経営改革と雇用の両立
カテゴリ:07.プレジデントニュース 
作成日:06/23/1999  提供元:プレジデント社



 先日、横河電機の美川英二社長が亡くなりました。生前、直接お目にかかる機会を得ることはできませんでしたが、「プレジデント」では、特に横河電機の特色ある人材活用政策に注目し、何度か記事として取り上げてきました。最近では、昨年の12月号で、上昇し続ける失業率、特にリストラの錦の御旗のもとに早期退職制度などの標的となりつつある40歳~50歳代のビジネスマン向けに「失業の日本」を特集した折、こういう時代になっても頑なまでに雇用を守り抜くことを経営の第一の基本であるとする、美川社長に、いの一番に取材の申込みをしました。10月のことでした。すでに入院中で取材を受けられない、ということで、代わって赤石沢寿彦総務・人事担当取締役が、横河電機の雇用政策についての取材に応じて下さいました。

 同社の人事雇用制度は「生涯福祉人事政策」と名づけられていると言います。

「社員は全て家族である、家族である以上、生涯にわたって面倒を見、その幸せを何より大事にするのは至極当然である」との信念をお持ちだった美川社長は、年初の挨拶で繰り返しこの考えを述べ、また自らの決意のほどを新たにしていたと言います。創業以来、会社都合で社員の首を切ったことは一度もない同社だそうですが、「品質の高い製品を世の中に供給することがメーカーの使命である。そのために戦略、技術、手法より大切なのは、社員がその会社で安心して自分の能力を高め、知恵を出し、誠実な仕事ができる環境を確保することだと、当社では考えているのです」と、赤石沢氏は語られました。企業に必要なのは、よく人、物、金、情報と言われますが、これを並列に並べるのは絶対におかしい、物と金と情報を生み出し使うのが人だからだ、それに、物は減価償却や経年変化するものだが、人の能力・知力は、上がるものだ、ともおっしゃっていました。ただ厳しい時代に雇用を確保することは、従業員にとっても、また厳しいものであることに変わりはありません。横河電機の人事制度も、年功序列を廃し、完全成果主義に基づいたものであり、部課長は半年ごとの目標設定に対する達成度で厳しく評価され、給与、ポストに反映されるというお話でした。

 この記事は、読者からも賛否両論の意見が続々と寄せられ、大いに反響を呼びました。その折は、美川社長が、これほど重大なご病気であるとは存じ上げなかったのですが、この度、訃報に接し、ご冥福をお祈り申し上げるとともに、改めて経営改革と雇用の両立、そして今後のあるべき企業経営と経営者の使命について、考えさせられました。

 ダニエル・ベル氏は、すでに四半世紀も前に、「情報と知識が社会変革の戦略的資源になる」と予測しました。またピーター・ドラッガー氏も「基本的な経済資源は、もはや資本でも土地でも労働でもない、それは知識である」と喝破しています。「情報」も「知識」も、紛れもなく「人」が創造し、共有し合い、さらに高めていくものに他なりません。プレジデント7・8月合併号では、危機に際してこそ、リーダーは付け焼き刃ではなく、事の本質を捉え直し、じっくりと腰を据えて最大の資産である「人」を存分に活用すべきであるとのメッセージと共に、その具体例を存分にお届けいたします。

 この号より、発売日を20日より22日へ、また次号より月号表示を翌々月号へと変更させていただきます。経過措置として今号は7・8月合併号と表示させていただくことになりました。編集部一同、これまで以上に読者の皆様に価値ある誌面づくりを心がけてまいりますので、今後ともご愛読のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

〔プレジデント編集部〕