信託で節税はできないのか
(2015年11月)
1.極端な節税スキームを考えてみる 前回に続き信託と節税について検討してみます。 前回より極端な節税スキームを考えてみましょう。仮に、社長が100%保有する同族会社株式を信託財産として受託者に預けます。 受託者は社長が運営する一般社団法人です。受益者は従業員です。 この場合、社長から従業員に株式を移転したのと同じですから、配当還元評価での移転が可能です。信託の内容として、議決権は受託者がすべて行使することにしてしまいます。そして従業員の退職時には受益権を買い取ることにします。 そうするとどうなるか。 株主権を行使するのは一般社団法人ですから、その理事である社長が会社を100%支配しているのと同等です。 しかし、受益権はすべて従業員に割り当てています。その後は、受益権がいくら分散しようと議決権を一般社団法人が確保する限り、社長による経営が脅かされることはありません。そして、株式は、社長の相続財産ではなくなるのですから、非常に大きな相続税の節税になります。 2.信託は何でもありだからこそ税法の知恵が必要 もちろん、このような節税スキームは否認されるでしょう。 従業員は、はじめから議決権を取り上げられ、譲渡することもできず、退職時には取り上げられる受益権でしかありません。 一般社団法人が実質的な株主と認定され、配当還元方式での譲渡が否定され、社長から一般社団法人への譲渡であるとして時価での譲渡(所法59)が強制されてしまうかもしれません。そうなってしまうと、株式譲渡代金が未収金として相続財産になります。さらに、一般社団法人は相続税法66条4項によって、社長の家族の相続税が不当に減少するものとして、贈与税が課税されることも考えられます。 そもそも、このような節税は、種類株式を利用した極端な節税スキームと同類のものです。 つまり、社長が持つ普通株式のうち、1%を拒否権付株式にします。そして社長が保有する残りの99%を無議決権株式にして従業員に配当還元評価で移転してしまいます。そうすると、社長は会社を支配しつつ相続財産である株式をほぼゼロにしてしまうことができます。しかし、このような脱法が認められるはずはありません。 信託も財産価値を如何様にも切り分けができるのですから、同様のスキームはいくらでも可能です。 信託は、積極的な節税チャレンジのツールとして使うべきではありません。 財産管理手法としての利用法があり、あるいは、不利益な税負担を避ける緊急避難として使える手法はどのようなものがあるのか。そのような実務家の知識、知恵として活用すべきなのです。 著 者
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