「とりとん」、若者に人気の「居酒屋行くなら俺んち来い」、大盛がウリの定食業態の「きちどん」をはじめ、現在24店舗を展開中。一切ルールを設けない自由度の高さが行列の絶えない「居酒屋ごとき」をつくった。店舗には活気が溢れ、常連客やリピート客が多いのが特徴。常に楽しい空間を創造する集団を目指し、新業態の開
発をはじめ、店舗展開も積極的に行っていく予定している。
【3つのキーワード】
1.ルールを作らない
2.飲食店の原点、心の触れ合うサービスを
3.ありえないくらいの良い職場環境を目指す
【起業の頃について】
――起業のきっかけは。
坂本:
大学のころから起業を考えていました。人と触れ合う仕事がしたいと思い、飲食業界を選び就職しました。5年間勤務して退職し、和食やバーなどで修行した後に起業しました。
最初の店は、吉祥寺で焼き鳥店をはじめました。開業資金が少なくて済み、回収も早いからです。自己資金に加えて、国民生活金融公庫(当時)から融資も受けてスタートしました。
薄利多売の商売ですので、いかに多くのお客様に来ていただいて経営を安定させるかが、一番の課題でした。駅から近く、美味しくて、価格も安いというバランスを考えた店づくりを工夫しました。客単価よりも来客数を目標にしました。
――失敗したことは。
坂本:
最初は失敗の連続でした。うちは「ルールを作らないでやる」というのが基本的な考え方です。基本的なオペレーションのマニュアルはありますが、接客については、気持ちの部分ですからマニュアル化できません。はじめのころは、そこがうまくいかずにクレームになってしまうこともありました。
――なぜルールを作らないのですか。
坂本:
皆が幸せになる組織、できるかぎり平らな組織をつくりたいからです。全員が主役になれる組織とはどういうものかをテーマに、今までずっとやってきました。
大学までは義務教育のようなものですが、社会に出てからも、実は義務教育なのですね。つまり、社員は組織の中で歯車として回るだけで、個人の意見は出さず、自己主張もせず、無駄なことはしないし教えません。
ちょっと脱線しますが、日本では、資本主義をちゃんと勉強する機会がありません。資本主義を教えると企業のピラミッド構造のなかでは経営側にとってなにかと不都合なのですね。今の若者は、会社の中で自分が活躍する場があるのかと懐疑的です。
――社員が活躍できる場をつくりたいと。
坂本:
組織で大切なことは、社員一人ひとりが責任感を持って、やりがいを持って仕事をすることです。
今後も、規模を闇雲に大きくするのではなく、目標店舗数を達成したら、次には、店長を経営者として独立させていく方針です。
【経営について】
――現在の事業は。
坂本:
現在24店舗です。焼き鳥、居酒屋、定食、パスタやラーメンなどを展開しています。
――お店の名前が、「とりとん」「居酒屋いくなら俺んち来い」「吉祥寺どんぶり」など、ユニークですね。
坂本:
出店時には、店長と料理長で店作りの企画からやってもらいます。店舗名もメニューも、各店で決めさせます。どんな店をやりたいのかという、店長と料理長の想いがすべての原動力なのです。
――お店の特長は。
坂本:
各店舗でイベントが多いですね。夏祭り、浴衣祭りなど、全部あわせると年間で20種類ほどあります。イベントは、いわば、お客様とスタッフとの交流会です。そのようなイベントの企画も、各店舗で社員がアイディアを出してやっています。
飲食業の原点に立ち、お客様と心の触れ合うサービスが何よりも大切だと考えています。
――社員教育は。
坂本:
教育には、時間とお金は相当かけています。会社の行事関係と教育で年間数千万円。教育なくして会社の成長はありません。
具体的には、毎週のミーティングには各店舗2〜3時間かけています。ミーティングの時間は、半分はホウレンソウ、半分はコミュニケーションに使うべきだと考えています。ホウレンソウだけのミーティングをしている会社がほとんどだと思いますが、コミュニケーション、人と人とのつながりは、人間として必要なこと。社員の悩みを聞いてあげたり相談に乗ってあげるのも、私の大切な役目なのです。
会社の行事関係では、社員旅行で海外に行ったり、先週は屋形船で一足早い忘年会をしました。忘年会シーズンはお店が忙しいですからね(笑)。
――社員に求めることは。
坂本:
「会社を疑え」と言っています。果たして本当に自社のやり方がベストなのか、常に疑問を持つこと。他の店も見て、色々なやり方があることを知るべきです。またその上で、「自分を疑う」こともしてほしいです。自分が他の店でどのくらい通用する実力があるのか、自分の市場価値も理解したほうがいい。
他社と比べられることで、経営者である私自身の身も引き締まります。仮に、他社のほうが給料がいいのならば、では給料の面だけでなく、社員にもっと教育面や、きちんと感謝の気持ちを伝えようとか。
――今後の目標は。
坂本:
ありえないくらいの良い職場環境をつくっていきたいです。例えば、週休3日制にできたらいいですね。現在すでに、申請すれば1ヶ月休める制度や、フレックス制度を導入しています。社員が働きやすい環境を目指す。ただし、それが甘えになってもいけないのでバランスも大切です。辞める人が少ないことが、社員満足のひとつのバロメータになります。
