虚心坦懐――素直な心で人に接する
株式会社Qript
ITコミュニケーションソリューションを提供
 
【企業向けメッセンジャー】Yocto
ビジネス用インスタントメッセンジャー
 
キャラメ公式HP
かわいいキャラクターでメッセージお届け!
プロフィール
渡邉君人(わたなべ・きみひと)

1974年生まれ。中学生よりプログラミングをはじめ、ベーシックマガジンなどに掲載されるパソコン少年。大学時代に作成したJava言語に特化したWebサイトが人気を呼び、雑誌に掲載されたのをきっかけにライターを手がける。同時に、プログラム、自作パソコンの制作販売など、ビジネスを開始する。プログラマーやデザイナーなどの「ITエンジニアを社会に評価される職業にしたい」という願望をかなえるために、日々営業活動に注力している。



   
【3つのキーワード】
 
1.価値ある製品、もの創りへの徹底したこだわり
2.関西の地の利を活かす
3.三国志にベンチャー経営を学ぶ
 
 
【起業の頃について】

――起業のきっかけは。

渡邉:
 中学生の頃からコンピュータが好きで、将来はコンピュータの仕事をやりたいと漠然と考えていました。
 大学生の時に、自分の技術をネット上で公開していたところ、いろいろな出版社から、「技術記事を書いてくれないか」という依頼を頂き、掲載記事を見た企業から「こんなことをやってくれないか」と問い合わせがあり、個人で仕事をしていました。
 仕事としてこれはいけるという感触を持った段階で起業しました。当初は、人がどのくらい疲労しているかを数値化するソフトウェア(注1)や、多言語に対応したメールソフト(注2)などを開発していました。

 (注1) 「精神検査方法及び精神機能検査装置(ATMT)」の痴呆度発症予測ソフトを総合医科学研究所と共同で作成。
 
 (注2) 韓国語、アラビア語など25カ国の言語に対応したメールソフトを大阪外国語大学向けに開発。
 
 
――「Qript(クリプト)」という社名の由来は。

渡邉:
 「クオリティープロダクト=価値ある製品」という言葉から創ったものです。私のバックグラウンドもそうですが、ものが創れることを会社として非常に大切にしています。
 「Qript」には、「価値ある一番のソフトウェアを自分たちの手で創り出したい」という願いが込められています。

 
――起業した時に一番苦労したことは。

渡邉:
 いかに自分自身を一人の技術者から経営者に変えるか、ということです。机上の学問としての経営ではなく、実地の中で、優れた経営者になるためには何を考え、どう行動すればよいのかを常に自分に問いかけてきました。
 

――起業した頃失敗したことは。
 
渡邉:
 失敗はたくさんあります。あまり言うと株主さんに「おいおい」と言われてしまいそうですが(笑)。
 創業当時は、お金の遣い方が思ったようにはいかなかったことです。ベンチャーキャピタルなどから出資していただいて投資するわけですが、大きなベクトルを出したにもかかわらず、そのベクトルを推進させることができなかった。つまり、何かつくりたいと思っても、それに至るまでにもう資金がなくなってしまいました、というような・・・(笑)。できるだけ精緻に組み立てたとしてもその通りにはいかない、特に未知の製品を創り出す際の、リアルと仮想の世界とのギャップでつまずきました。
 

――会社が成長するきっかけになった出来事や人との出会いなどはありましたか。

渡邉:
 やはりお客さまに教えていただいたことは一番大きいですね。
 言葉としては表に出てこないことがほとんどで、結果だけが残るわけです。そのはざまの中で、何がいけなかったのかということにまずは気付くこと、そしてそれを解決すること。そうしたことを一つ一つ積み重ねてきたことが、一番大きかったような気がします。


【経営について】

――現在の事業内容について教えて下さい。

渡邉:
 インスタント・メッセンジャー(IM)事業と、ビジネスインテグレーション(BI)事業という、2つの事業を展開しています。
 IM事業は、企業向けIM『Yocto(ヨクト)』の開発販売が中心です。IMは、MSNやヤフーなどコンシューマー向けで広まってきましたが、近年はビジネスの世界でも急速に需要が伸びています。
   

