● 今月の特集
はじめに 経理とは一般的に簿記や仕訳といった経営者とは無縁のことと思われがちですが、経理の本当の意味は【経営管理】の略語であり、経営そのものといっても過言ではありません。経営者は経営の舵取りをし、自分及び社員の家族も含めて目的地に到達するための責任ある仕事を担うのですから、経営管理のツールとして経理のガイドラインについて知っておいて欲しいと思います。 会社の儲けを正確に見る 〜損益計算書を学ぶ〜 1.損益計算書で黒字か赤字経営かがわかる損益計算書の5つの利益 会社はいくら儲けたか、利益はいくら出たか、これが会社の成果を表すものです。その儲けは本業でしっかり儲けたのか、ツキが良く偶然儲けたのか、あるいは経営が非常に苦しく、やりくりした上で利益が出たのか、これが一目で分かるのが損益計算書です。 損益計算書は一般的にP/L(プロフィット・アンド・ロス・ステイトメントの略)と呼ばれています。損益計算書は以下の構造を持ち、利益は5つに区分されます。 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 営業利益 営業外収益 営業外費用 経常利益 特別損失 特別利益 税引前当期利益 法人税等 税引後当期利益 ■ 売上総利益 売上高から仕入や外注費等の直接的な原価を差し引いたもの。粗利益ともいう。ちなみに原価÷売上高=原価率といい、経営者は自社の原価率を毎月把握し、同業他社と比較しておくことが原則です。 ■ 営業利益 粗利益から人件費・家賃・通信費・交際費など会社を維持したり売上を上げるために使った経費を差し引いた額。本業での利益。 ■ 経常利益 営業利益に対して、雑収入・受取利息や支払利息等、本業以外の活動で発生した損益を加減算したもの。本業以外の利益を加減算した会社の日常的な利益。一般的に【けいつね】と呼ばれ会社の利益として最重要される利益。 ■ 税引前当期利益 経常利益に投資又は事業用不動産の売却や有価証券の売却、巨額な貸倒損失等特別な理由による損益を加減算した利益。 ■ 税引後利益 支払った税金で会社の経費にならないものを差し引いた残り。当期利益・純利益ともいい、会社の最終的な利益。
(1)同じ給料でも扱いは色々 同じ給料でも損益計算書に掲載される場合、様々な取り扱いがあります。 まず、製造・医療・印刷等製造原価報告書を作成されている会社であれば、役員の工場長は製造原価の役員報酬、一般社員は賃金、現場パート・アルバイトは労務費の中の雑給となり、その人達に関連する社会保険等の会社負担分等の法定福利費・通勤交通費・福利厚生費等は労務費となります。製造原価の労務費は製造原価報告書に以下のように記載されます。 また、現場以外の役員・社員・パート、アルバイトについては、販売費及び一般管理費に、役員報酬・給与手当・賞与・雑給・通勤交通費・法定福利費・福利厚生費として記載され、人件費計として集計されます。 ※人件費のポイント 1人あたりの売上総利益を知る!
2.支払利息のコストを知る 現在の金利は、(1)国金で2.3%(平成18年11月現在)(2)保証協会付き融資で、保証料含めて3.5%(3)ビジネスローン銀行無担保融資3.0%程度です。しかし、年間1億円の借入金があれば、支払利息が年間350万円、1ヶ月29万円、1日9,700円、1時間399円と利息は寝ている間にも発生しています。借入金が1億円程度の会社はざらにありますから、1時間に400円が勝手にコストとして発生していることを意識した経営をしてください。 損益計算書は会社の1年に1回の通信簿です。月次決算書を作成し、最低年12回の通信簿にしましょう。 余談ですが、ソフトバンクの孫社長は日次決算制度を採られていることで有名です。毎日が決算ですので、経営の舵取りがスピーディなはずです。倒産する会社の統計を取った場合年1回決算の会社が圧倒的に多いとのことです。1日は無理としても月1回の月次決算会計事務所に手伝ってもらえば出来るはずです。 損益計算書は、会社がどのような理由でいくら儲かった、損をしたかを数字でまとめたものです。言い換えれば会社の成績表、通信簿に他なりません。人間誰でも成績は良く見せたいと思うらしく、結構お化粧している会社も多いようです。しかし、会社のお化粧の方法は限定されています。 「売掛金/売上」「買掛金/仕入」「在庫/仕入」の3つしかありません。 比較貸借対照表で売掛金・買掛金・在庫の比率を見れば簡単に見抜けます。