取締役の責任(6)
カテゴリ:05.経営塾 
作成日:07/17/1997  提供元:EPSON



取締役の責任 -その6

 取締役は会社と委任契約の関係にあり、株主からその経営を任された経営のプロフェッショナルとして、利益を挙げるために会社財産の管理運営を行います。したがいまして、取締役は株式会社に対して、民法上の委任契約(準委任を含む)を中心とする一定の義務を負うこととなりますが、それが継続的かつ定期的な取引行為の委任であることに鑑み、商法の規定で義務や責任が強化されています。
 そこで取締役の責任について、何回かにわけて報告してみたいと思います。


(参照)取締役の負う責任(責任原因の類型)

 (1)善管注意義務、忠実義務
 (2)違法配当
 (3)利益供与禁止
 (4)他の取締役に対する金銭の貸付による責任
 (5)自己取引
 (6)法令・定款違反
 (7)監視義務違反
 (8)競業避止義務違反
 (9)経営判断の誤り


 (1)~(3)「取締役の責任-その1」参照の事
 (4)~(6)「取締役の責任-その2」参照の事
 (7)~(7)「取締役の責任-その3」参照の事
 (8)~(9)「取締役の責任-その4」参照の事


 取締役の責任の追及、取締役の責任の免除・削減
   「取締役の責任-その5」参照のこと


監査役の責任

会社に対する責任

(1)責任の原因

 監査役がその任務を怠り会社に損害を与えた場合、監査役は会社に対し損害賠償責任を負うこととなります。
 監査役と会社は委任契約(準委任契約を含む)関係にある、監査役が善管注意義務を怠った時は責任を問われます。


(2)責任の成立要件

 会社が監査役に責任を追及する為には、次の4点の要件を満たす事が必要です。

    1.任務懈怠があったこと
    2.会社に損害が発生したこと
    3.任務懈怠と損害との間に相当因果関係があること
    4.任務懈怠が故意・過失に基づくこと


(3)会社規模による任務の差異

会社規模監査役の任務内容
大会社(資本の額が5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)業務監査権・会計監査権
中会社(資本の額が1億円超5億円未満で、かつ負債総額200億円未満の株式会社)業務監査権・会計監査権
小会社(資本金の額が1億円以下で、かつ負債総額200億円未満の株式会社)会計監査権のみ


(4)業務監査権の範囲

 大会社及び中会社の監査役は、会計監査権と業務監査権を有しているのでそれらの義務の懈怠があれば責任を負うこととなります。なお業務監査権は適法性監査に限られ、妥当性の監査にまで及ばないというのが通説です。業務執行の妥当性の検討は、取締役が業務執行にあたりなすべきことで、これは取締役の専権に属する事項だからです。
 小会社の監査役は、会計監査権しか有しないので、会計監査義務につき任務懈怠があれば責任を負いますが、そもそも取締役の業務執行の適法性を監査し、これを是正すべき職務上の義務を負っていませんので、これに関して任務懈怠を問われることはありません。


(5)任務懈怠の具体的内容

 監査役に要求される監査のための義務(例えば、取締役会への報告義務/株式総会への報告義務)を果たさず、また監査のため監査役に与えられている種々の権限(例えば、営業報告請求権・業務及び財産調査権/取締役会への出席権・意見陳情権/違法行為差止請求権)を行使せず、取締役の違法もしくは著しく不当な行為を阻止しなかったときには、任務懈怠が認められることとなります。

(6)責任を負う監査役の範囲

 平成5年の商法特例法(以下「商特法」といいます)の改正により大会社に監査役会制度が新設された結果、大会社と、中会社及び小会社とでは責任を負う監査役の範囲が異なることとなりました。任務を懈怠した監査役が複数いる場合は、それら全員が連帯責任を負い、同一の損害について賠償責任を負う取締役がいる時は、その取締役もともに連帯責任を負います。さらに大会社の監査役の場合、当該監査役の行為が監査役会の決議に基づくときは、決議に賛成した監査役及び決議に参加し監査役会議事録に異議を留めなかった監査役も決議に賛成したものと推定されます。

(7)責任追及の方法

 原則的な形態としては会社が損害賠償を請求することとなり、この場合に会社を代表するのが代表取締役となります。会社が監査役の責任を追及しないときには、株主が代表訴訟の方法により会社に損害を賠償するよう、監査役に対して損害賠償請求訴訟を提起できます。
 監査役には会社の元取締役が就任するなど、監査役の責任を追及すべき立場にある取締役と特別な人的関係にある方が多いことから、取締役が監査役との馴れ合いから監査役の責任を追及しない可能性があるため、取締役に対する責任追及の方法としての株主代表訴訟の制度が監査役についても準用されているのです。


(8)責任の免除・消滅

 取締役の会社及び第三者に対する責任と同様、商法には特に規定がなく、民法により10年間であるとされています。しかしながら、その期間経過前に総株主の同意があれば責任は免除されます。
 監査役が損害賠償責任を負うべき相手方当事者としての会社とは、株主の総体にほかならないので、総株主の同意があれば、監査役に対して任務懈怠による損害賠償責任を免除することができます。一般の債務免除は業務執行の中に含まれますので、取締役会の決議で行うことが可能ですが、監査役の任務懈怠による損害賠償責任にこれを認めると、取締役と監査役の馴れ合いから容易に免除してしまう可能性があるため、総株主の同意という厳しい要件を設けたのです。