電子記録債権の会計税務と経営活用術

コラム

第3回 電子記録債権の管理方法

(16.05.18)

 前回までの法律上での記録事実の認識・会計処理と消費税に続いて、今回は電子記録債権の管理手法を検討してみます。
 「電子記録債権は、紙媒体ではなく電子記録により発生し譲渡され、分割が容易に行えるなど、手形債権と異なる側面があるものの、手形債権の代替として機能することが想定されており、会計処理上は、今後も並存する手形債権に準じて取り扱うことが適当であると考えられる」(平成21年4月9日企業会計基準委員会公表:実務対応報告第27号「電子記録債権に係る会計処理及び表示についての実務上の取扱い」前文)。この様に電子記録債権は手形と似ている様であれば、その管理にも似通った方法或いは全く逆な方法もあるのではないか?ここではメリット・デメリットを認識した上で管理方法を考えてみます。
 その前に手形・小切手の利用者の実務をみてみます。
1、手形・小切手の取引
 筆者の顧問先に、紙での約束手形を頂き、同じく紙での約束手形を振り出している会社があります。その約束手形の作成は商店主の奥方が、金庫からブランクの手形用紙を出して器用に日付金額等の打ち込みをしています。商店主は領収証と収入印紙を準備して得意先に約束手形を貰いに行き、奥様は手形を取りに来た仕入先に上記の様に作成して領収証と引き換えに約束手形をお渡ししています。何十年もこの作業を月1回はしていますので、最近では打ち間違いもあまり無い様ですが、最初の頃は間違いも結構あり、失敗した手形の番号を切り取って控に貼り付けなどよくされていたようです。
 奥様は経理も担当していますので、それらの領収証や控を基に、受取手形帳、支払手形帳を作成しています。手書きです。
 手形を使っている得意先は約10件、仕入先も同様に10件程度ですので、苦も無く毎月の業務として行っています。
 また、小切手も同様に得意先から頂き、仕入先に小切手をお渡ししています。私にも年に1度の決算料は小切手でお支払い頂き、その小切手を私の口座のある銀行の窓口にて預金口座に入金してもらう手続きをしますが、銀行の窓口の担当者は、私にこの小切手の入手理由や私の仕事の内容、過去に当支店で小切手の扱いをしたことがあるかどうかなどを質問され確認した上で入金処理をしてくれます。
 卑近な例それも小規模な例で大変恐縮してしまう内容ですが、これらの取引が無事安全に出来るということは、法律や長年の慣習と信用のお陰だと思います。また逆にこの内容には、至る所に危険性が含まれていることがお分かりだと思います。
2、債権の消し込み
 売掛金などの債権残高は、どこの相手先にいつ何を売ったものが幾ら存在して、それがいつどのような形で幾ら入金されてくるのか?というのを通常毎月の残高ベースで知っていなければなりません。知っていなければ逆にいつどこに幾ら支払うか?といった債務の管理が出来なくなりますので、債権管理は非常に大切な管理となります。
 特にいつ(期日)、幾ら(金額)、どのような形で(現金? 小切手? 振込? 手形? ファクタリング? 電子記録債権?)が大切です。
 一般的なケースでは振込が多いと思いますが、この場合入金する相手が多い・相手先が不明確・通帳入金額で相手先を特定しようとしますと、入金額と売掛金額が不一致(振込手数料負担や代金の一部しか支払われないなど)などの不都合がよくあります。金融機関によっては補助の振込口座の設定サービスで、入金相手先を特定することもできます。また、得意先管理帳簿や会計処理に取り込むソフトもありますが、相手先を特定してもいつの分の代金かをなかなか特定できないのが通常です。こと売掛金の消し込みは大変な作業です。
 売掛金から受取手形に換われば、自分達と得意先とが同意した金額で引き落とされますので、預金入金消し込みの苦労から解放されます。
 電子記録債権ではどうでしょうか?電子記録債権の電子記録に登録には、債権者・債務者の申請が必要なので手形と同様に同意した額が同意した期日で入金されますので預金入金消し込みの苦労はありません。その苦労から解放の意味では手形と電子記録債権は同じ機能を有しています。
3、手形と電子記録債権のメリット・デメリット
機能の種類 手形 電子記録債権
作成・登録
・運用コスト
  1. 印紙税:手形発行者は手形に印紙税課税。受取った者が領収証を発行したら領収証に印紙税課税。
  2. 手形帳・署名料で手数料。
  1. 紙税や手形帳署名料はなし。
  2. 記録手数料・残高証明等手数料・システム等運用手数料等の発生。
盗難・漏洩等のリスク 手形発行者側:ブランクの手形用紙の盗難・白紙手形の発生。 発生記録により電子記録債権100が発生。
任意記載事項 不必要な事項の記載は手形自身が無効。 任意記録が有効。
金額の分割 不可。 可能。
支払期日の変更 債権者の同意の上可能。 債権者・債務者の申請により記録の変更は可能。
4、販売管理ソフト会計ソフト
 上述の売掛消し込み等債権管理を販売管理ソフトで行っているケースもあれば、比較的小規模な会社では会計ソフトで行っているケースがあります。どちらにしても管理は大変です。また、売掛金や買掛金の全額を手形や電子記録債権に振り替える訳でもありませんので、可能な限り自動で手数をかけない(手数がかかれば間違いも発生します)方法が望ましいです。
 先述しました電子債権記録機関の1つ(株)全銀電子債権ネットワーク(通称:でんさいネット)を例として、システム利用する前に考慮すべき事項を考えてみます。 当然にでんさいネットだけでは、上述の債権・債務管理(いつ・どこに・幾ら・どの様な形で)はできませんので、現在使用している債権・債務管理ソフト機能に以下の点の有無を注意する必要があります。
(1)ご利用中の買掛金管理システム(支払管理システム)から、支払先別の支払額をCSV出力した後、でんさい管理ソフトにて、それを読み込んで、でんさいの支払いデータが自動生成されれば、手数が省けその分間違いが少なくなります。
(2)でんさい管理ソフトにて、取引の仕訳データが自動作成できて、現在ご利用中の財務会計ソフトでデータ受け入れできることができれば同様に手数の省略と正確性が増します。
(3)でんさい管理ソフトでは、でんさいネットを利用する債務者の立場、債権者の立場の双方での期日管理が可能であることが必要と思われます。
(4)でんさい管理ソフトでは、債務者の立場では発生、決済が、債権者の立場では受領、譲渡、割引、決済入金管理が可能であること、即ちでんさいネットからダウンロードしたデータを利用して、すべての顛末の管理ができて、手入力が不要であることが必要になってきます。
(5)なお、手形支払いを行っている企業では、手形支払をでんさいネットの利用へ切り替える際には、一定期間は手形管理とでんさい管理の二重管理が必要になります。また、すべての手形支払先がでんさいの支払いに同意してくれるとは限りません。
 先ずは、優れた手形管理システムの採用により手形の管理を省力化して、それにより捻出された余力ででんさいの管理に取り組めるようになることが理想的な姿です。
 また、手形管理システムで、オフィスで一般的に利用されているレーザープリンタ・ドットプリンタ・インクジェットプリンタで手形発行ができると発行事務が省力化できます。
 その意味では、手形管理とでんさい管理がひとつの管理ソフトで行えると、操作や運用がスムーズ行えます。
(6)小規模な会社で債権債務の管理を会計ソフトで行っている場合には、でんさいネット及びインターネット・バンキングまたはファームバンキングシステムからダウンロードした預金入出金取引明細を読み込んで、入金消し込み、支払消し込みが可能で会計連携が可能なシステムがあると便利です。