花押では自筆証書遺言の押印の要件を満たさないと判断
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:07/12/2016  提供元:21C・TFフォーラム



 遺言書に印章による押印ではなく、いわゆる花押を書くことが自筆証書遺言(民法968(1))の押印の要件を満たすか否かの判断が争われた事件で最高裁(小貫芳信裁判長)は、花押は印章による押印と同視することはできず押印の要因を充たさないと判示して原審(福岡高裁)の判決内容を破棄する一方、予備的主張について更なる審理を尽くすよう原審に差戻しを命じた。

 この事件は、被相続人が作成した自筆証書遺言書に日付及び氏名は自書されていたものの、名の下に印章による押印ではなく、花押を書いていたことが発端になったもの。その結果、相続人の1人が主位的に遺言によって被相続人から土地の遺贈を受けたと主張した上で、予備的には死因贈与契約を締結していたと主張して他の相続人に所有権移転手続きを求め、最高裁まで争われてきたという事案である。

 つまり、花押を書くことが自筆証書遺言における押印の要件を満たすか否かが争点になった事案であるが、原審の福岡高裁は、花押は文書作成の真正を担保する役割を担い、印章としての役割も認められており、花押を用いることによって遺言書の同一性及び真意の確保が妨げられるとは言えないと判示した。

 その上で、花押の一般的な役割に加え、家及び被相続人による花押の使用状況や花押の形状等を合わせ考えると、被相続人による花押をもって押印として足りると解釈したとしても、遺言書における被相続人の真意の確保に欠けるとは言えないから押印の要件を満たすと判示して、遺言書が無効であると主張してきた他の相続人側の請求を斥ける判決を言い渡した。

 しかし最高裁は、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書の他に押印も要するとした趣旨に触れ、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名、押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると、最高裁平成元年2月16日第一小法廷判決をもとに解釈、花押を書くことは印章による押印と同視することはできないと判示した。ただ、予備的主張についはて更に審理を尽くすことが必要と判断、結果的に控訴審に差戻しを命じる判決結果になった。

(2016.06.03最高裁第二小法廷判決、平成27年(受)第118号)