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2)経営者を対象とした生命保険契約

 まず,経営者を対象とした生命保険契約の契約形態を確認しておこう。通常,下表の通りである。

保険契約の当事者 該当者
保険契約者 当該企業(法人)
被保険者 経営者・役員
保険金受取人 当該企業(法人)

 保険契約者は保険契約の一切の権利と義務を持つ。義務の代表的なものが保険料の支払いである。被保険者はその保険契約の保障(死亡や入院など)の対象となる人のことである。保険金受取人は保険事故が発生した際に保険金の支払いを受ける人のことである。保険金受取人を指定する権利は保険契約者が持つ。

 さて本題の経営者を対象とした保険の目的に話を進めよう。

 企業が法人として存在するということは,経営者個人の生存とは別に,事業の継続性があることを前提としている。しかしながら,大企業に比べれば,中小企業は同じ法人格を持っているとはいえ,経営者個人の,その法人企業の経営に対する貢献度・寄与度はいうまでもなく絶大である。「社長の技術で事業が成り立っている」,「社長の個人資産の上で法人が成り立っている」,「社長の信用で取引条件が決まる」,「社長の信用で金融機関からの借入れができる」など,その貢献度・寄与度は広範囲にわたっていると思われる。

 このような観点から,中小企業においては,経営者=社長が万一死亡してしまうような事態に備えた対策が必要である。この対策は,根本的には後継者の育成や自社株の対策など様々であるが,その対策の一つとして生命保険の利用が考えられるのである。法人の世代を越えた継続性は,根本的にはその事業を継続していくことのできる人材=後継者の存在が必要である。

 生命保険はその対策にはならない。生命保険ができることは,万が一そのような事態に遭遇した際,短中期的にそれを支える資金準備である。もともと生命保険は,一定期間(特定の期間=10年,20年とか,終身とか)中に被保険者が死亡した場合,定められた死亡保険金を支払うという契約内容となっているものが一般的であり,その性格から前記にあるような対策としての利用が挙げられるのである。保険金は,当座の資金繰りに充てられたり,借入れの返済などに充てられる。

 このような利用をここでは「事業保障」と名づけよう。

 次に挙げられるのは,いわゆる社長退任時の退職慰労金準備である。もともと中小企業では,社長の個人資産の上で経営が成り立っている場合が多いため,社長が退任(この退任は生存の場合,死亡の場合,両方あり得る)した際の本人や家族の生活保障準備は必須である。社長退任後の本人や家族の生活のために,それまで事業の用に供していた資産が事業には利用できないというような事態を避けるという意味で,これは事業承継の裏づけともなるものだ。

 ここでは,この退職金準備としての利用を「退職慰労金準備」と名づけよう。

 次に挙げられるのは,少し性格の違う取り上げ方であるが,生命保険の利用目的としては,かなり一般的なものである。それは「課税の繰り延べ」である。通常節税といわれることもあるが,単純な節税以外の包括的な意味もあるので,ここでは「課税の繰り延べ」と表現しよう。

 生命保険は,一定の要件(契約形態,保険種類など)によりその支払い保険料が損金となるケースがある。このため保険料を損金として処理し,一定期間経過後に保険が終了(解約など)した際に受け取る返戻金等が益金となる。

 つまり,保険料支払い中はその損金算入した分は課税が繰り延べられ,最終的に保険が終了した際に受け取る金額が益金として課税されるわけである。この利用は,数年前の逓増定期保険の税制変更などで注目されて大きく取り上げられたため,記憶に止めておられる方も多いだろう。



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