企業価値評価の基礎


企業価値とは〜事業価値とキャッシュフロー(1)


 前回のコラムで、すべての企業経営者にとって「企業価値」が欠かせないものであることをご説明しました。では、この「企業価値」、どうすれば算出できるのでしょうか。

 TDB企業価値評価サービス「Value Express」では、企業価値を下記の算式で求めています。

  企業価値 = 事業価値 + 金融資産


 さあ、ここでまた新しく「事業価値」という名の「価値」が登場しました。

 「事業価値」とは何でしょうか?

 「事業価値」とは、「事業が生み出すキャッシュフローの現在価値合計」のことです。

 事業を営む会社の「企業価値」を決定づける最大の要素がこの「事業価値」であり、中でもとりわけ重要なのが「キャッシュフロー」なのです。


 でも・・。

 キャッシュフロー?

 「キャッシュフロー経営」などの経済用語として最近よく聞くけれど、結局のところよくわからない・・。

 概念としては理解しているつもりだけれど、納得できるような形ではイメージできていない・・。

 という方、案外多いのではないでしょうか。


 そこで今回は、「キャッシュフロー」とは何か、をごく単純な例を使ってご説明します。


 先月からアルバイトを始めたAさん。

 5,000円の日当を月給として毎月5日にもらえる契約です。

 初給料日の今月5日、先月10日間働いた分のアルバイト代50,000円が振り込まれ、アルバイト開始前に溜め込んでいた諸経費40,000円の精算支払を済ませた結果、預金口座に10,000円が残りました。

 ところで、今月は、すでに勤務した3日間を含めて月末までの勤務予定日数が20日間あります。

 予定通り勤務すれば、来月の5日には100,000円の給料が振り込まれ、その時点での預金残高は110,000円になるはずです。

 そこでAさんは、ずっとガマンしていた20,000円の洋服をクレジットカード(翌月6日引落とし)で買い求め、月末までに予定の20日間を勤め上げました。

 つまりAさんは今月、諸費用として新たに洋服代20,000円が発生する一方、労働対価として100,000円の収入高をあげたことになります。(先月は50,000円)


 上記を整理すると、

≪前提≫
  • Aさんがアルバイトで得る報酬は、1日あたり5,000円
  • 報酬は日払いではなく、月に一度(毎月5日)まとめてAさんの預金口座に振り込まれる
  • アルバイト開始前に未払の経費が40,000円あった
  • クレジットカード利用代金は、前月分が翌月6日に預金口座から引き落とされる

≪動き≫
  • アルバイトを開始した最初の1ヶ月は10日間勤務した
  • アルバイト開始の翌月(今月)5日、Aさんの預金口座に先月分の給与50,000円が振り込まれた
  • 給与振込のあった当日、預金口座から40,000円を引き出し、未払経費40,000円を精算支払
  • 同日、洋服20,000円をクレジットカードで購入
  • アルバイト開始2ヶ月目である今月は、20日間勤務した


 これを決算書として表すと、どうなるでしょうか。

 下記の通り、充分な利益が出ているということになり、一見問題があるようには見えません。

 損益計算書
  収入高(2ヶ月計30日間のの累計労働対価)   150,000円
  諸経費(先に払った40,000円と洋服代) 60,000円
  利益

90,000円

 貸借対照表  
  ≪資産の部≫  
  預金 10,000円
  未収金(労働債権) 100,000円
  ≪負債の部≫  
  未払金(クレジットカード) 20,000円
  ≪純資産≫  
  内部留保 90,000円


 ところが。

 今月末最終日になって、急に次の入金日が5日から10日に変えられてしまったのです!

 Aさんが働いた日数や日当額に変更があったわけではないので、2ヶ月間の総勤務日数30日に対する労働対価150,000円は変わりませんし、諸経費(先月支払った諸経費と今回購入した洋服代金)合計が60,000円であることも変わりません。つまり入金日の変更は前出の決算書には何ら影響がなく、Aさんにとっては相変わらず90,000円の黒字、という状態なのです。

 しかし入金予定が延期されてしまったために、明日のクレジットカード引き落とし20,000円に対する預金残高が10,000円足りません。いわゆる資金ショートです。企業であれば「債務不履行」「デフォルト」ということで、「倒産」の烙印を押されかねません。

 ではここで、今月末時点とクレジットカードの引き落とし日である6日のキャッシュフロー(CF)を計算してみましょう。


≪今月末時点の累計CF計算書≫
キャッシュイン(現金収入) 50,000円  
キャッシュアウト(現金支払) 40,000円  
キャッシュフロー(現金収支) 10,000円 ・・・収入超過
   
≪クレジットカードの引き落とし日である6日時点の累計予想CF≫
キャッシュイン(現金収入) 50,000円  
キャッシュアウト(現金支払) 60,000円  
キャッシュフロー(現金収支)   ▲10,000円 ・・・支出超過確実、調達できなければ資金ショート!


 見ての通り、キャッシュフロー(現金収支)とは、「実際に入金された現金」と「実際に支払った現金」の額の差のことで、今回のケースでは、損益計算上は「黒字」なのにキャッシュフローは「資金ショート」が確実であることを如実に示しています。

 そして、これと同様のことが、会社では「販売にかかる売掛金の入金」と「仕入にかかる買掛金の支払」という通常の営業活動の中で、より大きな規模で起こるのです。皆さんも良く耳にするであろう「黒字倒産」とは、まさに会社で上記のような状態から倒産に至ったものを指しています。


 ちなみに、先ほどの時系列「損益の動き」推移の隣に、「現金収支(キャッシュフロー)の動き」を並べてみると、このようになります。



 そして、予定ではこうなるはずだったのに・・


 給与振込日が、クレジットカードの引落し日よりも先に延期されてしまったために、このままでは決済できなくなってしまいます!


 いかがでしょう?

 キャッシュフローとは何か、少し具体的にイメージしていただけたでしょうか?

 また「なぜキャッシュフローが重要なのか」その重要性についても感じていただけたのではないでしょうか。


 次回は、企業価値評価サービス「Value Express」が使用するキャッシュフローの求め方、すなわち「フリーキャッシュフロー」を決算書から算出する方法についてご説明します。


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