税務と法務の接点

税理士業界にフォーカスした“税務と法務の接点

第2回 貸倒れと法務の接点

 前回(第1回)、「借用概念」についての話をしましたが、その対となるものとして「固有概念」というものがあります。これは、租税法が独自に用いている言葉を意味するものです。その例に、「貸倒れ」(法人税法52条参照)があります。
 「貸倒れ」のような固有概念は、民法等の他の私法上用いられていない言葉ですので、私法との関係性は薄いのではないかと考えられそうですが、実務上は深く関係します。

(1)「貸倒れ」とは

 「貸倒れ」とは、回収不能な金銭債権の状態をいいます。会計上は、貸倒れが発生した場合、貸倒損失を計上することになります。
 法人税法上、一般に公正妥当と認められる会計処理基準に従った貸倒損失で、その金銭債権が回収不能の場合には、原則として損金とすることができます(法人税法第22条3項)。

(2)実務上の基準

 「回収不能である」といっても、どのような場合に「回収不能」といえるのかという問題は明確に決定できるわけではありません。
 ですので、実務上は、法人税の計算上、貸倒損失として損金となる場合について、それぞれのパターンについて、国が損金算入の一定の基準を定めています。

◯「法律上の貸倒れ」法人税基本通達9−6−1
・会社更生法・民事再生法等の法律の規定により切り捨てられた場合
・私的整理により切り捨てられた場合
・債権放棄(債務免除)により金銭債権が消滅した場合
◯「事実上の貸倒れ」法人税法基本通達9−6−2
・債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合
◯「形式上の貸倒れ」法人税基本通達9−6−3
・ 一定期間取引停止後弁済がない場合等
(詳細は、国税庁HP参照:https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5320.htm

(3)法務との接点

 このような基準を定めているとしても、現実の実務の問題としては、どのような事由や証拠があるときにどの時点で、貸倒損失として損金に算入できるのか等の事実認定が重要となります。
 特に「法律上の貸倒れ」のうち「債権放棄」(債務免除)によるものは、その「有効性」や「寄付金」との関係、「事実上の貸倒れ」の「全額回収不能」と評価されるための事実認定は税務調査等でも問題とされることが多いでしょう。
 債権放棄等は、まさに法律行為であり、事案によって適切な方法が実は異なってきます。また、事実認定は、法律家が得意とする部分です。

 次回以降、貸倒損失を損金算入するために、実務上重要になってくる法律・法務実務について説明していきたいと思います。