――コンシューマー向けIMと企業向けIMの違いは。

渡邉:
 コンシューマー向けIMでは、情報の暗号化がなされていないことと、通信履歴が残らないこと、社員が私的に利用できてしまうことなどが大きな問題となります。最近話題になったファイル交換ソフトなどと同様、コンシューマ向けIMは情報漏えいの根幹になっています。
 企業向けIMは、セキュリティ面ではメッセージが暗号化されること、管理機能面では通信ログが残ることが、コンシューマー向けフリーIMとの大きな違いです。


――『Yocto』と他社製品との一番の違いは。

渡邉:
 製品の性能では、携帯電話機能が充実しており、不在時には自動的にメッセージが携帯に転送されます。携帯電話で機能を十分に使えるのは今のところ弊社製品だけです。また、サーバーを経由するため通信履歴が残ること、通信経路がSSL128bitで暗号化されていることもあげられます。
 弊社は日本で唯一、企業向けIMを独自でゼロからつくり上げているメーカーです。お蔭様で大企業を中心に約30社、3,000クライアントでご導入頂いております。


――『キャラメ』という商品は。

渡邉:
 キャラクターが動いてメッセージを運んでくるIMツールです。
 IMでのコミュニケーションでは感情が伝わりにくいので、キャラクターにメッセージを運ばせたらおもしろいね、という発想から、起業当初に開発しました。
 この頃に多くの貴重な経験をさせて頂きました。例えば、当時はOSのバージョンも様々でしたが、バグ報告に一つ一つ対応していくことで開発レベルも洗練され、マルチOSで稼働するソフトの開発技術を学ぶことができました。また、10万人のユーザーから大量のアクセスが来たときに、サーバーがダウンしないようにするための技術もこの頃に学びましたね。


――2つめの柱、ビジネスインテグレーション(BI)事業は。

渡邉:
 ウェブデザインからシステム、インフラ構築までワンストップで提供する事業です。年間単位で受注するような、割と大きなウェブサイトの構築・運用がメインです。例えば現在、NTTアドとの協業で、NTTドコモ関西のiモードサイトをつくっています。


――IM事業とBI事業の割合はどのくらいですか。

渡邉:
 IM事業が15%、BI事業が85%です。全体の売上は約6億円です。


――今後の方向性は。

渡邉:
 企業向けIM事業の拡大に力をいれていきます。
 市場背景的には、ISMSやプライバシーマークの取得、J−SOX法への対応など、企業ではコミュニケーションツール自体も、電子メールから発展させ、かつそれをセキュアに構築しなければいけないということが課題になっています。そうした中で、弊社への引き合いも急増しています。例えば、従業員4万人の大企業でも弊社商品をご導入いただいています。現在は200〜300ユーザーですが、今後は社内標準IMとして全社員への導入が進む予定です。
 

――早くから始めていたから強みがあるわけですね。今後が楽しみですね。


【組織について】

――中小企業では、人材の採用・教育が大きな課題です。御社の採用における方針は。

渡邉:
 会社のブランディング向上という観点から、採用を他社より有利に進めるという考え方です。クリプトが日本唯一の国産IMのメーカーであるという情報を発信していくことにより、「クリプトのような会社であれば入りたい」と思ってもらえることが大切ですね。


――どんな人に来てほしいですか。

渡邉:
 一番大事なのは、働くときの考え方です。会社が何かをしてくれるという受け身ではなく、会社に対して自分は何ができるのか。自分自身が会社をつくる、という考えをもって働いてくれる人というのが第一条件です。


――そのような心構えで仕事をすると、自分自身も楽しいし成長できますね。50名の社員へは、いつもどんなことを伝えていますか。

渡邉:
 会社の考え方や文化であくまでも大事にしていることは、もの創りです。
 自分たちの手でつくったものを世界に認められる製品にしましょうということ、きちんとした体系でもの創りをしていきましょう、ということは全員に言っていることです。
 先ほどのマインドの部分は、言わなくてもわかってほしい。そういう文化で働けない人はうちの会社にいる必要もないという考え方ですから、あまり言いません。何かのタイミングで言う機会があって、「そう考えていたんだ」と感じてもらえるくらいでいいと思っています。


