アベノミクスをもう一度加速?根拠なき税収増幻想専門家からは危惧の声
カテゴリ:01.週刊NP 
作成日:06/17/2016  提供元:エヌピー通信社



 この調子で税収増は続くのか――。政府は消費税率10 %への引き上げを2年半再延期しても「アベノミクスをもう一段加速し、更なる税収アップを確保」(安倍晋三首相)して、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を20年度に黒字化させる財政健全化目標を達成するとの絵を描く。しかし昨今の税収増には、企業業績の回復によって、過去の赤字と課税対象年度の黒字を相殺して法人税の納付額を減らす「繰越欠損制度」を使わずに済む企業が増えたタイミングと重なったという一時的な要因も含まれている。専門家からは、今年度以降は税収が伸び悩むとの指摘も出始めている。

 「3年間のアベノミクスによって、国・地方を併せて税収は21 兆円増えた」と安倍首相は胸を張る。政権発足前の12年度(予算ベース)に78・7兆円だった国・地方の税収は、16年度(同)に99・5兆円となる見込みだ。消費税率の5%から8%への引き上げ分(約8兆円)を除くと増収増は約13兆円。内訳は所得税が3年連続の賃上げによる給与増や株高による配当増などによって4・5兆円増える見通しだ。配当や株式の売買など金融取引にかかる税率が14年1月から従来の2倍の20%に引き上げられたことの影響もある。

 法人税も、国際競争力強化の観点から実効税率は29%台にまで引き下げられてきたが、企業収益の拡大によって3・4兆円増える見込みだ。ここには、リーマン・ショック後の赤字の影響で「繰越欠損金制度」などを使っていたトヨタ自動車が、13年度分から法人税を納めるようになったことなどが含まれている。
 1990年代のバブル崩壊後の不良債権処理のため「繰越欠損金制度」を使っていた大手行も同じような時期に納税を再開している。企業全体の繰越欠損金の規模は14年度で63兆円と、リーマン・ショック前の07年度の69兆円よりも縮小していることから「納税する企業が増えたという特殊要因がなくなれば、今後はこれほどの増収は見込めないはず」(財務省OB)との見方もある。

 17年3月期は円高などの影響で自動車各社の大半が減益を予想するほか、中国の過剰生産による市況悪化に見舞われている鉄鋼業界などビジネス環境は厳しくなるとの見通しもあり、政府が思うほどの税収増が続くかは不透明だ。