前年分の申告書に未記載の所得税額の還付請求は不可と判断
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:08/30/2016  提供元:21C・TFフォーラム



 前年分の確定申告書に記載されていない退職所得に係る所得税の額を、純損失の繰戻しによる還付金の額の計算の対象とすることができるか否かの判断が争われた事件で、国税不服審判所は青色申告書の提出が要件とされていることを理由に、審査請求を棄却した。

 この事件は、審査請求人からの純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求に対して、原処分庁が還付請求に係る請求書に記載された退職所得に係る金額等が前年分の確定申告書に記載されていなかったことを理由に、退職所得に係る所得税を還付金額の計算の対象にすることなく、還付請求の一部に理由がない旨の通知処分を行ってきたのが発端になったもので、これに対して請求人が、通知処分の全部取消しを求めて審査請求したという事案である。

 つまり請求人側は、所得税法140条(純損失の繰戻しによる還付の請求)が、純損失の繰戻しによる還付金の額の計算の対象となる所得税の額について、純損失が生じた前年分の確定申告書に記載した所得に係るものであることを要件とはしていないことを理由に、前年分の確定申告書に記載されていない退職所得に係る所得税の額も還付請求の対象となる旨主張して、原処分の取消しを求めたわけだ。

 しかし裁決は、純損失が生じた前年分の確定申告について青色申告書の提出が要件とされていることからすると、その青色申告書に記載されていない退職所得に係る所得税の額を純損失の繰戻しによる還付金の額の計算の対象とすることはできないと判断して、審査請求を棄却した。つまり、純損失の繰戻還付請求においては、純損失が発生した前年分の確定申告書に記載されていない所得及びそれに係る所得税を、その対象とすることはできないという判断だ。

 この事件では、通知書に記載された処分理由に不備があったか否かの判断も争われたが、原処分庁の判断過程についての事実関係と申請の拒否の理由の記載自体から申請者が了知し得る程度に記載されていると認定され、棄却された。

 (2015.12.18国税不服審判所裁決)