会計事務所と顧問先をむすぶCLUE 第136号

 ≪CONTENTS≫

 今月の特集・・・ 『相続税の基礎知識 相続税はかかる?かからない?』
 経理・税務・・・ 『「退職金」に係る経理と税務と周辺知識』
 経営・財務・・・ 『不況期のビジネスも出る 鍵は損益分岐点売上の小さい商売』





 今月の特集

相続税の基礎知識 相続税はかかる?かからない?

相続税の鍵は基礎控除と自宅敷地の評価

平成19年に亡くなった人は約98万人。そのうち相続税がかかったのは約4万人。
ということは、相続税のかかる割合は約4%(4万人÷98万人)です。つまり、100人の方が亡くなって、相続税がかかるのはせいぜい4人、残り96人は相続税がかからないのです。

ざっくりと申し上げましょう。時価1億5,000万円くらいの自宅(敷地70坪程度)と、その他の財産5,000万円くらいでしたら、ほとんど相続税はかかりません。
「えっ!2億円もの財産があっても相続税はかからないの?」と思われるでしょう。しかし実は、そうなのです。順を追って説明しましょう。


かかる?かからない?判断ポイント【1】 〜基礎控除〜

相続税は一定金額を超える財産を遺して亡くなった場合にかかる税金です。

例えば、相続人が配偶者と子供2人で計3人のケースは財産額が8,000万円(相続税の基礎控除)まででしたら相続税はかかりません。8,000万円を超える財産を遺した場合に、相続税がかかります。
相続税の基礎控除は相続人の数によって決まります。具体的には「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」で求めます。


かかる?かからない?判断ポイント【2】 〜自宅の評価の特例〜

「残した財産の主なものが自宅で、その立地が良い場所にあるため、相続税評価額が1億5,000万円にもなり、基礎控除を超えるので相続税がかかる」といったケースだと、相続税を払うには自宅を売るしかありません。しかし、相続税は、そこまで厳しい税金というわけではなく、最低限「自宅」は守ってあげようという趣旨で、自宅の敷地の相続税計算においては、200平方メートルまで50%引き(または240平方メートルまで80%引き)となる特例が設けられています。これを「小規模宅地等の課税価格の計算の特例」といいます(事業用の宅地で一定のものについても400平方メートルまでこの特例を受けることもできる)。

例えば、配偶者が自宅敷地の一部または全部を相続すれば、小規模宅地等の特例により、自宅敷地のうち240平方メートルまでの部分の相続税評価額は80%引き、つまり20%評価となります。このケースだと、時価(路線価評価額)1億5,000万円の自宅の敷地(70坪)は、特例を受けると相続税評価額は3,000万円(1億5,000万円×20%)となります。

したがって、相続人が配偶者と子供2人の計3人で、相続財産が他に5,000万円あるという場合、相続財産の評価額は自宅敷地3,000万円とその他財産5,000万円で、合計8,000万円となり、基礎控除以下になるため相続税はかかりません。先程、2億円程度のケースなら相続税はかからないとざっくり申し上げましたが、これが種明かしです。


「相続税がかからない」人はどうすればいい?

相続税がかからないからと言って何もしない訳にはいきません。ケースに応じて手続きが必要です。

【1】相続税がかからず相続税の申告書も提出する必要のないケース
自宅の敷地について小規模宅地等の特例の適用を受けなくても、遺産額が基礎控除以下のケースなら、相続税の申告は不要です。

【2】相続税がかからなくても相続税申告を提出する必要があるケース
小規模宅地等の特例(自宅等の敷地の評価について80%引きまたは50%引きとなる特例)の適用を受けた結果、相続税がかからないケースは、ひとまず安心です。しかし、この特例を受けるためには、相続発生後、やっておかなければならないことが2つあります。一つ目は、「小規模宅地等の特例の適用を受ける自宅の敷地」について、誰が相続するか遺産分割を決めること。200平方メートルまでの部分について50%引きになるか、それとも240平方メートルまでの部分について80%引きになるかは、「その自宅敷地を誰が相続し、その後どのように利用しているか」によって決まるからです。
二つ目は、相続税の申告期限(相続発生後10ヶ月以内)までに、この特例を受ける旨を記載した相続税申告書を提出しなければならないこと。小規模宅地等の特例は、申告書を提出してはじめて認められることになっていますので、お忘れなく。

