今注目の企業価値評価


無形資産の評価方法


 今回は、近年経営で重要視されている「無形資産」の評価について、簡単に説明します。


 無形資産といえば、特許権や商標権、電話加入権、借地権などがイメージしやすいと思います。会計での無形資産は、自然発生したものは認められず、売買取引を通じて取得したもののみ資産計上が認められています。

 もちろん無形資産は、上記だけでなく非常に多岐に渡っていて、人、技術、ネットワーク、顧客データ、ブランド、のれん、ノウハウなど、さまざまなものがあります。これらの中に「知的資産」と呼ばれるものがあり、無形資産のほうが広い意味で捉えることが多く、「狭義の無形資産」が「知的資産」と考えれば良いでしょう。


I.無形資産の評価方法

 無形資産の評価方法には、いくつかの考え方がありますが、以下では、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの切り口で紹介します。どの方法を採用するかは、対象となる無形資産の種類や評価目的などによって決定します。


1.コストアプローチ

 コストアプローチは、対象となる無形資産の再取得や再生産に必要なコストを、当該無形資産の評価額とする方法です。インフレ要素や取得後経過を考慮し、期間調整等をする必要があります。

 コストアプローチは、情報入手が困難で、コストによる評価額が将来収益を反映していないという問題点もあります。


2.マーケットアプローチ

 マーケットアプローチでは、類似の無形資産の売買事例や、類似のライセンス契約のロイヤリティから算出します。例えば売買事例から算出する方法では、対象となる無形資産と類似の無形資産を比較して乗数(倍率)を決定し、評価額を算出します。しかし無形資産のマーケットは皆無に等しいため、類似の事例を発見するのは非常に困難です。

 ロイヤリティから算出する方法では、将来のロイヤリティ収入(すなわち将来キャッシュフロー)から無形資産の価値を算出します。この方法は後述する「インカムアプローチ」に近い方法です。


3.インカムアプローチ

 インカムアプローチは、対象となる無形資産が将来生む出すキャッシュフローから評価額を算出する方法です。

(1)超過収益法

 超過収益法は、将来得られる平均的な実際収益から期待収益を控除したものを超過収益とし、超過収益を割引率で除したものを無形資産とする方法です。

 実際収益−期待収益(=対象となる無形資産以外の投下資本×期待収益率)=超過収益
 超過収益÷割引率=無形資産

実際収益は、フリーキャッシュフロー等を使用し、将来予測します。将来予測年数は、当該無形資産の経済的使用年数、法的耐用年数等を使用します。
投下資本は、株主資本+有利子負債、固定資産+運転資本等を使用します。
期待収益率は、投資に対して期待する収益率(リスクが高いほど求めるリターンが高くなる)を資産毎に設定します。
割引率は、将来得られる収益の現在価値の合計を算出するための率となります。

 この方法は、「対象となる無形資産を除く資産に対する期待収益率」の設定が大切となります。

(2)企業価値差額法

 企業価値差額法は、今まで紹介した「マーケットアプローチ」や「インカムアプローチ」で事業価値を算出し、事業価値と時価資産額の差額を、無形資産から得られる価値とする方法です。

 事業価値から「有形資産」「評価対象外の無形資産」「運転資本」の時価価値を控除して、無形資産の評価額とします。

(1)(2)の評価方法は、以下の図のように類似しています。「実際収益の現在価値の合計」が「事業価値」と意味が同一で、「期待収益の現在価値の合計」が「時価資産額」に近似しているためです。計算順が違うと言えるでしょう。



II.DCF法と無形資産

 DCF法では、無形資産が考慮されているかという質問をよく受けます。

 基本的には「考慮されている」と言えます。DCF法は、企業の将来収益から価値を算出する方法です。将来収益には無形資産による収益も含んでいますので、結果的に無形資産を考慮していることになります。

 例えば、どのような業界においても、世界的に有名でイメージが良い企業は、高い信頼の「ブランド力」によって高い収益を上げています。それらの企業にとっては、高い収益で価値を評価するということは、「ブランド力」も含めて評価していることになります。

 また、新しい技術のように、まだ知られていないため収益に反映されていないケースがあります。その場合は、今後普及して収益に反映されていくのであれば、将来収益の予測数値に反映させることになります。

 以上から、将来収益から価値を算出するDCF法は、結果的に無形資産の価値を考慮しています。しかし、直接的に無形資産を算出しているわけではありません。無形資産のみを算出するには、今回ご紹介している方法を使用することになります。


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