また、店長については、将来独立しても困らないように、経営をしっかり学んでもらいたいと考えています。
――どんな人を採用したいか。
坂本:
夢のある人がいいですね。その夢は、必ずしも会社の夢と一致していなくてもいい。将来作家になりたいとか、全く別の事業をやりたいという夢でもいいのです。会社にいる時間は、一生懸命仕事をしてくれればいい。
今の若者は、決してわがままに育ったわけでもなく、目標がないわけではないと思います。ただし、会社の目標を無理やり押し付けるのは間違いです。私は常に、社員に対して、「あなたが幸せになるにはどうしたらいいか、一緒に考えよう」という気持ちで接するようにしています。
今は、やりたいことをやる時代です。それは、会社の中でやってもいいし、会社を辞めて好きなことをはじめてもいい。
やるべきことをしっかりやるから、やりたいことにも挑戦できる、そういう会社にしたいですね。ただし軸がぶれないように、あくまでも売り上げと利益を基準としないと。あとは好きにやってくれたらあまり怒ることはないですね。
――外部ブレーンの活用方法は。
坂本:
ブレインパートナー
の和田さんには、社員教育コンサルをお願いしています。今後独立や、さらに上を目指す人に会社を運営する組織論を教えて頂いてます。飲食業界は根性論やモチベーション、技術の教育が主で、店舗力はあっても理論を軽んじるあまり失敗に終わることが多い業界でもあります。私としても面白いことをやっているので自信はあるのですが、やはり自分では見えない欠点があると思います。そこを専門家の目で見て指摘してもらいたいと思っています。問題がなければ自分の自信にもなります。依存するというより確認というか、自分がやっていることをさらに強めるために活用しています。
【会計・財務について】
――会計についてはどのように勉強されましたか。
坂本:
会社を興してから、実際の数字を見て覚えました。それで十分かなと思っています。加減乗除ができれば帳票関係は見られますので。ただ、数字を見るセンスが大事ですね。自分がやっていることの結果が数字に表れるのですから、自分が一番よく数字がわかっています。たまに税理士さんと話していても、「ちょっとわかっていないな」と感じることもあります。色々な会社を幅広く見ている人と、その会社専門でやっている人とでは、視点が違うのだなと思います。
あとは、わかりやすい会計の本を1冊読めば十分です。
まずは自分の会社の数字がわかること。そうしたら次は、飲食全般の他の会社の財務諸表も見てみると、だいたい経営の仕方もわかりますね。
――資金繰りを良くするには。
坂本:
初期投資の回収を早くすることです。店もゼロから作らずに中古物件で初期投資を抑えてスタートします。
――銀行とのつきあいは。
坂本:
決算書の数字がすべてです。内容が良ければ借りられます。それには、毎期きちんと利益を出すことです。税金を払いたくないからといって赤字にするのは論外ですね。
【パーソナル情報について】
――好きな言葉は。
坂本:
よく社員には、「苦労より努力しろ」と言っています。
苦労というのは、実のならない結果の出ない行動です。やっている途中で目的が見えていないのです。一方、努力というのは、目的も明確に見えていて、結果を出すための行動です。
「苦労しなくていい。ラクしていかに売れるかを考えろ」と社員には言っていますね。よくサラリーマンが、残業したとか徹夜したなどと言いますが、そんなものはぜんぜん見ていないよと。それよりも効率よく成果をあげることが大事です。やろうと思えば結構できるのです。それで余裕ができた分を、自分に投資すればいい。効率が上がったら、そこで休まないで、その時間で、さらにプロを目指すために努力すればいいのです。そうすれば人より一歩上に行けるわけですから。
――尊敬する人は。
坂本:
父です。人を大切にするところを尊敬しています。
また、会社を退職した後の生き方がいいですね。ゴルフ、ビリヤード、大学で英語や中国語の勉強、詩吟、絵では賞をいただいたり・・・。やりたいことが溢れていて、友人も多いですし、毎日忙しくしています。今までは仕事一筋でしたが、現在は料理など家事もやり、母と仲良く暮らしています。こういう生き方もいいな、と思いますね。
――中小企業の社長にお薦めの本は。
坂本:
「まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」(ナシーム・ニコラス・タレブ著)です。
世の中で起こっている株価や景気などの経済現象はすべて、まぐれだというのですね。金融のみならず数学や行動経済学、脳科学などに精通している著者が、独自の哲学に基づき、金融市場において偶然や運が果たしている隠れた役割と、人間の思考と感情との知られざる関係を、面白く説いています。
――今日は本当にありがとうございました。
坂本:
こちらこそありがとうございました。
インタビュー
内田麻由子会計事務所
税理士 内田麻由子
親しみやすい笑顔で出迎えてくださった坂本社長。社員さんとのコミュニケーション、お客様との心の触れ合いを大切にしている経営姿勢に、感銘いたしました。
これからも、社員さんと共に、お客様に愛されるお店づくりに邁進されることを心よりお祈りしております。
取材:2009/12/01