【3】相続税がかからなくても相続人が2人以上いたら遺産分割対策が必要!
相続税がかからないケースは、当然のことですが相続税対策は不要です。しかし、相続人が複数いる場合には、遺産分割対策が必要になります。
先程のケース、つまり相続財産が時価1億5,000万円の自宅とその他財産5,000万円(計2億円)で、相続人は配偶者と子供2人(計3人)のケースで考えてみましょう。

この場合、その他財産の大半は配偶者の老後の生活資金当で使ってしまうことになると思われます。したがって、自宅(時価1億5,000万円)を配偶者と1人の子供が相続すると、もう1人の子供はほとんど相続するものがありません。これでは、不公平ではないかと、兄弟間でトラブルにもなりかねません。
「遺産分割対策」というと大げさに思われそうですが、ちょっとした生活の知恵として、スムーズな遺産分割のための準備は早めに考えたいものです。

例えば、兄弟のうち自宅を相続しない弟を受取人とし、被相続人を被保険者とする生命保険に加入しておくのもよいでしょう。保険金額は何も自宅の時価と同額にする必要はなく、可能な範囲の金額でいいと思います。「兄貴は時価1億5,000万円の自宅をもらうのだから、私は保険金1億5,000万円欲しい」と弟が主張するケースは一般的には多くないと思われるからです。
確かに、兄の取り分が時価1億5,000万円の自宅で、弟がゼロ、では納得できないでしょう。でも、仮に、保険金を5,000万円にすれば、「兄貴は時価1億5,000万円の自宅をもらうけど、そこに住んでいる限りは現金化できるわけではない。それに比べて、私は5,000万円の保険金をもらえるのだから、このお金で自分の好きなところに自宅を買うこともできる」となり、丸くおさまるケースが多いのではないでしょうか?


遺産分割協議書の必要性と作成の仕方〜協議書は全員の承諾のもとに作成する〜

■相続人全員の参加が必要

相続人同士で遺産分割の協議が成立したら、通常は「遺産分割協議書」を作成します。もっとも、遺産分割は必ず書面にしておかなければならないというものではありません。後日、相続人同士にトラブルが生じる恐れが完全になければ、書面にしなくてもかまわないのです。
ただし、協議書を必ず作成しなければならない場合もあります。それは相続税の申告が必要な時と、不動産の相続登記を行う際に、登記原因の証明をする時です。理由は、遺産分割協議書を申告書や登記申請書に添付する必要があるからで、協議書を申告書に添付しなければ「配偶者は法定相続分まで非課税」という軽減措置が受けられません。


遺産分割協議書の記載例


遺産分割協議書には、これといった作成のルールはありません。書式や形式に決まりはないので、内容が明瞭でさえあればどのような形でもよく、自由に作成できます。
作成の際には、筆記しても、ワープロを使ってもかまいませんし、タテ書きでも、ヨコ書きでもよいとされています。ただし、土地や建物の所在や面積などは登記簿謄本に記載されているとおりに書く必要があり、協議書への押印は印鑑証明を受けた実印を用います。実務的には司法書士、税理士、弁護士等々に作成支援をお願いされるのが賢明です。



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「退職金」に係る経理と税務と周辺知識

退職金は、通常の給与とはその性質から異なり、事務処理についても退職金特有のものが数多く存在します。
退職金に関する特別な規定や事務処理を以下にまとめましたので、今一度確認してみましょう。


退職金の意義

従業員が退職することによって支払われる金員が退職金ですが、実は労働基準法上には退職金(退職手当)の意義に関する記載はありません。
但し所得税法には「退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」という文言があります(所得税法30条)。


税金とその計算

従業員や役員に退職金を支給する場合においては、その退職金の額によって所得税等の税金が課税される場合があります。
一体いくらの税金がかかるのでしょうか。
退職金にかかる税金には所得税と住民税(住民税=都道府県民税4%+市区町村民税6%)があり、以下の計算によって算出されます。なお退職金に社会保険料はかかりません。

(1)所得税の計算
ア:(退職金の額 ― 退職所得控除額※)×1/2=課税退職所得金額
イ:課税退職所得金額×所得税率=退職所得に係る所得税額
※退職所得控除額:勤続年数×40万円(最低80万円)。なお、勤続20年超の場合は800万円+70万円×(勤続年数−20年)。

(2)住民税の計算
住民税の計算は基本的には所得税と同一です。但し最後に算出税額に90%を乗じます。
(例)都道府県民税の計算
ア.(上記(1)で算出した課税退職所得金額×4%)・・・a
イ.×10%・・・b
ウ.a−b=退職金に係る都道府県民税
※市民税も同様の方法で計算します。