――東京と大阪では文化にも違いがありますか。

渡邉:
 東京は情報の流れが早く、入ってくる情報量も多いため、どうしてもその情報に惑わされやすい傾向があると思います。
 関西はその意味では有利です。東京に比べて情報量が少ない分、一過性の情報に惑わされることなく、じっくりと腰を落ち着けてもの創りをすることができます。ロボットをつくったり、ロケットを打ち上げるなど、関西にはこだわってもの創りをする中小企業がたくさんあります。こうしたことは、こだわりがなければ絶対に無理です。
 東京では、「それはお金になるの?」「すみません、ならないです」となるともうアウト(笑)。投資資金に対する投資効果は、というときに、1〜2年の事業計画で何とかしなさいという話が多いのではないでしょうか。
 関西は、逆とまではいきませんが、「夢に懸ける」といいますか、もの創りの考え方を大切にするという文化がありますね。


――京セラや松下もそうですね。他にも関西の利点はありますか。

渡邉:
 やはり東京は物価も人件費も高い。その点、対投資効果を考える場合、見込めない可能性があるものに対してものをつくるということでは、関西は非常に有利だと考えています。優秀な人材も多く、人材も集まりやすいという関西の地場を生かして、コストを抑えてもの創りができます。


【会計・財務について】

――現在の株主は。

渡邉:
 ベンチャーキャピタルや事業会社です。弊社も創業して6年ほどになりますが、一般的な企業と同じで、アーリーの段階はベンチャーキャピタルから資金調達を行い、ある程度成長してくると事業会社に移行してくるという、成長のラインに沿ってきました。
 

――今後の財務の計画は。

渡邉:
 事業計画を事業部単位でより精緻なものにしていき、そこから積み上げて会社全体の計画に反映させるところをしっかりつくっていきます。各部の損益をきちんと出せる会計上の仕組みを整備し、上場に向けた体制づくりを進めています。
 

――上場は何年後の予定ですか。

渡邉:
 近々で考えています。周りの皆さんからも応援していただいていますし、もう6年もやっていますので。何十年もやっている会社からするとまだまだでしょうが、ITベンチャーで6年にもなると、もうそろそろ上がらないと(笑)。その辺のプレッシャーもあります。


――上場したらどんなことをやっていきたいですか。

渡邉:
 一つは、本当の意味で日本の中でちゃんとものを創ったり、受託開発ができる会社をつくりたい。日本には、ISOやCMMという規格を持つ会社はまだまだ少ないのが現状です。「この会社に頼んだらどの程度のクオリティのものができるのか」ということを測る物差しとして、国際上認められた規格のひとつがCMMです。そうした規格を取り、着実にもの創りをしていく会社にしたいと考えています。
 もう一つは、クリプトという若い会社のブランド発信をしてくことで、優秀な人材を確保したい。関西の中でもこんなにいい会社があり、しっかりした考え方でやっていると。「ここで働きたい」と思う会社をつくりたい。上場する意味というのは、一番はそこです。現在は、ベンチャーを志向する学生はほとんど東京に取られてしまい、関西で探してもほぼゼロに近いのです。東京をこれ以上過密化させても・・・(笑)。地場で働きたい人もいます。それに応えていける企業をつくりたいと思っています。


――是非、関西の星になっていただきたいです(笑)。

渡邉:
 そうですね。逆に言うと今はチャンスですので、なれる可能性は十分にあります。東京ではたくさんのベンチャー企業が上場していますのでそのうちのひとつになってしまいますが、関西ではまだまだ少ないですから、逆にそこはチャンスととらえています。