素顔のままの経営数値で損益計算書を作成し、黒字の理由、赤字の理由をしっかりつかみ、来期の経営資料にしていくことが必要です。 ウチのふところ具合を探る 〜貸借対照表を学ぶ〜 1.貸借対照表は決算日の断層写真です 貸借対照表のことを一般的にB/S【バランスシート】といいます。貸借対照表とは会社の決算日の断層写真のようなものです。決算日現在の会社がどのようにお金を工面し、運用しているかが1目で分かる表だと言えます。経営者の方々は前月の損益計算書は理解できますが、貸借対照表の理解が難しいという方がおられます。貸借対照表は大きくざっくりと3分割できます。(図1参照) 貸借対照表は下記の場合、平成18年12月31日現在の財政状態を表しています。 負債の部は他人資本【他人のお金】、純資産の部【自分のお金】を源泉として、資産の部はその運用結果を表しています。さらに一番下の数字を見てください。424,716千円と左右が同じでバランスになっています。貸借対照表をバランスシートというのはここから来ています。 2.これだけ会社にお金をつぎ込んでいます。 (図2)の会社の例でいうと、総資産は424,716千円です。総資産とは、会社の財産という考え方もありますが、会社がそのビジネスにつぎ込んでいるお金の総額を示しています。だからといって現金がそんなにあるわけではありません。それだけお金を使って商売に必要なものを買いそろえたといった方が理解しやすいかもしれません。(図2)の会社では、424,716千円のお金をつぎ込んで、商売に必要な商品23,524千円や土地151,000千円等を買いそろえている状態です。 (図2)のように、上から具体的にお金がモノに変わった状態を表しています。それぞれ金額の記載がありますが、それが平成18年12月31日現在の金額です。これは商売によって大きく違ってきます。鉄道会社や製造会社では機械・土地等有形固定資産の割合が多いでしょうが、ソフト産業のように備品以外設備が必要のない会社もありますので、固定資産の少ない会社も多い。この項目は【勘定科目】といい、モノがこのような看板を付けて並んでいると考えてください。
3.資産は購入した時の価額。現在換金すればいくらかの時価ではない 資産はお金が姿を変えたモノだと言いましたが、この金額は、機械・土地・有価証券等買った時の値段に過ぎず、現在換金すればいくらになるかの金額ではないのです。これを【取得原価主義】といいます。ですから資産の含み益や含み損の話が出てきますので年1回決算時に時価貸借対照表(図3参照)を作成されてはいかがでしょうか。 作り方は極めて簡単。 1.現預金はそのまま時価 2.受取手形・売掛金で回収不能見込金額を全額控除する。 3.棚卸資産は現金換金価格で評価する。 4.仮払金・貸付金等回収不能見込金額は全額控除する。 5.土地は現在の売却見込額で評価する。路線価も参考に。 6.有価証券は株価評価する。 7.負債は原則簿価(決算書の数値)が時価である。 4.資産は何処から出たお金で購入できたのか? 資産は会社の資金使途、運用状況を表していることですが、ではそのお金の元では何でしょうか? お金の出所は会社では原則2つしかありません。1つは自分のお金、自己資本です。もうひとつは他人から借りてきたお金、他人資本です。(図4参照)
貸借対照表にはお金の出所が克明に記載されていることを理解してください。 この会社では、他人資本が191,709千円で、そのうち1年以内に返済しなければならないお金が、16,155千円であり、1年以上借り続けられる金額が175,554千円であることが分かります。 これに比例して純資産の部は、会社の元手と長年の利益のうち税金等を支払った残りで構成されており、自己資本と呼ばれています。自己資本は返済の期限のないお金ですから、自己資本が多いほど会社の資金繰りが楽だと分かります。 一番大事なこと 会社は他人や自己のお金を源泉にして、現金を手にし、現金が土地や商品や機械、証券等に姿を変えていることを確認していただいたら、それはモノがそこに寝ているのではなく、お金が寝ていると考えることがわかっていただけたかと思います。一生懸命お金を数える経営者が在庫や売掛請求書を数えないのはここが理解できていないからです。1億円の在庫は1億円の札束と何ら変わることがありません。3億円の売掛金の請求書は貴社が発行する3億円札です。貴社は現金と同じ感覚で在庫や請求書・仮払伝票・貸付金等を扱っていますか? 5.貴社の資本金を知っていますか? 資本金とは株主が払い込んだお金であり、登記簿に記載されている金額です。