税金の徴収手続き

退職金を支給する場合、税金について前述の方法により計算しますが、では実際の源泉徴収(天引きのこと)の方法はどのように行うのでしょうか。
退職金に係る源泉徴収のしかたは、退職する人から「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」の提出を受けている場合と受けていない場合とで異なります。
※「退職所得の受給に関する申告書」は会社で保管してください。

(1)「退職所得の受給に関する申告書」を作成している場合
前述の方法で算定した所得税と住民税の額を退職金から源泉徴収し、残額を従業員に支給します。

(2)「退職所得の受給に関する申告書」を作成していない場合
所得税については前述の計算方法によらず、単純に退職金の20%を源泉徴収します。
住民税はこの申告書の有無に関わらず正規の税額を計算して源泉徴収することになります。
この場合、所得税の計算が概算で行われるため、退職者は後日自分で確定申告をする必要があります。


源泉徴収した税金の納付

所得税と住民税のいずれの税金も、支給した月の翌月10日までに納付が必要です。
所得税は毎月の給与の源泉所得税の納付書に給与と並べて記載し、納付します。なお給与源泉所得税を半年ごとに納付(納期の特例)している場合には、給与とは別に納付書を作成して翌月10日までに納付します。
住民税は、市区町村から毎月4月〜5月に届く特別徴収の封書に退職金に係る源泉徴収の納付書が添付されていますのでそちらを使用します。
注意点として、源泉徴収義務がある法人がその納付をしなかった場合で後日その未納付が判明したときは、その個人にではなく法人に納税義務が生じるということです。退職した従業員には税金分を含めた退職金総額を支給し、更に税務署に税金を支払うことになった、などということがないように気をつけてください。


解雇予告手当

労働基準法第20条には、労働者を解雇する場合には、原則として30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金(「解雇予告手当」のこと)を支払わなければならないと規定されています(解雇予告手当の支払いは、解雇通告と同時にしなければなりません)。
また解雇予告手当は税務上は退職所得となります(給与ではない)ので、上記に掲げる退職所得の受給に関する申告書等の保管が必要となります。


役員退職金の支給

役員退職金の支給について、税務上、特に問題となるのは役員退職金の「金額」です。
代表取締役として経営してきた社長が退職することになった場合、一体いくらの退職金を受け取ることができるでしょうか?
実務上、役員退職金について一般的に使用される計算式は以下となっています。
【役員退職金=退職時の役員報酬月額×役員在任年数×功績倍率(+功労加算金)】

※功績倍率
一般的な目安は以下といわれています。
会長3.0、社長3.0、専務2.5、常務2.3、取締役2.0、監査役1.5
但し過去の裁判例では、代表取締役に対する功績倍率を3倍超としたものもあれば、2倍に満たないとしたものもあり、その個々の法人の状況により判定されています。

※功労加算金
功労加算金は一般的に退職慰労金の30%を超えない範囲とされています。
税務上の問題は、上記の計算結果が必ず税務上損金として認められるといったものではないということです。
そして役員退職金も役員報酬と同じように株主総会の決議によって決定されますので議事録の作成は必須です。また一定の基準に基づいて支給していることを明らかにするためにも「役員退職慰労金規程」を制定しておくのが良いでしょう。


役員退職金の経理方法

平成18年度の税制改正により、以前は役員退職金を費用計上するためには法人税法上不可欠とされていた損金経理要件が廃止されました。従って役員退職金の支払い時に損金経理処理が必要もなくなりました。
実際の損金算入時期は、役員退職金の支払額を株主総会で決議した事業年度または実際に支給した事業年度となります。


死亡退職金の非課税

役員や従業員が死亡した場合に退職金を支払う場合で、「その死亡により支給される退職手当金や功労金等でその死亡後三年以内に支給が確定したもの」については相続税の対象となるため、所得税や住民税は非課税となります。


退職金の支給に備える(例)

(1)従業員:中小企業退職金共済
いわゆる中退共といわれる共済制度です。「安全・確実・有利」をうたって国(独立行政法人)が運営している機関であり、新規加入時の助成金や税法上損金経理が認められるなどの有利な制度を用いて、中小企業に退職金の積立を斡旋しています。
 中小企業退職金共済事業本部
もちろん、民間の保険会社で取り扱う「福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)」なども有効な手段です。

