【特集】士業から「仕事」が消えてゆく 税理士・社労士篇 『ファブレス』という選択肢:記帳代行、給与計算

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 記帳代行や給与計算が、会計事務所や社労士事務所の仕事ではない、と叫ばれるようになって久しい。「差別化」「付加価値化」というキーワードの下に台頭した戦略事務所にとっては、これらは「戦力外」の仕事に過ぎなかったからだ。しかし近年、格安の会計事務所や社労士事務所の出現もあって、データ入力業務を中心とした、いわゆる定型業務に対する各事務所のスタンスは千種万様となっている。これらの業務が――

 やり方次第によっては――仕事として成り立つこと、あるいは仕事の入口になるということが広く知れ渡るようになって、特に若手事務所を中心に、定型業務を見直す動きが広まっていった。税理士・社労士編では、これらデータ入力業務の最前線の状況に、スポットを当ててリポートする。



デジタル化、BPOとの競争。新たな波としての「ファブレス化」 「これからは、デジタルとの競争になっていくだろうな」と、とある大手税理士法人の代表は呟いた。

 あるデータによると、2000年〜2005年の5年間で30万人超の人員が減少し、全職種の中でもワースト1位の下げ幅を記録したのが、他でもない会計事務職だったという(週刊東洋経済2013年3月2日号『2030年あなたの仕事がなくなる』)。

 ここでいう「会計事務職」とは会計事務所の職員のことを指すものではない。しかしこれは、会計関連の仕事が今まさに、デジタルによって代替されているということを端的に表したデータであるといえる。「デジタルとの競争」とは、この状況をかんがみて出てきた発言だ。

 そしてその競争の最初の主戦場となるのが、記帳代行・給与計算をはじめとするデータ入力業務であることは間違いない。市販されるソフトウェアの進化・普及とのスピード競争に加え、BPO(特に海外アウトソーシング)への移行によるコスト競争も、今後更に加速していくだろう。

 デジタルとの競争、そしてBPO。こうした動きが進行する中、税理士業界の新しい胎動を示唆し、定義付けた人物がいる。株式会社ooyaビジネスクリエイト(東京都中央区銀座)の代表、大谷展之氏は、それを「ファブレス会計事務所」と名付けた。

 「ファブレス(fabless)」とは、一般的に製造業で用いられる用語であるが、「ファブ」つまり、製造設備を持たずに企画・営業で収益を上げる企業のことを指す。これを踏まえ大谷氏は、税理士業界でも一部もしくは全ての定型業務をまるごとアウトソースし、自事務所内ではコンサルティングや営業・マーケティング等に注力していくという経営形態が始まるのではないかと述べている。なぜなら、アウトソース先が会計事務所であれば、精度の高い入力はもちろん、決算書すら外注で済ますことが可能だからだ。

 大谷氏は、この「ファブレス化」がそう遠くない将来起こることを前提に、今から会計事務所は準備を始めなければならないと警鐘を鳴らす。

 「ファブレス化」という新たな波に乗るのか、それとも改めて自社の付加価値を見直すのか――。新たな選択肢がまたひとつ業界に提示された。

 (中略)


大手資本による「ファブレス化」が目前に!? また、大谷氏が、業界の大きな動きとしてその可能性を示唆するのが、大手資本が中小企業を囲い込み、会計業務等をすべて一括して請け負う、という「ファブレス化」のその先のシナリオである。ここで言う「大手資本」とは、業界最大手の宅配・運輸会社や、オフィス用品を扱う通販会社などのことである。もしもそうしたことが起きるとすれば、それは最悪のシナリオになりかねない。

 「全ての法人に口座を持っていて、完全にシステム化されている企業が参入するようなことがあれば、多くの会計事務所が淘汰されていくでしょう。会計事務所はもちろんですが、税理士業界を侵食してきたBPO企業ですら、大手資本に飲み込まれる時代になるでしょう。国内外にファクトリーができて、製造能力さえ確保されれば、早ければあと5年ほどの間に一部地域からでも展開が始まるのではないでしょうか」(大谷氏)



株式会社ooyaビジネスクリエイト
代表者:大谷展之
開業年:2012年
所在地:東京都中央区銀座
事業内容:コンサルティング業 他

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