会社の資金の源泉になるので貸借対照表の右側にあります。そのほか純資産の部には資本剰余金と利益剰余金という項目が並んでいます。資本準備金は株主の出資のうち資本金にしなかった部分です。利益準備金は会社の強制貯金のようなもので、利益配当や役員報酬等の社外にお金が出ていった場合、商法によって一定額を強制的に積立てることになっている部分です。利益準備金以外の利益剰余金は、会社設立から現在までの利益の積立金額です。いわゆる内部留保と呼ばれるもので、会社はこの剰余金を蓄積することが最大の目標とも言えます。 以上をまとめると、 純資産の部…資本金 資本剰余金…資本準備金 利益剰余金…利益準備金 任意積立金 各種積立金 繰越利益剰余金 となります。 純資産の部は株主からみると株主の持ち分になりますから(株主資本)と呼ばれ、会社からみると自前の資金源泉ですから(自己資本)といいます。最近重要視されている経営数値として、(自己資本比率)があります。自己資本比率は自己資本÷総資産で計算しますが、経営の安全性の指標と言えます。会社の資産を自前の資金で賄っていれば倒産はありえません。人から借金で会社の資産が一杯あっても、お金持ちの会社とはいえません。豪華な家に多額な住宅ローン、質素な家で無借金の家庭といったら理解し易いかもしれません。 6.会社にはツケとカケがあります 現代の企業活動は信用取引に負っている部分は多々あります。信用取引とは、簡単に言えば会社のツケとカケとも言えます。 ツケ(支払手形、買掛金、未払金等) カケ(受取手形、売掛金、未収入金等) モノを購入した場合、当月購入したものを20日締め、月末締めといった区切りでまとめ、翌月末、翌々月末等の区切りで支払います。仕入れた時に仕入/買掛金とし、支払うときに手形で支払えば買掛金/支払手形と処理し、現金等で支払う時は、買掛金/現預金と処理します。 カケでモノを売った場合も同じく、20日締め、月末締めといった区切りでまとめ請求書を作成、送付します。そのときの処理として、売掛金/売上と処理し、翌月末、翌々月末等の入金があった場合、手形をもらった時は、受取手形/売掛金、現金の場合は、現預金/売掛金として処理します。 カケの管理のことを【与信管理】と言います。得意先との信用度を数値に置き換え、この会社・個人だったらいくらまでカケ取引を認めようというものです。みなさんもカードを作成する場合、勤続年数、持ち家かどうか等の審査を受け、キャッシュ枠、ショッピング枠がいくらか等という経験があるでしょう。会社の信用取引も同じです。あの会社であればいくらぐらいのカケは大丈夫と管理することを【与信管理】と言っています。 次にカケとツケの差額に注目しましょう。売掛金・受取手形・在庫はお金が形を変えて寝ていると言いました。その源泉は営業に限定すれば、支払手形・買掛金・前受金等です。カケとツケとの差額が直接的な必要運転資金となります。在庫の多い出版社等の黒字倒産が多いのはここに原因があります。また、今流行の人材派遣や業務請負業の資金繰りが苦しいのは、売上はほとんどカケで、支払いは人件費ですから、当月支払いとなり、業務拡大すればするほど売掛金が雪だるま式に増加することが資金繰りを圧迫するのです。業務拡大は資金調達をみながら営業活動することが求められています。 7.こんなものが資産になるのか? 通常資産と呼ばれるものは換金性があり、形のあるものと思われがちですが、経理上資産と呼ばれるものは少し違います。例えば図3のソフトウェア3,248千円です。ソフトウェアはお金を支払った時に全額費用にはなりません。なぜならそのソフトウェアは今後の売上に貢献するものと考えられるからです。これは【収益費用対応の原則】と呼ばれ、費用は収益と対応して計上しなければ、会社の本当の経営成績がつかめないという考えから出ています。 8.貸借対照表は経営管理の道具 貸借対照表はMRIのように現在の資産の運用状況、資金の調達源泉を一目瞭然にしてくれる大事なツールです。貸借対照表を見れば以下の情報は瞬時につかめます。 □会社に今お金はいくらあるのか。 □会社に今商品在庫はいくらあるのか。 □会社に今現金化可能な受取手形はいくらあるのか。 □会社に今カケになっている金額はいくらあるのか。 □会社に今貸している金額はいくらあるのか。 □会社に今大家に差し入れている敷金・保証金等がいくらあるのか。 □会社に今仮払しているお金はいくらあるのか。 □会社に今ツケで購入したものがいくらあるのか。 □会社に今借りている金額はいくらあるのか。 □会社に今出資している金額はいくらあるのか。 □会社に開業以来儲けたお金はいくらあるのか。 以上の残高金額からさらに高度な財務情報が得られます。 ■会社の必要運転資金はいくらか。 ■会社の売掛金回収期間は何ヶ月かかっているか。 ■会社の買掛金の支払期間は何ヶ月で払っているか。 ■会社の在庫は何ヶ月分保有しているか。 ■会社の資金源泉中、自前のお金は何割か。 ■会社の借入金は何年で返済可能か。 ■会社の資金繰りは大丈夫か。 ■会社の固定資産・投資等を購入するにあたって無理をしていないか。 等々 貸借対照表をちゃんと見られるようになれば、様々な情報を引き出すことが出来ます。色んな経営資料を欲しがる前に、月次の決算書を正確につくれる会社、月次の決算書を正確に読める経営者になってください。
1人5,000円以下の【飲み食い】が税務上の経費になる 会社の支出で、税務上の【交際費】に該当するものは経費になりません。より厳密には、資本金1億円以下の中小企業については、年間400万円までの交際費枠があり、その枠内であれば90%が経費として処理できますが、400万円を超えると全額税金が課税されます。また、資本金1億円超の会社では交際費は全額課税されます。 しかし、平成18年4月開始事業年度の法人から【飲食交際費1人あたり5,000円以下については交際費として課税しない】ということになりました。 ちなみに【飲食交際費】ですから【飲み食い】が対象で、ゴルフ接待や贈答品、手土産等は該当しませんので注意してください。ただし、1人5,000円以下の範囲で飲食したお店の土産品はかまわないとのことです。例えば、寿司屋で得意先を接待し、帰りにお寿司のお土産を渡しても、1人5,000円以下であれば非課税とのことです。 ずばりこまめな節税が可能 例えば、取引先2人・自社3人の計5人で接待を目的に居酒屋に飲みに出かけたとしましょう。そして、その費用が合計2万5千円【1人あたり5,000円】かかったとします。この経費は以前なら無条件で交際費に該当し、税金が40%として、10,000円かかっており、この接待をするために35,000を支払っていました。それが今回の改正で交際費に該当しないことになるのです。 交際費にできる3要件 税務上の交際費から除外されるには以下の3つの要件を全て満たすことが必要です。 (1)金額基準 5,000円以下は消費税の経理方法が税込か税抜かが問題となります。これはあなたの会社が消費税を税込経理しているか、税抜経理をしているかによります。税込経理の場合、5,000円(税込)となり、税抜経理していれば、5,250円までが非課税になります。税抜経理が税務上は有利であることが分かります。 (2)支出の相手先が「社外の人」であること。 会社内の役員や従業員および代表者の親族等に対するもの【いわゆる社内交際費】は今回の適用対象から除外されています。つまり、1人でも外部の人が参加していなければダメです。 (3)書類の保存 国税庁によると(日付・飲食先・相手の会社名・氏名・参加人数・金額等)といった事項を記載した書類が必要です。面倒かもしれませんが交際費の額が少ない中小企業であれば、上記のような事項を領収書に書き込んだらどうでしょうか。既に(日付・飲食先・金額)は領収書に記載してありますから、その裏にでも(接待の会社名・氏名・会社の参加者氏名・合計参加人数)を記入するだけでいいのです。 ただし、交際費の多い会社は別書類を作成した方が運用しやすいと思います。 【交際費が非課税になる居酒屋】 今回の税制改正を経営的側面で活用できないかと考えてみました。先年30万円未満の減価償却資産の一括経費が10万円未満に引き下げられた時にも、99,800円つまり10万円未満のパソコンが爆発的に売れました。各メーカーも法人向けに一斉に10万円未満のパソコン販売に乗り出したことがありました。それを思い出し、飲食業を経営されている中小企業では、接待の方に限り『1人あたり5,000円以下の飲み食べ放題プラン』を設定し、お客さんを呼び込んではいかがでしょうか。特に大企業や交際費を多く使う中小企業の場合、非課税交際費となり経費の40%の税金が節税となります。 「5,000円、本当は3,000円で飲めますよ」「交際費にならない接待プラン」とやれば話題性もあり、キャッチフレーズも面白いのでは。 |
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