(2)役員:長期平準定期保険等
一般的に役員の退職金は多額になるケースが多いため、経営上の観点からも十分な準備が必要となります。代表者であれば万一の際の運転資金の確保から仕入先への支払い、従業員の再就職までの給与等を考える必要もあり、長期の安定した保障がある保険が望ましいと思われます。


時効

余談ですが、退職金にも「時効」という概念が存在します。労働基準法では「退職手当の請求権は5年間行わない場合には、時効によって消滅する」としています(労働基準法115条)。





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不況期のビジネスも出る 鍵は損益分岐点売上の小さい商売

世界同時不況の渦中で、中小企業各社は厳しい経営を強いられています。不況期のビジネスは、損益分岐点が低い商売を心がけることに限ります。例えば、立派な内装で1億円もかけた100坪の高級レストランと500万円程度の内装で5坪程度の立ち飲み屋。さて利益はどちらか多いでしょうか?
大多数の人は高級レストランの方が大儲けと思うでしょうが、実態は高級レストランが大赤字で立ち飲み屋が大儲けという事例が山ほど転がっています。鍵は損益分岐点という考え方です。


損益分岐点売上とは?

損益分岐点とは文字通り、損益が分岐する点ということですから、利益が0となる時点での売上と言うことになります。損益分岐点売上を知ることで、実際の売上との差額が安全性の指標となるわけです。

例えば損益分岐点売上が、1,000万円で実際の売上が1,500万円ある企業は500万円売上が落ちても±0で赤字にはならないと言えますし、逆に実際の売上が800万円の企業は、あと200万円売らないと黒字にはならないことがわかります。

損益分岐点売上の計算は以下の計算により求められます。
1.売上−変動費=限界利益(付加価値)
2.限界利益÷売上=限界利益率
3.固定費÷限界利益率=損益分岐点売上
この算式を見てわかるとおり、経費を変動費と固定費に区分しないと損益分岐点売上は把握できないということになります。


固定費・変動費とは何か?

実際の決算書上、変動費・固定費とは何かと言うことになりますと、決算書には、変動費や固定費としての表記はありませんので、表示された科目から変動費や固定費を選択集計しないとなりません。変動費と固定費には様々な説がありますが、要は売上とリンクして増える費用が変動費です。
勘定科目では、「材料費・外注費・商品仕入・売手数料・荷造運賃」等が該当すると思われます。
しかし企業によっては歩合制の給与などがある場合は、給与も変動費となります。そして、その他が固定費と考えられます。
(実際の売上−損益分岐点売上)×限界利益率=利益

 不況期は損益分岐点売上の小さい商売がよいのでしょうのか?

例)高級レストランの損益分岐点売上

原価率 40%として
固定費 地代家賃 100坪×25,000円×12カ月=30,000,000円
減価償却費  1億円÷10年=10,000,000円
人件費  5,000,000円×12カ月=60,000,000円
その他経費 5,000,000円×12カ月=60,000,000円
固定費計 160,000,000円として

損益分岐点売上は、160,000,000円÷0.6=266,666,666円
月売上13,333,333円必要となる。

例)立ち飲み屋の損益分岐点売上

原価率 30%として
固定費 地代家賃 5坪×25,000円×12カ月=1,500,000円
減価償却費  5,000,000円÷10年=500,000円
人件費  500,000円×12カ月=6,000,000円
その他経費 500,000円×12カ月=6,000,000円
固定費計 14,000,000円として

損益分岐点売上は、14,000,000円÷0.7=20,000,000円
月売上1,666,666円必要となる。

毎月の売上が1,400万円でようやく利益が出せる高級レストランと毎月170万円で利益が出せる立ち飲み屋。この不況期の経営から言えば1,400万円の毎月の売上、日に直せば25日営業日として1日56万円の売り上げの確保は至難の業。
他方、170万円の売り上げで25日営業日として、1日7万円で利益が出せる立ち飲み屋。鍵は固定費の低さにあります。固定費の中でも地代家賃と減価償却費はコストカットのやりようがないものです。商売は見かけではありません。駅中の5坪程度の立ち食いソバ屋やカレー屋さんは意外に大儲けなのです。銀座・赤坂の1等地の内装に大金をかけたお店の倒産の方がはるかに多いです。特に不況期にあって、固定費の高い商売、装置産業の投資は慎重に。過剰投資1回の失敗は即倒産の道です。


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