タナベマネジメントレター


コンサルタンツ・EYE
『部下への思い〜当たり前では人は動かない〜』


 東京駅中央線のエスカレーターはとても長い。ステップには100人を超えるであろう多くの人が連なっていた。ひとりの若者が「片方に寄れよ! 通れないじゃんかよ!」と怒鳴った。確かに人が並列し、追い越すことができない。しかし、誰一人として道をあける者はいなかった。

 通勤電車の中、つり革につかまっていた中年女性が、目の前に座っている学生に「席を譲ってくれない?」と硬い声音で言った。「嫌だね」と学生。女性はバッグからおもむろに赤い手帳を取り出し「障害者なのよ!」と声を荒げた。「俺だって足を痛めてんだよ。座りたかったらもっと早い時間に乗れば良いじゃん」と一蹴。女性は唇を噛みしめ涙まで流しているが、「では私が」と席を譲ろうとする者は現れなかった。

 さて、この二つに共通するものは何か。当たり前からくる傲岸と傲慢ではないか。エスカレーターの片側をあけるマナーは誰でも心得ているし、身体の不自由な方に席を譲る良心も備えている人が圧倒的だ。しかし、この時は誰も反応すらしなかった。

 辞書を引くと、おごり高ぶってへりくだらない様が倣岸であり、人をあなどって礼儀を欠くことが傲慢。エスカレーターの若者も、赤い手帳を取り出した女性も、充分過ぎるほどに正当性を持っていた。しかし鼻についた言い方や態度では、たとえ当たり前のことでも人は動かせないのだ。

 江戸時代、皆が快適なコミュニティを図るための生活習慣として、商人がもたらした“江戸しぐさ”という文化があった。これらの本質は他者尊重である。

 エスカレーターでは“肩引き(=狭い道で人とすれ違うとき、お互いに肩を後ろへ引いてぶつからないようにすること)”、電車の座席は“こぶし腰浮かせ(=乗合するとき、後から来る人のためにこぶし一つ分ほど詰めて席を作ること)”で解決できたはずだ。

 「部下はこのようにするのは当然だ、こうあるべきだ」といった言動ばかりで、感謝や思いやりの欠片もない上司には誰もついて来ない。ましてや身を超える努力もしないだろう。部下は想像以上に上司をよく見ているものだ。部下への思いが伝わっているか、自身の言動を今一度振り返っていただきたい。



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