コンサルタンツ・EYE
『経営者の夢』 社長には夢があった。社長を長男に譲った後は会長として会社に残るが、これからの人生は自分の夢のために使うと心に決めていた。その夢とは、自分の趣味の集大成の実現であった。そして68歳になり、専務である長男(40歳)に社長を譲った。 会長の趣味はイングリッシュガーデンづくりとワインの収集、そして音楽を聴くことであった。これら全てを一ヵ所で楽しめる場を作るという夢に向かって取り組んだのである。 イングリッシュガーデンは本場イギリスから技術者を呼び寄せ、会長自らが中心となって庭造りを行い、その中にイタリアンレストランと小さな音楽ホールが建てられた。音楽ホールには、本格的なパイプオルガンをイタリアから持ってくるという凝りようである。地下のワインセラーには、プロが見たら垂涎の的となる銘柄がたくさんあるそうだ。完成までには5年。こだわりを貫くにはそれなりの時間が必要であった。 社長は、会長の行動を少し不満気に話してくれた。「会長は会社に全然出てきていない。イングリッシュガーデンづくりに時間を取られ、会社は全て私に任せている。報告だけはきちんとしていますが・・・」とのこと。しかしそのように話す顔には、任されているという責任を感じながら社長業を勉強中という充実感が感じられ、時折笑顔も見られた。 後継問題は、さまざまな問題を含んでいる。コンサルタントとして多くの企業の相談を受ける中で、最も多い後継問題が「社長の座を譲り会長となった後でも、会長が社長のように振る舞い社員に睨みを利かせ、実質は以前と全然変わらない」という幹部の声である。 何十年もの間、社長として厳しい波を乗り越えてきた前社長が会長になったからといって、経営に一切口を出さないということはなかなか出来ることではなく、会社を思う気持ちがそのような行動に出てしまうのは理解できる。 しかし環境の厳しい時代を迎え、ますます「組織力の強化」が重要となってきている。トップが誰だかわからない、つまり組織のベクトルを集中できない企業が生き残るのは難しい。「口を出す」ということと同じくらい「口を出さない」ということが重要になっている時代とも言えよう。 先述した会長は「自分の夢のために時間を使う」と言いながら、「会社の継続こそが真の夢。それを実現するためにも口は出さない」というのが本音なのではないか・・・とふと感じた。機会があれば会長に直接聞いて、ぜひ本心を確かめてみたい。
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