――会計についてはどのように勉強されましたか。

渡邉:
 一番はやはり実地経験や、ベンチャーキャピタルなど株主にいろいろと教えをいただいたところもあります。
 一番わからなかったことが資金調達、つまりデッドとエクイティの使い分けです。デッドはどういうタイミングで使って、エクイティはどういうタイミングで使うのか。
 受ける仕事が大型化してくると、タイミングによって売掛がものすごい額として出てくるときがあるのです。その時に初めて、「なるほど、こういうときに借入を使わないといけないのだな」と。逆に、『Yocto』などの新規開発に関しては投資で賄うのかと。例えば、売掛のサイトが6ヶ月ということもあります。1ヶ月の売上が1社だけで2,000万円とすると、1億2,000万円を売り掛けるという割合シビアな状況に・・・(笑)。ではそれを投資で賄うのかというと、そうではなくそこは借入でまわすということがわかったということです。そこに至るまでなかなかわからなかった。逆にいうと、仕事の受け方もそれによってわかったということもあります。


【パーソナル情報について】

――好きな言葉は。

渡邉:
 『虚心坦懐』という言葉です。素直に物事に対応する姿勢・様(さま)という意味です。
 社長になると結構忘れがちになりますが、面接する際も、いつもこれを日々思いながらやっています。やはり会社のイメージができあがってくると、対応する姿勢も変わってきます。一番の原点を忘れないで、常にそれを心に持ちながら、まず素直にちゃんと人に接しましょうということですね。


――先ほど「お客さまから教えていただいた」と仰っていましたが、そういう気持ちはいつまでも大事ですね。

渡邉:
 そうですね。日々勉強、死ぬまで勉強ということを実践する中で、大切なのは、常に平常心を持つこと、誰に会っても色眼鏡で見ないことではないでしょうか。


――尊敬する人物は。

渡邉:
 経営者では、ソフトバンクの孫正義さんです。
 孫さんは、自分でやると口にしたことに対してきっちり責任を取る。負けそうになってもずっとやり続けているところが素晴らしいですね。ポリシーを貫き通すということが、事業成功の一番の要因ではないでしょうか。信じ続けてやるという姿勢は見習うべきところだと思います。
 『Yocto』もやり始めた当時はぼろぼろでした。お金は遣ってしまうし、全然売上は上がらないし、投資家からはもうぼろかすに言われて、「いつやめるんですか」と(笑)。しかし信じてやり続けるということが非常に大事です。

一冊で読む!三国志
――孫さんも学生の時に起業していますね。最後に、中小企業の社長さんにお薦めの本はありますか。

渡邉:
 好きなのは『三国志』です。
 『三国志』が面白いのは、ベンチャー企業が成り立っていく様に近いところがあるんですね。一介の人間がゼロからどうやってあそこまでいったのか。劉備であれば蜀という国を取ったり・・・。何もないゼロの人間が、どうやって諸葛孔明のような天才軍師までを登用したのか、そういうノウハウが書かれています。
 資金調達もそうです。ゼロの人間がどうやって資金調達をしたのか、その原点があります。なぜぼろぼろの貧乏なのに馬や兵糧が寄進されてくるのか、どうしてお金が入ってくるのか、何に対して出すのかという考え方ですね。物語調にはなっていますが、そういうふうにとらえて読んでみると非常に面白いです。


――学生の時読んだのとは違って、経営者の視点で今読んでみると参考になることが多いと。

渡邉:
 いまさらながら『三国志』に帰ってきます。格好よくウォーレン・バフェットなどいろいろとありますが(笑)。


――今日はお忙しい中、楽しくためになるお話をいただき本当にありがとうございました。

渡邉:
 ありがとうございました。
 
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税理士 内田麻由子
インタビュー
内田麻由子会計事務所
税理士 内田麻由子
 
取材後記 少年のようなキラキラした瞳で、もの創りへの想いを語って下さった渡邉社長。二つのことを教えていただきました。
 一つは、「好きなことで起業する」こと。好きだから、困難なことがあってもあきらめずに情熱をもってできるし、だから周りの方も応援してくれるのですね。
 二つめは、「プラス思考」です。関西だから情報が少ない、人もいないではなく、情報が少ないからじっくりもの創りができる、ベンチャーが少ないから優秀な人材を確保できると考える。事実は同じ、違うのは考え方です。
 これからも、価値ある製品づくりで関西の一番星を目指して躍進を続けてくださいね。

取材:2006/07/06