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10.退職慰労金,個人の側の受取額


 前章では,経営者や役員が退職した際に企業が支払う退職慰労金の損金算入限度の目安について整理し,その基準に基づいて生命保険を活用する場合の保険金額の算出方法を取り上げた。しかし,企業が損金で落として支払った退職金も,受け取った個人にとってはどのような扱いになり,実質的な,つまり税引き後の受け取り額はどの程度になるのだろうか?

 このことの理解は,退任後の経営者の生活原資の主要な要素である退職金の実額を把握するという観点でも重要なことといえる。

 この点を理解することがここでの目的である。


1)退職所得の計算

 退職金を受け取ると,所得の分類上,退職所得に分類される。退職金は,長きにわたる勤続の所産として受け取るものであり,また個人にとっては老後の生活資金原資としてきわめて重要なものである。このような観点により,担税力は通常の所得に比して強くないとの判断から,以下のような計算で所得が算出されることとなっている。

 退職所得の金額=(収入金額−退職所得控除)×1/2

 まず収入金額であるが,これは退職に際して受け取る退職手当である。ここまで取り上げてきた経営者や役員の退職慰労金もこれに当たる。

 退職所得は,この収入金額から所得控除としての退職所得控除を差し引いた上で,さらに1/2にして算出される。つまり,退職所得控除後の金額の半分しか課税対象にならないわけである。

 このようにして算出された退職所得であるが,所得税額の計算においては,他の所得と合算されず,分離して所得税率表を適用する方式が採られている。

 この分離課税方式は担税力からの配慮であるが,きわめて合理的な結果を生んでいるといえそうだ。たとえば,退職金をもらう月によって実質的に税率が相違してしまうような事態の排除にも役立っている。

 通常考えれば,退職金があるということは,退職までは給与所得があることが一般的である。このため1月に退職した場合と,年の終わりの12月に退職したような場合,給与所得と合算されると,それにともなって退職金も含めて税率が上昇してしまうケースが考えられる。

 長期勤続の所産としての退職金であるにもかかわらず,たまたま退職した時期(その年の)によって実質的な実効税率が相違してしまうようなことになりかねない。そういう意味でも分離課税方式は合理的な措置といえよう。

 次に退職所得控除である。



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